ダイヤモンド・オンライン このページを印刷する 2018年9月4日 室伏謙一 :室伏政策研究室代表・政策コンサルタント ジリ貧の国民民主党代表選、結果はどうあれ分裂は必至か 国民民主党の代表選の候補者二人 ほとんど注目されていない国民民主党の代表選 Photo:Rodrigo Reyes Marin/AFLO ほとんど注目されていないが、9月4日は国民民主党の代表選の投開票日である。何かと“中途半端さ”が目立つ、この政党は、代表選の結果がどうなっても、その先にあるのは、党勢の回復・拡大でもなく、党の分裂である可能性が極めて高い。(室伏政策研究室代表、政策コンサルタント 室伏謙一)ほとんど注目されていない 国民民主の代表選 支持率が低迷したまま一向に改善の兆しが見られない国民民主党、旧希望と旧民進両党の代表を共同代表として置いていたところ、9月末日の任期満了を前に、8月22日、一人の代表を選ぶ代表選が告示された。投開票日は9月4日。 9月といえば自民党の代表選に、翁長前知事の逝去を受けた沖縄県知事選と、重要選挙が目白押しである。 このような状況下、国民民主の代表選は、ほとんど注目されていない。それもそのはず、結党されて間もない国民民主党、拙稿『国民民主党は中途半端、蓋を開ければ「第2自民党」のお粗末』でも書いたが、野党なのか与党なのか「極めて中途半端」といえる状況だからだ。提案型だの対決より解決だのと聞こえはいいが、要は「党内がまとまっていない、決められない」ということなのだろう。 ちなみに、自民党総裁選は9月7日告示、20日投開票である。 この日程にぶつけて、自民党の総裁候補と事実上の「党首討論」を仕掛けるといったことも考えられただろうし、世間の注目の多くは自民党総裁選の方に向くかもしれないが、どうせ注目されず埋もれるのであれば、それぐらいやった方が党内の求心力なり結束力は多少は高まったかもしれない(自己満足ではあっても)。 そうしたことすらできないところにも、国民民主党の“中途半端さ”がにじみ出ているように思われる(実際、なぜこの日程でやるのかとの疑問の声は上がっていたようだ)。 立候補しているのは 玉木議員と津村議員 さて、今回の代表選、立候補しているのは、現共同代表の玉木雄一郎衆院議員と津村啓介衆院議員。 当選期数で言えば玉木議員が4期目であるのに対して津村議員は6期目と若干先輩であるが、共に40代で政治家としては若手であり、両者ともその若さをウリにしているようだ。 玉木議員はこの代表選を、必ず政権を取ることを目指し、安倍政権にチャレンジするチャレンジャーを選ぶ選挙として位置づけているようだ。 地方を回っていると、「安倍政権をなんとかしてくれ」、「野党はまとまってくれ、しっかりしてくれ」といった声をよく聞くとのことで、自らが国民民主党代表に就任することでこれに答えを出すとしている。そしてそのための「武器」はアベノミクスに対抗できる政策だとして、それを代表選の公約のようなものとして掲げている。 詳細については国民民主党サイトの特設ページ等でご確認いただきたいが、街頭演説等では、大企業や外国を豊かにするのではなく暮らしを豊かにする政策、未来へ投資する政策を訴えており、その目玉となっているのが「コドモノミクス」のようだ。 安倍政権下で日本国民の税金が「お友だち」と海外に流れてしまっているところ、そうした無駄遣いではなく、出生率を2以上に回復させたフランスの家族手当も一つのモデルに、出産、子育て等に積極的支援を行い、第三子以上には1000万円給付するといったもの。そして、これができるのが国民民主党であるとしている。 その他、右でも左でもなく改革だ、であるとか、地域に元気になってもらいたいので、頑張る地域を、地域の一次産業を全力で応援する、地域の安心を作る、地域に根ざし地域を第一に考える、地域の未来を作ることができるのは国民民主党といった主張も見られた。 また、特異なものとしては、「政党として仮想通貨(トークン)を発行し、若い新たな支持層を開拓」というものもある。 もっとも、拙稿『仮想通貨は「通貨」と本当に呼んでいい存在なのか』において述べたとおり、仮想通貨は通貨たりえない単なる投機の対象でしかなく、京都大学大学院助教の川端祐一郎氏によれば、ビルゲイツ氏は「ビットコインは資産として何も生み出していない。このバブルはまさに大馬鹿理論(greater fool theory)現象にほかならない」と断じているとのことであり(さらに詳しくは川端氏による「カリフォルニアン・イデオロギー」、『表現者クライテリオン 2018年7月号』を参照されたい)、そんなものを自らの政策の中に入れたのは、単なる技術狂ということか。 新しい、話題になっているものを、そのものの良し悪しは別にしてとりあえず入れたか、その程度であろう。 玉木議員の主張から読み取れるのは その主張や存在の「軽さ」 こうした玉木議員の主張から読み取れるのは、その主張や存在の「軽さ」であろう。無論、「コドモノミクス」については、財源は使途を限定した「子ども国債」による等、現実的かつ質のいいものもあるので、頭ごなしに全否定するつもりはないが。 加えていえば、自らの存在感を示すために代表選を利用しているだけで、党のことは二の次とまで見えてしまう。 そうした玉木議員の軽さに業を煮やしての出馬なのだろうか、対する津村議員は出馬表明会見では怒りがにじみ出ていた。 冒頭、津村議員は厳しい表情で支持率低迷を総括、その原因を現執行部の(1)野党共闘への視点が二転三転したこと、及び(2)独自の政策の発信が著しく滞ったこととした。 まず、(1)については、現執行部が安易に「対決より解決」を放棄して「対決も解決も」というわかりにくい路線に転換したことを指摘、何度転換しても信頼回復できないとし、転換するのであれば玉木代表は責任を明確化すべきと批判した。 加えて、玉木現共同代表には野党共闘への本気度が感じられないとし、その本気度が玉木議員との最大の違いであると自らの野党共闘への本気度の強さを示した。 さらに、選挙協力、国会対策の歩調の一致のいずれも欠けている、野党合同選対を設置して候補者の事前調整をすべきだが、玉木現共同代表は事後の候補者調整に言及しており、これは野党共闘に水を差すことになる、無所属の会との統一会派は失敗、結党に当たって大量離党させてしまったのは誰かが責任を負うべき痛恨事である等、玉木現共同代表への批判を続けた。まるで抑えていた不満を一気にぶちまけたかのうようである。 そして、一足飛びに統一会派を目指しても無理であり、本気でやる覚悟があるのなら、現実的にできることを責任を持って提案してほしい、玉木現共同代表に替わって、ゼロから無所属の会との連携協議をスタートさせたい、無所属の会との合同国対の設置を提案したいとし、玉木議員への対抗意識を明確に示している。 次に、(2)については、政策の発信力が決定的に欠けており、大きな国家ビジョン、ポスト安倍の具体的な政策を語ることが必要であるとした。国民民主党結党後から始まった「ABC調査会」(「ABC」とは、人工知能〈AI〉、生活を支えるベーシックインカム〈BI〉、コミュニティの自立〈CI〉の略)は先進的で魅力的であるが、議論はふんわりしたままで明後日の話をしているとして、新しい経済政策、新しいライフスタイルを実現できる政策を提示すべきと主張、政策の面でも玉木現共同代表を、こちらはどちらかといえばやんわりとであはるが、批判している。 津村議員の主張は 「現状打破、選手交替」 その津村議員が主張する政策の中身であるが、「現状打破、選手交替」を掲げ、3つの現状打破につながる政策を打ち出している。 一つ目が「弊害が深刻となっているアベノミクスの大転換」で、アベノミクスは目の前の株価、GDPを上げることばかりに熱中しているが、大金持ちと大企業のためにしかなっておらず、一般国民等には犠牲を強いているとし、野党が政権を獲得したら、直ちに政府と日銀のアコード(実際には共同声明で、正式名称は「デフレ脱却と持続的な経済成長の実現のための政府・日本銀行の政策連携について」〈平成25年1月22日 内閣府、財務省、日本銀行〉)を廃止、2%の物価安定目標を止め、日銀の独立性を回復させるとする。 二つ目が、「政治的タブーの打破」で、少子化、高齢化、人口減少を踏まえ、新しいライフスタイルや新しい社会の価値観を実現すべきだとして、個人の多様な生き方を支援するため、(1)尊厳死・安楽死の合法化、(2)夫婦別姓、(3)不妊治療の保険適用の拡大および(4)同性婚の法整備を、未来先取り政党を標榜する政党として率先して取り上げるべきであるとしている。 そして三つ目が、「野党の状況の打破」であり、こちらは直接的に政策の話ではないが、安倍一強を倒すためには選挙で勝たなければならず、まずは統一地方選で勝利してそれを夏の参院選での野党過半数に繋げたいとし、地位協定の見直しを野党共闘の柱の一つにすることや、国民民主党の地方ブロック等への選挙費用上積みによる基盤強化等を進めたいとしている。 津村議員は背水の陣であることを示したいのか、来年の参院選で野党が過半数を取れなければ代表を辞任するとまで繰り返し述べている。 もっとも、国民民主がとれなくても、立民が躍進すると見られているから、それで国民民主が議席を減らしても結果的に野党が合計で過半数に届けば、辞任する必要がなくなることまで読んでいるようにも聞こえるが。それでは背水の陣ではなく単に逃げ道を確保しているだけだが……。 今回の代表選で 両候補が全国各地を一緒に巡る理由 今回の代表選では、全国各地を両候補が一緒に巡って街頭演説会等を行って支持を訴えるという方式が採られている。 党所属国会議員はもちろんのこと地方議員や党員には事前に周知されているだろうから、街頭演説会でもやればある程度は関係者が集まるのだろう。もっとも、あくまでも国民民主党の代表選なのであるから、内輪でやればいいのではいかと思うし、一応は選挙なのであるから各候補がそれぞれ動けばいいと思うのだが、ずっと一緒に動くというのには違和感がある。 要は代表選に名を借りた国民民主党の宣伝活動、認知を高めるというより認知してもらうための活動といったところで、そうでもしないとどんどん一般国民・有権者に忘れ去られてしまうといったところなのだろう。 つまりは今回の代表選、新たに代表を選ぶことよりも、低迷する支持率を少しでも上げることに重きが置かれていると考えた方がいいのかもしれない。少なくとも現執行部はそう考えているのだろう。 しかし、津村議員の出馬表明会見での発言を聞く限りにおいては、党内がそうした考えで一致しているわけではないようだが、街頭演説や討論会では、津村議員は政策を中心に語るのみで、出馬表明会見で行ったような現執行部、特に玉木現共同代表批判は、控えていたのか控えるように言い渡されていたのか、行われていない。 津村議員による批判は政策的なものではなく、執行部の与党、現政権への姿勢や野党連携の姿勢に関するものであり、候補者同士の討論が政策論争に限定されてしまうと、その主張は半減してしまうと言っていいだろう。 代表選は代表選として粛々と進めつつも、それ以上に党勢の回復や拡大を目指したいのかもしれないが、政策的な問題もさることながら、津村議員が指摘したような、二転三転しどっちつかずの姿勢が党への信頼を失墜させ、極端なまでに支持率を低迷させているのだ。批判を封印させるようでは、自分たちの置かれた状況について理解できていないのと同じであり、党勢の回復や拡大など望むべくもないだろう。 一度噴出した怒りや不満は、一時的に封じたとしてもなくなるわけではない。結局は燻ったままで、さらに大きくなって爆発することになるだけだ。 しかも怒りや不満を持っているのは津村議員だけではあるまい。彼の推薦人になった議員たち、さらには津村議員の出身派閥である自誓会関係議員も同様であろう。 いずれにせよ 分裂は必至と考えた方が良さそう 事実、代表選を前に離党した(実際には党は離党届を受理せず除名処分にしたが)柚木道義議員は、離党の理由として、「党が掲げる『対決より解決』路線によって『野党の分断がますます加速した』」ことを挙げている。 この主張は津村議員の主張と同趣旨である(そもそも旧希望の党と旧民進党の合流の際にも少なからぬ離党者を出している)。 今回の国民民主党代表選、推薦人の数からしても、玉木議員が代表に選出される可能性が高いが、その先にあるのは、党勢の回復・拡大でもなく、党の分裂であろう。 むろん、真っ二つというより、「無所属組」、「立憲民主へ合流」、「残存勢力」の3分裂といったところだろうが、いずれにせよ分裂は必至と考えた方が良さそうだ。 DIAMOND,Inc. 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