談合は関係なし! 神様が見たってリニアはいける リニア新幹線 夢か、悪夢か 「JR東海の天皇」、葛西名誉会長インタビュー2018年8月20日(月) 金田 信一郎 9兆円をかけるリニアプロジェクトに暗雲が垂れ込めている。詳しくは日経ビジネス8月20日号で21ページにわたる特集記事としてレポートしているが、昨年から表面化した談合問題は工事の先行きを暗示する。また、安倍首相の発言で財投3兆円が投じられたが、大親友・葛西敬之名誉会長への「お友だち融資」ではないのか――。様々な疑問を、リニア計画を30年にわたって引っ張ってきた葛西名誉会長に聞こうとしたところ、JR東海から断りの電話が入った。そこで休日、自宅を直撃する。「それは僕でないと語れないな」。そうして、翌日の名誉会長インタビューが実現した。そのすべてをここに披露する。 昨日は自宅に押しかけて、すみませんでした。 葛西:いやいや、まあ、昭和15(1940)年から住んでいましてね。あそこは、もう昔は本当に田舎でした。 葛西敬之(かさい・よしゆき)氏 東海旅客鉄道名誉会長。1940年生まれ。63年東京大学法学部卒、日本国有鉄道入社。69年米ウィスコンシン大学経済学修士号取得。86年職員局次長。「国鉄改革3人組」の一人。87年JR東海発足とともに取締役に就任。95年社長就任。2004年会長、14年名誉会長。今年、28年ぶりに代表権が外れる。 昨日も、その場でも話しましたが、なぜ、リニアに9兆円もかけてのめり込んできたのか。
葛西:国鉄の分割民営で、それぞれ(の会社)に使命があり、うちは「東海道新幹線会社」ということですよね。 それで、東海道新幹線の開業時点での状況を見ると、当時の土木技術の常識では10年は絶対に大丈夫だけど、20年経つと取り換えが起こるかもしれないと、こういう話がありました。ローカル線の赤字を埋める担い手としては、技術が陳腐化しつつあった。さらに言えば、空港が建設中で、競争先は能力を拡大しつつある。 しかし、(東海道新幹線は)輸送能力が限界に達している。輸送能力を増やすためにはどうしたらいいのか。ならばバイパスを造るしかないと。すでに国の法律で決まっている中央新幹線(リニア)があり、東海道新幹線と旅客流動が同じなので、一元経営しなければならない。 難しいのはカネ。借金返済会社だったから 鉄道ネットワークというのは、儲かる大動脈があって、それで儲からないところを支えるというものでは。東海道新幹線が儲かったときに、鉄道ネットワークとしてもう1回考えるという方向性もあったのかなと。新幹線が二重化しても、人口減少時代で、しかもビジネス上の会議というのもネットに移ってきている。 葛西:そんなの30年前から言われているけど、そうなってないんだよ。 でも人口は実際に減少してきている。 葛西:人口はだけど、世界の人口動態がどう変わるかということ。日本人だけの人口で測るべきではない。インバウンドが今増えている。日本で定住人口も増えていく可能性がありますね。すべてのインフラが非常に整っている東京〜大阪間の地域というのは、日本経済のいわば頭脳であり、体幹部であると。 それは東海道新幹線をここまで強くしてきたのだから、その更新でいいのでは。 葛西:東海道新幹線は1時間15本走っているんです。17本が限界だから、そうするとあと2本ですよ。技術や設備を強化し、それからスペックを統一して、効率的な運用をした結果、そこまできたからね。もうこれ限界なんだよね。 この次は、やっぱりもう1つバイパスがいるんですよね。東京〜名古屋間、名古屋〜大阪間、このバイパスがどうしてもいる。「このバイパスはいらない」という議論はないですよね。 でもこれだけ東海道新幹線が活躍していると、それで、かなり満足感を得ている人も多い。 葛西:いや、今はいいですよ。しかし、まだこれから世界の人口は増えますよね。アジアの人口も増えますよね。そして日本に定住したいという人の数も増えていきますね。東京、名古屋、大阪を結ぶ使命というのは大きくなりますね。使命は行き止まりというのはないんですよ。 常に今プラス一定のアローアンス(余裕)を確保しなくちゃいけないと。バイパスを造らないで、何を造ったらいいと思うの? 東海道新幹線の強化。 葛西:東海道新幹線と同じものを造るということになると、リニアに比べるとはるかに今度は用地買収とか難しくなりますよね。だからその意味で言うと、リニアというのは非常に新しい時代に即した効率性と高速性と、両方を持ったテクノロジーです。ですから東海道新幹線はファンダメンタルなネットワークの基本ですよね。 しかしリニアはそのバイパスとして、東京〜名古屋、東京〜大阪の人間をいかに引き取るか、受け止めるかと。 リニアは難しいということは、最初からお感じになっていた? 葛西:難しいのはおカネ。借金が多かったでしょう。だから我々は国鉄の借金の相当部分を引き取ったわけなんです。最初は借金を返す会社だったの。 新幹線でもうけて、借金を返す会社。ところが、それが借金を返し続けて、金利負担が減ってきた。ゆとりができたので、自分のおカネでリニアを造りましょう、という話が視野に入ってきたと。つまり自分の、本来の使命をさらに強く達成するために使おうということに決めたわけですね。 そのころ債務も3兆円、一時は2兆円ぐらいまで減った。 葛西:そうですね。 完全民営化もされた。何かタイミングだったと。 葛西:そうですね。 自分たちでやるんだと決めて、ただおカネは相当かかると思った。 葛西:カネは当時の試算で、東京〜名古屋間が5.5兆円だと言っていましたね。それから名古屋〜大阪間が3.5兆円。 それは今も変わらない数字ですか。名古屋までの5.5兆円は、増えることはない? 葛西:今も基本的には変わらない。いろいろやっているうちに増えたり減ったりしますから、最終的にぴったりそうなるということじゃない。大局的な想定です。 想定がどうなるか。去年からのリニア談合の問題もありました。 葛西:談合は、我々はまったく関係ないからね。 でも、ゼネコン側の幹部の方と話をすると、JR東海さんの工事、このままやっていくと採算が厳しいから、話し合ってしまった面がある、と。 ゼネコンとつばぜり合いはやったらいい 葛西:それは彼らが勝手に話したこと。要するに、彼らは「もっと高く契約を結んでくれ」と思ったんですよ。我々は「いや、もっと安くできるだろう」と。こちらも技術者がいっぱいいますから、厳しい折衝になったと思うんだけど。それについて、どうやったのか僕は知りませんよ。 ゼネコンにしてみれば、技術開発や研究とか、一緒にやってきたんだから、利益が薄いときついと思った。 葛西:だから、新しいタイプの工事もあるし、ゼネコンの最新技術は各社ありますから。日本の建設技術、鉄道技術の粋を尽くしてやろうということです。互いに情報交換したり、勉強会をやったりしたことはあったと思うんですよ。 だが、契約を結ぶのは、我々としてみれば、やっぱりこの範囲内で上げたい、できるはずだと思っている部分はあるし、向こうは10年もかかる工事だから、その間に物価がどう変わるか分からないリスク要素もある。少しバッファーを取りたいということもあって、だから、いろいろ知恵を出し合い、契約をいくつかに区切ったりする。 この辺はプロの世界で、素人が口出すことはない。私は会社として方針を決める。あとはプロがつばぜり合いをやるわけです。そのつばぜり合いで、法律に触れたかどうかは、これは彼らの話です。 でもゼネコンからすると、我々も悪かったけど、「発注者責任もあるんじゃないか」という思いがある。 葛西:発注者責任? 民間企業の工事ですから、公開競争入札にする必要はないので、ここ(の会社)がこの分野は得意だと(すれば)、「あそこにやらせる」という髄契(随意契約)でいいわけです。その代わり金額については徹底的につばぜり合いをして、たたき合いますよね。今度は「1対1でやるぞ」ということにはなるかもしれません。それは発注者と受注者は常に一緒の方向を向いてはいるが、しかし契約金額という点では向かい合って、つばぜり合いは大いにやったらいいと思う。 金額のことでいうと、リニアの車両の開発をした三菱重工業が撤退した。やっぱり金額が折り合わないと。もう、倍ぐらい差があるという声もある。JR東海と請け負う企業と、金額の差が結構開いてきているのではないか。 葛西:そんなことはないですよ。1両12億円で造るということでこちら側が投げたのを、三菱重工は「それでは造れません」と言ったんですよね。今、東海道新幹線の車両というのは、1両3億円ぐらいでできている。リニアの1両は4倍の値段ですよね。それで我々は十分造れるはずだと思いますよね。現に、日本車両と日立は「それでやらせていただきます」と言っているわけだよね。だから僕は三菱重工の場合は軍需産業で、ものすごくマージンが高いんだと思うんですよ。三菱重工の特殊事情であって、それは一般的にJR東海が高いものを安く買おうとしているからではないんですよ。 今、9兆円を自分で出してやっていくと。ただ、2016年6月に安倍晋三首相から「財投を入れる」という話が出ました。 葛西:あれは自己負担だよ。 でも財投ですから、財投債が発行される。 葛西:財投債だけど、銀行から借りるのとまったく同じですから。 安倍さんとの話、どっかであったかも いや、銀行から借りたら、無担保で3兆円を0.8%という金利で借りられないのでは。30年間も元本を返済しなくていいという条件も出てこないと思うんですよ。 葛西:財投で借りているというのは、財投機関から借りているということであって、財政出動しているわけじゃないんだよね。あれは債権を発行する。発行するのに必要だった経費も全部含めて、JR東海はコストをカバーして、端数を切り上げたおカネで借りるわけですよね。だから、あたかも政府におカネを出してもらったかのごとく理解するのは、これは間違っているのか、ねじくれているのかどっちかなんだよ。 でも、政府が決めるからこそ、安倍首相がまず宣言したわけですよね。2年前の6月の財投の決断は、やっぱり葛西さんが「財投を入れると、これだけ工期が短くできる」とおっしゃったのでは。だから、安倍さんがそうしたと。 葛西:僕は安倍さんには、直接はそういう話をしてないんですよね。 そうなんですか。 葛西:安倍さんを支持しているけど、何かしてくださいというお願いは、基本的にやらないことにしています。ただ、政府に大阪からの要求がすごく強くて、「一刻も早く、大阪までの工事を立ち上げられるようにしたい」という気持ちがあったのは事実ですね。大蔵省や経産省、国交省はあんまり飛躍した考えが出てこないんですよ。 でも、安倍さんもあれだけ葛西さんと頻繁に会っていると、その中で、財投の発言の直前など葛西さんに話したくなるのでは。 葛西:そんな話は安倍さんから出ませんよ。 その間、リニアの話は。 葛西:だから、大阪までの着工をできるだけシームレスにやりたいという気持ちは、大阪にも政権にもありますよね。安倍総理や菅官房長官、杉田副長官にもあるのは分かります。そうすると、「やる方法はないのかな」なんて話がある。 ある日、「こういう案でやったらどうだ」というサウンドがあったのも事実。それは安倍さんが言われるだいぶ前ですよ。それで、政策的にある程度詰めた上で、それは総理の所に、「こういうことでいきたい」という話が上がったんだと思うんですよね。直接の相手は財務省ですよね。あるいは国交省ですよね。でも国交省から、あんまり大きな知恵が出ないから、やっぱり財務省なんですよね。 そうすると、安倍さんの方から「何とかならないか」みたいな話があった。 葛西:どっかであったかもしれませんね。何人かで集まったりするところはありますからね。だけど、あんまり具体的にこれ、何とか知恵を出してくれとか、こうしたらどうだとか、一切ないんですよ。 国からおカネを回してもらった。 葛西:いや、でもそれは国から借りただけであって、そのおカネは金利の補助もまったくなくてですよ、金利を払って返すわけです。だからあれを「国から財政支援を受けた」というのは悪意によるねじ曲げとしか思えないよね。 財投を借りて失敗したものがたくさんある。私が見てきたものが悪すぎたかもしれないけれど。でも、葛西さんも国鉄に財投を投入され、重い債務になって、若かりし頃に大変な思いで改革された。それがまた繰り返される危険はないんですか。 葛西:100%繰り返されないんだって。僕は国鉄に入ってから、財投をずっとやってきて、それで毎回、「これは返せない」と思いながらきましたよね。だから、運賃の値上げをすべきなのに、それを切り下げておいて、差額を財投で借りるという話だとか。黒字になるような工事じゃないのに財投を付けて、無理やりシナリオを作ると。それを作る時の答弁を僕は書きましたから。返せることはないと。どんどん雪だるま(借金)が大きくなるだろうと思ったわけ。 今回のやつはまったくそう思ってないんだよ。僕は財投を散々やってきて、その上の経験に立って、今回のは大丈夫だと。なぜかといったら、開業1年目からキャッシュフローで黒字になるからなんですよね。 リニアによって新幹線がさらに生きてくる ただ、それはまさに国鉄時代の計画と同じようなものでは。 葛西:いや、違います。 違いますか。 葛西:国鉄の時代は全部赤字ですよ。 例えば、計画では名古屋まで、のぞみプラス700円、新大阪までプラス1000円で需要予測をしています。すごく安く感じ、何か国鉄時代の運賃を上げずに借金をして造ってしまった話とダブって見えるんですが。 葛西:何が。リニアの運賃? はい。 葛西:リニアの運賃はまだ決まってないからね。 でも、それで需要の予測をしている。 葛西:でもリニアの場合、どういう運賃政策を取るかまったく決まってない。これから全部決めるわけですよね。それからリニアの審議会に提出した試算に比べると、経常利益は2000億円ぐらい増えている。その意味で、昔の財投と同じかもしれないというのは不勉強すぎるよ。 そういうプロジェクトなんだって。東京〜大阪間って特別な地域なんですよ。東海道新幹線が今、本当にフル稼働でやっている。さらに増えようとするものを受け入れるものを造る。しかも飛躍した性能を持った21世紀の技術になるわけで、そのところについて、何の心配もしてないんですよ。 しかし、リニア新幹線はあまりにもハイスペックじゃないか。 葛西:どうして? だって、東海道新幹線ができたときに、東海道本線はフル稼働していたんだよ。こだまが走って、時速110kmで。それで東京〜大阪を6時間半で結ぶというところまできていたわけ。それに対して、東海道新幹線はあまりにもハイスペックだったんですよ。でも、それができたことによって今日があるわけですよ。 だから僕が思うに、東海道新幹線は世界中で類例がないんですよね。圧倒的。でも、それに甘んじていたら、結果的には衰退の道をたどるんですね。ですからバイパスを造って、東京〜名古屋を40分、東京〜大阪を67分にする。そういう体制に持っていくことによって、東海道新幹線がさらに生きてくるんですよね。 しかし、新幹線は東京〜新大阪ですとか、東京〜名古屋の需要は相当落ちますよね。 葛西:ただし、京都や新横浜もあるよね。それから岡山があり、広島があり、そのネットはすごく大きいですよね。21世紀の半ばになってできる輸送機関が東海道新幹線と同じものだというのでは、日本の国の将来のダイナミズムが失われますよね。そこはやっぱり飛躍しなくちゃいけないと思いますよね。 葛西さんは絶対、収支はいけるんだと。 葛西:私がじゃなくて、神様が見ても、誰が見たっていけるんです。 でも、かつて山田社長は「リニアは絶対ペイしない」と言った。 葛西:山田、そんなこと思ってないよ。あれは質問が悪くて。 そうなんですか。 葛西:そうだよ。彼に聞いてごらん。彼はもう絶対黒字だと思っていますから。 リニアの設備更新と維持管理で年間4200億円かかり、増収効果よりも大きいということを山田さんはおっしゃったと。 葛西:僕、詳しくは見てないけど、オペレーションコストと減価償却費、合わせますよね。東海道新幹線が今5700億円ぐらいのキャッシュフローを生んでいますから、減価償却費がたぶんリニアの場合5兆5000億円だとすると、2000億円の減価償却費が出ますと。 オペレーションコストが収入とトントンだとして、2000億円が赤字になるというふうに見えるけど、実は2000億円、言ってみれば、税金を払わなくちゃいけない収入が減るので、内部留保が増えるわけですね。だからプラスとマイナス、両方ありますよね。だからあんまりそれは気にすることないので。 あの時の計算だと、開業時点の厳しいときでも両方合わせると、確か経常利益630億円というぐらいの数字になっていたかな。 でも今の状況で見ると、もうすでに2000億円ぐらい増えているから。2600億円ぐらいになっているということだよね。だから僕は、収支についての心配はいらないと思うよ。 心配しなくていい。 葛西:(心配は)いらない。それは保証してもいいけど。 今もう6000億円近い利益が上がる経営体なので、JRグループの北海道や四国といった厳しい経営状態の会社を救い、鉄道ネットワークを再構築する道はないんでしょうか。 連携に手を出すなんて、愚問を発しないでもらいたい 葛西:鉄道は19世紀は陸の王者だったわけ。ところが、20世紀になって競争相手がいっぱい出てきました。高速道路の建設ネットワークを見てごらん。本当に東海道新幹線ができたときは、名神しかなかったんですよ。今もう日本中に道路ができている。航空網もできている。そういう状況の中で鉄道が道路に転換していく部分というのが増えてくる。当然なんですよね。それを嫌だという地元の人たちの意見もある。 そういうのにずっと付き合いながら、全国を1本に戻そうなんていうことにはなりませんよね。経済原則に反するから。だから我々はやっぱり、分割をして、与えられた我々の使命、これを徹底的に果たすということです。国家の大動脈で、人口の6割が住んでおり、GDPの6割がここで生み出される。そこの部分がいかに健全にこれからも機能し続けるかというために、我々は全力を挙げるということですよね。 現に、今1260人をリニアの建設に充てているわけですよ。米国にも(人を)出していますが、我々って国鉄時代と違って、人が余っていませんから。効率的に仕事をする前提でフル稼働でやっています。それをやって初めて、工事が予定通り進むんですから、ここのところ(他社との提携)に手を出す気はないのかなんていう愚問を、発しないでもらいたいですね。 しかし、リニアも他の鉄道網も、まったく違う事業ではないし、選択肢としてはあり得るのでは。 葛西:何が? だって、それぞれが会社の使命が決まっているんだから。(JR各社が)それぞれ定義されていまして、例えば東日本は首都圏の鉄道を強化する。それは東海道新幹線にとってプラスですよね。 我々は12の在来線を持っています。全部赤字です、東海道本線も含めて。これを維持しながら、東海道新幹線を磨き上げていく。でも、もうぎりぎりのキャパシティーになったので、バイパスを造って、さらにゆとりを作っていくと。東海道新幹線のお客さんが切符を取れない。立って乗らなくちゃいけない。金曜日の夜なんて、立っていますよ。 そうですか。 葛西:だからそういう状況を緩和して、快適な輸送を21世紀も続けるということが我々の使命ですよね。まず、我々の使命を果たしきることが大事だと思うんですよ。その上でさらにゆとりがあるというのが、20年先になるかもしれないけど、その時には何を考えるかだよね。 葛西さんは、もう一度、陸の王者を取り戻そうとしている? 葛西:いや、私、そうは思ってないですけどね。要するに19世紀、鉄道は万能の輸送機関だったわけ。でも今は万能ではなくて、ごく限られた条件のあるところで機能しているわけですよ。東京〜大阪間というのは鉄道輸送にとって、最も機能の発揮しやすい分野。だからここは鉄道だと。 米国という国は大きな国だから、要するに遠くは飛行機、それから中距離、近距離はこれは高速道路となっているんですよ。しかし、渋滞して、心筋梗塞みたいになっているのが、北東回廊なんですよ。ワシントン〜ニューヨーク間。 だからここには第3のバイパス、それは何だといったら、高速鉄道でもいいが、できればリニアを北東回廊には造ったらいいと思うんですね。それはだから、万能の輸送機関じゃなくて、すべてがそろっている中で、それでもなおかつ交通が渋滞しているところのいわばバイパスですよね。そういうものとして鉄道はこれから使われていくんですよ。先進国においては。 それが鉄道の21世紀の使命になると。 葛西:そうです。21世紀は各国によって鉄道の役割が違うんですよ。アフリカ、インド、欧州、米国、日本、路線によっても違うんですね。東京〜大阪間というのは世界でもユニークな地域ですよね。やっぱりそれと同じユニークさを持っているのは、ワシントン〜ニューヨーク〜ボストンでしょうかね。そこは同じような形になるんですよ。そうでないところはまた別で、インドは今、JR東日本がやっていますよね。アフリカはまだこれからですよね。ヨーロッパは19世紀の鉄道を生かしながら、20世紀と19世紀が同居するという形の鉄道の輸送ですよね。 だけど日本の場合はそうじゃなくて、19世紀の鉄道も、20世紀の鉄道も、それの接続をよくすることによって、ネットワークを作っていくというのが今までのやり方。リニアもその延長線上に、21世紀のものが入ってくるということですかね。 リニアが完成するまで生きていないんじゃないか リニアの完成で、葛西さんの長い鉄道マン人生は、やろうとしてきたことがほぼすべて実現する。 葛西:僕はリニアが完成するまで生きてないんじゃないかと……。 いやいや、そんなことはないでしょう。 葛西:僕も今年78歳ですから、完成するのが10年先で88歳でしょう。だいたい平均寿命を超えちゃうので、僕は。 88歳はもちろん、葛西さんは大阪開業まで生きているでしょう。 葛西:まあ、その都度、僕は目の前にある問題の大切なことにベストを尽くすということを積み重ねてきましたので、一期一会みたいなものできています。これからもだからリニアは大事だと思うし、新幹線も大事だと思うし、あるいは海外展開も日米同盟を強化するという意味で大事だと思いますよね。いろいろやりますが、しかし、それは明日終わるかもしれないと。それでもいいやと思ってやるしかないよね。 このコラムについて リニア新幹線 夢か、悪夢か 時速500km、大阪まで1時間。夢の超特急リニアの工事が本格化してきた。しかし、昨年からリニア談合事件が表面化し、主要企業がリニアから撤退する事態も起きている。財投3兆円が投じられ「国家プロジェクト」の色彩も強まっているが、リニアは本当に国民のためになるのか。巨額プロジェクトを動かす男たちを追った。
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