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護憲、わが悩み知りたもう?
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2018.05.21 ――八ヶ岳山麓から(258)―― 阿部治平(もと高校教師) リベラル21
カラマツ林の中で一人暮しをしているから、たまには人さまの意見を聞かなければなるまいと思って、憲法9条擁護の集会に出た。憲法の学習会、座談会にも出た。村の人とも話合った。ここ1、2週間の間の経験を順不同で書く。
どの話し合いでも、次のような「正論」が開陳された。
自衛隊の憲法違反は明白だ。9条に自衛隊を明記すれば安保法制があるから海外での武力行使にみちをひらく。安倍政権下であろうがなかろうが憲法改悪はゆるさない。安保法制を廃止すべきだ。さらには9条があったから自衛隊で戦死した人はいない。――みんなごもっともとだ思ったが、日米安保廃棄論は出なかった。
聞いているうちに私は不安になった。確信的改憲の人の人はもちろん、「9条の会」を共産党と混同している人や、迷っている人を説得するには足らないのではないか。議論は、護憲派の仲間内で共感しあっているだけだ、これでは敗北すると思ったのである。
安倍晋三氏は、「多くの憲法学者が自衛隊は憲法違反だというが、このまま日陰者にしていてよいか」という論理で改憲を説得する。これに対しては、我々もまた9条を維持するとき、自衛隊をどのような存在にするのか、このままでいくのがよいのか、これを明らかにしなければならない。森友・加計問題で安倍内閣を打倒せよというのはいいけれども、その後何が来るのかいわないのでは無責任だ。それと同じことのように思う。
我家近くの農家で元自衛隊員の人は、「尖閣周辺海域、空域には中国の艦船や戦闘機がしょっちゅう入ってくる。これを(海上保安庁というより)自衛隊が守っている。そうしなかったら今頃尖閣は、中国が実効支配している」
だから自衛権を憲法に書き込まなければならないといった。
教え子に防衛関係の仕事に就いているものもおり、潜水艦に乗った経験があるのもいる。彼らはアメリカの戦争で死ぬのは嫌だというが、国を守っているという誇りをもっている。かれらも9条改定を主張する。
私自身は、日頃護憲のために力を尽くしているとはいえないから気が引ける。そのうえ、もともと日米安保と地位協定の破棄、非同盟、武装中立という考えなので、座談会で発言の順番が回って来たとき、かなりためらったが思い切っていってみた。
9条を改正して個別的自衛権を保持し、集団的自衛権を厳密に排除するような表現に変えるのはどうか。いいかえれば、自衛隊はアメリカの戦争に加担することなく、また他の理由でも海外派兵をすることなく、長距離ミサイルや空母をもたず、専守防衛に徹する存在とする――「独りよがりの思いつきだから、どうか批判をしてほしい」といったところ、私と同じような意見の人が一人だけいた。
反論は、「自衛隊だけが仕事に誇りをもっているのではない。たとえば市役所の職員だって誇りをもっている。頑固な改憲派は25%いる、これに対する護憲派も25%いる。頑固派を説得する必要はない。中間の人を説得するのに、個別的自衛権に限定した改憲案を出す意味はない」というものだった。
そうかもしれない。しかし頑固な改憲派を論破できなければ、中間の人、わからないという人を説得することはできないと思う。
時事通信の2月の世論調査では、憲法9条の「2項を維持した上で、自衛隊の存在を明記すべきだ」という安倍晋三流が35.2%で、「9条を改正する必要はない」が28.1%、「2項を削除し、自衛隊の目的・性格をより明確化すべし」が24.6%だったという。
毎日新聞の3月の調査では、「憲法9条の1項と2項はそのままにして自衛隊に関する条項を追加する」が38%で、「憲法9条の2項を削除して自衛隊を戦力と位置付ける」の12%を上回った。「自衛隊を憲法に明記する必要はない」は18%、「わからない」は19%。
共同通信4月の調査では、9条改正は必要ない46%、必要44%であった。安倍晋三首相の下での改憲に61%が反対し、賛成は38%だった。
最近の読売新聞の世論調査だと、憲法改正賛成51%、自衛隊合憲76%である。内閣府の3月の調査では、自衛隊への好感度90%強である。
各機関の調査は質問の仕方がまちまち、項目も統一しているわけではないから、大体のことしかわからないが、このままでは勝敗の行方はわからない。繰返しになるが、この状況を護憲派が変えようとするなら、9条下での自衛隊の位置づけを明確にすることだと思う。
どの座談会でも、朝鮮半島が平和の方向に向きつつあることは、みなさん同じ楽観的な見方のようだった。私は米朝会談の結果次第だと思っている。米大統領はトランプという明日何を言い出すかわからない人なので、そう楽観的ではない。米朝会談の成功度が低ければ情勢は逆戻り、緊張は高まる危険がある。そのとき、世論は改憲支持にむかうだろう。
また、日中関係はいま緊張緩和傾向だが、これは一時的なものである。習近平氏への嫌気が高まったり、政府への不満が暴動化したりして国内情勢が揺れ動くようだと、中国政府は関心を外にそらすために、台湾統一ないしは反日ナショナリズムを煽り、軍事的プレゼンスをいま以上に強化する。そうすると、安倍晋三流の改憲派は、あのJアラートのように、大いにこれを利用するはずだ。護憲運動の敗北は目に見えている。
日本の護憲派は朝鮮情勢や中国の外交攻勢に影響力を行使することはできない。それはそうだとしても、東アジア情勢の変化に対応する理論と方法を考えておかなくてはならない。
こういうことを本気で議論してほしかったが、座談会はいつも時間切れだった。残念だった。
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