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独占市場のテレビ局と自民党、その鉄壁の「互恵関係」と「利益配分システム」
http://biz-journal.jp/2018/05/post_23222.html
2018.05.05 文=加谷珪一/経済評論家 Business Journal
安倍晋三首相(つのだよしお/アフロ)
このところ、放送制度改革に関するニュースを目にする機会が増えている。安倍晋三首相は自身に批判的なテレビ局に対して苛立ちを強めており、各局に対する牽制球としてこの話題を持ち出したともいわれる。だが、当事者であるテレビ局はもちろんのこと、与党内からも改革に反対する声が上がり、議論は後退を余儀なくされた。
キー局は放送法の下、事実上の独占市場を形成しているが、ここにはキー局を中心にした地方への資金分配という側面があり、これが地域政治と密接に結びついている。与党とテレビ局は持ちつ持たれつの関係であり、容易には状況を変えられないという複雑な事情がある。
■放送はコンテンツと配信が一体となっている
現在、日本においては通信と放送は分離されており、通信については自由化が進められてきたが、放送に関しては数多くの規制が存在している。
もっとも大きいのは放送法の第4条が定めている政治的公平性の担保で、テレビ局は特定の政党を支持する番組をつくることができない。また、第5条では、報道番組とバラエティ番組、教育番組、教養番組のバランスを取ることが定められており、各局はこのルールに沿って番組を編成している。基本的な編成がどの局も同じようになっているのはこうした理由からだ。これに加えて外資規制が設けられており、外国企業がテレビ局を支配することもできない仕組みになっている。
これらの規制をすべて撤廃し、誰でも自由に放送できるようにするというのが放送制度改革の基本的な趣旨である。この制度が実現した場合、従来型の放送局はなくなり、コンテンツを制作する会社と、放送網を管理してコンテンツを配信する企業に分離される可能性が高くなる。
インターネットの業界では、コンテンツをつくるメディア企業と、プロバイダなどの配信企業は分離されているが、放送制度が改革されれば、テレビ局もこれに近いイメージになる。
これまでテレビ局は、放送法という枠組みの中で、コンテンツの作成と配信の両方を手がけ、事実上の独占企業として大きな利益を上げてきた。これが一般に開放されれば、テレビ局にとって大打撃となるのは間違いない。
首相官邸としては、テレビ局の利益の源泉に揺さぶりをかけることで批判を押さえ込もうという算段かもしれないが、この動きは自民党にとって諸刃の剣となりかねない。主な理由は2つある。
■現行の放送法は与党の利益のために存在する
一つ目は、放送法4条を撤廃してしまうと、政権与党は逆に放送に介入する口実を失ってしまうという現実である。民放のテレビ局は、放送法の規制の下、キー局が電波をほぼ独占するという状態で経営を行ってきた。電波はもっと多くの事業者に付与することが可能だが、政府はあえてごく少数の事業者にだけ免許を与えている。
先にも述べたように放送法は、政治的に公平な番組の制作を義務付けている。逆に言えば、放送法に違反した場合には、免許を取り上げ、事業を停止させることが理論上可能となる。
つまり、政権与党から見れば、放送法が存在することで、放送局の免許停止をチラつかせ(公平性担保の範囲内において)与党に有利な番組をつくるよう誘導することができる。放送法による公平性の維持というのは、いい換えれば、政府が放送に介入する手段でもあった。
実際に免許停止に至ったケースはないが、免許という存在が、マスコミに対して一種の「忖度」を発生させていたことは間違いない。
もう一つは、地方への利益配分という経済的理由である。
テレビ局の広告収入には、タイム広告収入とスポット広告収入の2種類がある。タイム広告は、個別の番組ごとに発生する広告で、スポット広告は、番組とは関係なく局が定めた時間に放送される広告である。番組中に「この番組はA社の提供でお送りします」というかたちで提供表示されるのがタイム広告である。一方、スポット広告は、番組と番組の間や、番組中の特定時間帯に枠が設定されている。
キー局が広告主に対して提示するタイム広告の価格は、全国に視聴者が存在することが大前提となっている。キー局は傘下の地方局に番組を配信しているが、広告料金にはこれらの視聴者分が含まれているわけだ。
したがって、キー局5社は広告収入の約15%、金額にすると1300億〜1500億円程度を系列の地方局に分配している。これらをすべて差し引き、人件費や減価償却費などを引いた残りがキー局の利益になっている。
■分配金がないと地方局は存続できない
逆にいうと、キー局から地方局に分配されるネットワーク分配金は、実は地方局の経営を支える収益源となっている。キー局の系列下にある地方局は全国に100ほどあるが、全社の放送収入を足し合わせるとおおよそ6000億円になる。つまり、地方局の売上高の約25%がキー局からの分配金で占められており、この水準が維持できなくなると地方局の経営が一気に苦しくなってしまうのだ。
地方局はネットワーク分配金以外にも、自主制作した番組のタイム広告収入やスポット広告による収入がある。だが、地方局は自主的な番組制作をほとんど行っておらず、キー局からの番組提供が全体の8〜9割を占めるのが実情である。売上の半分を占めるスポット広告もキー局の番組を配信していればこそであり、地方局には自らの裁量で経営をコントロールする余地はほとんど残されていない。
その一方、地方テレビ局は、各地域においては突出した優良企業であり、地域経済に大きな影響力を持っている。各地域の与党議員にしてみれば、政府の管理下にある超優良企業が自らの選挙区に存在していることのメリットは計り知れない。つまり、多くの与党議員は、キー局を中心としたテレビ局ネットワークがないと政治活動に支障が出てしまうというのが現実なのである。
現在のキー局と地方局との関係や資金の配分は、自民党が長年かけてつくり上げてきたものである。結局のところ、政権与党と既存のテレビ局は持ちつ持たれつの関係であり、放送局の独占を手放したくないのは、実は自民党なのである。
首相や首相周辺がそのあたりを理解していないはずはなく、そうであれば、放送法の改革はあくまでパフォーマンスということになるだろう。もし、首相が本気でテレビの状況を変えたいと思っているのなら、それは与党内における政局の引き金となる可能性もある。
(文=加谷珪一/経済評論家)
「現在のキー局と地方局との関係や資金の配分は、自民党が長年かけてつくり上げてきたもの。結局のところ、政権与党と既存のテレビ局は持ちつ持たれつの関係であり、放送局の独占を手放したくないのは、実は自民党なのである」https://t.co/mxKeAy28TS
— GAORU (@gaoru_dragon) 2018年5月5日
独占市場のテレビ局と自民党、その鉄壁の「互恵関係」と「利益配分システム」 https://t.co/dgzlQLKQmP @biz_journalさんから(報道におけるタブーhttps://t.co/dhePr8lXt1 これ与党のためだろ。)
— 憲法20条を考える会 (@M4LsrLDyI2TIbaX) 2018年5月5日
日本のTVメディアが安倍政権の顔色を伺い忖度放送をするのは放送免許を盾にした少数独占状態を自民党が作ったからで、この国には公平な立場で自由な放送ができるTVメディアは存在しない。⇒独占市場のテレビ局と自民党、その鉄壁の「互恵関係」と「利益配分システム」 https://t.co/uP4Gf6KvtB
— Shichiro Miyashita (@shichirom) 2018年5月5日
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