安倍政権は目障りhttp://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/122000032/030800060/ もはや政局?森友文書改ざん疑惑は官僚の反乱だ 田原総一朗の政財界「ここだけの話」 霞ヶ関発のリークで再びダメージを受ける安倍政権 2018年3月9日(金) 田原 総一朗 森友問題で対応を誤れば、盤石だった安倍政権に深刻なダメージとなる(写真:つのだよしお/アフロ) 3月2日付の朝日新聞に、「森友文書、書き換えの疑い 財務省、問題発覚後か」というスクープ記事が出た。学校法人「森友学園」(大阪市)への国有地売却に関する決裁文書が、契約当時の内容と、昨年2月の問題発覚の際に国会議員に開示した内容との間に違いがあることが判明したという。つまり、問題が発覚してから内容が書き換えられたということだ。
内容が変えられているのは、2015年から16年にかけての取引で、財務省近畿財務局の管財部門が作成した文書だ。朝日新聞の記事では、次のように説明している。 「朝日新聞は文書を確認。契約当時の文書と、国会議員らに開示した文書は起案日、決裁完了日、番号が同じで、ともに決裁印が押されている。契約当時の文書には学園とどのようなやり取りをしてきたのかを時系列で書いた部分や、学園の要請にどう対応したかを記述した部分があるが、開示文書ではそれらが項目ごとなくなったり、一部消えたりしている。」(2018年3月2日付 朝日新聞朝刊) さらに、契約当時の文書は、学園との取引について「特例的な内容」といった表現があったという。財務省は国会で、森友学園と事前に価格交渉をしていたことを否定し続けているが、この文書には「学園の提案に応じて鑑定評価を行い」などと書かれていたと報じられている。しかし、国会議員らに開示した文書では、これらの文言は消えているという。 これは明らかに法律違反である。もし事実であれば、重大な問題だ。 本当に書き換えられたのか。麻生太郎財務相は、「大阪地検において背任のほか、公用文書等毀棄で告発を受けて捜査が行われている。答弁は差し控えねばならない」と述べている。言い方を変えれば、逃げているということだ。 さらに先週までは、財務省は国会で「3月6日には、調査経過を報告する」と発言していたが、問題発覚後の5日、麻生財務相は「調査の方針、留意点を報告する」と述べた。つまり、事実を明らかにするとは言っていない。 僕は、この問題について、何人もの自民党幹部たちに追及した。彼らの多くは、「おそらく財務省官僚が朝日新聞にリークしたのではないか」と話した。そうでもなければ、朝日新聞はこれほどまでに自信満々に報じることはない。財務省は、安倍内閣に強い反発心を抱いていると言える。 リークによって問題が明るみに出た それにしても、この杜撰さは何だろうか。かつて加計学園問題でも、内閣府から「官邸の最高レベルが言っている」「総理のご意向だと聞いている」と文科省に圧力をかけたとする文書が出てきた問題があった。 これについて菅義偉官房長官は、当初、「怪文書だ」と言い捨てていた。ところが周囲からの批判が強まると、文科大臣は「調査をする」と言わざるを得なくなった。その結果は「確認できなかった」というものだった。 これも、文科省の官僚たちが、安倍内閣に対して怒りを表明したのだと思う。一般的に考えると、こういった状況であれば内部文書が出てくるわけがない。 話を森友学園問題に戻そう。スクープ記事が明るみになった後の僕の取材では、こんな話が出た。第一次安倍内閣で、「年金記録問題」が起こったことがある。コンピュータに年金番号の記録があるものの、基礎年金番号に統合・整理されていない記録が約5000万件あったというものだ。当時、杜撰な管理をしていた社会保険庁は、社会から痛烈な批判を受けた。 これもどうやら、内部からのリークによって発覚した問題のようだ。結局、この事件は第一次安倍内閣の大きなダメージとなった。 今回の事件も同様である。僕は、安倍首相がよほど徹底した措置を取らなければ、政権は致命的なダメージを負う可能性が高いと感じている。 3月2日付の朝日新聞の記事では、森友学園との国有地取引に関する書き換え前の決済文章を「朝日新聞が確認」と書いてあるが、文章を入手したとは書いていない。記事中に示された写真は国会議員らに開示された(書き換え後の)決済文章だった 朝日新聞が報じた文書書き換えが事実であれば、佐川宣寿・国税庁長官が、昨年、国会で答弁していた「森友学園とは事前の価格交渉はしていない」という内容は辻褄が合わないことになる。今後、安倍首相は佐川長官を追及し、不正が真実ならば更迭するのかどうかがポイントとなる。僕は、おそらく更迭するのではないかと思う。
さらには、佐藤慎一・前財務事務次官の責任も問われている。これらの点を時間をかけて曖昧にしていると、世論の批判が高まり、麻生財務相の責任まで問われかねない。 安倍政権は、麻生氏、管氏、甘利明氏が屋台骨を支え続けていたが、甘利氏が16年に失脚し、今回の問題で麻生氏も失脚することになれば、政権は大ダメージを避けられない。その最悪の事態を避けるために、安倍首相はこれからどのような手を打つのか。僕は、これは安倍政権の危機だと感じている。もはや「政局」になったと言っていい。 なぜ、官僚たちは安倍政権に強い不満を持っているのか それにしても、なぜこんなことが起きたのだろうか。財務省の官僚たちが、安倍政権のどこに強い不満を持っているのか。具体的なところは、僕にもよく分からない。 これは仮説だが、第二次安倍内閣になってから、政権が内閣人事局の力を強化して、各省庁の幹部人事を一元的に内閣が掌握するようになったことが影響しているのかもしれない。それに対する官僚たちの不満が高まった可能性がある。 この内閣人事局のトップは、安倍首相の側近である萩生田光一官房副長官が務めていた。これが物議を醸し出し、現在の局長は政治家ではなく、警察官僚だった杉田和博氏が務めている。 こういった背景も、今回の問題に関係あるのかもしれない。少なくとも、財務省は安倍政権にダメージを与えようとしていることは間違いない。安倍政権は経産省寄りであることは周知の通りであり、財務省とはあまり関係がいいとは言えないのである。 安倍首相は、森友学園問題について、「私や妻(昭恵夫人)私や妻が関係していたということになれば、首相も国会議員も辞める」と国会で明言している。次の焦点は、書き換えられた元の文書に、昭恵夫人の存在が記されているかどうかだ。 朝日新聞は、「事実を調査し、公表すべきだ」と主張している。ところが、麻生財務省は、「財務省として調査するか」との質問に対し、「今の段階では調査することはしない」と答えている。 3月8日朝の参議院予算委員会理事会で、決裁文書原本のコピーを提出することになった。しかし、コピーは財務省が昨年国会議員に開示した文書と比べると、チェックマーク以外は同じであったという。他の文書が存在するかどうかについて、財務省は「このコピーは今現在、近畿財務局にあるすべて」と明言しなかった。これについて野党は、書き換え問題の解決にはならないと言って強く反発している。 原本が公表されないということは、よほど問題のある内容が記されていると思わざるを得ない。野党は、朝日新聞に書き換えられる前の文書を公開せよと詰め寄っているが、朝日新聞は守秘義務を貫き、これを拒否している。 今年9月には、自民党総裁選が控えている。今回の問題によって、自民党内部では、大きな波風が立つ可能性がある。少し前までは、安倍首相の再選が既定路線で、石破茂氏も岸田文雄氏も積極的に戦う姿勢を示していなかったが、ここにきて風向きが変わってきた。 岸田氏は7日の講演の中で、出馬判断こそ明言しなかったが、総裁選について「政策においても政局においても力を蓄えておくことが大事だ」と強調した。慎重な物言いで知られる岸田氏が「政局」を口にするほど、事態は大きく動き出しているのだ。 とにもかくにも、安倍首相がこれからどのような対応を取るのか。対応を誤ると、安倍政権のダメージは非常に大きなものとなるだろう。 このコラムについて 田原総一朗の政財界「ここだけの話」 ジャーナリストの田原総一朗が、首相、政府高官、官僚、財界トップから取材した政財界の情報、裏話をお届けする。
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