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《名護市役所では7日、選挙に敗れた稲嶺前市長の退任式がおこなわれた。式会場の庁舎2階広場を埋め尽くすほどの市民が詰めかけ、・・・退任を見守った。・・・見送りの市民や市職員もまぶたを押さえながら退任の辞を聞き入り、「お疲れ様」との掛け声とともに大きな拍手が送られた。
対照的に、翌8日におこなわれた渡具知新市長の就任式は、ギャラリーに身内の与党系議員や市職員が目立ち、わずか3分で終了したことも、選挙結果とのギャップを感じさせるものとなった。》(2月9日付『長周新聞』より抜粋転記)
当初の大方の予想に反し、自公推薦候補が現職市長を破った今回の名護市長選挙(1月28日告示、2月4日投開票)。前哨戦で早くも激戦含みとなり、選挙戦中デッドヒートが伝えられていたが、ゴール時にはもはや覆すことのできないほどの差が付いていた。
選挙戦が始まると、「運動員が高齢者を期日前投票に連日ピストン輸送」し、「制服姿の会社員たちが企業ぐるみで期日前投票に列」をなすといった見慣れない光景が市民の間で目撃されるようになった。「戸別訪問」や「未成年者の選挙運動」など公選法違反の疑いがもたれるような行為も取り沙汰されるようになった。渡具知陣営は、基地問題に固く口を閉ざす一方で、稲嶺市政の実績を歪曲したネガティブ・キャンペーンを大々的に展開し、相手候補のイメージ棄損を図った。また、これに呼応するかのように「SNSを通じたデマの拡散」や「発行元不明の誹謗中傷ビラ」などの選挙妨害行為も水面下で横行した。
名護市は一種独特の異様な空気に包まれていった。市民が気付いた時には、「虚実入り乱れる情報で何が本当かわからない」状況が作り出され、稲嶺陣営がこれらネガティブ・キャンペーンの ‘間違い’ を市民に説いて回る努力は、まさに ‘焼け石に水’ のようにも見えた。
本稿では、こうした選挙戦に翻弄された名護市の有権者が、実際にどのような投票行動を取ったのかについて、投開票データを分解再構築しながら検証していくこととしたい。
【1】有権者数は前回比2,202名(4.7%)増、投票者数は1,791名(5.0%)増で、投票率若干上昇
(1)有権者数は前回2014年の46,582名から、今回2018年は48,784名へ2,202名、伸び率にして4.7%増加した。増加分のうち約1,700は選挙権年齢引下げの影響 [*1] と考えられ、これは今回有権者数の約3.5%を占めた。残り500は同市人口の自然増 [*2] によるものと推定され、これは今回有権者数の約1.0%を占めた。
(2)投票者数は前回2014年の35,733名から、今回2018年は37,524名へ1,791名、伸び率にして5.0%増加し、棄権者数は前回2014年の10,849名から、今回2018年は11,260名へ411名、伸び率にして3.8%増加した。
(3)投票者数増加分のうち約1,000は選挙権年齢引下げの影響 [*3] と考えられ、これは今回全投票者数の約2.7%を占めた。残りのうち約400が人口自然増を反映したもの [*4]、また約400が前回選挙の棄権者の一部 [*5] と考えられ、これらはそれぞれ今回全投票者の約1.1%ずつを占めた。
(4) 投票率は76.92%と、前回の76.71%を0.21ポイント上回った。このうち18,19歳の投票率は約58%と推定される [*6] ため、ここから逆算した20歳以上の推定投票率は、前回の76.71%から0.87ポイント高い77.58%となる。
[*1] 2017年12月4日付沖縄タイムスによれば、市内18、19歳の人口は約1,700名。
[*2] 前回2014年の同市人口はその4年前の2010年に比べ1,596名増加し(各年とも数百名規模で増加)、有権者数も1,686名増加した。しかしその後の人口は2015年29名増、2016年179名増と鈍化に転じており(2017年以降分は未発表)、今回の有権者数が500名程度であったことと符合する。
[*3] 2017年12月4日付沖縄タイムスによれば、2017年10月衆院選の投票率は18歳が51%、19歳が32%であった。全市投票率が総選挙(小選挙区)の55.08%から今回市長選は76.92%と39.65%上昇しているので、この伸び率を18、19歳にも適用すると今回市長選の投票率は18歳71%、19歳45%と推計され、ここから合計で約1,000 (18歳605名、19歳380名)という今回投票者数が推計される。
[*4] 増加人口(約500名)に今回投票率(76.92%)を掛けた解(385)を丸め400と推定。
[*5] (1)と(2)により棄権者数のうち約700が18,19歳と推定されるため、20歳以上の年齢層の棄権者数は10,560と算出され、前回(10,849名)比では逆に289名減少したことになる。そしてここから人口増要因(今回新たに100名が棄権)を取り除くと、前回棄権し今回も棄権した人は約400名減少したとみることができる(▼289−100=▼389)。
[*6] 18,19歳の投票率は前述(5)から約58%(2017年総選挙の41.5%から39.65%上昇)と推定される。
【2】全投票者のうち6割近くが期日前投票を行っていた
(5)「当日投票者数」は前回2014年の19,588名から今回2018年は15,556名へ4,032名、伸び率にして20.6%減少し、「期日前投票者数」は前回2014年の15,835名から今回2018年は21,660名へ5,825名、伸び率にして36.8%増加した。なお、「不在者投票者数」は前回2014年の310名から今回2018年は308名へ2名減少した。
(6) 全投票者に占める比率は「当日」が41.5%、「期日前」が57.7%、「不在者」が0.8%となり、「期日前投票者数」が全体の6割近くを占めた。これは、沖縄本島への超大型台風(21号)接近という特殊な状況下に置かれた昨年10月総選挙(「当日」39.1%、「期日前」59.9%)並みの異例の高さと言える。
ちなみに、2016年参院選は「当日」57.0%、「期日前」41.9%で、前回市長選の「当日」54.8%、「期日前」44.3%と比べ目を見張るほどの変化はなかった。
【3】稲嶺候補の得票数は前回比2,908減、渡具知候補の得票数は前回の自民推薦候補比4,705増
(7)稲嶺候補の得票数は16,931で、前回選挙での得票数19,839を2,908票、伸び率にして14.7%下回った。渡具知候補の得票数は20,389で、自民推薦候補の前回得票数15,684を4,705票、伸び率にして30.0%上回った。無効票数は204で前回の210から6減少した。ここから有効票に占める得票率は稲嶺45.4%、渡具知54.6%であったことがわかる。
(8)18,19歳の有権者で今回投票したとみられる約1,000名の投票行動については、いくつかの定性的な材料を手掛かりに、両候補者への票の割れ方を推定することとする。全体の得票率は前項の通り稲嶺45.4%、渡具知54.6%であったが、渡具知陣営による若者層をターゲットにした町づくりのイメージ戦略(電通関与が疑われている)や小泉(進)議員の2度にわたる応援演説の効果などもあって、若い人たちの間では渡具知支持のムードが優勢だったと伝えられている。もちろん、こうした空気を疑問視する冷静な若者も多数いたであろうが、ここでは稲嶺30%、渡具知70%と仮置きし(20:80でも40:60でもよいのだが)、稲嶺300票、渡具知700票としておく(20:80で稲嶺200票、渡具知800票、40:60で稲嶺400票、渡具知600票となり、いずれの場合も次項以降の論旨に影響を及ぼさない)。
(9)次に、人口純増分の有権者で今回投票した約400名の投票行動であるが、これは全体と同じ稲嶺45%、渡具知55%とみなし、稲嶺180票、渡具知220票としておく。
(10)最後に、前回選挙の棄権者で今回投票した約400名の投票行動であるが、そのほとんどが渡具知陣営による組織ぐるみ投票の影響と考えられるため、稲嶺5%、渡具知95%と仮置きし、稲嶺20票、渡具知380票としておく。
すなわち、有権者数が前回比4.7%増加し、投票者数が前回比5.0%増加し、棄権者数が前回比3.8%増加した今回の選挙結果をさらに細分化したとき、当日投票者数が前回比20.6%減少する一方で期日前投票者数が前回比36.8%増加するという突出ぶりを示したこと、そしてその結果として、稲嶺候補の得票数が前回比14.7%減少する一方で渡具知候補の得票数が前回(の自民推薦候補者)比30.0%もの大幅増加を示したことは、その間に因果関係があると考えなければ説明がつかないからである。この期日前投票の増加が組織ぐるみ投票によって主導されたことについては、次項【4】で検証することとする。
(11)(8)(9)(10)をそれぞれ合計すると、稲嶺500票増、渡具知1,300票増となり、その合計値が(2)で示した今回投票者数の増加分と一致することを確認できる。
【4】約3,400名が前回の稲嶺候補から今回は渡具知候補に投票先を変更した
(12)稲嶺候補の得票数16,931から前項の500票を差し引くと16,431票、渡具知候補の得票数20,389から前項の1,300票を差し引くと19,089票となる。すなわち、投票者数増加分を取り除いたベースでみると、稲嶺候補の得票数は16,431で、前回選挙での得票数19,839を3,408下回り、一方の渡具知候補の得票数は19,089で、自民推薦候補の前回得票数15,684を3,405上回ったことが推計される。
(13)ここから、前回選挙で稲嶺候補に投票した有権者のうち、約3,400名が今回は渡具知候補に投票先を変更したことがわかる。そして選挙結果での得票差が3,458であったということは、1,729名の投票先変更が明暗を分けたことを意味する。3,400名のうち約半数強が投票先を変えていなければ、稲嶺市政は3期目に入っていた可能性が高かったということである。
◆「期日前投票」に出来て「当日投票」に出来ないこと.◆
(14)さらに、既に見てきたように投票者総数が前回比1,791増加する中で、当日投票者数が逆に前回比4,032の減少に転じたことは特筆に値する。この不自然な相反性は、それ自体が人為的な力の介在を示唆しているからである。(10)でも述べたように、渡具知陣営による “期日前” の “組織ぐるみ” 投票という今回選挙の最大の “謎” がここで浮かび上がってくる。
(14補a)そこで、票の分析という本題からは少し離れて、この組織ぐるみ投票というものを少し考えてみたい。(6)で示したように組織ぐるみ投票は超大型台風並みの猛威を振るったのであるが、これほどの集票効果が、果して「組織ぐるみ」という“形式”を整えるだけで自動的に付随してくるものであろうか。憲法の保障する「投票の秘密」(第十五条)が投票所で保全されていたのかどうかが問われてくるのである。
(14補b)平日の白昼、社員が少人数ずつのグル−プに分かれて、おそらく就業時間を削って入れ替わりで投票所へ向かうことを容認(あるいは推奨)する企業経営者は、純粋に投票率の上昇だけを願ってそうしたとでも言うのだろうか。選挙期間中の業務効率の低下を補うに余りある見返りを確実にしたいのが企業経営者としての本音であるすれば、従業員を投票所に送り出してあとは従業員任せというわけにはいかないのではないだろうか。その程度のものであれば当日投票とどう違うのかということである。
(14補c)公選法第二二八条(投票干渉罪)及び同第五二条(投票の秘密保持)の網を掻い潜って、「自発性」を装うことで投票用紙への記入内容を拘束する巧妙な誘導が行われてはいなかっただろうか。何らかの形での “自発的” な相互開示、“自主的” な相互監視ともいうべき仕掛けがあったとは考えられないだろうか。この百発百中の精妙な仕掛けが、期日前投票に参加したすべての事業所に一様に組み込まれたのだとすれば、その仕掛けを考案開発し、地元経済界に有無を言わさず導入させ、各事業所の期日前投票実施状況を逐一報告させ、それに基づき票読みをしていた影の勢力がどこかにいるはずである。
◆3,400のうち 1,200〜1,350が公明票◆
(15)組織ぐるみ投票のもう一つの大きな柱は公明党であった。公明党は前回選挙では自主投票としていたが、今回は本部が主導する形で昨年末(12月27日)に渡具知候補推薦を決めた。名護市で2,000名を下らないともいわれる公明党支持者の多くは基地建設に反対の立場であるため、自民党は公明党の要求に従い「米海兵隊の県外、国外移転を求める」を渡具知候補の選挙公約に追加せざるを得なかった。そうした背景を抱えた渡具知候補は、選挙戦で基地問題への具体的言及を避け続けたのである。支持者からの票の取りこぼしを恐れる公明党は、県内外から運動員を大挙派遣して戸別訪問を徹底させるとともに、200台ものレンタカーを借り切って、名簿と照合しながら支持者を個々に期日前投票所へ送迎するという手の入れようであった。
(16) 前回選挙で稲嶺候補に投票し今回は渡具知候補に投票先を変更した約3,400名の中で、公明票がどの程度を占めているかを示す指標はない。但し、公明票の総数が2,000で、これに前回選挙の投票率(76.71%)を乗じた約1,500名が前回投票者数であったとの前提に立てば、そのうち何割が基地建設反対の稲嶺候補に投票したかによって、今回はその全数が渡具知候補に投票先を変更したと考えることができる。8割で1,200名、9割で1,350名であるが、ここでは結論を保留して次の企業ぐるみ投票に話をつなげていくこととする。
◆企業ぐるみ投票で当落が逆転した◆
(17)前回選挙で稲嶺候補に投じられ、今回は渡具知候補に投票先が変更された約3,400票のうち、公明票を除いた部分が企業ぐるみによるものと見做すことができる。公明票を1,200と仮定すれば企業ぐるみは2,400、公明票を1,350と仮定すれば企業ぐるみは2,050となる。いずれであっても [*7] で示す名護市の産業別就業者数(2010年)、及びその後の同市の人口変動に照らして妥当な数字といえよう。そして、この企業ぐるみ投票による票の大移動が、当落の最後の決め手となったのである。
(18)公明党の渡具知推薦決定によりこの選挙戦は一気に混戦模様となったが、(13)と(16)でみてきたように、公明票だけではまだ逆転ラインに届かない可能性が高かった。自民党は陣営のてこ入れを図るべく、幹部が相次いで年末年始に現地入りし(12月29日に菅官房長官、1月4日には二階幹事長を筆頭に萩生田事長代行、林幹事長代理、塩谷選対委員長)、支持母体である地元経済界にも支援を求めた。中小企業の社長に菅官房長官から電話が直接かかってくることもあったという [*8]。
(19)最後に付言するとすれば、以上述べてきたことから明らかなように、渡具知陣営のネガキャン攻勢は一般市民の投票行動にほとんど影響を及ぼしていなかった。一条の光をそこに見出すことができる。
[*7] 10年前のやや古い統計ではあるが、2010年国勢調査に基づく「名護市の産業大分類別就業者数」は、名護市の産業構造と産業別従業員数の大まかな規模感を押えるうえで手掛かりを与えてくれるものである。そこから企業ぐるみ投票が想定されそうな業種をいくつかピックアップすると、建設業2,015人、製造業1,205人、不動産業・物品賃貸業287人、サービス関連では宿泊業・飲食サービス業2,386人、生活関連サービス業・娯楽業1,002人、等となっており、その後に大なり小なり産業構造の変化が生じていたとしても、「2,200」を吸収するには十分な規模であることがわかる。また、その間の名護市総人口の増加(2010年59,900人→2017年62,200人)も、この指標を参考とすることの有効性を補強している。
[*8] 《名護市長選の選挙戦最終日の3日。市内に拠点を置く会社の役員の携帯電話が鳴った。「官房長官の菅です」。渡具知武豊氏への支援を呼び掛ける、菅義偉官房長官からの直々の電話だった。「俺らみたいな末端までかかってくるということは、ほとんどの企業に電話が行ったと思う」。菅氏や秘書が期日前投票の取り組みが進んでいない企業や地域に直接電話をかけ、地元市議や運動員を動かした。政権からの重圧が、人口6万余の小さな街へのしかかった。》(2月7日付『琉球新報』より)
【補足】 この市長選挙は、稲嶺派が過半数を占める名護市議会が選挙で選出した委員4名で構成される名護市選挙管理委員会によって実行管理されたものである。
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