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マルクスがイギリスで共産主義を考えた理由
http://www.asyura2.com/18/reki3/msg/891.html
投稿者 中川隆 日時 2020 年 2 月 05 日 13:53:06: 3bF/xW6Ehzs4I koaQ7Jey
 

(回答先: マルクス史観はどこが間違っていたのか? 投稿者 中川隆 日時 2019 年 12 月 29 日 12:58:53)


マルクスがイギリスで共産主義を考えた理由


階級社会イギリスは、オーウェルの「1984年」監視社会を実現した、最初の国だった。


監視国家の現実 2020年02月04日
http://tokaiama.blog69.fc2.com/blog-entry-1019.html


  私が中学生になるころ、娯楽といえばテレビだったのだが、群を抜いて面白い番組があった。
 「プリズナー6」という。
  https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AA%E3%82%BA%E3%83%8A%E3%83%BCNo.6

 このドラマの面白さは、最後まで主人公を監視し、拘束する組織の正体が分からないことだった。いったい誰が? 何の目的で、一人の諜報員を拘束し、暴力的に監視し続けるのか?
 ストーリーは、極めて哲学的な示唆に富んだもので視聴者を惹きつけた。

 この番組は、イギリスで制作されたものだったが、そのイギリスは、中国共産党の監視社会が成立するまでは、世界一の監視国家だった。
 2月2日、ロンドンで仮釈放中の、イスラム国思想の影響を受けたテロ活動家が単独で3名を刺傷し、直後に、監視中だった警官に射殺された。
 https://www.bbc.com/japanese/51352236

 容疑者は、世界一といわれる密度の監視カメラで追跡され、テロ行動と同時に近くにいた警官が駆けつけて射殺したのだが、その対応の早さに驚かされた。
 
 いつも誰かに見られている、超監視社会ロンドン
人口1人当たりの監視カメラの台数で、ロンドンは世界トップだという
 https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/18/032300130/

 このニュースを見て、プリズナー6を思い出したのは、私一人ではないだろう。
 イギリスは、オーウェルの「1984年」監視社会を実現した、最初の国だった。
 https://ja.wikipedia.org/wiki/1984%E5%B9%B4_(%E5%B0%8F%E8%AA%AC)

 なぜ、イギリスが、かほどの監視体制を必要とする国だったのか?
 それは、歴史的な、もの凄い格差社会であり、社会資本や人的資源の流動性がなく、人々は、支配階級と被支配階級(奴隷階級)に歴史的に固定され、体制に対する憤懣をぶちまける手段が、テロしか残されていなかったからだろう。

 それは、最初に民族的対立のなかで起きていた。
 
アイルランド共和軍
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89%E5%85%B1%E5%92%8C%E8%BB%8D

 イギリスは「テロとの百年戦争」の最中にある ロンドンは、ずっと過激派の標的だった
 https://toyokeizai.net/articles/-/96503

 私の世代は、イギリスがIRAによって、激しいテロの標的にされ続け、ちょうど、中東の無差別自爆テロのモデルになっていたような時代が長く続いたことを知っている。
 だから、ロンドンでテロが繰り返されても、イギリス国民は、日常的風景として大きな驚きを持たないのである。

 イギリスは民主主義国家などと言われるが、実態は、王室と特権階級による独裁社会である。
 人々の身分は、生まれた家や土地によって定まり、土地の所有権すら、英王室と地方領主貴族が大半を独占し、ほとんどの英国民が小作人=農奴に貶められている。 
http://www2.ashitech.ac.jp/civil/yanase/essay/no07.pdf

 生産手段を持たない小作人の家に生まれたなら、社会全体の硬直した価値観によって、底辺の労働者階級としての人生以外の選択肢はない。
 これは移民に対しては、より苛酷であり、だから、移民でテロに走る若者が多いのである。
 これに対して、支配階級は監視と法的な弾圧で対抗してきた。
 イギリスにおける監視社会とは、固定された領主が、自由を求める底辺庶民の怒りを封じ込めるためのシステムであった。

 現在、体制の利権を固定し、庶民の怒りを封じ込めるためのシステムを、世界でもっとも必要としているのが、中国共産党社会である。

 新型肺炎対策にドローン、中国が誇示する監視国家の姿 ロイター2月3日
 https://jp.reuters.com/article/column-apps-idJPKBN1ZY0CI

 以下引用

 先週のある日、中国・成都市の路上に住民数人が集まって座っていた。小さなドローンが近づいて空中停止すると、話し始めた。
  
「感染症が広がっているときの屋外麻雀は禁止されています」ドローンから声がする。「見つかっていますよ。麻雀をやめて今すぐそこを離れなさい」、「子どもさん、ドローンを見てはいけません。お父さんに今すぐ離れるように言いなさい」。

 新型コロナウイルスの感染拡大抑止に向けたドローンの「創造的な活用法」だと中国共産党系英字紙グローバル・タイムズが報じたこの動画は、海外の多くの人々にとっては未来のディストピア(暗黒世界)の1シーンに映るかもしれない。

 しかし中国政府指導部が、これを誇るべきことと考えているのは明らかだ。動画は中国のソーシャルメディアで拡散され、英語メディアで海外にも紹介された。

 この一件は、2つの重要なことを示していそうだ。第1に、中国はあらゆる手段を駆使して新型コロナウイルスの感染拡大を食い止めようとしているだけでなく、これを機に世界一高度な監視国家である自らの能力を強化し、誇示する可能性が十分にあるということだ。

 第2の点は言うまでもないが、小型で無人の媒体やプラットフォームが、大衆の監視だけでなく、直接的な社会統制の手段としても急速に普及しつつあることが鮮明になった。この傾向は独裁主義的な国々以外にも広がる可能性が高く、民主主義国家はこの点について、これまで努力してきたよりずっと公開かつ参加しやすい議論を積極的に行っていく必要がある。

 <法の執行>

 法の執行や警備体制が手いっぱいの国々は既に多いため、こうした機器が活用されるのは目に見えている。ロンドンで2日、最近釈放されたばかりのイスラム過激派思想の男に2人が刃物で切りつけられた事件では、危険と見なされる人物を追跡する当局の能力に疑問が投げ掛けられた。顔認識ソフトウエアなどの自動化技術を使えば追跡はもっと容易になるが、多くの人々を不安にさせるのも間違いない。

 米国ではカリフォルニア州のオークランドやバークリーなど、いくつかの市や町が法執行機関による顔認識技術の利用を禁じている。他にも管理を強化している州や地域があるが、米国および西側世界の大半の地域では、ほぼ気付かれず、議論もされないままに新たな監視技術が次々と導入されている。

 中東地域などでの米軍の活動では、武器を搭載する大型無人ドローンが何年も前から主役を演じている。米国が始めたことに、中国はしばしば追随するため、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)など、米国からのドローン輸出が制限され不満を抱く国々にとって、中国は武装ドローンの主な供給源になっている。

 米国防高等研究計画局(DARPA)は昨年8月、ジョージア州フォート・ベニングの米軍訓練施設で、ドローンの集団を使って特定の建物内─この場合は市庁舎の想定だった─の特定の対象を見つけ、監視するという最新技術を披露した。250ものドローンがたった1人のオペレーターにコントロールされ、あるいは機体が個々に独立して動作するといったことを可能にするのが狙い。こうした水準の移動式監視は以前なら不可能だった。

<ドローン技術>

 中国は数十年前からドローンと監視技術に資源を投入してきた。2018年、香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは、見た目や動きを鳩などの鳥に似せた無人ドローンについても、中国が開発中だと報じた。国境地帯や、イスラム教徒への弾圧で知られる新疆ウイグル自治区で既に活用中だという。

 同紙によると、このドローンは羊の群れの上を飛ばしても羊たちが飛行物体に騒がないほどの性能が証明されている。羊は通常、飛行機に非常に敏感に反応する。中国政府がこの技術をカメラや顔認識データベースなど、他の監視手段と組み合わせて使おうと考えているのはほぼ間違いない。中国は他に、歩き方の癖で人を認識するシステムなども開発中だと報じられている。

 ただ、冒頭のグローバル・タイムズが報じた動画は、明らかに人間がコントロールしており、声は拡声器から流されていた。江蘇省の別の動画では、婦人警察官が横断歩道でドローンを使い、通行人がマスクを着用しているかをチェックしていた。「電話中のハンサムなお兄さん、マスクはどうしましたか。着けて下さいよ」と拡声器から呼びかける。「食べ歩き中のお嬢さんたち、マスクを着けて下さいね。おうちに帰れば食べられますよ」。

 こうした光景を見ると、旧東ドイツのような、かつての監視国家のように、中国もまだ人間による人間の監視に頼っているようだ。しかし状況は急速に変わりつつある。人工知能(AI)のアルゴリズムと、過去に蓄積された膨大なデータの組み合わせがターゲティング広告を一変させたのは周知の事実だ。

 グローバル・タイムズによると、春節(旧正月)の催しが中止になり、自宅にこもる中国の人々にとって、成都市の動画は格好の娯楽となっている。動画が本物かどうかは別の問題だが、世界中も思ったより早く、同じような課題に直面するかもしれない。

*****************************************************************
 引用以上

 こうしたドローン監視社会は、いずれ、日本や欧州にも拡大することは間違いなさそうだ。社会全体に格差と差別の固定した社会では、必ず底辺の人々に矛盾がしわ寄せされ、やり場のない憤懣が貯まってゆく。

 あらゆる手段で、こうした不満・憤懣が抑圧されるなら、最期は必ずテロ暴発に向かうのが人間社会の法則である。

 固定された特権階級=一級国民は、何が怖いかといえばテロが怖い。直接、個人が狙われるテロリズムでは、特権階級にとって逃げ道がないのだ。
 だから、社会の個人的暴発を防ぐための監視と弾圧に、持てる最大の力を注ぐことになる。これは、世界中で同じことなのだ。

 ただ、知っておいてもらいたいことは、本当は、「無差別テロ」を戦略として用いる政治思想は存在しない。例えば、中東や欧州で横行している無差別自爆テロは、ほとんどの場合、イスラエル=モサドが背後にいると考えるべきだ。

 イスラエルは、旧約聖書創世記に記された「イスラエル人に約束の地を与える」という文言に脅迫されて、ユーフラテスとナイルの間の広大な土地をイスラエルにするシオニズム運動(大イスラエル主義)を行っていて、このため、この地域の人々を自爆テロによって追い出す作戦を実現しているのである。

 イスラムの若者が、モサドの陰謀作戦によって洗脳され、自爆テロに利用されているのが真実である。

 本当の民族テロに自爆作戦は存在しない。ただIRAのようなテロが存在するだけだ。

 しかし、どちらにせよ、特権階級がテロ被害を防止しようとすれば、電子機器による監視を強化し、住民統制支配をAI化する方向に進むのは間違いない。

 こうした電子監視が誰に利益をもたらすのかといえば、少なくとも民衆には利益はない。財産と特権を守ろうとする特権階級に大きな利益をもたらすだけなのだ。

 しかし、こうした発想には、大きな落とし穴がある。
 監視社会を強化すれば、ますます個人の人権はいびつに弾圧され、住民の生活は極端に息苦しくなってゆく。

 こんな苦しい社会から、人間を解放しようとする思想が湧き上がってくるのが自然の成り行きである。

 だから、中国でも英国でも、監視社会の眼をくぐった裏社会の秩序ができあがってゆくことが避けられない。

 かつての中国の主役は、青幇・紅幇に代表される裏社会の秘密結社だった。例えば、戦前は、青幇は国民党軍と重なっていて、蒋介石は、どちらもの頭目だった。
 通州事件・南京事件の大虐殺の命令者は蒋介石だった。

 監視社会の背後では、再び、青幇=蒋介石のような人物がのし上がってくる必然性があり、中国人は、表の監視社会に従うフリをしながら、実は、裏の秘密結社に帰依するというような人生を送る者が激増することだろう。
 
 それに、米中軍事衝突が起きれば、最初に、両国ともに、必ずEMP核爆弾を上空400Kmで爆発させ、相手の電子機器をすべて破壊するところから戦争が始まるのである。
 もちろん、日本上空でもEMPが爆発することだろう。

 EMP爆発の瞬間から、コンピュータ機器、AI機器、監視機器は、すべて破壊される。本当に生身の人間による第二次世界大戦以前の戦争に戻ることになる。

 このとき、はたして中国共産党は、どの程度の実力を発揮できるのか、極めて面白い見物である。

 おそらく、共産党も軍も、利権によって完全に腐敗しきっているので、統制もとれずに大混乱に陥るのではないだろうか?

 現在の中国の戦争システムは、一人っ子政策で、屈強の男子がいなくなった社会のなか、ほぼコンピュータに依存しきっていて、コンピュータや監視機器が破壊されたとき、何が起きるのか? 考えてみればいい。

http://tokaiama.blog69.fc2.com/blog-entry-1019.html  
 
 

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コメント
1. 中川隆[-13687] koaQ7Jey 2020年2月20日 10:58:30 : b5JdkWvGxs : dGhQLjRSQk5RSlE=[-219] 報告
2020年02月20日
働かない人の収入が働く人より多い世界 マネー経済が実体経済を圧倒


上位数人が下位半分の資産を所有している
働くより金転がしが儲かるのでこうなる

画像引用:https://fashionmarketingjournal.com/wp/wp-content/uploads/2017/02/thejick01-1.png

マネー経済が実体経済を圧倒

1%の超富裕層が富の半分を所有している、というような説明を聞いたことがあると思います。

アメリカでは上位3人(ゲイツ、バフェット、ベゾス)の合計資産約30兆円が下位半分の資産を上回っている。

アメリカ人の5人に1人が資産ゼロで、3割程度が10万円ほどの預金額しか持っていない。


さらに世界の上位62人は世界の個人資産の半分を持っていて、彼らの大半は世襲や相続で資産を引き継いだ。

この状況は19世紀以前に王や皇帝や貴族が支配していた頃と同じで、封建時代より格差が酷いという。

江戸時代の殿様は意外に貧乏で、食事や生活は質素だったので、現在より格差が小さかったかも知れない。


現代の格差拡大はマネー経済の拡大と実体経済の縮小が原因と言われています。

実体経済は生産や移動やサービスなど物理的な行動を伴う経済で、GDPという数字で表されます。

対して「ビットコインが値上がりした」ように物理的な行為が伴わないものを、マネー経済などと呼んでいます。


現金と預金などの通貨流通量は100兆ドルで世界のGDP合計は約80兆ドル(2018年頃)とマネーの方が大きい。

GDPは物理的行為をお金に換算した合計なので、働くよりお金を転がした方が儲かるのを意味している。

例えば苦労して東大に入り一流企業に入り経営者に上り詰めた人より、親から相続したお金を転がして遊んでいるほうが儲かる。


これが格差を拡大していて、まじめに働くより寝ていた方が儲かるから、どんどん差が開いています。

働いたら負けの社会

マネー経済の拡大によって2030年には上位1%の資産家が全世界の富の3分の2を所有する、とオックスフォード大教授などが言っています。

超格差を予言したピケティ教授の『21世紀の資本』がベストセラーになったが、当時は空想と思えたことが現実になっている。

ビケティによると格差が拡大する理由は労働によって得られる賃金より、不労所得である財産の伸び率が高いからです。


その結果が全世界GDP合計80兆ドルに対して通貨流通量は100兆ドルになったので、今後さらに差が開きます。

こうした社会では一生寝ずに働いたとしても、寝転んで資産運用する人よりずっと少ない資産しか作れません。

10年ほど前にネットで「働いたら負け」という言葉が流行したが、今の世界は正に働いたら負けで、働かない人が巨万の富を持っている。


千年以上前から「労働は美徳」としてきた日本人はこういう生き方が苦手であり、労働によって尊敬や称賛を得るのが当然だと考えて来た。

欧米では労働は刑罰であり、偉い人は働かず命令したり遊んだり、非生産的な事ばかりしてきた。

例えば10億円を持っている人が年2%で運用したら2000万円を得られるが、労働で2000万円得られるのは芸能人など限られた職業です。


非正規や派遣労働者の多くは年収200万円程度ですが、これは1億円を2%で運用するのと同じ金額です。

年2%なら投資の才能がゼロでもこつこつ積み立てるだけで良いので、ほぼノーリスクで得られるリターンです。

日本では実質賃金が増えていないが先進国共通の現象で、全世界「働いたら負け」になっています。


こうした世界がいつまで続くかですが、マネー経済は何も生み出していないので、実体経済が作ったものを浪費しているだけです。

実体経済が生み出したお金をマネーゲームの勝者が総取りする不合理な経済が、永遠に続くとは思えない。

王や貴族の支配が終わったように、マネー貴族の世界もいつかは終わるでしょう。

http://www.thutmosev.com/archives/82236298.html

2. 中川隆[-13466] koaQ7Jey 2020年2月26日 15:05:57 : b5JdkWvGxs : dGhQLjRSQk5RSlE=[26] 報告
イギリスは、社会不安が「巨大暴動」という形で再燃してもおかしくない状況に 2020.02.26

イギリスもまた超格差社会である。『今日のイギリスは、先進国の中で最も不平等な国の1つ』と英社会学部教授は指摘する。

イギリスでは5人に1人が貧困状態で暮らしている。50万人近くがフードバンクを利用している。女性の中には生理用品が買えないという理由で学校を休んでいる女性もいるほどだ。(鈴木傾城)

先進国の中で最も不平等な国の1つ、イギリス

EU(欧州連合)離脱を成し遂げたイギリスのボリス・ジョンソン首相だが、EUを脱退したからと言ってイギリスが急に明るい国になるわけではない。イギリス国内はグローバル化の毒が社会の隅々にまで染み渡っている。

私たちはアメリカが激しい競争社会であり、格差がとめどなく広がっているいびつな社会であることは知っている。しかし、イギリスもそうなっているというのはあまり知らない。

イギリスもまた超格差社会である。『今日のイギリスは、先進国の中で最も不平等な国の1つ』と英社会学部教授は指摘する。

イギリスでは5人に1人が貧困状態で暮らしている。50万人近くがフードバンクを利用している。女性の中には生理用品が買えないという理由で学校を休んでいる女性もいるほどだ。

さらに子供の貧困も凄まじく、100万人の子供が適切な住居で暮らしておらず、空腹のまま学校に行かざるを得ない状況に陥っていると言われている。

ホームレスも増えて、バッキンガム宮殿のまわりにもホームレスだらけと化している。移民もまた昨今の不景気で次々とホームレス化している。

途上国の話ではない。イギリスの話である。

イギリスに来て成功している移民もいるが、逆に苦境に堕ちている移民も多い。低賃金と不安定な雇用でいつまで経っても生活の基盤が安定せず、白人系の低所得層と共に貧困に喘いで対立している。


人種問題・移民問題・差別問題・格差問題・貧困問題

イギリスの最底辺は荒廃している。

イギリスでは2011年7月23日にエイミー・ワインハウスという女性シンガーがドラッグとアルコールの過剰摂取で死んだ。彼女は家の近くの路地でいつもコカインを手に入れていた。

彼女はスラムに住んでいたわけではなく、ちゃんとしたところに住んでいたのだが、それでもドラッグの売人が路上で危険な薬物を売買する環境にあったのだ。

(ブラックアジア:エイミー・ワインハウス。名前にふさわしい死を迎えた歌手)

彼女が絶命した1ヶ月後、イギリスでは大規模な暴動が起きていたのも記憶に新しい。

これはロンドン北部にあるトッテナムで、29歳の黒人の男が警察官に射殺されたことで自然発生的に起きた暴動だった。

この射殺は不当だったとして家族と地元住民が警察署に抗議デモを行ったのだが、それを聞きつけて多くの黒人たちが警察署を取り囲み、日頃の警察官による差別的な言動を激しく抗議する状況になった。

こうしているうちに興奮した抗議デモ参加者の何人かがバスに放火したり、建物を壊し始め、あっと言う間に抗議デモが破壊と略奪を含む暴動と化した。

そこに社会の底辺で仕事もなく鬱屈していた白人の男たちも乗りかかった。そのため、暴動と破壊と放火は急拡大して他都市にも拡散していった。この暴動には人種問題・移民問題・差別問題・格差問題・貧困問題のすべてが爆発したものだった。
イギリスは、2008年のリーマン・ショックで直接的ダメージを受けた国のひとつで、その後も2010年のドバイ・ショックにも巻き込まれ、ギリシャ・ショックにも巻き込まれ、2011年は出口のない不況にもがいていた。

多くの若者が失業し、暴動が起きたトッテナム地区に限って言えば、失業率は20%近くもあった。

この20%が爆発したのが2011年8月のイギリス暴動だった。


EUを脱退してもグローバル経済から脱退できない

しかしながら、底辺の国民がいくらイギリス政府に不満をぶつけたところで事態は改善される見込みはなかった。経済的苦境はイギリス政府だけが問題なのではなく、先進国すべての問題になっていたからだ。

言うならば、グローバル経済という一国ではどうにもならない弱肉強食の資本主義システムでは、「労働者」はもはや単なるコストであり、使い捨ての対象なのである。

イギリスでもこうした状況が放置され続け、大量の移民が入り込んでますます労働環境が悪化していき、ついに移民反対派が反旗を翻してEU脱退を迎えることになった。

しかし、イギリスがEUを脱退したからと言って、すぐに格差問題や貧困問題が解決されるわけでもないし、「人種問題・移民問題・差別問題・格差問題・貧困問題」が解決されるわけでもない。

イギリスはEUを脱退しても、「グローバル経済」から脱退できない。今後も多国籍企業が下層の労働者を使い捨てにしながら肥え太っていくシステムは変わらない。
多国籍企業は、常に安い労働力を探して、労働力を安価で使うだけ使って、用済みになったら労働者を捨てるか、工場ごと捨てて去っていく。

労働者は使い捨てなので、労働環境を整えるとか終身雇用で面倒を見るような「コストのかかること」は絶対にしない。そうやって多国籍企業は世界の労働市場を荒らし回って莫大な利益を貯め込み、税金も回避して世界中を逃げ回る。
アップルも、グーグルも、アマゾンも、マクドナルドも、スターバックスも、世界各国で莫大な利益を計上しながら税金をうまくすり抜けているのを咎められて、あちこちの国で追徴課税命令を受けている。

しかし、これらは氷山の一角でしかない。

莫大な利益は巧みに隠され、株主と経営者と言ったステークスホルダーがその利益にありつき、労働者は賃金を抑えられた上に酷税が敷かれてどんどん貧しくなっていく。


人間の歴史の中で変わらない普遍的な方式とは?

かくしてイギリスの底辺では貧困が定着したまま放置され、怒りが充満したまま現在に至っている。このままではイギリスは再び巨大な暴動が起きるのではないかと噂する人もいる。

「貧困の増大と社会システムの行き詰まりは暴力を産み出す」という社会現象は、人間の歴史の中で変わらない普遍的な方式でもある。これらの根っこにあるのは、まさに貧困の増大と社会システムの行き詰まりだ。

イギリスにはそれが顕著になっている。だから、私自身もイギリスではEU脱退による後遺症が広がると、再度、大きな社会不安が巨大暴動という形で再燃してもおかしくないと考えている。

果たしてボリス・ジョンソン首相は、うまく舵取りができるのだろうか。
まずいことに、今後のイギリスはEUと切り離された形で生きていかなければならないのだが、そこに中国発の新型コロナウイルス問題が湧き上がっている。世界経済は暗転する。そのダメージをイギリスはまともに食らうことになる。

つまり、イギリスが経済的苦境に堕ちるのは確実な情勢となっている。

そうであれば最も大きな影響を受けるのがアンダークラス(貧困層)である。イギリスで2011年の大規模暴動が再現するような事態になっても不思議ではない。
今でもイギリスの底辺では経済環境の悪化に追い詰められる人たちが増えており、ますます不満と怒りをマグマのように溜めているのである。まさに「貧困の増大と社会システムの行き詰まり」の真っ只中だ。

イギリス社会がこの問題をどうやって解決できるのか誰も分からない。


『分解するイギリス: 民主主義モデルの漂流(近藤 康史 )』
https://www.amazon.co.jp/gp/product/4480069704/ref=as_li_qf_asin_il_tl?ie=UTF8&tag=asyuracom-22&creative=1211&linkCode=as2&creativeASIN=4480069704&linkId=0285d334d40558ea6b00a9c46899fad9

https://blackasia.net/?p=17284

3. 中川隆[-13125] koaQ7Jey 2020年4月19日 22:16:14 : 4x46IipBow : YWFUR1V5N3FIaFE=[23] 報告
階級社会が経済を破壊する理由を分かりやすく説明する


人口100人の青い目の人達の村_新自由主義村があった。

4人の資本家に支配された労働者庶民96人が住んでいた。

資本家の年俸は2億円、残りの庶民は年俸200万円
全体で9億9200万円の紙幣が循環していた。

新自由主義村では、自動車は6、7台しか売れず、他の者は自転車だった。
暴動や略奪や薬物中毒・犯罪が頻繁に起こっていて
ズタズタなスラム社会になった。


その村の隣に、ジパングという人口100人の島国があった。

20人の知恵者をリーダーとした職人庶民80人いた

リーダーの年俸は1440万円、残りの職人は年俸500万円

全体で 新自由主義村より少しすくない6億8800万円の紙幣が循環していた。

その村では、自動車は100台売れた。 自転車も売れた。

あらゆる産業が学問が医療が社会福祉が発展し
インフラが整備されていき、すばらしい街を形成していった。

4. 中川隆[-12818] koaQ7Jey 2020年5月01日 17:05:04 : R4Ckk7qGd2 : TU4ySUFhTTh5RUk=[11] 報告
 2012年にロンドンで開催されたオリンピックでは治安システムの強化に利用されている。元々イギリスは監視システムの強化に熱心な国だが、オリンピックを利用してさらにシステムを強化した。

 例えば顔が識別でき、街頭での話を盗み聞きできる監視カメラを張り巡らせ、ドローン(無人機)による監視も導入、通信内容の盗聴、携帯電話やオイスター・カード(イギリスの交通機関を利用できるICカード)を利用した個人の追跡も実用化させたと言われている。海兵隊や警察の大規模な「警備訓練」も実施され、本番では警備のために軍から1万3500名が投入されたという。
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202005010000/

5. 2020年7月21日 16:17:06 : NKWW1U9Yak : NU9jdXVOR0hvSFE=[10] 報告
「コモンの再生」まえがき
2020-07-20
http://blog.tatsuru.com/2020/07/20_1520.html

 みなさん、こんにちは。内田樹です。

 今回は『GQ JAPAN』に連載中のエッセイを単行本化しました。
 この連載は、毎月いろいろなテーマについて担当編集者の今尾直樹さんからご質問を頂いて、それに僕が答えるという結構のものです。もうずいぶん長く続いています。前に一度、2016年に、自由国民社から『内田樹の生存戦略』というタイトルでまとめて単行本にしてもらいました。今回はそれ以後に寄稿したものを文藝春秋から出してもらうことになりました。

 ご存じの方はご存じでしょうが、『GQ』って、すごくお洒落な雑誌なんです。なにしろ『VOGUE』の姉妹誌なんですからね。広告頁の時計とか服とか鞄とか車とかのブランドは、僕のような野暮な人間は生まれ変わってもご縁がないだろうと思われるものばかりです。でも、なぜか、その鈴木正文編集長は僕の反時代的な書きものが気に入ってくださって、もうずいぶん長いこと『GQ』でコラムを書き続けています。

 コラムはかなり変わった作り方で、担当の今尾さんと鈴木編集長が神戸のわが家までいらしてくださって、お茶飲みながらおしゃべりをするのです。そして、今尾さんが用意してきたいくつか質問にその場で答える(素材が足りないときは、僕に会いに来る前に周りの人に「これからウチダさんに会うんだけど、なんか聞きたいことない? なんでもいいよ〜」と言って集めてきたんじゃないかと思います。だからけっこう個人的な質問が多いです)。

 その質問に僕と鈴木編集長が二人で答える。
 そうなんです。二人で答えるんです。

 だいたいいつも鈴木編集長が質問を聞いて、快刀乱麻のばっさり回答をする。それを聞いた僕が面白がって、負けじとさらに暴走的回答をする・・・というやり方で質問とぜんぜん関係ない方向に話が逸脱してしまいます。それを全部録音しておいて、今尾さんが鈴木さんの発言部分を抜いて、僕がした話だけ残して文字起こしする。それを僕が原形をとどめぬまでにリタッチして出来上がり、というプロセスです。

 鈴木編集長の話にインスパイアされてその場で思いついて話したことが多いので、こうやってゲラになったものを読み返してみると、どうして「こんなこと」を言ったのか、よくわからないことも書かれていますが、「僕ならいかにも言いそうなこと」なので、そのまま採録しております。

 トピックは政治経済から結婚や読書の感想まで多岐にわたっています。一回分全部を使って答える大ネタもあれば、にべもなく数行で回答しておしまいというものもあります。

 タイトルは最終的に「コモンの再生」としました。
最初は違うタイトル案が提示されたのですけれど、全体を通して僕が一番言いたかったことは、やはり「それ」かなと思って、これにしました。
「コモン(common)」というのは形容詞としては「共通の、共同の、公共の、ふつうの、ありふれた」という意味ですけれど、名詞としては、「町や村の共有地、公有地、囲いのない草地や荒れ地」のことです。

 昔はヨーロッパでも、日本でも、村落共同体はそういう「共有地」を持っていました。それを村人たちは共同で管理した。草原で牧畜したり、森の果樹やキノコを採取したり、湖や川で魚を採ったりしたのです。

 ですから、コモンの管理のためには、「みんなが、いつでも、いつまでも使えるように」という気配りが必要になります。

 コモンの価値というのは、そこが生み出すものの市場価値の算術的総和には尽くされません。そこで草を食べて育った牛の肉とか、採れた果実やキノコや、あるいは釣れた魚の市場価値を足したものがコモンの生み出す価値のすべてであるわけではありません。それよりはむしろ、「みんなが、いつでも、いつまでも使えるように」という気配りできる主体を立ち上げること、それ自体のうちにコモンの価値はあったのだと思います。

 わかりにくい言い方をしてすみません。ちょっと問いの立て方を変えます。
「みんなが、いつでも、いつまでも使えるように」という気配りをする主体とは「誰」のことでしょう?

 それは「私たち」です。そうですよね?「私たちの共有するこのコモンを、私たちでたいせつにしてゆきましょう」という言明を発することのできる主体は「私たち」です。つまり、コモンの価値は、「私たち」という共同主観的な存在を立ち上げることにあった。「私たち」という語に、固有の重みと手応えを与えるための装置としてコモンは存在した。そう僕は思います。

 資本主義的に考えたら、別に土地なんか共有しなくてもいいわけです。というか、共有しない方がいい。共有して、共同管理するのなんて、手間暇がかかるばかりですから。使い方についてだって、いちいち集団的な合意形成が必要です。みんなが同意してくれないと、使い方を変えることもできない。

 そういうのが面倒だと言う人が「共有しているから使い勝手が悪いんだよ。それよりは、みんなで均等に分割して、それぞれが好きに使ってもいいということにしよう」と言い出した。

 実際に英国で近代になって起きた「囲い込み(enclosure)」というのは、この「コモンの私有化」のことでした。それが英国全土で起きた。その結果、私有地については、土地の生産性は上がりました。まあ、そうですよね。「オレの土地」なわけですから、必死に耕して、必死に作物を栽培し、費用対効果の高い使用法を工夫した。

 資本主義的にはそれで正解だったんです。

 でも、それと引き換えに、「私たち」と名乗る共同主観的な主体が消滅した。  もともと共同幻想だったんですから、「そんなもの」消えても別に誰も困るまいと思った。ただ、気が付いたら、村落共同体というものが消滅してしまっていた。みんなが自分の金儲けに夢中になっているうちに、それまで集団的に共有し、維持していた祭礼や儀式や伝統芸能や生活文化が消えてしまった。相互扶助の仕組みもなくなってしまった。

 そのうち、生産性の高い農業へのシフトに失敗した自営農たちが土地を失って、小作農に転落し、あるいは都市プロレタリアとなって流民化した。そうやって英国における農業革命、産業革命は達成されたのでした。資本主義的には、それで「めでたし・めでたし」なのですが、ともかくそのようにしてコモンは消滅した。
 その後、「鉄鎖の他に失うべきものを持たない」都市プロレタリアの惨状を見るに見かねたカール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスによって「コモンの再生」が提言されることになりました。それが「共同体主義」すなわち「コミュニズム」です。

「共産主義」という訳語だと、僕たちにはぴんと来ません(日常生活に「共産」なんて普通名詞がありませんからね)。けれども、マルクスたちが「コミュニズム(Communism)」という術語を選んだ時に念頭にあったのは、抽象的な概念ではなく、英国の「コモン」、フランスやイタリアの「コミューン(Commune)」という歴史的に実在した制度だったのです。

 ですからもし、最初にマルクスを訳した人たちが「コミュニズム」を「共有主義」とか「共同体主義」とか「意訳」してくれたら、それから後の日本の左翼の歴史もちょっとは相貌が違っていたかも知れません。
 
 僕がこの本で訴えている「コモンの再生」は、思想的には「囲い込み」に対するマルクスの「万国のプロレタリア、団結せよ」というアピールと軌を一にするものです。グローバル資本主義末期における、市民の原子化・砂粒化、血縁・地縁共同体の瓦解、相互扶助システムの不在という索漠たる現状を何とかするために、もう一度「私たち」を基礎づけようというのです。

 ただ、僕はマルクスほどにスケールの大きいことを考えてはいません。僕が再生をめざしているコモンはずいぶんこじんまりしたです。かつて村落共同体が共有した草原や森、あるいはコミューンを構成していた教会と広場とか、その程度の規模のものです。いわば「ご近所」共同体です。

 そんな構想にいまどき歴史的緊急性があるのかどうか。それについては最後まで読んでからご判断ください。

http://blog.tatsuru.com/2020/07/20_1520.html

6. 中川隆[-12007] koaQ7Jey 2020年7月28日 09:30:20 : qvCpCPFxe6 : SXdLWFhadjI5eHM=[11] 報告
現代の奴隷制を魯迅の寓話から考える 『賢人と馬鹿と奴隷』
2020年7月26日
https://www.chosyu-journal.jp/shakai/18132
 「森友学園」の国有地売却と財務省の公文書改ざんにかかわり、不眠不休の長時間労働を強いられた末、精神的に追い詰められて自殺した近畿財務局の赤木俊夫氏が残した手記に次のようなくだりがある。

 「佐川理財局長(パワハラ官僚)の強硬な国会対応がこれほど社会問題を招き、それに指示NOを誰もいわない理財局の体質はコンプライアンスなど全くない。これが財務官僚王国。最後は下部がしっぽを切られる。なんて世の中だ。手がふるえる。恐い。命。大切な命」

 官僚はトカゲの尻尾ではない、宮仕えも人間だという血を吐くような叫びは、折しもアメリカ全土を席巻し、世界に広がる「ブラック・ライブズ・マター(黒人の命も大切だ)」運動と通じあうかのように、多くの人々の同情を誘っている。それは、近年、長時間残業で過労死を強いられた犠牲者が、みずからを「奴隷」にたとえて苦悩してきたこととつながっている。

 1987年2月に急性心筋梗塞で過労死した広告代理店の制作部副部長は、「現代の無数のサラリーマンたちは、あらゆる意味で、奴隷的である。金に買われている。時間に縛られている。上司に逆らえない。賃金も一方的に決められる……」との手記を残していた。また1989年11月、長時間労働の末に動脈瘤破裂のくも膜下出血で過労死した「株式会社きんでん」の下請企業の電気工事士が、寝床で妻に「ぽつりと漏らした言葉」が「僕は奴隷かなぁ」であったことも報じられた。

 過労死対策にとりくむ弁護士・川人博氏は、『過労自殺 第二版』(岩波新書)で、「SEとは、システムエンジニアの略語のはずだが、私にはスレイブエンジニア(奴隷技術者)の略語のように聞こえてしまう。本来、SEは21世紀を担う技術者であるはずなのに、残念なことに、現代日本では、過重労働の代名詞となり、最も過酷な労働の一つとなっている」と書いている。日本の非人間的な長時間労働がもたらす「過労死」は、国際的にも「karoushi」として通じるものとなっている。

 イギリスで近代工業が発生した当時の綿工業は「児童奴隷制」に支えられていたが、資本主義はその始まりからアメリカの綿花栽培における黒人奴隷制を促すとともに、それを必要としていた。8時間労働制は、労働者が奴隷であることを拒否し「人間として生きる」ためのたたかいを通して勝ちとられたもので、あらゆる奴隷的状態からの解放の願いを体現したものだといえる。新自由主義がそれを過去のものとして葬り去ろうとするものであったことは、今やだれの目にも明らかとなっている。

 植村邦彦・関西大学経済学部教授は『隠された奴隷制』(集英社新書)で、古代ギリシャやローマから近現代に至る奴隷制について歴史的に検証し、当時の哲学者・思想家の見識を考察している。植村教授はそのなかで、ルソーが『社会契約論』(1762年)で、「イギリスの人民は自由だと思っているが、それは大間違いだ。彼らが自由なのは議員を選挙する間だけのことで、議員が選ばれるやいなやイギリス人民は奴隷となり、無に帰してしまうのだ」とのべていたことにもふれている。

 また、ヘーゲルが、「現に奴隷である人間は、自ら奴隷であることを拒否して、自分自身が“自由”の意識に到達していることを自分自身の行動によって示し、自らの“自由”が法的に補償されることを要求して実現しなければならない」「“自由”は自ら勝ち取るものだ」と考えていたことも紹介している。

 植村教授はさらに、それらを批判的に継承したマルクスの『資本論』などを引用し、労働者は「自由」だといわれるが実際には「自己決定権」を持たず、みずからが働く場も使用する道具や機械、生産した商品も、すべて労働者自身の所有物ではないことを明らかにしている。また、そこから生まれる「労働者の労働そのものからも労働の意味が、つまり労働の主体性や達成感が奪われている」ことが過去の奴隷制と同様に人間の「人格性」と「自由」を侵害していると指摘している。そして、今日の新自由主義の「個人の自助努力」「自己責任」などの思想が、そのような奴隷状態を覆い隠す「新しいヴェール」として使われてきたことを強調している。

『賢人と馬鹿と奴隷』

 ところで、中国の作家・魯迅は、辛亥革命後の帝国主義列強に分割・支配された中国社会の苦悩に迫り、その代表作『阿Q正伝』などで「みずからの奴隷の地位を自覚し、奴隷であることを拒否し、同時に奴隷の主人となることも拒否したときに初めて、奴隷から脱却する行動を起こしうる」と主張したことで知られる。

 魯迅はその一つ『賢人と馬鹿と奴隷』(1925年)と題する寓話で、奴隷であることを自覚し、それを拒否できない奴隷精神をいきいきと描いて、戯画化している。それはあらまし次のようなものだ。

 いつも不平を口にする「奴隷」が「賢人」に出会い、いかに使役を強いられているかを縷縷(るる)並べたて、涙ながらに嘆いてみせた。「賢人」はこれに痛ましげに目を赤らめて同情し「いまに、きっとよくなる」と諭した。「奴隷」は気が楽になり、愉快になった。

 「奴隷」はその後また不平をいいたくなり、出会った「馬鹿」に嘆いてみせると、突然大声で怒鳴られた。さらに、「奴隷」が自分の住まいがぼろ小屋で、四方に窓一つ開いていないと口にすると、「馬鹿」は「主人に言って、窓を開けてもらうことができんのか」と問い詰めた末、「奴隷」の家に連れて行かせ「窓を開けてやる」といって家の外から壁をこわしはじめたのだ。

 「奴隷」がこれに驚き、主人に叱られることを怖れて「誰か来てくれ、強盗だ」とわめくと、他の「奴隷」たちが来て「馬鹿」を追い払った。出てきた主人に「奴隷」は勝ち誇ったようにいった。強盗が家を壊そうとしたので、自分が一番初めにどなりつけ、みんなで追い払ったと。これに対して、主人は「よくやった」とほめた。

 「奴隷」はうれしく思い、見舞いにやって来た「賢人」に主人がほめてくれたと喜び伝えた。そして、「(あなたが)いまに、きっとよくなるといってくださったのは、本当に先見の明がおありで」と、おべんちゃらをいった。「賢人」はこれに、「なるほどね」と愉快そうに応えた。

 魯迅はここで、常に不平や不満を口にして人に聞かせようとするが、自分の置かれている状態を不正だと認識せず、常に主人によく見られようとする奴隷根性の滑稽さを諷刺している。だが、それ以上に善人ぶった「賢人」が「奴隷」を抑圧する主人の大きな支柱となっていることを、その偽善的でいかがわしい振る舞いを通して浮き彫りにしている。

 不正に怒りそれを許さず、実直に解決しようとする「馬鹿」を、奴隷同士が「自己責任」「自助努力」で追い払うことができ、主人のおほめを得た。「賢人」はそれに寄与できたことを知り、まんざらでもない思いでほくそ笑むのだ。

 冒頭の赤木氏の訴えに戻れば、当時の中国社会におけるこのような奴隷精神と、それを補強する構図は、形を変えてそのまま現在の日本社会に厳然と存在するといえるだろう。不正に異議を挟み阻止しようとするものが馬鹿扱いされる。奴隷状態に置かれた民衆に同情するそぶりを見せながら、机の下では主人と手を握りあい、みんなが結束して行動に立ち上がることには憎悪して分断を図る偽善的な勢力も養われている。そのような社会の抑圧構造が、ますます鮮明に浮かび上がるのである。

https://www.chosyu-journal.jp/shakai/18132

7. 中川隆[-5582] koaQ7Jey 2021年4月18日 07:12:58 : cVvh3vnihc : SkQ4eVFEeU43Y0U=[5] 報告
【今、世界はどうなっている?】林千勝×水島総 第1回
「民族無き世界を目指す2つのグローバリズム〜ロスチャイルド家とカール・マルクスの繋がり」[桜R3/4/17]


8. 中川隆[-12291] koaQ7Jey 2023年10月10日 10:32:20 : qFFXQaTFBY : N01JczVSLzdlZEE=[11] 報告
【マルクス主義】暴力!革命!元東大生がわかりやすく解説!世界が変わるには何が必要なのか?
2020/09/01
https://www.youtube.com/watch?v=W8YyFsvZ_wA&t=0s

革命を成し遂げるには何が必要なのか!
それを徹底分析したのがマルクスです!
共産主義!社会主義!理解するためにこの動画は外せない!

9. 2023年10月31日 00:22:06 : E1M4kVRB12 : eENid28xaXlTNXM=[1] 報告
<▽46行くらい>
かつてイギリスではエンクロージャーによって共有地などが私有化され、農民は土地を追われた。生きる術を失った農民は浮浪者や賃金労働者、仕事がなければ失業者になった。19世紀のイギリスで労働者の置かれた状況は劣悪で、その実態はフリードリヒ・エンゲルスの報告『イギリスにおける労働者階級の状態』やチャールズ・ディケンズの小説『オリバー・ツイスト』などを読んでもわかる。

 ロンドンのイースト・エンドで労働者の集会に参加したセシル・ローズは「パンを!パンを!」という声を聞く。その状態を放置すれば内乱になると懸念、植民地を建設して移住させなければならないと考えたようだ。つまり、社会問題を解決する最善の方法は帝国主義だというわけである。(レーニン著、宇高基輔訳『帝国主義』岩波書店、1956年)

 セシル・ローズたちイギリスの支配者はトーマス・マルサスの人口論やフランシス・ゴルトンの優生学から影響を受けていた。ゴルトンによると、「遺伝的価値の高い者を増やし、遺伝的価値の低い者を減らす」ことで社会を改善できるというのだ。

 そうした思想はアメリカの支配層を魅了し、優生学運動はカーネギー研究所、ロックフェラー財団、ハリマン家のマリー・ハリマンといった富豪から支援を受けた。そうした運動に感銘を受け、自国で実践したのがアドルフ・ヒトラーにほかならない。

 現在でもアメリカやイギリスの富豪たちは人口を削減するべきだと主張している。マイクロソフトを創設した​ビル・ゲイツは2009年5月、マンハッタンで富豪たちを密かに集め、会合を開いている​。

 集まった場所はロックフェラー大学の学長だったポール・ナースの自宅。参加者にはデビッド・ロックフェラー・ジュニア、ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロス、マイケル・ブルームバーグ、テッド・ターナー、オプラ・ウィンフリーも含まれている。その参加者は「過剰な人口」が優先課題であることに同意した。

 ​テッド・ターナーは会合の前年、2008年の4月にチャーリー・ローズの番組に出演し、そこで人口が問題だと主張​している。人が多すぎるから環境問題も起こるというのだ。ターナーは1996年に「理想的」な人口を2億2500万人から3億人だと主張したが、2008年にはテンプル大学で20億人に修正している。

 ゲイツも人口を削減するべきだと発言している。​2010年2月に行われたTEDでの講演​では、ワクチンの開発、健康管理、医療サービスで人口を10〜15%減らせると語っている。「COVID-19ワクチン」で人口は減っているようだが、これは古典的な意味でのワクチンではなく、遺伝子操作薬だ。

 ガザでの戦闘は欧米支配層の人口削減プランと結びついている。そうした人びとの先祖が築いた旧帝国主義国は現在、新帝国主義国として「グローバル・サウス」を搾取している。ガザに対するイスラエル軍の攻撃が激しくなると、そうした搾取への怒りがパレスチナ人への連帯という形になって現れた。人口を減らしたい5%の支配者と生き残ろうとしている95%の人間の戦いとも言える。
https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/202310310000/

10. 中川隆[-8883] koaQ7Jey 2024年10月11日 07:09:21 : S5ZERITXNY : SWxYenozNG0uVDI=[1] 報告
<■1148行くらい→右の▽クリックで次のコメントにジャンプ可>
イラク戦争の背景

東北学院大学講師・世界キリスト協議会前中央委員
川端 純四郎

 ご紹介いたします。

 先生は1934年のお生まれです。東北大学文学部に学ばれ、博士課程を終えられてから、ドイツのマールブルグ大学に入学されました。帰国後、東北学院大学教員として35年間お勤めになりました。その後ひきつづき講師として、現在も勤務されています。一貫して平和、人権、政治改革の活動に積極的に関わっておいでになりました。

 「9条の会」の講師団メンバーとしても、全国を股にかけて講演なさっており、昨年は1年間で80回以上の講演会を開いておられます。

 先生は今朝8時前に仙台を発ち、はるばる鋸南町においで下さいました。今日の講師としてほんとうにふさわしく、よいお話をうかがえると思います。早速、先生からお話をうかがいたいと思います。 先生、どうぞよろしくお願いいいたします。
                                        安藤

 みなさん、こんにちは。 安房郡の水清き鋸南町に伺って、こうしてお話できることをありがたいと思っています。初めておうかがいしました。木更津まで来たことはあるのですが、今日、電車で君津を過ぎたらとたんに山が美しくなり、あそこまでは東京郊外のなんとまあみっともない風景でしたけれど、あそこから南に来ると一気にほんとうに昔のよき日本の風景がよみがえってくるようでした。ほんとうに嬉しく思いました。

 いま、「さとうきび畑」の朗読と、合唱団のコーラスをお聞きしたのですが、どちらも聞いていて涙が出ました。

 私は、戦争に負けた時小学校6年生でした。仙台で敗戦を迎えましたが、仙台も空襲で全滅いたしました。街の真ん中にいましたから、もちろんわが家も丸焼けでした。忘れられない思い出があります。街の真ん中の小学校でしたから、同級生が一晩で8人焼け死にました。隣の家の、6年間毎日いっしょに学校へ適っていた一番仲の良かった友達も、直撃弾で死にました。今でも時々思い出します。

 今このような歌を聞くと、どうしてもその人のことを思い出します。思い出す私の方はもう70になりますが、記憶に出てくるその三浦君という友達は、小学校6年生のまま出てきます。どうして小学校6年で人生を終わらなければいけなかったのか、生きていてくれたらいろんな事があったのに、と思います。戦争なんて二度としてはいけない、というのが一貫した私の願いです。

 私は牧師の家に生まれました。父はキリスト教の牧師で、教会で生まれ教会で育って、讃美歌が子守歌でした。牧師の中には戦争に反対した立派な牧師さんもおられたのですが、私の父のような多くの普通の牧師は、政治や社会に無関心で魂の救いということしか考えていませんでした。で、私もその親父に育てられましたから、大学を出、大学院に入って博士課程までいって、ずっとキルケゴールや実存哲学という、魂だけ見つめているような学問をやっていて、政治とか経済、社会とかは25歳までいっさい関心がありませんでした。

 25歳の時チャンスがあって、ドイツ政府の招待留学生となってドイツヘ勉強に行くことになりました。1960年のことでした。1960年にドイツへ行ったというだけで、どんなにノンポリだったか分かります。安保改訂問題で日本中が大騒ぎの時、それを尻目に悠々とドイツ留学に行ったのです。幸か不幸かまだ世界は貧しくて、飛行機などというものは贅沢な乗り物で、まだジェット旅客機機はありませんでした。プロペラ機でヨーロッパヘ行くには途中で何遍も何遍も着地し、給油して、今のようにノンストップでシベリヤを越えて、などというのは夢のような話でした。しかもベラ棒に高いのです。船の方があの頃はずっと安かったのです。特に貨物船に乗せてもらうと飛行機よりずっと安いのです。そこで一番安いのを探して、5人だけ客を乗せるという貨物船をみつけました。

 その船で神戸を出航し、インド洋からスエズ運河をぬけ、地中海を渡ってイタリアのジェノバに上陸。そこから煙を吐く蒸気機関車でアルプスを越えて、ドイツのマールブルクという町に着きました。

 実は、飛行機をやめて船で行ったということが、私の人生を大きく変えることになりました。あの時もし飛行機で行ったなら、私は一生、世間知らずの大学に閉じこもって勉強だけしている人間で終わった、と思います。

 ところが船で行ったおかげで、しかも貨物船に乗ったおかげで、私は途中のアジア・インド・アラブの国々をくわしく見ることができました。まっすぐ行けば船でも二週間で行くそうですが、何しろ貨物船ですから、途中港、港に寄って荷物を下ろし、また積んで、一つの港に4日から5日泊まっているのです。おかげでその間、昼間は上陸してそのあたりを見て歩き、夜は船に帰って寝ればいいのですから、東南アジアからアラブ諸国をくまなく見て歩きました。

 1ヵ月かかりました。神戸からジェノバまでのこの船旅。その時見たものが、私の人生を変えたのです。何を見たかはお解りですね。アジアの飢えと貧困という厳しい現実にぶつかったのです。

 降りる港、港で、ほんとうに骨と皮とに痩せせこけた、裸足でボロボロの服を着た子供達が、行く港も行く港、集まって来るのです。船の事務長さんに、「可哀想だが、何もやっては駄目だよ。1人にやると収拾がつかなくなるよ」と言われていました。だから心を鬼にして払いのけて通り過ぎるのですが、その払いのけて通り抜ける時に触った子供の肩、肉などなんにもない、ただ骨と皮だけのあの肩、あの感触が、今でも時々蘇ってきます。

 船に帰って、眠れないのです。明日も、あの子供たちに会う。どうするか。私が考えたことは、「神様を信じなさい。そうすれば救われます」と言えるか、ということでした。

どんなに考えたって、言えるわけがありません。飢えて捨てられた孤児たちに、こちらは着るものを看て、食うものを食っておいて、「神様を信じなさい、そうすれば救われます」などとは、口が裂けても言えないと思いました。牧師館で生まれて、キリスト教しか知らずに育って、キリスト教の学問をして来て、それではお前キリスト教って何なのか、25年お前が信じてきたキリスト教とは、飢えた子供たちに言えないようなキリスト教なのか。とれが私の考えたことでした。

 もし言えるとしたら、ただ一つしかない。そこで船を降りて、服を脱いで、子供たちに分けてやって、食っているものを分けてやって、そこで一緒に暮らす、それなら言える。言えるとしたら、それしかありません。言えるじゃないか、と自分に言い聞かせました。

 それなら、船を降りるか──。くやしいけど、降りる勇気がありませんでした。折角これからドイツヘ勉強に行くという時、ここで降りて、一生インドで暮らすのか、一生アジアで暮らすのか、どうしてもその気にならないのです。
 ですから理屈をこねました。

 「降りたって無駄だ。お前が降りて背広一着脱いだって、何百人人もいる乞食の子に、ほんの布切れ一切れしかゆきわたらないではないか。自分の食うものを分けてやったって、何百人もの子供が1秒だって、ひもじさを満たされる訳がないじゃないか。お前が降りたって無駄だ。それは降りたという自己満足だけで、客観的にはあの子らはなんにも救われない。」

 「だから降りない、勇気がないのではなく、無駄だから降りない。」と自分に言い聞かせるのです。でも、降りなければ「神様を信じなさい」とは言えません。言えるためには降りなければならない、しかし降りても無駄なのだ。

 堂々巡りです。寄る港、寄る港でこの間題に直面しました。毎晩毎晩同じ問題を考え続けて、結局、答えが見つからないまま、閑々として港を後にしました。、出港の時、あの子たちを見捨て自分だけドイツへ行くことに、強い痛みを感じました。これは永く私の心の傷になって残りました。

 このようにして初めて、世の中には飢えた仲間がいるという、当然分かっていなくてはいけない事実に、何ということでしょう、25にもなってやっと気づいたのです。飢えた子供たちがいる、それを知らんぷりしてドイツに行くのか、お前が降りてあの子たちと一緒に暮らすことはあまり意味ないかも知れない、しかしやっぱり船を降りないのだとしたら、せめて世の中に飢えた子供なんか生まれないような社会を作るために、自分で何かしなければいけないのではないか。ただ魂の中だけに閉じこもっていていいのか。

 これが、私がヨーロッパヘ行く1ヵ月の旅で考えたことでした。

 ドイツヘ行って、宗教の勉強をしました。ブルトマンというドイツの大変偉い先生の所に1年いて、いろいろ教わりましたが、結局、私の結論としては、実存哲学だけではだめだということでした。自分が自分に誠実に生きる──これが実存的、ということですが、それだけでは駄目だ。自分が生きるだけでなく、みんなが人間らしく生ることができるような世の中になるために、自分にできる何か小さなことでもしなければいけない。

 こう思うようになって、日本に帰ってきたのです。

 それじゃあ、世の中で、そのように飢えて死ぬような子がいなくなるような社会とは、どうすれば出来るのか。これはやっぱり、飢え、貧困、戦争、差別、そういうものが生まれる原因が分からなければ、除きようがありません。原因を勉強しなければいけない。そのためには社会科学を勉強しなければいけない。特に経済学を勉強しなければいけない──。

 ドイツヘの留学は、大学院の途中で行きましたので、帰国して大学院に復学しました。幸い東北大学は総合大学ですから、中庭をへだてて向こう側が経済学部でした。帰ってきた次の日から、私は、経済学部の講義を経済原論から、授業料を払わずにもぐりで、後ろの方にそっと隠れてずっと聞きました。

 それからもう45年になりますが、ずっと宗教哲学と経済学と2股かけて勉強してきています。今日も、多少経済の話を申し上げるわけですが、やっぱり自分がクリスチャンとして、今もクリスチャンであり続けていますが、同時に、自分の救いということだけ考えていたのでは申し訳ないと思うのです。現実に飢えて死ぬ子がいるのです。ユネスコの統計によると、毎日2万人の子が栄養不足で死んでいるそういう世の中、このままにしておくわけにはいかない、自分でできることは本当に小さいけど、その小さなことをやらなかったら、生きていることにならない──。そう思って45年過ごしてきたわけです。

 キリスト教の中でずっと生きていますので、一般の日本の人よりは外国に出る機会が多いと思います。特に世界キリスト教協議会という全世界のキリスト教の集まりがあります。その中央委員をしていましたので、毎年1回中央委員会に出かけて、1週間か2週間会議に参加しました。世界中のキリスト教の代表者と一つのホテルに缶詰になり、朝から晩までいろいろと情報交換したり論議したりします。そのようなことを7年間やりましたので、世界のことを知るチャンスが多かったと思います。それを辞めてからも、自分の仕事や勉強の都合で、今でも毎年二週間ぐらいはドイツで暮らしています。そうしていると、日本ってほんとうに不思議な国だということが分かってきました。

 日本にいるとなかなか分からないのです。島国ですし、おまけに日本語という特別な言葉を使っています。他の国との共通性がない言葉です。ヨーロッパの言葉はみんな親戚のようなものですから、ちょっと勉強するとすぐ分かります。一つの言葉の、ドイツ弁とフランス弁、ベルギー弁、オランダ弁というようなものです。日本で言えば津軽弁と薩摩弁の違い程度のものです。津軽と薩摩では、お互いに全然通じないとは思いますが、それでも同じ日本語なのです。ヨーロッパの言葉とはそういうものです。ですからお互いに何と無く外国語が理解できるというのは、別に不思議なことではないのですね。ですから、自分の国のことしか知らないという人は、非常に少ないのです。

 新聞も、駅に行けばどんな町でも、ヨーロッパ中の新聞が置いてあります。ドイツのどんな田舎町へ行っても、駅にいけばフランスの新聞もイタリアの新聞も売っていますし、それを読める人がたくさんいるのです。そういう社会ですから、日本人とはずいぶん違います。自分の国を客観的に見られる。他の国と比べて見ることができるのです。

 日本にいると比べられません。そのうえ、日本はマスコミが異常です。ワンパターンのニュースしか流しません。ヨーロッパではいろんなテレビがあって、テレビごとに自由な報道をやっています。バラエティー番組のようなものがなくて、ニューハ番組が充実しています。きちんとした議論をテレビでやっています。ですから日本にいるよりは、比較的自分の国の様子を客観的に見られることになります。ドイツに行く度に、日本とは不思議な国だなあと思うのです。

 例えば、もうだいぶ前、バブルの頃です。日本のある有名なモード会社がミラノに支店を出しました。そしてマーケティング調査をしました。どんな柄が流行っているか、アンケートを集めそれを整理するために、イタリア人女性3人雇ったそうです。アンケートの整理をしていたら5時になりました。あと少ししか残っていなかったので、日本ならの常識ですから、「あと少しだからやってしまおう」と日本人支店長は声をかけました。ところがイタリア人女性3人は、すっと立って「5時ですから帰ります」と言って出て行こうとしました。思わず日本人支店長は怒鳴ったのだそうです。「たったこれだけだからやってしまえ」と。途端にこの日本人支店長は訴えられました。そして「労働者の意志に反する労働を強制した」ということで、即決裁判で数万円の罰金をとられました。

 これがヨーロッパの常識です。つまり9時から5時までしか契約していないからです。5時以後は命令する権利はないのです。9時から5時までの時間を労働者は売ったんであって、5時以降は売っていないのですから、自分のものなんです。会社が使う権利はありません。当たり前の話です。

 その当たり前の話が日本では当たり前ではないのです。残業、課長に言われたので黙ってやる。しかもこの頃は「タダ残業」ですからネ。本当にひどい話です。常識がまるで違うのです。あるいは有給休暇。ドイツのサラリーマンは年間3週間とらねば「ならない」のです。3週間休まなければ罰せられます。日本は有給休暇など殆どとれません。ドイツでは取らないと罰せられます。ですからどんな労働者でも3週間、夏はちゃんと休んで、家族ぐるみイタリアへ行ってゆっくり過ごしてきます。有給になっているからです。或いは日本では1週間40時間労働です。ドイツはもう随分前から36時間です。土日出勤などありえない話で、日本のように表向き40時間労働でも、毎日毎日残業で、その上休日出勤、日曜日には接待ゴルフなど馬鹿なことをやっています。接待ゴルフなど、ドイツには絶対ありません。日曜日は各自が自由に使う時間で、会社が使う権利はないのです。

 そういうところもまるで常識が違います。或いは、50人以上だったと思うのですが、50人以上従業員がいる会社、工場は必ず、労働組合代表が経営会議に参加しなければいけないことになっています。そんなことも、日本では考えられないことです。ですから配置転換とかもとても難しいし、労働者の代表が入っているから、簡単に首は切れません。

 そういういろんな面で、日本の外に出てみるとびっくりするようなことが山ほどあります。日本という国は、高度に発達した資本主義国の中で例外的な国なのです。資本主義が発達した点では、アメリカにもフランスにもドイツにも負けないのですが、資本主義が発達したにしては、労働者が守られていない。或いは市民の権利が守られていない。会社の権利ばかりドンドンドンドン大きくなっているのです。それが日本にいると当たり前のように思われています。外国で暮らしていると、日本は不思議な国だと分かります。特にこの数年それがひどくなってきているのではないでしょうか。

 私たちの暮らしは、戦後50何年かけて、少しずつよくなってきました。例えば年金なんかも少しずつ整備されてきた。健康保険制度も整備されてきた。介護保険も生まれてきた。或いは、労働者も土曜日チャンと休めるようになってきた。ところがこの数年、それが逆に悪くなつてきています。年金は削られる一方、介護保険料は値上がりする、労働者は首切り自由でいくらでも解雇できる。労働者を減らすと政府から奨励金が出る。タダ残業はもう当たり前・・・。

 特にこの数年、構造改革という名前で、日本の仕組みが変わってきています。いま申し上げたように、戦後50年かけてみんなで、少しずつ少しずつ作ってきた、いわば生活の安心と安全を守る仕組み、そういうものが今はっきり壊されかかっているのではないでしょうか。

 小泉首相という人は「自民党をぶっ壊す」といって当選したのですが、この4年間を見ていると、あの人は自民党を壊したのではなく「日本を壊した」のではないかと思われます。これまで日本が戦後50年かけて作ってきた社会の仕組みが、バラバラにされているのです。フリーターとかニートがもう30%でしょう。そうなると当然、この人たちは生きる希望がありません。お先真っ暗。いまさえよければ、ということになる。ですから若者が当然刹那的になる。人生の計画なんて立たない。今さえよければということになっていきます。

 昔なら10年に1回あるかないかのような犯罪が、いま毎日のように起きています。私は仙台にいますが、この正月には赤ん坊の誘拐事件で一躍有名になってしまいました。あんなことが日常茶飯事として起こっています。栃木県で女の子が山の中で殺された事件は、まだ解決されていませんが、こんな事件が今は「当たり前」なのです。世の中がすさんできて、何が善で何が悪なのか、みんなに共通な物差しというものがなくなったというふうに思われます。

 そのような世の中の変化、私は多分、「構造改革」というものがその犯人なのだ、と思っています。

《逆戻りの原因はアメリカの変化》

 その構造改革というのは、どこから来たのか。もちろんアメリカから来たのです。アメリカが変化した、日本はそのアメリカに右ならえをした、それが構造改革です。

 それでは何が変わったのか、これが一番の問題です。この変化の行き着くところが、憲法改悪です。

 社会の仕組み全体がいま変わろうとしているのです。憲法も含めて。いったい何がどう変わるのか。いったいどういう構造をどういう構造に変えるということが構造改革なのか。そこのところがアメリカを見ればよく分かってきます。アメリカがお手本なのですから。

 アメリカはソ連崩壊後変わりました。ソ連とか東ドイツは自由のないいやな国でした。昔1960年に西ドイツヘ留学した折、東ドイツへ何回か行く機会がありました。ふつうはなかなか行けないのですが、幸いキリスト教国なので、ドイツのキリスト教はしっかりしていまして、東ドイツと西ドイツに分裂しても、教会は分裂しなかったのです。東西教会一つのまんまです。ですから、教会の年1回の大会には、西で開く時は東の代表がちゃんと来たし、東で開く時は西の代表が行けたのです。ですから一般の人の東西の往来が難しかった時でも、キリスト教の人だけはかなり自由に行き来ができました。

 私も連れていってもらって、何回か東ドイツへ行って見ました。ご存じのように自由のないいやな国でした。ですからソ連や東ドイツが崩壊したのは当然だし、いいことだと思います。しかしソ連や東ドイツが100%悪かったかというとそんなことはありません。良い部分もありました。何から何まで全部ひっくるめて悪だったというのも間違いです。基本的に自由がない。ですから、ああいう国は長くは続かない。これは当然そうだと思います。滅びたのは当然だと私は思います。

 しかし同時に、良い面はなくしては困るのです。良い面は受け継がなければいけません。最も目につくのは女性の地位でした。これは立派なものでした。いまの日本なんかより遥かに進んでいました。男女の平等が徹底的に保障されていました。専業主婦などほとんど見たことがありません。だれでも自由に外に出て、能力に応じて働いていました。それができるような保障が社会にあるのです。文字通りポストの数ほど保育所があって、子供を預け安心して働きに出られるようになっていました。同一労働同一貸金の原則はきちんと守られていて、女性だから賃金が低い、女性だからお茶汲みだけなどというようなことは一切ありませんでした。これは凄いなと思いました。あれは、日本はまだまだ見習わなければいけないことです。

 もう一つ私がびっくりしたのは、社会保障です。私が初めて東の世界を見たのは、何しろ1960年の頃のことです。日本はまだ社会保障がない時代でした。いま若い方は、社会保障はあるのが当たり前と思っておられる方も多いと思いますが、そんなことはないのです。日本は1972年が「福祉元年」といわれた年です。それまでは、福祉はなかったのです。大企業とか公務員だけは恩給がありましたが、商店の経営者とか家庭の主婦なんか何もありませんでした。健康保険も年金も何もありませんでした。72年からようやく国民皆年金、国民皆保険という仕組みが育ってきたのです。

 もともと資本主義という仕組みには、社会保障という考えは無いのです。自由競争が原則ですから、自己責任が原則です。老後が心配なら、自分で貯めておきなさい。能力がなくて貯められなかったら自業自得でしょうがない。こういうのが資本主義の考え方です。労働者が、そんなことはない、我々だって人間だ、人間らしく生きていく権利がある。だから我々の老後をちゃんと保障しろと闘って、社会保障というものが生まれてくるのです。自然に生まれたのではありません。

 労働者が団結して闘って、止むを得ず譲歩して社会保障が生まれてくるのです。資本主義の世界で最初の社会保障を行ったのはビスマルクという人です。ドイツの傑物の大首相といわれた人です。ドイツの土台を作った人ですが、この首相の頃、何しろマルクス、エンゲルスの生まれた故郷ですから、強大な共産党があり、国会で100議席くらいもっていました。そこで、ビスマルクが大弾圧をやるのです。社会主義取り締まり法という法律を作って共産党の大弾圧をし、片方では飴として労働者保険法という法律で、労働者に年金を作ります。世界で初めてです。辞めた後年金がもらえる仕組み、病気になったら安く治してもらえる仕組みを作った。こうやって鞭と飴で労働運動を抑えこんでいったのです。

 社会保障というのは、そうやって労働者の力に押されてやむを得ず、譲歩として生まれてくるのです。放っておいて自然に生まれてくるものではありません。

 そこへ拍車をかけたのが、ソ連や東ドイツです。ソ連や東ドイツヘいってみて、1960年の時点なのですから、日本にまだ社会保障などなかった時、そう豊かではなかったのですけれども、老後みながきちんと年金をだれでも貰える、そして、病気になればだれでも、医者に行って診察を受けて治療を受けられる。これにはほんとうに驚きました。これが社会主義というものかと、その時は思いました。ただ自由がないのです。例えば、牧師さんの家に泊めてもらうと、こちらがキリスト教徒ということが分かっていますから、牧師さんも信用して内緒話をしてくれるわけです。

外国から来る手紙はみな開封されていると言っていました。政府が検閲して開封されてくる。だから、「日本へ帰って手紙をくれる時は、気をつけて書いてください。政府の悪口など書かれると私の立場が悪くなるから。手紙書くときは開封されることを頭に入れて書いてくれ。」というふうに言われました。こんな国には住みたくないなと思いましたけれど、同時に社会保障という点では驚きました。こういうことが可能な社会の仕組みというのがあるんだなあ、とこう思ったのです。

 その後、スターリン主義というものによって目茶苦茶にされていくのですが、私の行った頃はまだ、東側の社会保障がある程度きちっと生きていた時代です。こうして、ソ連や東ドイツが社会保障というものを始めると、資本主義の国もやらざるをえなくなってきます。そうでないと労働者が、あっちの方がいいと逃げ出してしまいます。ですから西ドイツが一番困りました。地続きですから、何しろ。ですから、東に負けないだけの社会保障をしなければならなかったのです。そうすると、自由があって社会保障があるのですから、こっちの方がいいということになります。いくら向こうは社会保障があっても自由がないのです。こうして西ドイツは大変な犠牲を払って、社会保障先進国になってきました。そのことによって、東ドイツに勝ったのです。

 実際西ドイツの労働者は、別に強制されたわけではありません。自主的に西ドイツを選んだのです。ですからあのような東西ドイツの統一も生まれてきたのです。

 つまり資本主義の国は、ひとつは自分の国の労働者の闘いに押されて。そこへもってきて、ソ連、東ドイツの社会保障という仕組みの外圧で、それに負けるわけにいかないものですから、そういう力があって、社会保障というものを造り出していくのです。しかし社会保障というものは莫大な財源がかかります。


《社会保障をやめて小さな政府へ──構造改革の中身(1)》

 いま日本政府は社会保障をどんどん削っていますけど、それでも国家予算の中で一番多い費目は社会保障です。大変な財源が必要なのです。そこで資本主義の国は、新しい財源を見つける必要ができてきます。

 そこで見つけたのが2つ。1つは累進課税です。それまでの資本主義にはなかった、累進課税という新しい仕組みです。つまり収入の多い人ほど税率が高くなるという仕組みです。日本でも1番高い時は1980年代、1番大金持ちはの税率75%でした。ですから、年収10億あれば7億絵5千万円税金にとられたのです。今から考えれば良く取ったものです。今は35%です。大金持ちは今ほんとうに楽なのです。35%ですむのですから。年収10億の人は3億5千万払えばいいのです。昔なら7億5千万取られたのです、税金で。「あんまり取りすぎではないか、これは俺の甲斐性で俺が稼いだ金。それを取り上げて怠け者のために配るのか。」と彼らはいいました。

 そうすると政府は、「いやそういわないでくれ。そうしないと、資本主義という仕組みがもたない。だから体制維持費だと思って出してくれ。そうでないと社会主義に負けてしまう」と言って、大金持ちからたくさん取ったのです。大企業も儲かっている会社からたくさん税金取った。法人税もずっと高かったのです、以前は。こうやって大金持ち、大企業からたくさん取る累進課税で一つ財源を作ったのです。

 もうひとつは、企業負担です。サラリーマンの方はすぐお分かりですが、給料から社会保障で差し引かれますね。そうすると、差し引かれた分と同額だけ会社が上乗せするわけです。自分が積み立てたものが戻ってくるだけなら、貯金したのと同じです。労働者の負担する社会保障費と同額だけ会社も負担しているのです。倍になって戻ってくるから、社会保障が成り立つわけです。

 これも資本主義の原則からいえば、おかしいことです。いまいる労働者の面倒を見るのは当たり前です。会社は労働者がいるから成り立っているのですから。だけど、辞めてからは関係ないはずです。契約関係がないのですから。辞めた人が飢え死にしようがのたれ死にしょうが、会社の責任ではないはずです。

 だけども一歩ふみこんで、それでは資本主義の仕組みがもたないから、労働者が辞めた後まで面倒みてくれ、そこまで企業負担してくれ、そうしないと資本主義がもたないから、ということになります。

 こうやって、社会保障というものが資本主義の国で成り立っているのです。これは、ただの資本主義ではありません。資本主義の原則に反するような累進課税とか、企業負担というものを持ち込んで、社会主義のよいところを取り入れた資本主義です。これを「修正資本主義」と呼びました。

 資本主義の欠点を修正して、社会主義に負けないようないい仕組みに造り直した資本主義ということです。学者によっては、資本主義の経済の仕組みと社会主義経済を混ぜ合わせた「混合経済」と呼ぶ人もいます。所得再配分機能を政府が果たすということです。もちろん修正資本主義というものは、このような良い面だけではなくて、公共事業という名前で国民の税金を大企業の利益のために大々的に流用するというようなマイナスの面もあることも忘れてはなりません。

 しかし、ともかくこうやって、西側の世界は、自由があって社会保障がある、そういう社会に変わっていくのです。そのことで東に勝ったのです。ところが、そのソ連と東ドイツが居なくなったのです。

 その前にもうひとつ。先進資本主義国というのは或る一種の傾向として、労働者が闘わなくなってきます。これは先進資本主義国の宿命のようなものです。つまり資本主義国というのはご存じのように、地球上の大部分を占めている低開発諸国、貧しい第3世界といわれた世界から、安い原料を買ってきてそれを製品にして高く売っています。そして差額、莫大な差額を儲けている。超過利潤と呼ばれています。だから遅れた国は働けば働くはど貧しくなるのです。一生懸命働いてコーヒー豆作っても、それを安く買われてチョコレートやインスタントコーヒーなどの製品を高く買わされるのですから、結局差額だけ損をすることになります。

 この20年、先進国と遅れた国の格差は開く一方、全然縮まらない。地球上の富を先進国が全部集めちゃって、とびきりぜいたくな生活をやっています。ですから先進国の労働者にも、当然そのおこぼれの分け前に預かるので、低開発国の労働者にくらべれば、ずっと豊かになります。豊かにれば闘わなくなってしまいます。その上、それを推し進めるようなありとあらゆる謀策が講じられているのです。

 資本主義というのは、物を売り続けなければなりたたちません。売ったものをいつまでも使われていたのでは、資本主義は成り立たないのです。早く買い換えてもらわなければなりません。いま、日本の車はよく出来ているので、30年は楽に乗れるのに、30年乗られたら日本の自動車会社はみな潰れます。3年か5年で買換えてもらわなれりばいけません。買い替えてもらうには、自分の車は古いと思ってもらう必要があります。ですからコマーシャルで、朝から晩まで何回も、「あんたは古い、あんたは古い。こんないい車ができてます。こんな新しい車が出ましたよ。もっといいのが出ましたよ」と宣伝して洗脳しいるのです。だから3年も乗ると、どうしても買換えざるをえない心境に引き込まれてしまいます。全てのものがそうです。まだまだ使えるのに新しいものに換えてしまう。そういう仕組みができているのです。

 そうしないと、資本主義はもちません。ですから労働者はどうなるかというと、「次、この車に買換えよう、次、パソコンこっちに買換えよう、次、今度はデジタルテレビに買換えよう、じゃあセカンドハウス、つぎは海外旅行・・・」。無限に欲望を刺激され、自分の欲望を満たす方に夢中になって、社会正義とか人権とか考えている暇がなくなっていくのです。

 いま日本の大部分がそうですね。「もっといい生活を」ということだけ考えています。ほかの人の人権だの社会正義なんて見向きもしない。見事に資本の誘惑にひっかかってしまいます。

 もちろん、欲しいからって、お金がなければ買えません。家がほしい、車がほしい、パソコンほしい・・・。それが、実はお金がなくても買える、なんとも不思議な世の中です。ローンというものがあるのですね。

 フォードという人が見つけたのです。それまでは、「つけ」で何か買うなどということは、労働者にはありませんでした。労働者が「つけ」で買ったのはお酒だけです。酒飲みはお金がなくても飲みたいのです。だから酒屋だけは「つけ」がありました。大晦日に払うか払わないかで夜逃げするかどうかもあったでしょうが、今は家を「つけ」で買う、車を「つけ」で買う、なんとも奇妙な世界になってきました。これをフォードが始めたのです。それまでは、自動車というのは大金持ちのものでした。フォードが、あのベルトコンベアーというのも発明して、大量生産を始めたのです。そうなれば、大量に売らなれりばなりません。大量に売るためには労働者に買ってもらわなくてはなりません。でも労働者にはお金がないのです。そこで、ローンという、とんでもないものを考え出したのです。ローンなら金がなくても買えるんですから、みんな買う。当然な話です。

 そりゃあ豊かなのに越したことはありません。マイホームが欲しくなる。ですからみんなローンで買う。そして「マイホーム」という感じになるのです。でも本当はマイホームではありません。あれは銀行のものです。払い終わるまでは、所有権は銀行のものです。銀行から借りてローン組んだだけなんです。こうして次々と新しいものを買わされていく。そのローンは多くの場合退職金を担保に組みます。一度退職金を担保にローンを組んでしまったら、ストライキはできなくなります。会社と闘って退職金がすっとんだら終わりなのです。家も途中でおしまいになってしまいます。ですから、ローンでマイホームが変えるようになってから労働運動は一気に駄目になりました。みんな闘わない、会社と喧嘩したくない、というふうになります。これはもちろん、向こうは計算済みのことです。

 ですから、高度に発達した資本主義社会というのは、労働者が、ある程度ですが、豊かになり、そして、このような消費社会に組み込まれてしまって、身動きができなくなるのです。

 こうして、いま日本では労働組合も、労働運動もストライキもほとんど力を失いました。そうなれば、政府は社会保障なんて、何も譲歩する必要がはありません。労働者が必死になって運動するから、止むを得ず健康保険とか年金制度とかやってきたのであって、労働者が闘わなければ、その必要はないのです。いま、どんどん社会保障が悪くなってきています。次から次から悪くなる。20年前だったら、いまのように社会保障が悪くなったらたちまち、大ストライキが起こりました。しかし今は何も起きません。労働組合が弱体化している、労働運動が骨抜きという状態です。

 そこへもってきて、ソ連や東ドイツがいなくなったのです。こうなればもう社会保障をやる必要はありません。社会保障は止めます、修正資本主義は止めます、ということになるわけです。修正資本主義にはいろいろな意味があるのですけど、一つの特徴は、大金持ちや大企業からお金を取って、弱い立場の人たちに配るところにあります。所得再分配と言われる働きです。だから政府は大きな政府になります。こういう仕組みが修正資本主義で、いろんなマイナス面もあるのですが、プラスの面も大いにあります。

 この仕組みをやめる、というのが今のアメリカです。もう政府は面倒みません、自分でやりなさい、と自由競争に戻る。自由競争一筋。これが、ソ連が崩壊した後に新しくなったアメリカの仕組みなのです。そして、それに日本が「右へならえ」ということなのです。

 それに対してヨーロッパは、アメリカのいうことを聞かず、「われわれはこれからも、社会保障のある資本主義でいきます。むき出しの裸の自由競争には戻りません」。これがヨーロッパなのです。なぜヨーロッパがそういえるかというと、労働運動が強いからです。先進資本主義国なのになぜ労働運動が弱くならないのか。これはこれで時間をかけて考えなければならない問題なのですが──。

 現実の問題として強い。ヨーロッパだって大企業は社会保障を止めたいにきまっています。しかし止めると大騒ぎになります。労働者が絶対に言うことを聞きません。だからやむを得ず守っているのです。企業負担もうんと高いです。日本の会社の倍以上払っています。ですからトヨタ自動車もフランスに、フランス・トヨタを作っていますけど、日本トヨタの倍以上払っています。それでも儲かっているのです。

 ですから、ヨーロッパでも、社会保障は少しずつ悪くなってきてはいますが、日本に比べれば遥かに違います。このようにして、ヨーロッパはアメリカと別の道を進み始めました。アメリカは剥き出しの資本主義に戻りますが、ヨーロッパは修正資本主義のままでいこうとしています。

 しかし、それでは競争で負けます。アメリカや日本は企業の社会保障負担がうんと減っていますから、利潤が増えています。ヨーロッパは高い社会保障負担でやっていますから、儲けが少ないのです。そこで競争しなくてすむようにEUいうものを作って、枠を閉ざしちゃいました。アメリカや日本の会社がヨーロッパに来るときは、ヨーロッパ並みの負担をしなければ、EUには入れません。だからEUの中でやっている時には、日本にもアメリカにも負ける心配はないのです。

 そういう仕組みを作って、アメリカとは別の道を進み始めました。そのためにユーロという別のお金も作りました。イラク戦争で表面に出てきたのですが、イラク戦争がなくても、ヨーロッパはアメリカとは別の道を進み出していました。もう2度とアメリカとは一緒にならないでしょう。

《規制緩和とグローバリゼーション − 構造改革の中身(2)》

 もう一つ、ソ連、東ドイツ崩壊の結果、アメリカが大きく変化したことがあります。それは何かというと、大企業・大資本を野放しにしたことです。

 ソ連がいる間は、大企業や大資本に、「あなた達は資本主義なんだから儲けたい放題儲けたいだろうけど、それをがまんしてください。あなたたちがやりたい放題にやったら、他の資本主義国はみんな負けてつぶれてしまう。アメリカの資本と競争できるような資本などどこにもありませんから。そうなれば、ソ連の方がましだということになる。だから、やりたい放題は抑えてほしい」と言ってその活動を制限してきました。

 具体的に何を抑えたかというと、為替取引を規制したのです。これが一番大きな規制です。いまではもう、中央郵便局へ行って「ドル下さい」といえば、すぐドルをくれます。「100ドル下さい」といえば「ハイこれ1万2千円」。ユーロでも、「下さい」といえば「100ユーロ・ハイ1万4千円」とすぐくれます。でもこれはごく最近のことです。それまでは、外貨・外国のお金は、日本では勝手に手に入りませんでした。お金を外国のお金と取り替える、つまり為替取引は厳重に規制されていて、個人が勝手にはできなませんでした。外国旅行に行くとか、何か特別な理由が認められた時しか、外国のお金は手に入りません。

いまは何も制限ありません。自由にだれでもいつでもできます。理由など聞きませんから、100ユーロとか千ドルくださいと言えば、そのままくれます。これが為替取引の自由化というものです。これがなかったのです。ソ連が崩壊するまでは、アメリカも厳重に規制していました。それをとっぱらったのです。理屈っぽく言えば、資本の国際移動が自由にできるようになったということです。こうして、アメリカの巨大な金融資本が、世界中を我が物顔にのし歩く時代が来るのです。

 もうソ連も東ドイツもなくなったのですから、「いや永いことお待たせしました。今日からもう儲けたい放題儲けていいですよ。やりたい放題やっていいですよ」ということになったのです。これが規制緩和とことです。規制緩和ということは要するに、大資本が野放しになったということです。そうなったらどうなるか、世界第2の経済大国といわれる日本でさえ、全然太刀打ちできません。アメリカの巨大資本、金融資本・銀行ですね。日本の銀行とは勝負になりません。ボブサップと私が裸で殴り合ぅようなもので、一コロで殺されてしまいます。

 それでもやれというなら、ボブサプは手と足を縛ってもらって、目隠ししてもらって、こちらは金槌でも持たしてもらって、それでやっと勝負になるのです。今まではそうだったのです。それを全部外して自由にする、無条件で自由競争にするというのです。負けないためには、相手に負けない位大きくなるしかないですから、合併、合併、合併。あっという間に30ほどあった都市銀行が3つになってしまったのです。UFJとか「みずほ」とか、元何銀行だったか覚えておられる方おられますか。すぐ言えたら賞金をさし上げてもよろしいのですが、まず、言える方おられないでしょう。合併、合併であっという間に3つになりました。3つにになってやっとなんとか対抗できるというくらいにアメリカの巨大銀行というのは大きいものなのです。それでもダメで、長銀はのっとられてしまいました。北海道拓殖銀行も山一証券ものっとられてしまいました。次々とのっとられています。

 ついこの間は青森県の古牧という温泉がのっとられまし。広くていい温泉なんですけど、驚いたことにゴールドマンサックスでした。世界最大のアメリカの金融投資会社、ハゲタカファンドの代表のようなものです。これがどうして古牧温泉なのかと思ったのですが、テレビで放送していました。古牧だけではありません。他に28ケ所、超有名温泉みんな買い占めちゃったのです、ゴールドマンサックスが。

どうするかというと、従業員みんな首切っちゃってパートにして、腕利きのマネージャーを送り込み、部屋をヨーロッパ、アメリカ向きに整備しなおして、欧米からの観光客をワーツと呼ぼうという作戦なんですね。儲かるようにして高く売るのです。ゴールドマンサックスが経営するのではありません。いま赤字の会社を買い取って、儲かるように造り直してすぐに売っちゃうのです。これが投資銀行のやっていることです。確かに、いわれてみればそのとおりで、日本の温泉ほどいいものはありません。知らないだけで、こんないいものは世界中どこにもありません。だから日本の温泉の良さが分かったら、おそらくヨーロッパ、アメリカからごっそり観光客が来ると思います。そこにゴールドマンサックスが目をつけたのですね。そして近代経営やって外国人が来て楽しめるような設備に変えて、世界中にジャパニーズスパーなんていって売り出す気なのですね。ですから、そのうち皆さんも温泉にいらっしやるとみんな英語で案内され、アメリカのお湯の中に入ることになってしまいます。

 アッという間に日本はアメリカ資本に乗っ取られようとしています。去年のホリエモン合併もそうです。今年から商法改正(改悪)して、乗っ取りを認めるということになったのです。株の等価交換、面倒な仕組みですから詳しいことは申し上げませんが、アメリカ株1億ドル分と日本の株1億ドル分を、等価父換していい、こういっているんです。ところが、アメリカの株の値段が高いのです。ですから1億ドルといっても、株の数からすると、例えば千株位しかない。日本は株が安いですから、同じ1億ドルで1万株位あるのですね。そうすると、千株と1万株で取り替えますから、あっという間にアメリカは大株主になってしまう。この等価父換を認めると、日本の大企業全部乗っ取られてしまう。

 そこで、日本の優良企業が狙われています。超優良企業を株式等価交換で、簡単にアメリカが乗っ取ることができる。今年からそれが可能になるはずだったです。それで去年、実験をやったのですね。ホリエモンにやらせてみたのです。ホリエモンはアメリカのリーマン・ブラザースから借りてやったのです。で、出来そうだなと分かったので、アメリカはお金を引き上げてしまいました。ホリエモンに乗っ取られては困る、いずれ自分が乗っ取るのですからネ。最後の段階で資金引き上げましたたから、ホリエモン降りる外なかった、多分そういう仕組みだったのではないかと思います。

 今年から自由に、日本中の会社をアメリカが乗っ取れるはずだったのですが、あのホリエモン騒動のおかげで日本の大企業が震え上がり、政府に泣きついて、「なんとか商法改正を見送ってくれ」と。それで見送りになりました。ですから、ちょっと一息ついているのです。今年すぐ、乗っ取られるというわけではありません。でも、いつまでも見送りというわけにはいかないでしょう。2・3年後には解禁。そうなれば、日本はほぼアメリカ資本に支配される、ということになるでしょう。

 日本ですらそうなのですから、まして、フィリピンとかタイとかいう国はたまったものではありません。あっという間に乗っ取られてしまいます。アメリカに勝手に経済的属国にされてしまう。それに対して、いやそんなの困るから、アメリカ資本が自分の国の株を買うことを法律で禁止する、というようなことをやろうとすると、アメリカはそれを認めないのです。グローバリゼーションだから地球はは「一つ」だというのです。いくら規制緩和しても相手国が法律で規制してしまったら終わりです。ですから、自分の国だけ勝手に現制することは認めません、地球はひとつですよ、グローバリゼーションですよ、ときます。フメリカの大資本が地球上のどこの国でもアメリカ国内と同じ条件で商売できるようにする、これがグローバリゼーションです。いやだと断ると制裁を加えられます。

 クリントン大統領の時は経済的制裁だけですんだのですが、ブッシュになってから、軍事的制裁になりました。いうことを聞かないと軍事制裁だぞという、これがネオコンという人たちの主張です。イラクを見ればみな震え上がるでしょう。ですから、アメリカの言いなりにグローバリゼーションで国内マーケットを開放して、アメリカ資本に全部乗っ取られてしまう、というのがいま着々と進行しているのです。

《アメリカの孤立》

 そこでどうなったかというと、ヨーロッパと同じように、「そんなの困る。自分の国の経済の独立は自分たちで守りたい」という人たちが手を繋いで、「アメリカに支配され引きずり回されないように、防波堤を作ろう」という動きが始まりました。だいたい5・6年前からです。アセアン(ASEAN東南アジア諸国連合)の動きが始まりました。5つの国です。インドネシア、タイ、マレーシア、シンガポール、フィリピン。元来はアメリカが造らせた組織だったのですが、いつのまにか自主独立を目指す組織に成長しました。

 手を繋ぎ、アメリカに引きずり回されないように、アメリカの資本が勝手に入ってこないように、自分たちの経済は自分たちでやりましょう、と。ところが、ASEANが束になったってアメリカにはとてもかないません。そこで、知恵者がいました。アセアンだけではかなわないので、中国と手を繋いだのです。「アセアン、プラス中国で、アジアマーケットを作り、アメリカにかき回されないようにしよう」しようというのです。確かに、中国が入ったらアメリカはうかつに手が出せません。しかし中国だけ入れると、反米色があまりにも露骨ですから、「アセアン、プラス・スリーでいきましょう。アセアン+日本+韓国+中国、でいきましょう」ということになります。日本はアメリカの51番目の州だといわれているのですから、日本が入れば、アメリカも安心します。

 EUのように、アセアン+スリーで、自分たちの経済は自分たちでやれるように、アメリカに引きずり回されないような自立したアジアマーケットを形成することが目標です

 ただひとつ、日本が具合が悪いのです。日本はそのスリーに入っているのですが、(アセアンの会議に)行く度に「アメリカも入れろ、アメリカも入れろ」というのです。アセアン諸国はアメリカから自立するために作っているのですから、「アメリカを入れろ」といわれたんじゃあ困るので、結局日本は棚上げになってしまいます。実際にはアセアン+中国で、経済交流が進んでいます。いずれ2010年には、東アジア共同体・EACというものを立ち上げる、という動きになっています。

 そうなってくると韓国が困りました。日本・アメリカ側につくのか、中国・アセアン側につくのかで、2・3年前から中国側に大きく傾いています。留学生の数を見ると分かります。中国の北京大学には世界中の留学生が集まります。21世紀は中国と商売しなければメシが食えなくなることが分かっていますから、将釆、中国語がしゃべれる人が自国のリーダーになり、中国の指導者に友達がいないと困ります。それには北京大学に留学するのが一番いいのです。あそこはエリート養成学校です。この前行った時聞いてみたのですが、入学試験競争率5千倍だそうです。超難関です。大学の構内を歩いて見たのですが、広い敷地に6階建てのアパートが36棟ぐらい建っていて、みな学生寮です。全寮制。そばに教職員住宅があって、朝から晩まで共に暮らしながら勉強しています。授業は朝7時からです。ものすごく勤勉に勉強しています。

35年間私は大学の教員でしたが、愛すべき怠け者の学生諸君を教えてきたわが身としては、「あ、これはかなわないなァ、20年もしたら──」と思いました。向こうは国の総力を上げて次の時代の指導者を養成しているのです。日本はもう全然、ニートとかフリーターとかいって、若者の気迫がまるでレベルが違います。これは置いていかれるな、という気持ちになりました。このように世界中の国が、いま一流の学生を北京大学に送り込んでいるのですが、去年、北京大学留学生の中で一番数が多いのが韓国なのです。

 おととしまで韓国の学生は殆どアメリカヘ行っていました。去年あたりから中国へ変わったようです。つまり韓国は、21世紀の自国は、アメリカ・日本ではなく、中国・アセアンと組むことで繁栄を図りたい、と向きを変えたということです。

 それに拍車をかけたのが小泉首相の靖国参拝。これで韓国は怒っちゃってあちらを向いた。そうなると、アセアン、中国、韓国と繋がって、日本だけはずされてしまった、という状況がいま生まれつつあります。

 さらに中国は、数年前からいま、「ふりん政策」を国の方針としています。フリンといっても男女の不倫ではありません。富、隣。隣の国を富ます、隣の国を豊かにする──富隣政策です。隣の国と仲良くする。中国だけ儲けたのでは相手に恨まれてしまいます。英語では「ウィン、ウィン」(win-win)というようです。どっちも勝つ、中国も儲けるけど相手も儲けるような関係を必ず作っておく、ということが基本政策です。

 つまりアメリカは、やっとソ連を倒したと思ったら、今度は中国が出てきたのですから、中国を目の敵にしているのは当然です。中国にすれば、アメリカにやられないためには、単独では対抗できませんから、周りの国と手をつなぐ、ということです。

 アメリカは修正資本主義を止めて自由競争の資本主義に戻りました。その結果大企業・大資本は野放しになりました。そのためにアジアにそっぽを向かれることになりました。アメリカにはついていけない。アメリカに勝手にされては困る。もちろんアメリカと喧嘩をしては駄目ですが、自分の国は自分の国でやれるようにしなければならない──、というふうに変わったのです。

 そして最後に、3年前から南米が変わりました。ようやく日本でも報道されるようになりましたからご存じと思います。ただ日本のマスコミはちょっとしか書きませんから、気づいておられない方もおありかと思います。南米がものすごい勢いでアメリカ離れを始めたのです。

 今まで200年、南米はアメリカの裏庭といわれていました。アメリカはやりたい放題やっていました。チリは世界一の銅の産出国ですが、このチリの銅はすべて、アナコンダというアメリカの銅会社が一手で採掘していました。だからいくら掘ってもチリは豊かにならない。アメリカのアナコンダだけが儲かるのです。

 ブラジルは世界一の鉄の産地です。これもみな掘っているのは欧米の会社で、いくら掘ってもブラジルは豊かにならない。ベネズエラは世界第五位の産油国です。これもみなアメリカの石油資本が持っていく。

 こういう国はこれまで軍事独裁政権でした。政治家は、自分の国の資源をアメリカに売り渡し、自国の国民の反発は力で抑えつけ、莫大なリベートを貰って自分たちだけベラボウな贅沢をしてきました。これがアメリカと南米のパターンだったのです。

 それが、3年ほど前から、「おかしいではないか。やっぱりベネズエラの石油はベネズエラ人のものだ。石油を掘ったら、ベネズエラが豊かにならないとおかしいではないか。いくら掘ってもアメリカだけ儲けるのはおかしい。石油をアメリカの石油会社から取り上げて、ベネズエラで掘ることにしよう。国有化しよう」というような政策を訴える大統領が、当選するようになりまし。この3年間で、南アメリカは80%が、このような自主独立派の大統領になりました。アメリカ資本に任せず、自国の経済は自分でやろうという政策を掲げた大統領が、次々と当選したのです。

 いまでは、南アメリカでアリカの言いなりというのは、多分コロンビアしかないと思います。あとは殆どみな、自分の国は自分でやりましょというふうに変わってきました。ベネズエラのウゴ・チャベスという人がそのチャンピオンです。ご存じですね、時の人です。アメリカはそのチャベスの当選を必死になって妨害したのですが、結局ダメでした。チャベスが圧倒的多数で選出されました。その彼の言い分がふるっているのです。

 「失礼にならないようにアメリカから遠ざかりましょう」というのです。いきなり遠ざかったのではゴツンとやられますから、アメリカを怒らせないように、喧嘩しないように、少しずつ「小笠原流」で遠ざかって自主独立に向かいましょうというのです。

 これがいま世界の合言葉です。「失礼にならないようにアメリカから遠ざかる。」日本もそうしなければいけない、と私は思っているのですが。絶対にやりません。

 こうやってアメリカは、ソ連や東ドイツがなくなってから、修正資本主義をやめて、いまの言葉でいえば「新自由主義」という仕組みに代わりました。日本はそれに右ならえしたのです。いま申し上げたように、このアメリカの新自由主義経済に無条件で追随しているのは、日本しかありません。あとはみな、「失礼にならないように」距離をおきました。

日本だけが無条件でついていきました。だから「ポチ」だといわれるのですネ、確かにポチと言われてもしょうがないほど、無条件でついていきます。それは恥ずかしいことですが、日本が追随していく。これが構造改革なのです。修正資本主義経済から新自由主義経済に変わるということです。簡単にいえば、弱い人の面倒を政府が見るような仕組みから、もう弱い人の面倒は見ませんという仕組みに、変わっていく──。これが構造改革です。

 だから、社会保障はどんどん悪くなる。自由競争で勝ち組と負け組がある。中には1千万ぐらいのマンション買って落ち着いているのもいる。片方には、国民健康保険料さえ払えなくて医者にも行けない。そういう人がもう全国で膨大な人数出てきている。まさに格差社会です。

 どんどんその格差が広がっています。金持ちからお金を取って弱い人の面倒を見る、というのが修正資本主義なのですが、それを止めてしまいました。野放しなのです。強い人はますます強くなり、弱いものは負けたら自己責任なんですよ。こういう仕組みにいま変わったのですね。

 それがいいか悪いか、止むを得ないのかどうかは、いろいろな立場によって考えが違うのですが、事実はそうなったのです。

 しかしヨーロッパは別の道をとっています。このように別の道もありうるというのも事実なのです。ヨーロッパのように社会保障を止めない資本主義もあり得るのです。

 日本の場合、アメリカほど徹底していませんが、流れとしては「政府はもう弱い人の面倒は見ません」、という方向に大きく動いています。


《憲法改悪の要求》

 こうして、アメリカは新自由主義経済で自国の企業を野放しにして、それを世界中に押しつけようとしたのですが、意外に抵抗が大きかった。ヨーロッパはいうことを聞かない。アジアも聞かない、南米も聞かない。これでは困るので力づくで押しつける。こういうことになるのですね。力づくで押しつける時に、最大の目標・ターゲットはもちろん中国です。やっとソ連を倒して、21世紀はアメリカが王様になれると思ったら、中国が巨大な国になってきて、アレリカの前に立ふさがっいます。このままではアメリカは王様ではいられません。中国を抑え込むことが21世紀へ向けてのアメリカの最大の長期的課題になっています。しかし戦争はできません。中国と戦争したのでは共倒れになります。唯一の道はエネルギーを抑えることです。

 ネオコンという人たちの書いた文章を読むと、非常にはっきり書いてあります。21世紀にアメリカが世界の支配権を握るには、中近東の石油を抑えなければならないというのです。中国は石油の自給ができません。どんどん石油を輸入していますが、殆どいま中近東から輸入しています。アメリカが中近東の石油を抑えれば、中国はアメリカのいうことを聞かざるをえなくなる。当然でしょうね。

 世界一の産油国サウジ・アラビアはすでにアメリカ側の国です。そこで第二の産油国であるイラクをアメリカは分捕りたいのですが、その理由がありません。そこでアメリカは「大量破壊兵器、テロ応援」という嘘をつきました。プッシュ大統領も、ついにウソであったことを認めました。

 ではなぜイラク戦争をやったのか。本当の理由はまだ公表されていません。しかしネオコンという人たちの文章を読むと、明らかに「石油を抑える。抑えてしまえば中国は言うことを聞かざるをえない」。ここに本当の理由があったことは明白です。そうだとすれば、恐ろしい話ですが、(次に)絶対にイランが狙われます。

 世界第1の産油国サウジアラビアは、昔からアメリカの同盟国です。第2位のイラクは抑えてしまいました。そしてイランは第3位の産油国です。ここを放っておいたのでは意味がないのです。中国はいくらでもイランから石油の輸入ができます。どうしてもイランまで抑えなければならないというのは、アメリカでは、いわば常識です。どんな新聞雑誌でも次はイランだということが堂々と語られています。

 ライス国務長官も3日前、「今イランに対するは軍事力行使の予定はない」と言っていました。「今は」です。イランは核開発やっているというのが理由です。たしかに妙な国ですが、しかし別に悪い国ではありません。あのあたりでは1番民主的な国です。曲がりなりにも選挙で大統領を選んでいますから。女性はみな顔を出していますし、大学へもいっています。イランは近代化した国なのです。サウジアラビアなどの国に比べたら、ずっと民主的な近代国家です。イスラム教のお妨さんが、選挙で選ばれた大統領より偉い、というのだけが変ですが、全員がイスラムですから、他国がとやかく言うことではないです。

 ですから、イランが悪魔の国というのは嘘なのです。イラクがそういわれたのも同じで、要するに悪魔の国と誤解させて、戦争しかけてもやむを得ないと思わせるための宣伝が行われているのです。

 イランはイランで、自分で自分他ちの国を近代化していけばいいのであって、核兵器持つなといっても、隣のパキスタンもインドも持っているのです。こちらのイスラエルもです。イランだけ持つなといっても、聞くわけありません。イランに持たせたくないのなら、「俺も止めるからあんたも」と言わなければなりません。「俺は持っている。お前だけ止めろ」と言ったってイランが聞くわけありません。そんな理屈が通るはずがないのです。実に馬鹿な理屈です。

本当にイラクに核開発をやめさせたいのなら、イギリスもフランスもアメリカも 「先ず自分が止める、だからお前も止めろ」と言うしかありません。お前だけ持つなと言って、聞くと思う方がどうかしています。核開発は現在の大国の論理では抑えられません。イランに言わせれば、「イラクがなぜあんなに簡単に戦争しかけられたかといえば、核兵器を持っていなかったからだ。持っていたら恐ろしくてとても戦争なんか仕掛けられない」ということになります。だからイランはいま核開発を急いでいるのです。核兵器を持たないとアメリカに攻められるから。そう思い込んでいるのです。

 そう思わせるようなことをアメリカはやってきたのですから、イランに核兵器開発を止めさせるためには、イラクから撤収して、中東の平和は中東に任せる、という姿勢を示すしかありません。自分がイラクを分捕って居座ったままで、イスラエルやパキスタンやインドの核兵器には文句をいわずイランにだけ、というのは通じない理屈です。実にゆがんだ国際常識というものが罷り通っている、と思います。

 もしアメリカがイランまで分捕ってしまえば、サウジアラビア、イラン、イラクと合わせて、世界の石油の70%ぐらいになるはずですから、中国はアメリカのいうことを聞かざるをえなくなります。だからつぎはイランだというのが、ネオコンの論理です。

 ただ問題は、イランに戦争を仕掛けるとしても単独ではできなません。兵隊がたりない。徴兵制ではなく志願兵制度ですから。いま、ありったけの兵隊さんがイラクに行っています。あれ以上いないのです。だからハリケーンが来ても出せなかったのですね。そうすると、イランに出す兵隊なんていないのです。そこで、アメリカの右翼新聞の社説など、堂々と書いています。「イラクにいるアメリカ軍でイランを乗っ取れ。カラッポになったイラクの治安維持は、日本にやらせろ」と。
 アメリカの論理から言えばそうなるのでしょう。自衛隊にイラクの治安維持をといいますが、実際は内乱状態ですから、今も毎日アメリカ兵は毎日5人位殺されています。そんなこと引き受けたら、自衛隊員何人死ぬか分かりません。第一そんなことは、憲法9条があるかぎりできないのです、絶対に。憲法があるおかげで、自衛隊はイラクにいますけれども、ピストル1発撃つことができないのです。憲法9条第2項というのがあるのです。自衛隊は戦力ではない・交戦権はないとなっていますから、不可能なのです。だから給水設備備を作るとか、学校修理とか、そういうことしか出来ません。これじゃあアメリカから見れば役に立たないのです。


《平和憲法こそ 日本生存の大前提》

 そこで、「9条2項を変えて、戦争ができる自衛隊になってくれ」というのがアメリカの強い要求なのです。みんな分かっています。言わないだけです。日本の新聞記者も知っています。しかし、「9条変えろ」がアメリカからの圧力、と書くと首になるから書かないだけです。でも誰も知っています。アメリカのに戦争に参加しなさい、という強い圧力がかかっているのです。

 ここのところをよく見極めておくことが必要です、「9条を守る」ということは、「アメリカの言いなりにならぬ」ということと一つ、なのです。

 アメリカと喧嘩しては駄目ですから、「失礼にならないようにアメリカから遠ざかる」のが何よりも大切です。仲良くするけれども言いなりにはならない、ということです。ところが、憲法が危ないという、この危機的な状況にもかかわらず、国内で労働運動が弱体化していますから、ストライキも起きない。大きなデモも起きない。大反対運動も起きない──。という状況です。

 ではもう駄目なのでしょうか。そうではないと思います。それには日本の国内だけではなく、世界に目を向ける、アジアに目を向けるこちとが必要のです。ご存じのように、これからの日本は、中国と商売せずには、生きていけなくなりま。いま、大企業だけですけど、多少景気がよくなってきています。全部中国への輸出で持ち直したのです。中国マーケットがなくなったら日本経済はおしまいだ、ということは誰も分かってきています。

 お手元の資料の中の(貿易額の)丸い円グラフは、2003年のもので少し古いのですが、アメリカ20.5%、アジア全体で44.7%、つまり日本にとって一番大事な商売の相手は、アメリカではなくてアジアなのです。

 アジアと仲良くしなかったら、経済が成り立たないところへ、いま既にさしかかっているのです。左隣の棒グラフは2004年ですが、左上から右に折れ線がずうっと下がってくる。これが日本とアメリカの貿易です。点線で右へずうっと上がっていくのが中国との貿易。遂に去年(2つの折れ線が)交差し、中国との貿易の方がアメリカとの貿易額より多くなりました。しかも鋏状に交差していますから、今後この2つは開く一方になってきています。

 つまり、あと2・3年もすれば、日本は中国との商売なしには生きていけない、ということが国民の常識になるということです。いま既に、中国を含めたアジアが、日本の一番大事なお客さんなんです。仲良くしなければいけません。一番大切なお客さんの横っ面ひっぱたいたんじゃ商売は成り立ちません。

 靖国参拝などというものは、一番大事なお客さんの横面ひっぱたくと同じことなのですから、個人の信念とは別の問題です。小泉首相は総理大臣なのですから、個人の心情とは別に日本の国全体の利益を考えて行動しなければいけません。それは総理大臣の責任だと思います。その意味でアジアと仲良ぐできるような振舞いをしてもらわなければ困るのです。

 もう一つ。アメリカとの商売はこれからどんどん縮小していきます。それは、ドルというものの値打ちがどんどん下がっていくからです。これはもう避けられません。

 昔はドルは純金だったのです。1971年まで、35ドルで純金1オンスと取り換えてくれました。だからドルは紙屑ではありませんでした。本当の金だったのです。

 われわれのお札はみな紙屑です。1万円なんて新しくて随分きれいになりましたけど、綺麗にしただけちょっとお金がかかって、印刷費に1枚27円とかかかると聞きました。27円の紙がなぜ1万円なのか。これは手品みたいなものです。あれが5枚もあるとなかなか気が大きくなるのですが、本当は135円しかないのです。それが5万円になるのは、法律で決めているのです。日銀法という法律で、こういう模様のこういう紙質のこういう紙切れは1万円、と決められている。だから、あれを1万円で受け取らないと刑務所に入れられます。法律で決まっているからです。ですから日本の法律の及ぶ範囲でだけ、あれは1万円なのです。その外へ出ると27円に戻ってしまいます。

 金と取り換わらないお札というのは、簡単にいえばその国の中でしか通用しません。他の国へ行ったら、その国の紙屑と取り換えなければ通用しません。ところが、ドルだけは世界で通用しました。純金だからです。

 ところが、1971年にアメリカはドルを金と取り換える能力を失いました。ベトナム戦争という馬鹿な戦争をやって莫大な軍事費を使ったのです。背に腹は代えられなくてお札を印刷し、航空母艦を造ったりミサイル、ジェット機を作ったりしたのです。そのために、手持ちの金より沢山のお札を印刷しちゃったのです。

 その結果、アメリカは、ドルを金と取り換える能力を失ったのです。そこで、71年8月15日、ニクソン声明が出されました。「金、ドル交換停止声明」です。あの瞬間にドルも紙屑になったのです。ドルが紙屑になったということは、ドルがアメリカの国内通貨になったということです。

 ところが、問題はそれ以後なのです。世界で相変わらずドルが適用したのです。皆さんも海外旅行へ行かれる時は、大体ドルを持って行かれますね。どこの国へ行っても大丈夫なのです。金と取り換えられないお札が何故世界で適用するかは本当に不思議で、経済学者にとって最大の難問なのです。いろんな人がいろんな答を言っていますけど、あらゆる答に共通しているのは、ひとつは「アメリカの力の反映」だから、ということです。

 つまり、日本が自動車を作ってアメリカヘ売ります、ドルを貰いますネ。日本は損をしているのです。自動車という貴重なな物質がアメリカへ行って、紙屑が返ってくるのですから。物が減ってお札だけ増えると必ずバブルになります。

 バブルの犯人はそこにあるのです。日本が輸出し過ぎて貿易黒字を作り過ぎているのです。だから日本は、アメリカに自動車を売ったら、「純金で払ってください」と言わなければなりません。ところがそう言うと、ジロッと睨まれてお預けになってしまいます。日本には米軍が5万人います。「アメリカのドルを受け取らないとは、そんな失礼なこと言うなら、在日米軍クーデター起こしますよ」、これで終わりなのです。黙って受け取ってしまう。だから日本は無限に物を提供し、無限に紙屑をもらう。こうしていくら働いても日本人の生活はよくならないのです。しかもその紙屑でアメリカの国債を買っています。アメリカに物を売って、払ってもらった代金をアメリカに貸している。言ってみればツケで輸出しているようなものです、現実に。アメリカにいくら輸出しても日本は豊かにならない仕組みになつています。

 2週間前に『黒字貿易亡国論』という本が出ました。有名な格付け会社の社長さんですが、「貿易黒字を作るから日本は駄目なのだ」、ということを詳しく論じたたいへん面白い(文芸春秋社の)本です。確かにそうだと思います。だからドルは、本当は受取りたくないのです。みんな紙屑なんです。だけど受け取らないと睨まれる。アメリカの軍事力が背景にあるのです。

 その力をバックにして、紙切れのお札を世界に通用させている。例えていえば──餓鬼大将が画用紙に絵をかき1万円と書いて鋏で切り、これ1万円だからお前のファミコンよこせ、とこれを取り上げる──のと同じです。いやだと言ったらぶん殴るのです。怖いから黙って渡して紙屑もらうことになります。その紙屑で、他の人から取り上げればよいのです。「お前のバイクよこせ、よこさなかったらいいつける」。「あの人、あんたの紙屑受け取らない」、するとガキ大将が釆て、ゴツンとやってくれる──。餓鬼大将の力の及ぶ範囲ではそれが通用するのです。

露骨にいえば、ドルがいま世界に適用しているのは、そういう仕組みが一つあります。

 もう一つは、ソ連の存在です。もし紙屑だからアメリカのドルを受け取らないといったら、アメリカ経済は潰れます。アメリカが潰れたらソ連が喜ぶ。だから紙屑と分かっていても受け取ってきた。ソ連に勝たれては困るから──。

 これも確かに一理あります。ということは、ソ連がいなくなって、紙屑は紙屑だということがはっきりしてきたのです。今まではソ連がいるために、紙屑なのに金のように適用したが、今や「王様は裸だ」というのと同じで、「ドルは紙屑だ」といっても構わない時代です。

 ともかくドルが危ないのです。私が言ってもなかなか信用してもらえませんが、経済誌『エコノミスト』、一流企業のサラリーマンなら必ず読んでいる雑誌すが、これの去年9月号が中国“元”の特集でした。その真ん中へんに「プラザ合意20年」という対談がありました。その中で、榊原英資さんは「5年以内にドル暴落」と言っています。

 榊原さんは大蔵省の元高級官僚で日米為替交渉の責任者を10年やりました。円・ドル問題の最高責任者だった人です。「ミスター円」といわれていました。通貨問題に最も詳しい現場の責任者です。停年で大蔵省をやめて今は慶應大学の先生になっています。この人が「5年以内にドルが暴落する」、つまりドルが紙屑だということが明らかになる日が近いと言っているのです。

 ソ連がいる間は隠されていたのですが、いまはもう、ドルは紙屑だから受取りたくないという人たちが増えてきています。これまでは世界通貨はドルしかなかったので、受け取らなければ商売ができなかったのですが、今ではユーロという代わりが出来てしまいました。ドルでなくてユーロで取引する国が増えてきています。そしてユーロの方が下がりにくい仕組みになっています。ドルは下がるのです。

 なにしろアメリカは、永いことドルが世界通貨ということに慣れてきました。だから自動車が欲しければ日本から自動車買って、アメリカは輪転機を回せばよいのです。紙とインクがあればいいのですから。ほかの国はこんなことできません。自動車が欲しければ、一生懸命働いて何か輸出し、その代金で輸入しなければならないのです。アメリカ以外の国は全部そうやっているのです。

 輸入は輸出と一緒です。輸入するためには輸出しなければなりません。ところがアメリカだけは輸出しないで輸入ができるのです。ドルという紙切れが世界通貨ですから。極端に言えば、欲しい自動車や石油を日本やアフリカなどから買って、紙とインクで支払う。実際そうして世界の富がアメリカに集まったわけです。

 71年以降の30年間、この仕組みのために、世界中にドルが溢れ出ました。ドルがどんどん増えますから、当然値打が下がります。こうしてドル下落傾向。(資料の一番下のグラフがそうです。円が上がっていく様子、為替取引だから短期的には上下しますが、長期的には間違いなく円高。ドルがドンドン下がるのは確かです。)これがあるところまでいくと、ガクッと下がります。

 あるところまでいくと、「ドルは信用できない、下がる通貨は持っていたくない」となります。ですからドルを受け取らない、ユーロか何か、別な、下落しない通貨でなければ受け取らないということが出てくる。そうなるとドルは暴落します──。榊原氏がそういっているのです。

 ヨーロッパはユーロでいくでしょう。アジア経済圏はなんといったって元です、中国の。中国は賢いですから、元を押しつけないで、何かアジアの新しい通貨を作るかもしれません。しかし元が中心になることは間違いないでしょう。ドルはアメリカでしか使われなくなる。そうすると、今まで全世界で使われていたドルが、みんなアメリカに集まって来るわけですから、アジア、ヨーロッパで使われいていたドルがみな戻ってきて、簡単にいえばドルの値打が3分の1に下がることになります。

 アメリカの生活は大きく収縮します。一家で3台自動車持っていた家は1台に。1台持っていた家は止めなくればならなくなる、ということです。

 アメリカ経済の収縮。これは大変恐ろしい話なのです。世界経済が大きく収縮し、日本経済は大きな打撃を受けます。しかし避けられない動きなのです。いつのことか分からないが、そう遠くない将来にドルの信用がドンと落ちていく。結果として日本がアメリカにだけ頼っていたら、大変なことになります。

 いまのうちに、アメリカに輸出してドルをもらったらユーロに代えておいた方がいい。ユーロの方は下がらないからです。EUという所は、国家財政が赤字だと加盟できないことになっています。赤字だと穴埋めにお札を出すので乱発ということになって下がるのです。だからユーロは一応下がらない仕組みになっています。乱発できないようになっているのです。ドルは短期的に持つのはかまわないが、3年、4年と長期的に持っていると下がってしまいます。それならユーロにしておいた方がいいとか、これから生まれるかもしれないアジア通貨にしておいた方がよいとかいうことになります。世界の大企業や国家が、決済のために多額のドルを持っていますが、これがユーロに切り替えられるとなると、ドルはもう世界通貨ではなくなります。

 そうなると、アメリカだけに依存している国は、大変苦しくなります。21世紀の日本を考えた時、アメリカと仲良くするのは大切ですが、しかしアメリカ一辺倒では駄目な時代になっているのです。アジアと仲良くしなければいけません。

 しかしアジアと仲良くするのには、無条件ではできません。なぜなら、60年前、アジアに戦争を仕掛けて大変な迷惑をかけた。その後始末がちゃんとできていないのです。仲良くするするためには、60年前のマイナスを埋めるところから始めなければいけません。別に難しいことではないのです。「あの時はごめんなさい。2度とやりませんから、勘弁してください」。これで済むわけです。

 問題は、「2度とやりません」が、信用してもらえるかどうかです。信用してもらうための最大の決め手が「憲法第9条」です。憲法9条第1項、第2項がある限り、日本は2度と戦争はできません。イラクの状態を見ても、自衛隊は鉄砲一発撃てない。(世界中)みんなが見ています。この憲法9条第1、第2項がある限り、日本は戦争はできません。だから安心して日本と付き合うのです。

 もし日本が憲法9条を変えて、もう1回戦争やりますということになったら、アジアの国々は日本を警戒して、日本との付き合いが薄くなってしまいます。いま既にそうなりつつあります。小泉首相は靖国に何度も行く。自民党は憲法9条を変えることを決め、改憲構想まで発表した。アジアの国々は用心します。「そういう国とは、あまり深入りしたくない」。

 小泉首相は「政冷、経熱」でいいじゃないか、といいます。政治は冷たくても経済では熱い関係というのでしょうが、そんなことはできません。中国と日本の経済関係はじわっと縮小しています。統計でもそれははっきり出ている。

 おととしまで中国の貿易のトップはアメリカでした。次が日本、3位はEU。これがひっくり返ってしまいました。去年はトップはEU、2位アメリカ、3位日本です。明らかに中国は日本との商売を少しずつ縮小させている。その分EUに振り替えています。

 去年5月、ショッキングなことがありました。北京・上海新幹線という大計画をEUに取られました。北京〜上海って何キロあるのでしょう。日本の本州より長いのではないでしょうか。このとてつもない計画があって、去年、まだ予備調査の段階すが、日本は負けました。ドイツ、フランスの連合に取られました。予備調査で取られたということは、本工事は駄目ということです。中国にすれば、日本にやらせるのが一番便利なのです。近いですし、新幹線技術も進んでいます。まだ1度も大事故を起こしたことがありません。ドイツもフランスも、1回ずつ大事故を起こしたことがあります。技術からいっても資本からいっても、日本にやらせれば一番いいのに、日本が負けました。明らかに政治的意図が働いたと思われます。日本との関係を深くしたくない。いざという時、いつでも切れるようにしておく。いざというとき、切れないようでは困る。そういうことではないでしょうか。

 いまのままアメリカ一辺倒でいいのでしょうか。私は長島さんをよく思い出します。後楽園での引退試合の時、最後に「読売ジャイアンツは永久に不滅です」といったのです。永久に不滅どころか、去年のジャイアンツのサマといったらもう、見ていられない。アメリカもそうなるのではないでしょうか。小泉首相は「アメリカは永久に不滅です」と、いまもいっているのですが、そうではないのではないでしょうか。

 アメリカにさえ付いていれば、絶対大丈夫という時代は終わったのです。アメリカとも仲良くしなければいけませんが、しかしアジアとも仲良くしなければいけない、そういう時代がいま来ているのです。仲良くするのには、憲法9条を守ることが大前提です。これを止めてしまったら、アジアとは仲良くできません。

 憲法9条は、日本にとって“命綱”です。いままでは、憲法9条というと、「理想に過ぎない。現実は9条で飯食えないよ」という人が多く、中には鼻で笑う人もいました。しかしいまは逆です。9条でこそ食える。9条を変えたら、21世紀日本の経済は危ないのです。

 憲法9条を守ってこそ、この世紀の日本とアジアとの友好関係を守り、日本も安心して生きていけるのです。こういう世の中をつくる大前提が憲法9条です。憲法9条は美しいだけではなく、現実に儲かるものでもあります。そのことがやっと分かってきました。

 奥田経団連会長は、去年までは小泉首相を応援して靖国参拝も賛成だったのですが、そんなこといってたらトヨタは中国で売れなくなります。そこで今年の正月の挨拶でついに、「中国との関係を大事にしてほしい」と、向きが変わりました。
 財界が、中国と仲良くしなければ自分たちは商売ができない、となってくれば、日本の政治の向きも変わるだろうと思います。あと3年たてば多分、これは日本の国民の常識になってきます。中国と仲良くしないと経済が駄目になる。それは中国のいいなりになることではないのです。良くないことはきちんという。だけど敵にするのではなく、仲良くする。でなければ、日本の経済は成り立たない。これがみんなの常識になってくるでしょう。

 これまで60年、アメリカベったりだったから、アメリカから離れたら生きていけないと皆思ってきました。しかし現実の数字はそうでなくなっています。一番大事な経済の相手は、もうアメリカではなくアジアなのです。これに気づくのにあと2・3年かかるでしょう。これが世論になれば、もう、憲法を変えるなどということは、絶対にできません。

 しかし、この3年の間に、国民の世論がそのように変わる前に、憲法が変えられてしまったら、どうにもなりません。

 あと3年、必死の思いでがんばって、子供たちに平和な日本を残してやるのが、私たちの務めだと思います。そう思って、私も必死になってかけ回っています。あと3年ぐらいはまだ生きていけるだろうから、なんとしても3年間は9条を守るために全力をつくしたいと決心しています。

 ありがたいことに、9条を変えるには国民投票が必要です。国会で決めただけでは変えられません。国民投票で過半数をとらないと、憲9条は変えられないのです。逆にいえば、これによってこちらが憲法9条を守る署名を国民の過半数集めてしまえばいいことになります。住民の過半数の「9条を守る」署名を3年間で集めてしまう。そうすればもう、変えることは不可能になります。

 そうすれば、子供たちに憲法9条のある日本を残してやれます。2度とアジアと戦争する国にならないようにして、そしてもし長生きできれば、新自由主義という方向、つまりアメリカ言いなりではなく、もっと自主的な経済ができるように、せめてヨーロッパのような修正資本主義、ルールのある資本主義の仕組みにもう一度戻すこともできるでしょう。

 日本中で、飢えている人、因っている人、貧しい人が、それでも人間らしく生きていけるような、最低限の保障ができる、生きる希望が出る──。そういう社会にすることが大切なのだ、と思います。これは長期的展望です。簡単にはできません。一度、新自由主義になってしまったので、10年位かかるでしょう。国民が賢くなって、正しい要求を政府につきつけていかなければいけません。その中心になる労働運動の再建が必要です。

 結局国民が主権者なんですから、国民の願いがかなうような、そういう日本に作り替えていきたいなと、そういう道を進んでいきたいなと思います。

 鋸南町は合併を拒否なさったというので、日本でも有数な自覚的な町といえます。合併するとまず住民自治がダメになります。大きくなるということは、住民自治が駄目になることでもあります。住民が主人公になる町こそ大切。ぜひこの美しい山と海と禄のある町で、1人1人が主人公であるような地域共同体というものを、みんなが助け合える町になることを私も希望して、講演を終わらせていただきます。
http://kyonannet.awa.or.jp/mikuni/siryo/2006/kawabata-kouen060114.htm

11. 中川隆[-8575] koaQ7Jey 2024年11月12日 13:14:29 : 1TBG5JOjhk : RVE0UUEuTEFDTU0=[8] 報告
<■52行くらい→右の▽クリックで次のコメントにジャンプ可>
中国化する日本 信用スコアが社会を支配する
https://a777777.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=16878504

マイナンバーカードは日本に住む人間を監視するために導入された
https://a777777.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=16875895

信用スコアの恐怖社会に向かって
https://a777777.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=14105057

階級社会イギリスは、オーウェルの「1984年」監視社会を実現した、最初の国だった
http://www.asyura2.com/18/reki3/msg/889.html

マルクスがイギリスで共産主義を考えた理由
http://www.asyura2.com/18/reki3/msg/891.html

【日本の危機】言論統制監視社会に向かう岸田政権 “ニコニコBANいつまで続くのか?!”(原口一博×石田和靖)‪@kharaguchi‬
【越境3.0チャンネル】石田和靖 2024/06/23
https://www.youtube.com/watch?v=3-x200Dvq7w

【アメリカ崩壊】脱北者女性が衝撃の告白”アメリカよりも北朝鮮の方が自由だった!”(マックス×石田和靖)‪@tokyomax‬
【越境3.0チャンネル】石田和靖 2024/06/18
https://www.youtube.com/watch?v=hoKGpgst8RQ

中国の信用スコア、 人々を委縮させ中国から活力を失わせた
https://a777777.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=16852530

中国の信用スコア _ ある点数を下回ると行動制限され社会システムから排除される
https://a777777.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=14128166

グレートリセットがもたらす恐怖社会  中国のスマートシティ
https://a777777.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=14091100

中国には50万人のネット監視部隊が居て、24時間国民を見張りAIによるネット監視
https://a777777.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=14052974

中国 農管による農民支配の徹底
https://www.youtube.com/watch?v=bWydtG4NqaE

中国の農村に再び管理強化の兆候!農管跋扈、鶏一羽の処分も報告せよ
https://a777777.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=14106786

中国の商業活動は城管との戦い、手当たり次第因縁をつけ破壊し盗むのが城管の仕事
https://a777777.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=14147013

中国は欧米に50か所以上の警察署を設置し在外中国人を管理していた
https://a777777.bbs.fc2.com/?act=reply&tid=14061487

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