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ネット上でよく見かける人類進化に関する誤解
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投稿者 中川隆 日時 2019 年 12 月 29 日 08:11:05: 3bF/xW6Ehzs4I koaQ7Jey
 

(回答先: 雑記帳 古人類学の記事のまとめ 投稿者 中川隆 日時 2019 年 9 月 01 日 07:02:26)

ネット上でよく見かける人類進化に関する誤解

2018年09月29日
人類進化に関する誤解のまとめ
https://sicambre.at.webry.info/201809/article_49.html

 ネット上でよく見かける(と私が判断している)人類進化に関する誤解をいくつかまとめてみました。おもに現生人類(Homo sapiens)とネアンデルタール人(Homo neanderthalensis)関連となりますが、今後、他にも気づけば、取り上げていく予定です。

●現生人類の起源は遺伝学的に20万年前頃
 現生人類出現の年代は遺伝学的に20万年前頃と推定されている、との認識を以前よく見かけたように思いますが、これは現代人のミトコンドリアDNA(mtDNA)における合着年代を現生人類出現の年代と同一視しているためで、誤解だと思います(関連記事)。そもそも、進化は連続的なものであり、どの時点で種(もしくは分類群)の起源と認定できるのか、難しい問題だと思います。現生人類の起源に関しては、現代人に共通する派生的な形態学的特徴がアフリカ各地で異なる年代・場所・集団に出現し、比較的孤立していた複数集団間の交雑も含まれる複雑な移住・交流により現生人類が形成された、との見解が有力になりつつあると私は考えており(関連記事)、そうだとすると、どの時点を現生人類の起源と考えるのか、ますます難しくなってきたように思います。

●出アフリカ現生人類集団は黒人だった
 そもそも、更新世の人類史に「黒人」なる概念を用いることに大きな問題があると思いますが、ここでは、肌の色が濃い人々と読み替えて話を進めていきます。日本人も含めて非アフリカ系現代人の共通祖先集団の肌の色は濃かった、というわけです。ただ、そうである可能性は無視してよいほど低いわけではないとしても、そうではないというか、肌の色は多様だった可能性が高いと思います。(サハラ砂漠以南の)アフリカ人の肌の色は濃いと一般的には考えられているかもしれませんが、現代人の各地域集団間の比較で、アフリカは最も遺伝的多様性が高く、肌の色も多様です。現代人の多様な肌の色の遺伝的基盤もまた多様なのですが、薄い肌の色の遺伝的基盤の多くはアフリカ起源であり、非アフリカ系現代人の主要な遺伝子源となった共通祖先集団の出アフリカの前に、すでにアフリカにおいて肌の色は多様だったと考えられます(関連記事)。

●白人の肌の色はネアンデルタール人に由来する
 人類進化史において「白人」なる概念を用いることに大きな問題があると思いますが、ここでは、おもにヨーロッパの肌の色が比較的薄い人々と読み替えて話を進めていきます。上述した出アフリカ現生人類集団の肌の色の問題とも関連しますが、肌の色の濃かった現生人類が、ネアンデルタール人との交雑により肌の色が薄くなった、との認識はそれなりに定着しているように思います。これは完全な間違いとまでは言えず、じっさい、異なる遺伝子座の複数のネアンデルタール人の対立遺伝子がヨーロッパ系現代人の肌と髪の色に影響を及ぼしているわけですが、それは色合いを濃くする方にも薄くする方にも作用しており、ネアンデルタール人の肌と髪の色も、現代人と同じく多様だったのではないか、と推測されています(関連記事)。少なくとも、肌の色の濃かった現生人類が、ネアンデルタール人との交雑により肌の色が薄くなった、と単純化できるわけではないと思います。じっさい、ネアンデルタール人と交雑した非アフリカ系現代人集団でも、更新世〜完新世初期にかけてのヨーロッパには肌の色の濃い集団が存在しており、現代人における薄い肌の色の定着に関しては、複雑な経緯があったと推測されます(関連記事)。また、色素形成機能を減少させるような遺伝的多様体の中には、現生人類とネアンデルタール人とで塩基配列が異なるものもある、と指摘されています(関連記事)。

●交雑の組み合わせはネアンデルタール人男性と現生人類女性のみ
 ネアンデルタール人と現生人類との交雑はすでに広く知られていると思いますが、その組み合わせは現生人類女性とネアンデルタール人男性のみだった、との認識はよく見られます。しかし、現時点ではそうだと断定できるわけではなく、今後の研究の進展を俟つしかないと思います(関連記事)。

●世界で最もネアンデルタール人に近いのは日本人
 これは、Toll様受容体関連遺伝子のハプロタイプのうち、ネアンデルタール人由来と推測されるものを有する割合が、調査した民族では日本人が最高というだけで、世界で日本人が最もネアンデルタール人と遺伝的に近縁であることを意味しません(関連記事)。たとえば、脂質異化作用関連遺伝子では、ヨーロッパ人の方が日本人よりもネアンデルタール人の影響は強いと推定されています(関連記事)。ゲノム規模でも、日本人よりも韓国人の方がわずかにネアンデルタール人の影響は強いと推定されています(関連記事)。

●純粋なサピエンスはアフリカ人のみ
 非アフリカ系現代人は全員、ネアンデルタール人の遺伝的影響を受けています。一方、サハラ砂漠以南のアフリカ人には、ネアンデルタール人の遺伝的影響はほとんど見られません。もっとも、更新世に出アフリカ現生人類集団がアフリカに「戻った」と推定されており(関連記事)、それは完新世にも起きていたと推測されますし(関連記事)、イスラム教勢力や帝国主義の時代のヨーロッパ勢力のアフリカへの侵出もあるので、多くのアフリカ系現代人は、わずかながらネアンデルタール人の遺伝的影響を受けていると思われます。とはいえ、アフリカ人がネアンデルタール人の遺伝的影響をほとんど受けていないことは否定できません。しかし、それはアフリカ人が「純粋なサピエンス」であることを証明するわけではありません。古代DNAとの直接の比較ではないので確定的とは言えませんが、一部のアフリカ人の系統と遺伝学的に未知の人類系統との交雑の可能性が指摘されており、じっさいアフリカでは、現生人類にとってネアンデルタール人よりも遠い関係にあると思われる人類系統の中期更新世後期までの存在が確認されていて、それ以降も存在していた可能性が想定されます(関連記事)。

●貝などの海産物を食べていた人類は現生人類のみ
 これは、貝などの海産物も食べるような柔軟な行動が可能だった人類は現生人類のみで、それ故に世界中に拡散してネアンデルタール人など先住人類を置換した、という文脈で語られることがあります。確かに、人類が貝を恒常的に食していたと推定される現時点で最古の事例は、アフリカ南部のピナクルポイント(Pinnacle Point)遺跡で確認されており、その年代は164000年前頃までさかのぼります(関連記事)。しかし、ネアンデルタール人も同じ頃に貝を食べていたと推測されており(関連記事)、人類は20万年以上前より貝も食べていて、それが恒常的だった集団もいる、と考える方が妥当だと思います。
https://sicambre.at.webry.info/201809/article_49.html  

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コメント
1. 中川隆[-15007] koaQ7Jey 2019年12月29日 08:12:44 : b5JdkWvGxs : dGhQLjRSQk5RSlE=[-2030] 報告
2019年03月31日
日本人にはネアンデルタール人のY染色体遺伝子が少し残っています
https://sicambre.at.webry.info/201903/article_54.html

 ネアンデルタール人についてTwitterで検索していたら、表題のような呟きを発見しました。ツリーになっているので、先頭の呟きのみリンクを張ります。

ヨーロッパのホモ・サピエンスはネアンデルタール人を絶滅させたが、日本ではネアンデルタール人と共生していたと言うことがY染色体DNA解析で判明しています

ホモ・サピエンスとネアンデルタール人は交配していた事が解っており、DNAも採取されています

そして判明した事は、ヨーロッパの白人にはネアンデルタール人のY染色体遺伝子が含まれていない
つまり絶滅させた

しかし日本人にはネアンデルタール人のY染色体遺伝子が少し残っています

つまり緩やかに混血して共生していたのです

日本人が争いを好まない原因かも知れません

 以前当ブログで、世界で最もネアンデルタール人に近いのは日本人との誤解を取り上げましたが(関連記事)、その時は、Y染色体の観点からネアンデルタール人と日本人の近縁性を主張するような見解を知らなかったので、言及しませんでした。こうした認識の出所はよく分かりませんでしたが、次のように主張するアカウントが存在するので、その人が言い出したのかもしれません。まずは、

ネアンデルタール人の遺伝子を最も遺すのはY-C次いでY-D、日本人が一番ネアンデルタール人に近い。ネアンデルタール人って本当の原日本人じゃないの?多少頭の形や骨格が現代型ホモサピエンスと異なるのは、進化に連れて変わったんじゃないの?

との呟きです。次に、

近年、最新遺伝子系統樹の根本、基底にネアンデルタール人を置く動きが色濃くなって来ましたが、最初っから「それはY-CとY-D(の祖先)だよ!」って言えばいいものを、ネアンデルタールだとかデニソワだとかクロマニヨンだとか往生際が悪い。

との呟きです。しかし、ネアンデルタール人のY染色体DNAは、現代人のY染色体DNAの変異内に収まらず、現時点では、ネアンデルタール人のY染色体を継承している現代人は確認されていませんし、今後も、そうした現代人が発見される可能性は限りなく皆無に近いでしょう。ネアンデルタール人のY染色体DNAは、イベリア半島北部のエルシドロン(El Sidrón)遺跡(関連記事)と、ベルギーのスピ(Spy)遺跡およびロシアのコーカサス地域のメズマイスカヤ(Mezmaiskaya)遺跡(関連記事)で確認されています。エルシドロン遺跡のネアンデルタール人に関する論文(Mendez et al., 2016)の図3は以下のようになっています。


スピ遺跡とメズマイスカヤ遺跡のネアンデルタール人に関する論文(Hajdinjak et al., 2018)の図2は以下のようになっています。


 いずれも、ネアンデルタール人のY染色体DNAが現代人のY染色体DNAの変異内に収まらないことをよく示しています。現代人のY染色体DNAハプログループのCとDはいずれも現代人、さらには非アフリカ系現代人の変異内に収まっており、ネアンデルタール人から継承されているわけではありません。また、Y染色体DNAハプログループCおよびDの人々が、他のハプログループの人々よりもネアンデルタール人の遺伝的影響を強く受けていることを示す、まともな研究もないと思います。インターネットの普及により、多くの人々が容易に情報を発信できるようになり、予想もしなかったようなガセネタが拡散される可能性は、以前より高くなったように思います。私も、上記のようなガセネタに引っかからないよう、日頃から情報収集および確認を怠らないようにしたいものです。


参考文献:
Hajdinjak M. et al.(2018): Reconstructing the genetic history of late Neanderthals. Nature, 555, 7698, 652–656.
http://dx.doi.org/10.1038/nature26151

Mendez FL, Poznik GD, Castellano S, and Bustamante CD.(2016): The Divergence of Neandertal and Modern Human Y Chromosomes. The American Journal of Human Genetics, 98, 4, 728-734.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27058445

https://sicambre.at.webry.info/201903/article_54.html

2. 中川隆[-15006] koaQ7Jey 2019年12月29日 08:14:02 : b5JdkWvGxs : dGhQLjRSQk5RSlE=[-2029] 報告
2019年02月28日
現代人のmtDNAハプログループの多様性
https://sicambre.at.webry.info/201902/article_55.html

 ミトコンドリアDNA(mtDNA)ハプログループについて、以前ネット上で、(サハラ砂漠以南の)アフリカにはハプログループLしか存在しないので、東南アジアよりも遺伝的多様性が低い、と主張する人を見かけました。もちろん誤解なのですが、他に主張している人を見たことがないので、人類進化に関する誤解のまとめ(関連記事)では取り上げませんでした。たとえばミャンマー人のmtDNAハプログループはA・B・C・D・F・Uなど多様で、DはD4a、BはB5aなど、さらに細分化されています(Li et al., 2015)。確かに、サハラ砂漠以南のアフリカのmtDNAハプログループはほとんどLですから、アフリカよりも東南アジアの方が遺伝的多様性は高い、と考える人がいても不思議ではないかもしれません。

 しかし、これは字面だけを見ての誤解です。非アフリカ系現代人では基本的に、mtDNAハプログループのうち、L3系統から派生したMおよびN系統のみが見られます。一方、アフリカ系現代人においては、L3系統のみならず、L0・L1など多様な系統が見られます。mtDNAハプログループにおいて、まずL0系統とその他の系統が、次にL1系統とL2〜6系統が、といったように分岐していきました。以下に詳細な系統樹を掲載します(Behar et al.,2008)。


 アフリカの多様なL系統の一つにすぎないL3系統もまた分岐していきますが、非アフリカ系現代人ではそのうちの二つにすぎないM・Nのみが存在します。東南アジアも同様です(ユーラシア西部では基本的にN系統のみが存在します)。このM・NからA・B・C・D・F・Uなど多様な系統が分岐していきます。つまり、M・Nおよびその派生系統は、単独でL系統と比較できるような分類水準ではありません。M・NはL3a・L3fなどと比較すべき分類水準であり、そもそもL3m・L3nと表記すべきです。さらに言えば、M・Nの派生系統のAやDなどは、L3md・L3naと表記すべきです。このような表記であれば、mtDNAハプログループM・N およびその派生系統が、L3系統の下位区分にすぎないことがよく分かるでしょう。アフリカにはL3だけではなく、それと対等な分類水準の系統が複数存在するのにたいして、非アフリカ系にはL3系統の下位区分の一部しか存在しないので、mtDNAにおいて、非アフリカ系よりもアフリカ系の方が遺伝的多様性はずっと高いわけです。

 このように、mtDNAハプログループの分類が直感的には分かりにくくなっているため、誤解する人がいるのでしょう。こうなった理由は、現代人のmtDNAハプログループの分類がまずアメリカ大陸先住民集団で始まり、アメリカ大陸先住民集団によく見られるハプログループにA・B・C・Dと命名していったからです。黎明期のことだけに、仕方のないところがあるとは思います。今になって命名をやり直すとかえって混乱するでしょうから、このままにしておくしかなさそうです。このような誤解は少ないとは思いますが、以前より気になっていたので、取り上げました。なお、mtDNAハプログループL3系統の起源がユーラシアにある、との見解も提示されていますが(関連記事)、L3系統の起源がアフリカであれユーラシアであれ、mtDNAにおいて、アフリカ系現代人の方が非アフリカ系現代人よりもずっと遺伝的多様性は高い、という結論はまったく揺らぎません。


参考文献:
Behar DM. et al.(2008): The Dawn of Human Matrilineal Diversity. The American Journal of Human Genetics, 82, 5, 1130-1140.
https://doi.org/10.1016/j.ajhg.2008.04.002

関連記事

Li YC. et al.(2019): Ancient inland human dispersals from Myanmar into interior East Asia since the Late Pleistocene. Scientific Reports, 5, 9473.
https://doi.org/10.1038/srep09473
https://sicambre.at.webry.info/201902/article_55.html

3. 中川隆[-15005] koaQ7Jey 2019年12月29日 08:15:26 : b5JdkWvGxs : dGhQLjRSQk5RSlE=[-2028] 報告
2019年12月29日
人類進化に関する誤解補足
https://sicambre.at.webry.info/201912/article_53.html


 昨年(2018年)9月に人類進化についてのよく見かける誤解をまとめましたが(関連記事)、その後、ミトコンドリアDNA(mtDNA)ハプログループ(mtHg)に関する誤解(関連記事)と、Y染色体ハプログループ(YHg)に関する誤解(関連記事)を取り上げました。ただ、mtHgとYHgに関する誤解は、さほど浸透していないというか、おそらく声の大きなごく一部の人々が騒いでいるだけのように思います。ネットでは、そうした声の大きな人々の発言が目立ちやすいので、その影響力を過大評価するなど、引きずられようにしないといけない、と自戒しています。

 その他に、7年前に現生人類(Homo sapiens)の起源に関する誤解を取り上げました(関連記事)。おそらく日本では今でも一般的にはあまり知られていないでしょうが、現生人類(Homo sapiens)の起源との関連でマスコミに大きく取り上げられた1980年代後半の現代人のmtDNAに関する研究(Cann et al.,1987)が、その後、試料選択とソフトの使用法の問題を指摘され、1992年までに基本的には否定されたことです(Shreeve.,1996,P98,312-314)。ただ、現代人の最終共通母系祖先が20万年前頃のアフリカにいただろうという当初の結論自体は、その後の研究でも基本的には揺らぎませんでした。

 また、Cann et al.,1987以前には、現生人類アフリカ単一起源説は提唱されていなかった、もしくはほとんど注目されていなかった、というような誤解もありますが(関連記事)、それ以前に形態学的研究からアフリカ単一起源説は提唱されていました(関連記事)。そもそも、現生人類多地域進化説自体も、類似した見解は1970年代以前より存在したとしても、現在認識されているような多地域進化説の成立は1980年代になってからと言うべきで(関連記事)、現生人類アフリカ単一起源説との比較でより歴史が長いとは言えないように思います。また、多地域進化説が成立当初より大きく変容したことも、あまり知られていないように思います(関連記事)。この点を無視して、近年の多地域進化説の「復権」傾向(関連記事)を受け入れてはならないでしょう。なお、多地域進化説の成立過程は、人種問題との関連でも注目されます(関連記事)。


参考文献:
Cann RL. et al.(1987): Mitochondrial DNA and human evolution. Nature, 325, 6099, 31-36.
https://doi.org/10.1038/325031a0

Shreeve J.著(1996)、名谷一郎訳『ネアンデルタールの謎』(角川書店、原書の刊行は1995年)

https://sicambre.at.webry.info/201912/article_53.html

4. 中川隆[-12147] koaQ7Jey 2023年11月25日 10:53:40 : 1GNPiLDvF6 : MEVlYTFtS2NUeWs=[6] 報告
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雑記帳
2023年11月25日

伊谷原一、三砂ちづる『ヒトはどこからきたのか サバンナと森の類人猿から』
https://sicambre.seesaa.net/article/202311article_25.html

https://www.amazon.co.jp/%E3%83%92%E3%83%88%E3%81%AF%E3%81%A9%E3%81%93%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%8D%E3%81%9F%E3%81%AE%E3%81%8B%E2%94%80%E2%94%80%E3%82%B5%E3%83%90%E3%83%B3%E3%83%8A%E3%81%A8%E6%A3%AE%E3%81%AE%E9%A1%9E%E4%BA%BA%E7%8C%BF%E3%81%8B%E3%82%89-%E4%BC%8A%E8%B0%B7-%E5%8E%9F%E4%B8%80/dp/4750517860

 亜紀書房より2023年3月に刊行されました。電子書籍での購入です。本書は著者2人の対談形式になっており、おもに三砂ちづる氏が伊谷原一氏に質問し、対談が進行しています。まず指摘されているのが、人類は森林から開けたサバンナに進出して誕生した、との見解には確たる証拠がないことです。ヒト上科の化石は、人類でも非人類でも、まだ熱帯多雨林から発見されておらず、乾燥帯から発見されている、というわけです。もちろん、熱帯多雨林では土壌の湿度の高さによる微生物の活発な活動のため、骨はすぐに分解される、とは以前から指摘されています。ただ本書は、現時点での化石証拠から、ヒトと非ヒト類人猿の共通祖先が乾燥帯もしくは森と乾燥帯の境界で生息しており、ヒトの祖先が乾燥帯に残った一方で、非ヒト類人猿は森に入り込んだのかもしれない、と指摘します。

 ヒトの祖先が乾燥帯に留まれた理由としては肉食が挙げられており、現生チンパンジー(Pan troglodytes)にも見られる肉食は、共通祖先に由来する行動だったかもしれない、と本書は推測します。アフリカの非ヒト現生類人猿(チンパンジー属とゴリラ属)の移動形態は、四足歩行時にはナックル歩行(ナックルウォーク)で、それは祖先が二足歩行していたからではないか、と本書は指摘します。その傍証として本書は、チンパンジー属のボノボ(Pan paniscus)が上手に二足歩行することを挙げています。現生チンパンジー属やゴリラ属の祖先はかつて二足歩行で、その後で森に戻ったさいにナックル歩行になったのではないか、というわけです。

 本書は京都大学の霊長類学を中心とした日本の霊長類研究史にもなっており、行動学や生態学を基本とする欧米の動物学に対して、日本の動物学は動物に社会があるとの前提から始まっていて、日本の霊長類研究もそれを継承し、「社会学」になっている、と違いを指摘します。霊長類には安定した集団構造があり、「社会」も存在する、との日本人研究者の主張はやがて世界的に認められるようになっていきますが、チンパンジーの集団を「単位集団(unit group)」と命名したのは西田利貞氏です。本書によると、欧米の研究者が同じ意味で「community」を用いるのは、「黄色いサル」である日本人による名称は使いたくないからとのことですが、この指摘はとりあえず参考情報に留めておきます。

 家族については、今西錦司氏はその条件として、(1)近親相姦の禁忌、(2)外婚制、(3)分業、(4)近隣関係を挙げ、伊谷純一郎氏はそれに、(5)配偶関係の独占の確立、(6)どちらの性によってその集団が継承されていくこと、を追加しました。非ヒト霊長類でこれら全ての条件を満たす分類群は存在しません。本書は今西錦司氏について、悪く言えば「広く浅い」人で、その学説は現在では否定されているものの、直感は素晴らしく、若い研究者に大きな刺激と示唆を与えた、と評価しています。

 チンパンジーの繁殖について興味深いのは、集団にいないか、雄と雌で分けられて育てられると、集団に入れられても繁殖を行なわない、ということです。ただ、雄の場合は精液を床に落とし、雌の場合は性皮が腫れることもあるので、性的欲求自体はあるようです。しかし、適切な時期に周囲の繁殖行動を見て学習しいないと、繁殖行動のやり方が分からないのではないか、と本書は推測します。これはゴリラも同様で、大型霊長類以外の動物では、飼育下で放置していても繁殖行動を示すそうです。


参考文献:
伊谷原一、三砂ちづる(2023) 『ヒトはどこからきたのか サバンナと森の類人猿から』(亜紀書房)

https://sicambre.seesaa.net/article/202311article_25.html

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