http://www.asyura2.com/18/kokusai24/msg/695.html
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世界のメディアを支配し始めたロシアと中国
活発なメディア間交流で、お互いの親近感を高める記事続々
2018.12.7(金) 徳山 あすか
モスクワで開催された日露メディアフォーラム(筆者もスピーカーとして参加)
ロシアにいて最近よく思うのは、近いうちに世界のメディアの潮流を、中国とロシアが支配するのではないか、ということだ。
近年、この2か国のメディアの接近は、目を見張るものがある。そう聞くと、何だか不気味な予感がしないだろうか?
中露メディアの蜜月を説明する前に、日本とロシアのメディア交流の現状を見てみたい。
さる10月25日、モスクワで日露メディアフォーラムが開催された。
日本とロシア、初のメディアイベント
マスコミ関係者のみを対象にしたイベントが日露間で開催されるのはこれが初めてだ。筆者もロシアメディアで働く日本人ということで、スピーカーとして登壇した。
フォーラム開催のきっかけは、デジタル発展通信マスコミ省のコンスタンチン・ノスコフ大臣の提案による。
今年7月、野田聖子氏が日本の総務大臣として初めてロシアを訪問したとき、「日露でメディアフォーラムをやりましょう」という話になっていたのだ。
その後の内閣改造で総務大臣は交代したが、メディアフォーラムの話は残った。日露交流年である2018年のうちに開催したい、という関係者の意向で、急ピッチで開催に漕ぎ着けた。
ロシア側からはデジタル発展通信・マスコミ省のアレクセイ・ヴォーリン次官や、国営新聞「ロシア新聞」のエフゲーニー・アボフ副社長など、業界のトップが参加した。
ヴォーリン次官は元ジャーナリストで、若かりし日にはジャカルタ特派員を務めたこともある。
日本には、ロシアでいうところのマスコミ省にあたる省庁はない。実際のところは別として、形式上、マスコミは権力から一歩距離を置いた存在だ。
なので、日本側は参加者を「動員」することはできない。あくまで、参加しませんかと提案するだけだ。
新聞社やネットメディア関係者の姿はなく
結果、一部の地方局や、コンテンツ販売会社の代表者らが呼びかけに応じたが、ロシア側が期待していた新聞社やネットメディア関係者の姿はなかった。
結果として日露で参加者の業態がだいぶ違ったため、マッチングは起こらず、単なる初顔合わせの会となった。いつか2回目があるのかどうかは、まだ明らかになっていない。
もちろんロシア側のオーガナイズの問題はあり、直前まで日程や開催地が決まらなかった。
しかし、前もってアナウンスしていれば、日本のメディア関係者が来てくれたかというと大いに疑問である。
モスクワは、ビザの問題はあるが、行こうと思って行けない場所ではない。結局、わざわざロシアへ行くだけのメリットが感じられなかったということだろう。
中にはタス通信と共同通信のように、長期にわたって協力関係にある会社もある。ロシア新聞と毎日新聞は定期的に「日本・ロシアフォーラム」を開催している。
しかし、逆に言うと、それくらいしか具体例が思い浮かばない。後は細々とコンテンツを売買しているだけで、あくまでもビジネスの関係である。
さて、中国に目を向けてみると、全く状況が異なっている。2016年と2017年の2年間は、ロシアと中国のマスメディア交流年だった。
これはプーチン大統領と習近平国家主席が取り決めたものだ。交流年のロゴマークは、鉛筆を持ったクマとカメラを持ったパンダ。2人(2頭?)は仲良く取材現場に向かっている。
この間、ロシアメディアと中国メディアの間では、共同で番組や記事を作ったり、若手記者の相互交流や研修を行なったりと、約400のプロジェクトが実現した。
ロシアの放送を中国語の字幕つきで視聴可能
ロシア・中国メディア交流年のロゴマーク
プロジェクトに参加したのは、通信社、新聞社、テレビ、ラジオ、コンテンツ販売会社やネットメディアなど。
例えばロシア国営放送「第1チャンネル」と中国中央テレビは、共同プロジェクト「カチューシャ」を約1年前からスタートさせた。
中国の視聴者は、ロシア語放送を中国語字幕つきで見ることができる。
ロシアも中国も、国営メディアの国なので国が主導したのは明らかだが、それに加えて根底にあったのは、「交流したい」「一緒に何かしたい」という現場の意思だろう。その現場の意思を鼓舞したのは、プレスツアーではないかと思う。
昨年は、ロシアのジャーナリストを招いた中国へのプレスツアーが多く実施された。
プレスツアーと言っても要するに観光で、いかに中国が将来性のある素晴らしい国かということをアピールするツアー旅行だ。
筆者の知人のロシア人記者は、就職して間もなく、ジャーナリストとしては駆け出しだったが、プレスツアーに参加できた。中国のあらゆる名所旧跡を回る充実したツアーで、とても楽しかったという。
日本では大手メディアの記者と言うと、社会正義のために働き、公共性の強い職業というイメージがあるが、ロシアでは全くそんなことはない。給料も他業種と同じくらいかむしろ低いくらいだ。
ロシア人記者を歓待、中国ファンに
そういう状態で右も左も分からないうちに大歓待されると、すっかり親中派になってしまうのである。
ちなみに飲食を伴う記者の接待は、ロシアではよくある。こういった文化を踏まえれば、若いロシア人記者の取り込みなど中国にとってみれば造作もないことだ。
地域間のメディア交流も非常に進んだ。
例えば在エカテリンブルク中国領事館は、観光ジャーナリズム発展という名目で、スヴェドロフスク州とノヴォシビルスク州を代表する10社の記者らを招待した。
在ウラジオストク中国領事館は、沿海州の記者を相手に深圳・広州・大連・北京などをめぐる豪華ツアーを実施した。
ドミトリー・メドベージェフ首相はロシア・中国メディア交流年の締めくくりにあたり、「ロシアは他のどの国とも、メディア業界でこんな親密な協力関係を築いてはいない。心から参加者に感謝しお祝いする」と満足げに挨拶した。
また、中国という存在がメディアで露出してきたのに伴い、文化面全体でも存在感を増している。
筆者の知人で、ロシアで俳優としてドラマや映画に出演している木下順介氏が言うには、ここ2年ばかりで中国人役のオファーが非常に多くなったそうだ。
しかもそういう場合、中国人は正義感あふれる「良い役」ばかり。むしろ日本人の役を演じたとき、上役の日本人が悪役で、部下の中国人にたしなめられるというシーンもあったという。
メディアの力でお互いの国民が親近感
もちろんフィクションの世界だが、フィクションはイメージの集大成であり、大衆はそこから多くを感じ取るものである。
この変化は、ロシア人にとって中国人がそれだけ身近な隣人になったということだろう。
ロシアで日本のイメージは全体的に良いが、オールドメディアの影響力が強いロシアでこういう状態が続けば、近いうちに中国が日本のポジションを取ってしまうのではないかと感じる。
筆者はロシアの大学院でメディア研究をしているが、中国の事案とからめた先行研究の多さに驚かされる。
中国メディアについてロシア語で書かれた論文がたくさんあるので、中国に行かなくても全容が分かりそうなくらいだ。
ジャーナリズム学を専攻し博士候補(ロシアの学位システムでは修士の次は博士候補)まで出る中国人も多い。
筆者は日常的に、ロシア人とも中国人とも仕事をする機会があるので、個人的なレベルでは彼らに好意を感じている。
しかしその一方で、中国とロシアが急速に接近するのを何となく見守っているのは歯がゆい気持ちになる。
日本はメディアがとても発達した国なのに、大手メディアほど内側に閉じ、国内で完結しているのではないかと思う。
そのうち、日本の読者だけを対象にしていては、立ち行かなくなる時代が来るだろう。
将来が不安な日本のメディア
そうなったとき、従来のやり方に加え、共同取材や外国人記者の受け入れ、逆に外国のパートナーメディアの力を使って若手記者に外国で取材の機会を与えるなど、商業ベースでないいろいろな試みが生きてくるかもしれない。
少なくとも、ロシア側はそういった機会を欲しがっている。
決して、ロシア人記者をもてなせ、ジャパンマネーでプレスツアーをしろ、と言っているのではない。
ロシアをプロパガンダの国、と毛嫌いせず、経験の交換と相手側の実態把握のために、できる範囲で付き合ってみてはどうか、というのが筆者の主張である。
中国はメディア交流の分野で、ロシアだけでなく、アフリカ諸国や様々な国に手を伸ばしている。
気づいたら日本だけが世界から取り残されていた、ということになってほしくはない。
日本は、西側の大手メディア以外とのパートナーシップ構築を積極的に考える時期に来ていると思う。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54874
AIの軍事利用で世界最先端を進み始めた中国
アルファ碁の勝利をきっかけに一気呵成、お粗末すぎる日本の対応
2018.12.7(金) 渡部 悦和
中国ファン激怒、アルファ碁と最強名人の対局中継が突如禁止に
中国・浙江省烏鎮で、人工知能(AI)「アルファ碁」との3番勝負の第2局に臨む柯潔氏(2017年5月25日撮影)。(c)AFP〔AFPBB News〕
米中貿易戦争が進行中だ。その背景には「米中の覇権争い」があり、さらに言えば米中の「AIなどのハイテク覇権争い」がある。
習近平主席が目指す「科学技術強国(Superpower in Science and Technology)」は、国家ぐるみのハイテク覇権追求を象徴的に表現している。
本稿ではハイテク覇権争いの中核であるAI開発の状況特に中国におけるAIの軍事利用について紹介したい。なぜならば、AIの軍事適用は、将来の軍事作戦の帰趨を決定する最重要な要素であるからだ。
まず、最近報道されたAIに関する象徴的な出来事を紹介した後に、中国のAIの軍事利用に関する本論に入りたいと思う。
中国における若者を利用したAI兵器開発の試み
香港の英字紙サウスチャイナ・モーニング・ポストが、北京技術研究所(BIT:Beijing Institute of Technology)のAIの軍事利用に関する「北京技術研究所プログラム(BITプログラム)」を報道*1しているので紹介する。
なお、BITプログラムは、18歳という若者を対象としたAI兵器の開発プログラムとしては世界初の試みだ。
●BITプログラムの概要
中国はAIの軍事利用を重視し、米国との熾烈な開発レースを展開している。
北京技術研究所は、中国人民解放軍の兵器の研究・開発を担当しているが、優秀な若者31人(27人の男子と4人の女子)をAI兵器開発プログラムのためにリクルートした。
彼らは、約5000人の志願者の中から選抜された最も優秀な高校生で、世界で最も若いAI兵器の科学者を目指し、4年間のAI兵器システムプログラムに参加する。
BITの教授は、「31人の子供たちは全員、非常に聡明だが、聡明だけでは不十分だ。創造的思考、戦う意思、困難に直面した際の粘り強さ、新兵器を開発しようとする熱意をもった愛国者でなければいけない」と発言し、中国らしい育成の方向性を示している。
*1= China’s brightest children are being recruited to develop AI ‘killer bots’
31人には、各人に2人のベテラン兵器開発者がメンターとしてサポートする。1人は大学から他の1人は国防産業から派遣される。
若者たちは、当初の短期コースを修了すると、専門分野を選択し、関連する国防研究所に配置され、様々な経験をしスキルを上げていく。
4年間のコースを経て、博士課程に進み、中国のAI兵器プログラムのリーダーとなる。
中国においても日本と同様に、優秀なAI人材の不足が問題となっているが、高校生をAI兵器の開発に利用しようという試みは世界的に例がなく、中国人民解放軍のAI開発重視を象徴している。AI研究者の低年齢化は今後とも進むと思われる。
●BITプログラムに対する批判
BITプログラムには当然ながら批判がある。国連大学政策研究センターの研究者(Eleonore Pauwels)は、次のように警告している。
「この中国のプログラムは、次世代の若者にAIの軍事利用に関する研究を奨励する世界で初めての試みだ」
「BITの試みは、AIの兵器化に焦点を絞った強烈な試みであり、多くの問題点を内包している」
「AIの知識が、その他の技術例えばバイオ技術、量子コンピューティング、ナノ・テクノロジー、ロボット工学などと結びつくと、安全保障や軍事的支配の観点で劇的な意味を持つ」
●AI兵器に関する中国の本音と建て前
中国の発想と行動の特徴は、民主主義諸国が重視する倫理とか国際法の順守などに縛られることなく、自らの国益を追求していく点にある。
AIの軍事利用についても、倫理や国際的な取り決めには制約を受けないで、BITプログラムに対する批判にもかかわらず、これを推進するであろう。
中国は、国連などにおけるAIを搭載した殺人ロボットなどに対する規制の議論には参加しているが、本気で規制を実現しようとは思っていない、と判断するのが妥当であろう。
例えば、中国は国連に対してAI兵器の使用に関する文書を提出し、「ハイテク製品の誕生および致死的な自律兵器システムの開発や使用は、戦争の敷居を下げ、それを使用する国の戦争のコストを下げるであろう。これは、戦争がより起こりやすく、頻繁になることを意味する」と記述している。
しかし、中国国内では多様なAI兵器を開発し装備している現実がある。
米中貿易戦争の背景にある
習近平主席の「科学技術強国の夢」
●中国の夢と米中貿易戦争
習近平主席の「中国の夢」は、「中華民族の偉大なる復興」であるが、この中国の夢の背景には中国にとっての屈辱の100年がある。
中国は、英国が仕かけたアヘン戦争(1840年)から中華人民共和国の誕生(1949年)までの屈辱の100年を経験した。この屈辱の100年の恨みを晴らすという思いが、習近平主席の心の奥底にはある。
国家主席になった瞬間(2013年)から、「今こそ、屈辱の100年の恨みを晴らし、世界に攻勢をかけるべき時だ」と判断したのであろう。
彼は、故ケ小平氏が主張した「韜光養晦」を過早にも放棄してしまった。
「韜光養晦」は、「才能を隠しながら、内に力を蓄える」という考えだが、これを放棄し、極めて強圧的な姿勢で「米国に追いつき、追い越す」政策を推進してきた。
この世界一の大国になり、世界の覇権を握ることを目指す中国、それも米国などの知的財産を窃取するなどの不公正なやり方でハイテク覇権国になろうとする中国に対するドナルド・トランプ大統領の怒りが、米中貿易戦争や米中新冷戦という状況を引き起こしたと私は思う。
中国は「韜光養晦」を持続し、辛抱強く「その時」を待つべきだったのだ。
●マイク・ペンス副大統領による歴史的な中国批判演説
ペンス副大統領は、10月4日に保守的シンクタンクであるハドソン研究所で行われたスピーチで中国を厳しく批判した。
「中国共産党は『中国製造2025』を通じて、ロボット、バイオテノロジー、AIなど世界の最先端産業の9割を支配することを目指している」
「中国政府は、21世紀における経済の圧倒的なシェアを占めるために、米国の知的財産をあらゆる手段を用いて取得するよう指示してきた」
このペンス演説は、米中貿易戦争の本質が「AIなどの米中ハイテク覇権争い」であることを如実に表している。
中国経済は現在、危機的な状況にあり、膨大な債務処理の問題など中国経済の構造的問題の解決は喫緊の課題であるが、そこにトランプ大統領が仕かけた貿易戦争が重くのしかかっている。
中国の著名な経済学者であり中欧国際工商学院教授の許小年氏は、この中国の危機を打開するためにはイノベーションが必要だと強調する。
そのイノベーションをAIなどの最先端技術で達成しようというのが習近平の科学技術強国路線であり、富国強軍路線である。
●中国の野望は「2030年までにAIで世界をリードすること」
現在、米国がAI分野における世界のリーダーになっているが、中国は、AI分野において米国に追いつき追い越すと決意している。
中国指導部は、AIを将来の最優先技術に指定し、2017年7月に「新世代のAI開発計画」を発表した。
その中で「中国は、2030年までにAIで世界をリードする」という野心的な目標を設定している。
そして、最先端のAI研究に大規模な予算を投入し、その目標を達成しようとしていて、中国のAI投資額は米国を凌駕し世界第1位だ。
中国は、すでにAI先進国であり、AIに関する論文数では米国を上回り世界一であり、AIの特許出願数において米国に次ぐ第2位である。数のみではなく質の面でも中国は米国を猛追している。
中国は、多額のAI予算の投入、アクセスできるビッグデータの存在、最も優秀な人材を集め教育する能力などにより、AI分野で米国に激しく迫ってきて、米国は手強いライバルと対峙することになる。
世界最強の囲碁AI「アルファ碁」が
中国のAI軍事利用を加速させた
AIの歴史において、グーグルが買収したAI企業「ディープマインド(DeepMind)」が開発した「アルファ碁ゼロ」は画期的であった。
特に、囲碁発祥の地である中国は、「アルファ碁ゼロ」の登場に衝撃を受け、AIの開発とAIの軍事への応用に向けた努力に拍車がかかることになった。
なぜならば、「アルファ碁ゼロ」は、戦闘シミュレーション、ドクトリン(戦い方)の開発、軍事教育・訓練への応用などAIの軍事利用に大きな可能性を提供すると評価されたからだ。
ディープマインドが開発した囲碁のAIには3つのバージョンがある。
まず、第1のバージョンは「アルファ碁」で、2016年、当時の世界トップ棋士であった韓国のイ・セドル9段に勝利して世界の囲碁界を驚かせた。
次いで、第2のバージョンは「アルファ碁マスター」で、「アルファ碁」の能力向上バージョンであり、2017年に世界最強と言われていた中国の柯潔(かけつ)9段を圧倒し勝利を収めただけではなく、世界トップ棋士に60戦して全勝の実力を発揮した。
ちなみに、初期バージョンである「アルファ碁」と「アルファ碁マスター」は、トッププロ棋士の棋譜をビッグデータとして「深層学習(ディープラーニング)」で学びながら実力を高めていった。
つまり、人間の知識を利用して実力を高めていった。
一方、「アルファ碁ゼロ」にインプットしたデータは囲碁の基本的なルールのみで、トッププロ棋士の棋譜を全く使用していない。
「アルファ碁ゼロ」は、自己対局による強化学習だけで強くなり、ディープマインドの論文のタイトルにあるように「人間の知識なしで囲碁を極めた」のだ。
「アルファ碁ゼロ」の登場で、データが足りない分野でもAIを活用できる可能性が広がった。
ディープマインドはさらに改良を繰り返し、将棋やチェスにも応用したAI「アルファゼロ」を開発し、将棋、チェス、囲碁のいずれでも世界最強のソフトとなっている。
昔のAIは人間の助けが必要だった。
その後、大量のデータがあれば自ら学ぶようになり、今は人の助けもデータも不可欠ではなく、AIが競い合うことで「独学」で進化する技術(敵対的生成ネットワーク[GAN])の登場だ。
将来的には軍事における戦闘シミュレーションや自動運転のためのシミュレーションなどに使用される可能性が大である。
アルファ碁が世界のトップ棋士を完全に撃破したことは、AIが一定のルールの下では、複雑な分析や戦略構築において、人間よりも優れていることを示す転換点となった。
AIと人間の戦いは、将来戦争において指揮官が下す決心に対し、AIが果たす途方もない潜在力を示した。
人民解放軍にとってアルファ碁の勝利は、人工知能を将来的に活用することを考える大きな動機になったのだ。
AIの軍事利用
●人民解放軍は野心的な「AI軍事革命」を目指す
目覚ましい勢いでAIが進化しているが、中国の人民解放軍はAIを軍事のあらゆる分野に取り込み、「AI軍事革命」や「戦場のシンギュラリティ」を標榜している。
シンギュラリティ(技術的特異点)は、人によって定義が違うが、ここでは「AIの発達により軍事のあらゆる分野において抜本的な変化が起こること」と定義する。
このシンギュラリティに達すると、戦場の無人化が加速し、人間の頭脳ではAIが可能にする戦闘のスピードに追随できなくなる可能性がある。
人民解放軍の研究者であるエルサ・カニアは自らの論文「戦場のシンギュラリティ」*2で、
@中国は、AIを将来の最優先技術と位置づけ、「2030年までにAIで世界をリードする」という目標達成に向け邁進中である。
A習近平主席の「軍民融合」により、民間のAI技術を軍事利用し、「AIによる軍事革命」を実現しようとしている。
B「AIによる軍事革命」の特徴の一つは、AIと無人機システム(無人のロボットやドローンなど)の合体であり、この革命により戦争の様相は激変する。
C「AIによる軍事革命」にはリスク(倫理的問題など)もあり、人間とAIの関係は今後の大きな課題である、と記述している。
人民解放軍は今や、米軍も重視する新技術AIによる革命「AI軍事革命」を目指している。
人民解放軍のリーダーたちは、AIが「軍事作戦・戦術、兵器体系などを刷新させ、戦争の様相を激変させるであろう」と確信している。
*2= Elsa B. Kania, “Battlefield Singularity”, Center for a New American Security
中国では、AIが戦争を情報化戦(informatized warfare)から知能化戦(intelligentized warfare)へシフトさせると確信している。
中央軍事委員会の連合参謀部は軍に対して、指揮官の指揮統制能力を向上させるためにAIを使うように指導している。
AIはまた、ウォーゲーム、シミュレーション、訓練・演習を向上させるだろう。これは、実戦経験のない人民解放軍にとって非常に重要な意味を持つ。
AIは、軍事の専門分野や機能を人に代わり担当することが可能になるであろう。
AIが仮想現実の技術と合体して、人民解放軍の訓練をより現実的・実戦的なものにすることが期待されている。
いずれにせよ、AIは、軍事における指揮官の状況判断、幕僚活動、部隊の運用、訓練などを大きく変え、今後何十年後には戦いの様相を大きく変貌させていくであろう。
AIの軍事利用は既に始まっていて、各種対空ミサイルシステムの自動目標追随と目標の決定、重要な兵器の欠陥の予測、サイバー戦への適用などAIの適用分野は軍事の大部分にわたる。
●情報化から知能化へ
中国の情報革命は、3段階の発展を経て実現する。つまり、デジタル化(数字化)、ネットワーク化(网络化)、知能化である。
中国は、情報化のためにITを活用し、戦いにおいて情報を活用する能力を向上してきた。
また、ITをプラットフォーム(戦闘機、海軍艦艇など)やシステムに導入し、結果としてC4ISR(指揮・統制・通信・コンピュータ・情報・監視・偵察)の統合を図ってきた。
情報化の最終段階は、人民解放軍の情報を大規模かつ機械(コンピューターなどのマシーン)のスピードで処理し活用する能力を向上することだ。
また、中国の戦略家やAI専門家は、知能化に焦点を当てている。
彼らは、AIのインパクトのある応用を考える傾向にあり、AIを使った知能化による指揮・統制または意思決定の支援、知能化無人兵器、人間のスタミナ・スキル・知能の増強を指向している。
人民解放軍は、シミュレーションやウォーゲームを使い、軍事構想や理論を構築する傾向にある。
つまり、「技術が戦術を決定する」という伝統的な考えに基づき、AIを使った実験を実施し、新たな軍事理論や構想を構築しようと積極的な試みをしている。
人民解放軍は、AIを活用し、戦争遂行における戦術、作戦および戦略レベルにおける指揮・統制を強化し、高速での決心を可能にしようとしている。
戦いの知能化により戦いが高速になれば、人間は知能化戦の作戦テンポに追随できないであろう。
AIの導入は、人間の認識力を強化またはそれに取って代わり、決心のための思考過程OODAループ(Observe観測し、Orient方向づけをし、Decide決心し、Act行動する)のスピードを劇的に加速させるだろう。
●「軍民融合」により民間AI 技術を軍事利用
軍民融合は、「民の技術を軍に適用すること、反対に軍の技術を民に適用すること」だが、習近平自らが「中央軍民融合発展委員会」を主導する力の入れようだ。
米国のITの巨人であるグーグル(Google)、アップル(Apple)、フエイスブック(Facebook)、アマゾン(Amazon)の頭文字を取ってGAFAと表現されているが、GAFA はAIの巨人でもある。
GAFAに対抗する中国企業を表現する言葉としてBATがある。
BATとは、中国のIT企業であるバイドゥ(Baidu)、アリババ( Alibaba)、テンセント(Tencent)の頭文字を取ったもので、BATもAIの大企業だ。
中国の強みは14億人の人口であり、そこから得られるビッグデータはBATにとってもAIの開発にとって大きなメリットになっている。
BATは、ビッグデータにアクセスするメリットを享受し、AIの多くの分野(機械学習、言語処理、視覚認識、音声認識など)で長足の進歩を遂げている。
中国では民営企業がAI開発の主人公であり、習近平主席は、軍民融合という国家的戦略により、民間のAI技術を軍事に転用しようとしている。
例えば、自動運転車の技術は人民解放軍の知能化無人軍事システム(AIにサポートされたロボット、無人航空機、無人艦艇・潜水艦など)に応用可能である。
コンピューターによる画像認識と機械学習の技術を応用すると、目標の正確な認識が不可欠である各種兵器の能力を飛躍的に向上させることになる。
軍民融合における優先技術は、無人システムの智能化のためのAI技術のみならず、量子科学技術(量子コンピューター、量子通信、量子レーダー、量子暗号など)、バイオ技術などの最先端技術も含まれている。
また、研究・開発における軍民の連携のために、軍関係の研究機関、国営の研究機関、BATに代表される民間研究機関が連携する「連合研究所(Joint Research Institute)」が設置されている。
●AIの軍事への適用分野
中国におけるAIの軍事適用の分野は戦闘・戦術・作戦・戦略の「あらゆる分野」である。
考えられるAI適用分野すべてであるが、既に記述してきた適用分野を含めてまとめると以下のようになる。
・無人機システムなどの兵器の智能化(自律化)。
例えば、AI搭載のドローンの分野では中国は最先端の兵器を持っている。
世界的なドローン企業であると同時に有力なAI企業でもあるDJIの智能化ドローン「ファントム」はコストパフォーマンスに優れたAIドローンだ。
また、AI搭載の水上艦艇や無人潜水艦、AIロボットの開発を推進している。
この無人機システムのAI化により、将来的には自ら判断して任務を完遂する自律型のAI無人機システムが多用されるであろう。
・サイバー・セキュリティに対するAIの適用は既に一部で実施されているが、今後ますますサイバー戦における防御、攻撃、情報収集の全ての分野でAIが活用されるであろう。
・AIによるデータ融合、情報処理、情報分析も有望な分野だ。
身近な例で言えば、AIを活用した小型で性能の高い自動翻訳機が完成するであろう。もはや語学を真剣に勉強しなくても困らない時代が来る可能性がある。
・目標確認、状況認識(SA)の分野で、例えば顔認証技術に関しては中国は世界一の可能性がある。
・ウォーゲーム、戦闘シミュレーション、訓練の分野はAIを早期に適用できる分野だ。
・指揮・意思決定、戦場管理の強化の分野におけるAIについては記述の通りだ。
・兵站および輸送分野。例えば、AIによる補給、整備、輸送などの迅速かつ最適な兵站計画の作成などに適用できる。
・戦場における医療活動、体の健康と心の健康の両方の分野でAIが適用されるであろう。意外な分野として、心の健康のためのカウンセラーをAIが代用する案は有望だ。
中国による最先端技術の窃取への対処が喫緊の課題
中国は、なりふり構わずに、「科学技術強国」「2030を目標にしたAI強国」「中国製造2025」の実現を目指している。
目標達成のために、米国をはじめとする諸外国からの先端技術の窃取を国家ぐるみで行っている。
その手段は、サイバースパイ活動(ハッキング)、人によるスパイ活動、最先端技術を有する外国企業の買収、中国に進出する外国企業に先端技術情報の提供を強制するなどにより入手している。
これらの不法な情報窃取に対して危機感を露わにする米国は、様々な手段を駆使してこれに対処しようとしている。
例えば、米司法省は、中国へ先端技術情報を持ち出す産業スパイの検挙を強化する「チャイナ・イニシアティブ」を実施している。
また、中国企業による米国ハイテク企業の買収禁止の措置などを行っている。米中貿易戦争に伴うハイテク製品の輸出禁止なども行っている。
また、ウミガメと呼ばれる中国人への対処も重要だ。
ウミガメとは、米国に留学し、卒業後にGAFAなどの有名な民間企業で働き、最先端技術を身に着けたのちに、中国本土に帰りその技術を活用する人のことを言う。
これを防ぐための措置(例えば中国人留学生の制限など)を検討している。
結言
中国は、「科技強国になる」「2030年までに世界のAIイノベーション・センターになる」などの明確な目標を設定し、国家ぐるみでその実現に向け邁進している。
また、中国は、目的のためには手段を選ばない、汚い手段を使うことを厭わないやり方を採用している。
その結果として、米中のAIなどのハイテク覇権争いにおいて、圧倒的に優位な立場にあった米国を中国が激しく追い上げる状況になっている。
この状況に危機感を抱いた米国は様々な方策を駆使して、ハイテク覇権争いで中国に勝利しようとしている。
それでは日本の状況はどうであろうか。
日本のAI開発に関する国全体としての明確な戦略や目標はなく、国家ぐるみの態勢にもなっていない。
例えば、IT戦略の中で、安全保障(軍事)の視点が欠如している。その典型例が「AI戦略実行会議」であり、防衛省からの参加者はいない。
AIを国家レベルで考える場合、安全保障は不可欠な観点であることを考えれば問題があると言わざるを得ない。
また、我が国では、アカデミア(大学など)における軍事分野の研究に対する拒否感が強すぎ、AIの軍事適用などに対するアカデミアの拒否感にも強いものがある。
その一方で、中国の各種工作(サイバースパイ活動、会社・大学からの知的財産の窃取)に極めて甘く、実効的に対処できてはいない。
日本は、中国による各種工作にあまりにも無防備である。
我が国がAIなどのハイテク技術において米中に完全に置いていかれないためにはやるべきこと(AIなどのハイテク技術に関する国家ぐるみの態勢の構築、憲法の改正、スパイ防止法の制定、民間企業・アカデミア・マスメディアにおける危機意識の向上など)をスピード感を持って遂行すべきだ。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54839
グーグル、ついに自動運転車を使った配車サービス
米国初の商業サービス、年内開始の目標を達成
2018.12.7(金) 小久保 重信
グーグル系ウェイモと英ジャガー、自動運転車開発で提携
ポルトガルのリスボンで開かれた会合で自動運転車についてスピーチするウェイモのジョン・クラフチック最高経営責任者(CEO)(2017年11月7日撮影、資料写真)。(c)AFP PHOTO / PATRICIA DE MELO MOREIRA〔AFPBB News〕
米グーグルのグループ会社「ウェイモ」が、米国で初めて自動運転車を使った商業サービスを開始したと話題になっている。
同社の、ジョン・クラフチック最高経営責任者(CEO)は、かねてから今年の年末までに自動運転車を使った商業サービスを始めると述べていたが、それが現実のものになったというわけだ。
12月5日にアリゾナで開始
サービスの名称は「Waymo One」。利用者がモバイルアプリを使って自動運転車を呼び、目的地までの移動に利用するというものだ。同社はこれを12月5日、アリゾナ州フェニックスの周辺地域で始めた。
当初サービスを利用できるのは、すでに公開試験プログラムに参加していた数百人程度の住民。また、対象となるのは、チャンドラー、メサ、テンピ、ギルバートといった一部の地域に限られる。そして当面は、安全を確保するため、運転席にドライバーが座るという。
営業体制は、24時間、年中無休。料金は、時間と距離で決まるが、利用者にはアプリで予約する際に、おおよその金額が表示される。
ウェイモは今後、サービス対象地域を拡大したい考えで、やがては、ドライバーなしの自動走行を行う計画である。
自動運転車を使った配車サービスについては、米ウーバー・テクノロジーズや米ゼネラルモーターズ(GM)傘下のGMクルーズなどが、実用化を目指して試験走行を行っている。
ただ、米国では今年(2018年)3月、ウーバーの車両が試験走行中にアリゾナ州テンピで歩行者をはねて死亡させる事故が起きた。それ以来、各社の公道試験走行は、厳しい監視の対象になっていると伝えられている。
ほぼ10年の歴史、グーグルの自動運転開発
ウェイモは、グーグルが2009年から取り組んでいた自動運転車開発プロジェクトの技術を商用化する目的で、親会社のアルファベットが2016年12月に設立した会社だ。
そして、同社は昨年4月、フェニックスで「Early Rider Program」と呼ぶ自動運転車の公開試験プログラムを開始。これにより、交通ニーズや公共交通機関としての自動運転車の使い勝手などを調査してきた。
また同社は、欧米自動車大手のフィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)と提携し、昨年1月、共同開発による自動運転車を披露した。
英フィナンシャル・タイムズによると、ウェイモは現在、自動運転仕様を施した、クライスラーのハイブリッドミニバン「Pacifica(パシフィカ)」を600台保有している。
先ごろは、フィアット・クライスラーやジャガー・ランドローバーと新たな契約を結んだ。これにより近い将来、配車サービスに使う車両を8万2000台に増やす計画だと同紙は伝えている。このほか、ウェイモは米国の20以上の都市で、走行試験を行っている。
投資家は今後の事業展開に期待
こうした、ウェイモ事業の動向を投資家は歓迎しているという。ほぼ10年にわたり、自動運転の開発を続けてきたグーグルは、この業界のリーダーであり、商業的に成功する可能性があると見られている。あるアナリストは、ウェイモ事業が今後数年にわたり、グーグルにもたらす金銭的価値は、数百億ドルに上ると見ている。
(参考・関連記事)「グーグルと配車アプリのリフトが自動運転車で提携」
米アルファベットの自動運転車。フランス・パリで開催された展示会で(2016年6月30日撮影)。(c)AFP/ERIC PIERMONT〔AFPBB News〕
ウォールストリート・ジャーナルやニューヨーク・タイムズなどの米メディアが報じるところによると、米グーグルの親会社アルファベットが設立したウェイモと、モバイルアプリを使った配車サービスを手がける米リフトは、このほど、自動運転車の技術開発で提携した。
ウェイモの自動運転車を配車サービスに
この提携の具体的な内容は明らかになっていないが、今後ウェイモはリフトの配車サービスの仕組み利用して、自動運転車の試験走行が行えるようになると、事情に詳しい関係者は話している。また両社は将来、ウェイモの自動運転車をリフトの配車サービスに導入することについても協議したという。
自動運転車の開発は、配車サービス最大手の米ウーバー・テクノロジーズも行っており、ウェイモと開発競争を繰り広げているが、折しもウェイモは、機密情報を盗んだ元従業員がウーバーに移籍し、自社技術がウーバーの技術開発に使われたとし、ウーバーを訴えている。今回のウェイモと、同業リフトとの提携は、ウーバーにとって脅威になりそうだとアナリストは指摘している。
というのもウェイモとリフトは、自動運転車の開発において強力なタッグになる可能性があると考えられているからだ。
進む企業連携
ウェイモは、グーグルが2009年より取り組んでいる自動運転車開発プロジェクトの技術を商用化する目的でアルファベットが昨年(2016年)12月に設立した会社。すでに300万マイル(約483万キロメートル)に及ぶ公道走行試験の実績を持っている。
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