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米中首脳会談、習近平の隠れた譲歩と思惑
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/12/post-11364.php
2018年12月3日(月)13時30分 遠藤誉(東京福祉大学国際交流センター長) ニューズウィーク
習近平国家主席(11月20日、フィリピンのマニラで) Mark Cristino/ Reuters
G20における米中首脳会談で習近平は、かつて反対した米半導体大手・クァルコムによるオランダ大手NXP買収を承認したが、そこには「中国製造2025」の隠れた戦いがある。これこそが習近平の日本接近への原因の一つでもある。
■米中首脳会談における合意
トランプ大統領と習近平国家主席は、12月1日、アルゼンチンのブエノスアイレスで開催されたG20 閉幕後に首脳会談を行なった。会談における主だった合意は以下の通りである。
1. 来年1月からの追加関税拡大を当面はせず、90日間の猶予期間を与える(その条件として中国はアメリカの大豆などの農産物の輸入を増やす)。
2. ただし、90日以内に中国の「強制的な技術移転、知的財産侵害、サイバー攻撃」などの改善に関して米中間で合意がなされなければ、追加関税拡大を実施する可能性がある。
3. 中国がかつて反対した米半導体大手クァルコム(Qualcomm)によるオランダの半導体大手NXPの買収承認を前向きに検討する。
■中国はなぜクァルコムによるNXP買収に反対したか
米最大手の半導体メーカーで、世界一でもあるクァルコムは、オランダのNXPセミコンダクターズを買収すべく、関係国(両社の株主やヨーロッパ、アメリカなど)の承認を得ていたが、中国が独禁法に違反するとして反対したため、今年7月25日、買収を断念せざるを得ないところに追い込まれていた。
トランプ政権が今年8月の国防権限法でアメリカとの取引を禁止した中国の国有企業ZTE(中興通訊)がハイテク製品を製造するために用いる半導体は、ほとんどクァルコムから輸入していた。
1985年にカリフォルニア州のサンディエゴ市に創立されたクァルコムは、中国語では「高通公司」と称され、1990年台後半から中国に根を下ろしていた。2016年までは中国共産党の機関紙「人民日報」や中国政府の通信社・新華社などが、盛んに「植根中国」(中国に根を下ろしている)としてクァルコムを絶賛していた。
したがって中国政府が育ててきたハイテク産業の大手国有企業であるZTEのカウンターパートにもクァルコムを選び、ZTEはクァルコムの半導体を購入する以外の方法ではハイテク製品を製造できないほどの切り離せない緊密な関係になっていた。
11月22日付のコラム<米中対立は「新冷戦」ではない>でも触れたように、クァルコムのジェイコブス会長兼CEOは、長いこと清華大学経済管理学院顧問委員会の委員だった。習近平のお膝元にいたのである。
そのクァルコがオランダの大手半導体メーカーであるNXPを買収しようと計画したのは2017年初頭のことだ。
習近平政権が2015年5月に「中国製造2025」を発布して、2025年までに中国が必要とする半導体の70%の自給自足を完遂させようと走り始めた矢先のことである。2025年までは何としてもクァルコムの支援が必要だった。
しかしトランプ政権になってから中国のハイテク産業への締め付けが厳しくなってきた。クァルコムの存在は中国にとって不可欠なほど重要だったのに、アメリカ議会は国防権限法を可決してZTEとの取引を禁止してしまった。
それに伴いクァルコムのジェイコブス会長兼CEOの名前は、今年10月末に顧問委員会リストから消えてしまったのだ。
つまり、中国は何としてもクァルコムを中国を中心として事業展開する半導体メーカーに留めておきたかったのに、それが許されなくなった以上、クァルコムがNXPを買収して拡大することなど、容認できないと考えたのだろう。だから独禁法を理由に買収に反対したのだが、習近平はこのたび、「クァルコムが再度買収の意思表示をしたら承認します」と、トランプに直接告げたわけである。これは一種の降参だ。
■その埋め合わせは日本を使って
しかし、その埋め合わせを習近平はきちんと計算している。日本に接近し、日本からの半導体を輸入することによって2025年までを持たそうとしているのである。もちろん、日本にはクァルコムに相当したようなハイレベルの半導体を製造するだけの技術はない。その技術を持っているのは中国の民間企業である華為(Hua-wei、ホァーウェイ)専属の子会社ハイシリコンである。しかしハイシリコンはホァーウェイに対してのみ半導体の成果を提供し、絶対に他社には渡さない。
そこで中国は、11月23日のコラム<米中対立における中国の狡さの一考察>で触れたように、清華大学の校営企業から出発した「清華紫光集団」(ユニグループ)が買収したスプレッドトラムや長江ストレージなどに集中的に投資して「紅い半導体」の強化を図ろうとしている。ユニグループは今では中国政府との混合所有制を実施していて、一種の国有と位置付けてもいい存在だ。
ZTEを見放したわけではないが、その代替を「清華紫光集団」に賭け、アメリカからの締め付けによる半導体業界全体の欠損は、日本との交流で埋め合わせる算段なのである。
それも「用済み」となる日は、まもなくやってくる。
日本のメディアでは、安倍首相が米中の橋渡し役を果たしたなどという文言が散見されるが、そんな中国ではない。日本を利用しているだけであることを忘れてはならない。
[執筆者]遠藤 誉
1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。著書に『「中国製造2025」の衝撃 習近平はいま何を目論んでいるのか』(2018年12月22日出版)、『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『卡子(チャーズ) 中国建国の残火』(中英文版も)、『チャイナ・セブン <紅い皇帝>習近平』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』、『チャイナ・ジャッジ 毛沢東になれなかった男』、『中国動漫新人類 日本のアニメと漫画が中国を動かす』など多数。
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