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プーチン大統領は「日ロの領土交渉に疲れた」
解析ロシア
2018年9月28日(金)
池田 元博
日本に提案された平和条約の意味、ルキヤノフ氏に聞く
一切の前提条件なしに、年末までに平和条約を締結しよう――。ロシアのプーチン大統領が今月中旬、ウラジオストクでの東方経済フォーラムの全体会合で意表を突く提案を日本に投げかけた。その意図はなにか。ロシアの著名な国際政治学者フョードル・ルキヤノフ氏にモスクワで話を聞いた。
東方経済フォーラムでパネルディスカッションに出席する安倍晋三首相(左)、ロシアのプーチン大統領(中央)、中国の習近平国家主席(右)(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
プーチン大統領はフォーラムの場でなぜ、あんな発言をしたのか。
フョードル・ルキヤノフ氏(国際政治学者):発言の場所は、ロシアにとって最も重要な東アジアのフォーラムだからだ。では大統領は何を言いたかったのか。(北方)領土問題をめぐる慎重でのらりくらりとした交渉に皆が疲れた、少なくともロシアが疲れた。このような交渉を続けても成果は見込めず、これ以上続ける意味がないと考えたようだ。
ここ数年間は日ロ間で領土問題が真剣に取り上げられ、関係進展の雰囲気が芽生えていた。プーチン大統領と安倍晋三首相の関係が良いというのは1つの要因だが、決定的なものではない。より客観的に見て主な要因は3つあった。
第1にプーチン大統領の個人的な要因だ。彼は日本に関心を持ち、2002年ごろは明らかに領土問題を解決したいと考えていた。しかも、前任者と違って解決する能力も持っていた。領土の譲歩はどの国でも最も不人気な政策で、かなり強硬で愛国主義的なイメージを持つ指導者でなければ解決できない。
例えば過去の米中関係を振り返ると、中華人民共和国を認めて対中政策を180度転換させることができたのは、極右で強硬な反共産主義者のイメージを持ったニクソン大統領だったからだ。プーチン氏の政策はクリミア半島の編入もそうだが、国家の利益をしっかりと守り、誰にも譲らない指導者の印象が強い。
第2の理由は中国の台頭だ。もちろん日中と中ロの関係は非常に異なっており、ロシアは中国を脅威だと感じていない。ただし、中国の台頭にはロシアも一定の警戒を抱かざるを得ない。そこでロシアはアジアで強まる中国の影響力を考慮に入れ、(日本という)中国のカウンターバランスを探そうとした。
第3の理由は日本の経済協力。ロシアの東方シフトは非常にゆっくりで、ぎこちなく非効率的だが、それを確実に進めるにはロシアのアジア地域の発展を成し遂げる必要があった。日本は欠かせないパートナーで、経済協力の主要な相手とみなされた。
日本への期待が裏切られつつある
では現在、日本とロシアの間で何が起きているか。
フョードル・ルキヤノフ氏
ロシア有数の国際政治学者で、外交専門誌「世界政治の中のロシア」編集長。プーチン大統領の外交ブレーンとしても知られる。モスクワ大学卒。1967年2月生まれ、51歳。
ルキヤノフ氏:日本との経済協力からみてみると、ロシアでは日本への期待が裏切られつつある。そんな印象が強い。日本は実は大規模な経済協力には関心がない、または関心があっても領土問題の解決に結びつけようとしていると解釈している。実際に投資総額をみてもそれほど伸びておらず、期待が裏切られたことは明白だ。
次に中国のカウンターバランス。米国にトランプ大統領が登場したことで、世界情勢は直近2年間で一変した。中国は自らの地位と役割、対米関係の軸足を見直しつつある。中国は最近まで、グローバル化に伴う相互依存が大国間の政治問題解決につながると本気で信じていた。今になって突然、そうでないことがわかった。トランプの対中政策は非常に強固で、なんら妥協を許さない。
こうした状況で、ロシアもカウンターバランス論の意義が薄れた。中ロはともに米国の厳しい圧力を受けており、米国に対して中ロの連帯を示す意義の方がより重要になっている。安倍晋三首相はトランプ氏と良い関係を築いた数少ない世界の指導者だ。単純化すれば、中ロと日米という新たな対立の構図が浮かび上がりつつある。米国が強い対ロ制裁圧力をかける中、米国の同盟国である日本が大規模な対ロ投資をすることも考えられない。
最後にプーチン氏の日本への関心だが、これも変化がある。プーチン氏は相変わらず人気が高く、強い指導者のイメージも維持しているが、大統領の任期は最終段階にきている。後任者への権力移譲をどう円滑に、利害を伴わない形で進めていくかという非常に困難な課題に直面している。スムーズに進めるには何より社会の結束が必要で、社会の分裂はどうあっても避けねばならない。領土問題が逆に社会の分裂を助長するのは、ロシアに限らず世界の常だ。
プーチン氏は妥協も取引もできる指導者だが、具体的な対話、具体的な成果を望む。話は全く違うが、シリア問題では突然、トルコのエルドアン大統領との間で北西部イドリブ県への軍事攻撃をしないことで妥協して柔軟性を示した。エルドアン氏との関係は複雑で信頼関係も薄いが、それでも具体的な課題や目標があれば、プーチン氏は困難で複雑な決定を下す。
ところが日本との(領土)交渉は異なる。終わりのないプロセスが続き、誰もが率直に何をしたいか、核心の話をせずに互いに強い制約の下で交渉する。結果として、そういう状況に皆が疲れてしまった。プーチン氏も残された時間が少なくなり、もう時間を無駄にしたくないのだろう。
領土問題解決のベストな時期はもう過ぎた
プーチン発言の趣旨は結局、このままダラダラ交渉を進めても領土問題は永久に解決しないと伝えることだったのか。
ルキヤノフ氏:そうだろう。
北方領土交渉を前進させる余地はないのか。
ルキヤノフ氏:解決の道は閉ざされたわけではない。プーチン氏は本当に日本との領土問題を解決したかったと思う。ただし、ベストな時期はもう過ぎた。3〜4年前はプーチン氏が権力の頂点にあり、中国の影響力もさほど大きくなく理想的な時期だった。今もチャンスは残っているが、非常に困難になってきた。国内の抵抗を押し切るには相当な努力が互いに必要で、具体的な行動も不可欠だ。
世界の趨勢をみてみると、妥協を容認しない時代が到来してきている。とても想像しにくいが、プーチン氏の後任者が誰であれ、この問題に立ち戻るのは難しい。それには多大の時間と、強硬な国家主義者として力を持つための政治家としての潜在力が必要になる。
日本も安倍首相の後継者が誰であっても、彼ですらできない問題を自分で解決しようとする政治家が出るには相当な時間がかかる。一般論として理論上は、世界で大きなグローバルな衝突があると、複雑な問題の解決が一気に進むことがある。どの国でも優先順位が急に変わるからだ。ただ、大規模な紛争や衝突は想像しにくい。もし仮に米中の緊張が極度に高まって軍事衝突する事態になったとしても、ロシアと日本はそれぞれ対立する陣営に入るだろう。
米国はグローバルリーダーという野心を放棄した
会合には安倍首相だけでなく、中国の習近平国家主席も出席していた。日ロの接近を誇示して中国をけん制したとの見方もあるが。
ルキヤノフ氏:そうではない。中ロの首脳は親密な関係で、プーチン氏が中国にけん制のメッセージを送るとは考えにくい。何か必要なら直接話すはずだ。プーチン氏の発言は領土問題が妨げになって日ロの平和条約を締結できないという趣旨なので、習主席も文字通り受け止めただろう。
日本は今後、どのような対応を取るべきか。
ルキヤノフ氏:様々な選択肢がある。第1は何もせず、国際情勢が大きく変化するのを待つことだ。第2は真剣な取引を始めること。大きな政治的成果を手にするには、相応の犠牲とかなりの譲歩が欠かせない。これは単なる投資ではなく、両国関係そのものの次元を高める用意があるかどうかにかかってくる。
第3の選択肢は日本に限らず、欧州連合(EU)にも言えることだが、世界の政治、外交に対する認識を一変させ、(米国に従属しない)独立した立場を打ち出すことだ。トランプ政権が今のように中ロ接近を不可避にする政策を続けるなら、地域の政治的な構図が大きく変わり、中国の周辺国にとっては大きな挑戦となる。仮に紛争が起きた時にどちらが勝者になり、どちらが敗者になるかわからないからだ。
もちろん、総合力で米国が優っているのは明白だ。そういう状況はまだ長く続くだろう。だが、米国が直面しているのは内的で先鋭化した世界観の危機だ。トランプ氏はその原因ではなく、結果だ。米国がもはや20世紀後半の状況に戻ることはないし、必要だとする者もいない。米国と同盟関係を組んでいる国にとっては非常に神経質にならざるを得ない。繰り返すがトランプ氏の登場で危機が起きているのではないので、さらに将来への不安は強まる。
韓国、ベトナム、シンガポール、マレーシアのようにさほど大国でなければ(米中の)どちらかにつくしかないが、日本のような大国は複雑で、理論上は独立した立場を打ち出す可能性が生じる。つまりどちらにも付かず、独立した立場で紛争の影響を避ける外交政策を取ることもできるはずだ。
総括すると、日ロの領土問題は20世紀に生まれた問題だ。20世紀は終わったのに、我々は20世紀型の論理、認識、手法によって領土問題を解決しようとする努力を傾け、交渉を続けてきた。しかし、20世紀は終わった。
20世紀型の論理が終わったのはロシアがそう望んだからでも、中国の野心が高まったからでもない。米国がそう決めたからだ。米国がグローバルリーダーになると宣言したのは1917年、ウィルソンが第1次世界大戦への参戦を表明した時だ。それからちょうど100年たって、米国はグローバルリーダーという野心を放棄した。トランプ氏が大統領となり、就任式で米国第一と打ち上げたからだ。なぜなら米国第一は、米国でウィルソンに反対して我々には何もいらないと主張した孤立主義者のスローガンだったからだ。
ただし米国が孤立主義を打ち出し、米国が弱体化する事を意味するわけではない。米国は引き続き世界最大の国力を持つプレーヤーの立場を保つ。とはいえ、米国にとって自ら志向する優先順位が全く変わってくる。そのため米国の同盟国である日本も、米国の敵対国であるロシアもいずれ変わらざるを得なくなる時がやってくるはずだ。
このコラムについて
解析ロシア
世界で今、もっとも影響力のある政治家は誰か。米フォーブス誌の評価もさることながら、真っ先に浮かぶのはやはりプーチン大統領だろう。2000年に大統領に就任して以降、「プーチンのロシア」は大きな存在感を内外に示している。だが、その権威主義的な体制ゆえに、ロシアの実態は逆に見えにくくなったとの指摘もある。日本経済新聞の編集委員がロシアにまつわる様々な出来事を大胆に深読みし、解析していく。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/report/16/040400028/092600062/
日露首脳会談、プーチン氏は日本に対し前向き
総裁選3選後も安倍首相の課題は山積み
田原総一朗の政財界「ここだけの話」
2018年9月28日(金)
田原 総一朗
安倍首相とロシアのプーチン大統領が9月10日に首脳会談(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)
9月20日投開票の自民党総裁選で、石破茂氏は予想を大きく上回る健闘をしたと思う。僕は、石破氏は地方党員票150票を獲得できれば健闘と言えると考えていた。それが実際は全党員票の45%にあたる181票を得た。これは大健闘である。
議員票も同じだ。石破氏の議員票は50票超と予想されていた。しかし、ふたを開けてみれば73票を獲得。こちらも予想を大きく上回った。
それでも今回の総裁選は投票前から結果が見えていた
なぜ、石破氏は予想を上回る票を獲得したのか。やはり、これは自民党内部にも安倍晋三首相に対する不満や不信感が募っているからだと思う。表面化しているわけではないが、内側では不満が拡大しているのだろう。
この結果を経て、自民党はどう変わるのか。今の自民党は、安倍首相のイエスマンで多数が占められ、森友・加計問題のような不祥事が起こっても内部から反論の声すら出て来ない。論争がなくなってしまったのである。
さらに言えば、野党が弱いことも相まって、もはや周囲はほぼ全て安倍首相のイエスマンとなっている。本コラムでは何度も指摘しているが、こういった構図から安倍首相をはじめとする自民党議員たちの神経が緩み、数々の問題が起こってしまった。いわば、自民党の劣化である。
石破氏が健闘したのは確かだが、今回の総裁選は投票前から結果が見えていた。
安倍首相の勝利は確実だった。特に議員票は、安倍首相に極めて有利だったといえる。国会議員は、できるだけ早く党の役員や大臣のポストに就きたいから、安倍首相に気に入られたいと考える。だからこそ安倍首相のイエスマンになっているし、今回の総裁選でも安倍首相は議員票を多数獲得した。
しかし、地方の党員はそれほど安倍首相の後ろ盾を必要としていない。石破氏はそこで地方で多くの支持を得ることができた。
三選となった安倍首相にとって最大の課題は経済
これからの自民党にどのような変化があるだろうか。一つ言えるのは、石破氏の存在感が増したことだ。
もし、来年7月に控える参議院選挙で、野党が一本化することがあれば、野党勝利の可能性はゼロではない。野党が勝利すれば、安倍首相は辞任せざるを得なくなる。その時は石破氏がトップに立つだろう。今も自民党に強い影響力を持つ青木幹雄氏は、それを狙っている。
総裁選三選となった安倍首相にとって最大の課題は経済だろう。今、アベノミクスは相当行き詰まっている。借金財政に陥り、日銀も出口戦略がない。2020年の東京五輪後に不況が訪れる可能性もある。こういった数々の経済問題を打開できるのか、経済問題を最も危惧しているのは、安倍首相本人だろう。
もう一つの課題はトランプ米大統領とどう付き合っていくか。トランプ大統領は「米国第一主義」を掲げ、オバマ氏とは異なる政策をとっているからだ。多くの問題は残されたままだ。一体どのように対応していくのか、注意深く見守っている。
プーチン大統領は、日露関係を前進させようとしている
9月10日、安倍首相とロシアのプーチン大統領との首脳会談が行われた。プーチン大統領は領土問題などの前提条件を抜きにした日露平和条約を提案した。これはちゃぶ台をひっくり返すような大問題である。
僕はすぐにあるロシア通に連絡をとって話を聞いたところ、「大丈夫だ、これは前向きに捉えた方がよい」という答えが返ってきた。悲観することはなく、むしろプーチン大統領は日露関係を前進させたいという意欲がある、と捉えるべきだというのだ。
それでもこのままでは北方領土は返ってこない。というのは、この問題は日露だけの問題ではないからである。
かつてロシア側が「北方領土2島が日本に返還された場合、米軍は2島に進駐するのか」と日本政府に尋ねたところ、日本側は「進駐する」と答えた。この前提が覆らない限り、プーチン大統領は絶対に北方領土を返さないだろう。
日米地位協定と北方領土問題
つまり、安倍首相が「絶対に米軍が北方2島には進駐しない」ということをプーチン大統領に約束しなければ、北方領土問題の話は進まないのである。今後、安倍首相が米国と交渉し、日米地位協定を改正することができれば、北方領土が返還される可能性が出てくるかもしれない。
僕は安倍首相に、「米国の要求通り、日本は安保関連法案を成立させたのだから、日米地位協定も変えるべきだ」と話したことがある。すると、「実は検討しています」と言う。「成果が全く見えていないじゃないか」と僕が言うと、安倍首相は「実は、米国が表に出さないで欲しいと言ってきている」と答えた。
日本政府は、水面下で動いているようだが、まだ結論は出ていないようだ。安倍首相が日露関係をどう進めていくのか。ここにも引き続き注目していく。
『AIで私の仕事はなくなりますか?』(講談社+α新書) 田原 総一朗著
84歳になったジャーナリスト・田原総一朗が、人工知能=AIに挑む。
AIは社会をどう変えるのか/AIは日本人の雇用を奪い、「勝ち組」と「負け組」の格差を拡大させる悪魔の技術なのか/世界の企業はグーグルの下請けになるのか/日本の産業を「小作人」化の悪夢からどう救うか/銀行のビジネスモデルは崩壊寸前?/中国の「情報独占」の恐怖……などの疑問を、世界最先端の研究者たちに真正面から問う。
グーグル=グレッグ・コラード、プリファード・ネットワークス=西川徹、トヨタ・リサーチ・インスティチュート=ジェームス・カフナー、東京大学=松尾豊、ドワンゴ人工知能研究所=山川宏、経済産業省=柳瀬唯夫ら世界を代表する面々が総登場する、驚異の一冊!
このコラムについて
田原総一朗の政財界「ここだけの話」
ジャーナリストの田原総一朗が、首相、政府高官、官僚、財界トップから取材した政財界の情報、裏話をお届けする。
https://business.nikkeibp.co.jp/atcl/opinion/16/122000032/092600088/?ST=editor
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