#何度も言っている通り、完全に予想通りの展開 米朝交渉行き詰まり、非核化合意の実施に暗雲 両国が相手の譲歩不足を責め合う展開に
米朝首脳会談で合意文書に署名後、握手を交わすトランプ大統領(右)と金正恩委員長(6月12日、シンガポール) By Jonathan Cheng and Andrew Jeong 2018 年 9 月 4 日 13:15 JST
【ソウル】北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長とドナルド・トランプ米大統領が握手を交わし、北朝鮮の非核化と両国関係の見直しに合意してから約3カ月。合意の実施に向けた協議で次にどちらが譲歩すべきかを巡って事態は行き詰まっている。 こうした膠着(こうちゃく)状態は、北朝鮮とのデリケートな緊張緩和を妨げる恐れがある。両サイドとも何週間にもわたる協議で自分たちは譲歩してきたと主張しているが、非核化手順や平和条約締結に向けた措置について明確な合意は現在のところ成されていない。 北朝鮮問題の米特別代表に新たに指名されたスティーブ・ビーガン氏は近く韓国と日本を訪問する見通しだ。同氏は先月、マイク・ポンペオ国務長官と共に初めて北朝鮮を訪問する予定だったが、直前にトランプ氏が中止を命じていた。 トランプ氏は正恩氏との強力な個人的関係を自賛してきたが、協議の停滞によって6月12日の米朝合意の欠点が露呈しつつある。両指導者が署名した文書は500語にも満たず、北朝鮮の非核化達成に必要なスケジュールや工程表は盛り込まれなかった。 トランプ氏によるビーガンとポンペオ両氏の訪朝中止の決定は、事態が思うように進展しないことへの不満の高まりを表している。 北朝鮮が2017年7月に配信した大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射の様子を捉えた画像 こうした事態の行き詰まりは、北朝鮮政権の誠実さに対する米当局者や北朝鮮専門家の懸念を物語っており、正恩氏に核兵器を手放す意思があるのかどうかについてあらためて疑問が生じている。北朝鮮が前回核実験を行ったのは1年前の2017年9月3日だ。 ニッキー・ヘイリー米国連大使は先週、北朝鮮が「非核化について考えを変えているかもしれない」と述べ、米国が対北制裁を続ける意向を示した。 合意が免罪符に 元米国務省高官でコンサルティング会社オルブライト・ストーンブリッジ・グループの北朝鮮専門家のエバンス・リビア氏は、トランプ氏が期待値を上げ、北朝鮮が非核化に同意したと主張することで「北朝鮮政権に免罪符を与え、(正恩氏にとって)都合のいい言い訳を与えることになった」と話す。 その一方で正恩氏は「核・ミサイル開発プログラムを強化し、米政府に対して非核化はあり得そうにないとのシグナルを送っている」とリビア氏は指摘する。 今夏に撮影された衛星写真からは、北朝鮮が兵器開発を進めている可能性がうかがわれる。平壌郊外のミサイル施設に最近2棟の新しい建物が建設され、製造が続けられているとみられる。また、咸興(ハムフン)市にある固形燃料型ミサイルの主要コンポーネント製造施設を拡張したり、寧辺(ニョンビョン)の核研究施設を改修したりもしている。 両国が依然、高度な緊張関係にあることを示す兆しはほかにもある。米国は1日、「米国民が逮捕・長期拘束される深刻なリスク」があるとして、米国市民による北朝鮮への渡航禁止措置を延長した。 協議の膠着によって、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領にとってもプレッシャーが高まっている。文氏は年の大半を米朝緊張緩和の維持に費やしてきた。今月、自ら訪朝して正恩氏と会談を行うほか、5日には「北朝鮮の相手当事者との広範な協議」のために特使団を平壌に派遣する予定だ。 文氏が現在の行き詰まり状態を打破するには、米朝どちらが先に動くのか、あるいは両者同時に行動するのかを決定付ける疑問を解決する必要が恐らく出てくるだろう。 核実験場の破壊は未検証 北朝鮮は、停戦状態にある1950〜53年の朝鮮戦争を終結させる平和条約の促進を米国が宣言することを求めている。それは、北朝鮮が言うところの米国による対北「敵対政策」の終結を意味することになる。 しかし、ワシントンの外交政策機関の多くのメンバーを含め懐疑的な人たちは、北朝鮮が核に対する自らの立場を固める手段として、最初に核兵器を放棄することなく平和条約を締結することを強く望んでいるとみている。 また、北朝鮮政権は、米国との平和条約締結に向けて事態が進展し、最終的に正式な国家としての承認が得られれば、国際的な対北制裁を維持する根拠が薄れるとみているとの見方もある。 一方、米国は北朝鮮に対し、核・ミサイル施設の完全なリストと核爆弾・ミサイル在庫の引き渡しを求めている。 この問題は、北朝鮮の兵器について国内でいかに検証するかに関する疑問も生じさせる。包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)のトップは先月行われたインタビューで、北朝鮮がその誠実さの最初の証として行った地下核実験場の破壊は、専門家による検証ができておらず、納得いく措置とはほど遠いものだと述べた。 また、北朝鮮に対し、一定数の弾頭を検証のため西側に引き渡すよう求める声もある。ただし、北朝鮮が大幅な譲歩の確保や米国からの約束なしにそうした措置を取るとみている専門家はほとんどいない。 韓国国防研究院のキム・ジナ研究委員は、最新の譲歩が大々的に報じられたことから、北朝鮮が「米国に以前よりも強硬に次の措置を取るよう迫り、『平和的な体制保証と外交正常化』を持ち出すだろう」と指摘。「両サイドが『一連の行動』について合意しない限り、北朝鮮は外交努力を続けているムードを演出するだけにとどまる可能性がある」と述べる。 関連記事 米財務省、対北朝鮮制裁違反の中ロ企業に制裁発動 米兵遺骨返還、親族にもたらす高揚と苦悩 トランプ氏「非核化へ進展」 正恩氏書簡を公開
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