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米中貿易戦争、第1ラウンドはアメリカの勝ち
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/08/1-81.php
2018年8月30日(木)16時10分 ブライアン・ブレンバーグ(米キングズ・カレッジ副学長) ニューズウィーク
アメリカが要求するものの多くは中国の成長に必要なものばかりだ DAMIR SAGOLJ-REUTERS
<国際貿易の「常識」に挑戦したトランプの賭けで、中国の政治と経済の意外なもろさが明らかに>
中国にはアメリカとの貿易戦争に勝つための政治的安定と経済力があると思われていた。だが、この「常識」に対するトランプ米大統領の挑戦は、中国の意外なもろさを明らかにした。
中国がこれまで経済成長を続けてきたのは、知的財産(知財)権の侵害、自国企業への補助金、外国の競合他社への参入障壁といった不快な側面を世界の指導者が黙認してきたからだ。しかし、トランプは違っていた。
トランプは中流層の支持者に対する政治的アピールとして、関税引き上げで中国の不公正貿易と闘う姿勢を打ち出した。中国経済と政治指導者が専門家の予測よりも圧力に弱いとみて、賭けに出たのだ。今では、この判断が正しかったことを示す証拠が次々と出てきている。
貿易戦争における中国の重要な武器は経済ではない。関税引き上げ合戦になれば、中国はアメリカからの輸入が輸出に比べて少ないため、いずれアメリカと同等の報復関税を課すことができなくなる。
それでも政治的には中国が有利だとみられていた。理由は、習近平(シー・チンピン)国家主席は有権者に気を使う必要がないからだ。逆にトランプは、経済的痛みを伴う貿易戦争を始めた理由を有権者に説明しなければならない。
つまり貿易戦争では、民主主義がアメリカの最大の弱点になるはずだった。だが、現実はそうなっていない。
現在、中国経済においてアメリカの関税引き上げの影響が顕在化しつつある。一方、米経済は絶好調だ。習は意外なほど弱い立場に置かれている。民主主義社会で声高に叫ばれる政権批判の声が、共産主義国には存在しないというわけではない。表現の形が違うだけだ。
ニューヨーク・タイムズ紙によれば、不満の声は意外な方面から上がった。声の主は中国の名門大学の法学者や中国人民銀行(中央銀行)の研究者だ。
■貿易戦争の長期化は危険
批判の声を力で封じ込めても、マネーは黙らない。4月に米中貿易摩擦が激化して以来、中国の通貨・人民元は大きく下落した。この人民元安は、中国からの資本流失の始まりを示唆している可能性がある。
流出する資本の行き先は、ほぼ間違いなくアメリカだ。減税と金利上昇、力強い経済成長、規制緩和によって、現在のアメリカは魅力的な資金の逃避先になっている。米株式市場は再び史上最高値圏をうかがい、中小企業の景況感も最高に近い。
成長主導型の経済改革によって、中国との交渉で有利な立場に立てると踏んだトランプの賭けは正解だった。望みどおりのスタートを切った今、次は取引(ディール)をまとめる必要がある。
幸い、アメリカが対中貿易に求めるものの多くは、知財保護の強化、国家による関与の縮小、外国人への市場開放など、中国がもっと強くなるために必要なものばかりだ。こうした政策は、対中投資の魅力を高め、中国の革新的な企業の国外進出を後押しする公算が大きい。習が従来の立場にこだわり、自由で公正な国際貿易のルールを拒否するとしたら、大きな間違いを犯すことになる。
トランプは、明確で検証可能な改革に中国をコミットさせる取引を目指すべきだ。中国に自由で公平な貿易を受け入れさせることができれば、アメリカの企業と労働者に大きな恩恵をもたらすだろう。
関税引き上げを伴う貿易戦争が長期化することは、米中どちらの利益にもならない。中国の対抗関税は農家や製造業者など、トランプの支持基盤に打撃を与える。今は堅調な経済が痛みの一部を緩和しているが、それも永遠に続くわけではない。
中国の経済的苦境は両刃の剣だ。現時点では交渉の呼び水になっているが、状況がさらに悪化すれば米経済の下押し圧力になりかねない。
国際貿易の「常識」に対するトランプの挑戦は、自由で公正な米中貿易に向けた思わぬ突破口になった。次は取引をまとめる番だ。
<本誌2018年9月4日号掲載>
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