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米トルコ間の大人のケンカが市場の危機に
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/08/post-10831.php
2018年8月23日(木)15時40分 コラム・リンチ、ロビー・グレイマー ララ・セリグマン ニューズウィーク
エルドアン(左)とトランプは独裁色の強い大統領として意気投合したかに見えたが(2017年9月、ニューヨーク)KEVIN LAMARQUE-REUTERS
<トルコに拘束されたアメリカ人牧師の解放問題が世界の貿易や金融市場まで不安に陥れている理由>
トルコとアメリカの関係が悪化している。直接的なきっかけは、16年7月にトルコで起きたクーデター未遂事件に関与したとして、アメリカ人牧師が拘束されている問題だ。
いつまでたっても牧師が解放されないことに業を煮やした米トランプ政権は、トルコに対する経済制裁を発表。すると通貨トルコリラが急落して他の新興国通貨も「連れ安」の展開に。果たしてこの問題は、世界経済を揺るがすレベルに発展するのか。状況を少し整理しておこう。
■これまでの経緯
クーデター未遂事件に関わったとして16年10月にトルコ当局に逮捕されたのは、米ノースカロライナ州出身のアンドルー・ブランソン牧師(50)。ドナルド・トランプ米大統領の支持基盤の1つとされるキリスト教福音主義派の所属で、90年代半ばにトルコを拠点に移した。
トルコ当局がブランソンの解放に応じないため、トランプは8月10日、トルコから輸入される鉄鋼とアルミニウムへの関税率を、他国製品の2倍に引き上げると発表。これがトルコリラの急落につながり、世界経済全体に動揺を与えた。
とはいえ、トルコ経済はかなり前から危険をはらんでいた。確かにレジェップ・タイップ・エルドアン大統領が権力を握って以来(首相時代を含む)、トルコ経済は外国資本と建設ブームに支えられて急成長を遂げてきた。だが、最近の世界的な金利上昇と、新興国ブームの一服感から、トルコの好況にも終止符が打たれる可能性はあった。
トルコの対外債務の大部分はドル建てのため、大幅な通貨安はその負担を重くする。それでもエルドアンが7月に娘婿を財務相に指名したことは、「通貨危機の可能性があっても利上げはしない」という決意表明に等しいと、米アトランティック・カウンシルのアーロン・スタイン上級研究員は指摘する。
■新興国への思わぬ余波
アメリカの追加関税やトルコリラの急落は、かねてから南アフリカやアルゼンチンなど新興国全般に対してくすぶっていた不安を大きくした。
「このように緊張を悪化させる措置は、他の新興国やヨーロッパの銀行、さらには米経済にまで金融不安を拡大させる恐れがある」と、米商工会議所のマイロン・ブリリアント副会頭兼国際担当責任者は14日に指摘した。「米商工会議所は以前から、報復的な貿易戦争を吹っ掛けて同盟国を遠ざければ、米経済と世界のリーダーとしての地位の両方を傷つけると警告してきた」
それでも米国務省のヘザー・ナウアート報道官は、悪いのはトルコだという姿勢を崩していない。14日の定例会見でも、「(トルコ)経済の苦境は、(アメリカの)制裁で始まったものではない」と突き放した。
コーネル大学のエスワー・プラサド教授(経済学)は、こうした姿勢の危うさを指摘する。これを機に伝統的なアメリカの同盟国が、もはや貿易面でアメリカを信頼することはできないと考え、ロシアや中国の陣営に傾く可能性があるというのだ。
■安全保障上のリスク
トルコはNATO加盟国であり、いわば「西側同盟」の南側を守る要衝だ。そのトルコに厳しい態度を取れば、アメリカ自身の首を絞めることになりかねないと専門家は指摘する。
例えば、トルコ南部のインジルリク空軍基地は、隣国シリアでアメリカが展開するテロ組織ISIS(自称イスラム国)掃討作戦の重要な拠点となってきたし、B61核爆弾の備蓄場所として、ヨーロッパの核抑止力の要にもなっている。
トルコはその地理的位置付けゆえに、シリア経由で地中海への進出を図るロシアに対しても特別な影響力を持つ。「トルコは地理的に計り知れないほど貴重な位置にある」と、レキシントン研究所のローレン・トンプソンは語る。「これは米政府にとって根本的な問題だ」
トランプは制裁の一環として、トルコに対するF35戦闘機の売却を凍結したが、それはこの地域におけるアメリカ自身の立場を複雑化させる恐れがある。
トルコは近年、アメリカの戦略上のライバルであるイランとロシアに接近してきた。エルドアンはニューヨーク・タイムズ紙への寄稿で、アメリカがトルコの懸念に対処しないなら、「新たな友人や同盟国を探し始め」なければならないと警告を発した。
これを「はったりだ」と切り捨てる声もあるが、トルコと欧米諸国の決裂は不可避とみる専門家もいる。トルコの元国会議員で、現在はアメリカのシンクタンクに所属するアイカン・エルデミシュによると、アメリカとトルコの対立は牧師解放をめぐる問題よりもはるかに深刻だ。「エルドアンはしばらく前から、米欧同盟から距離を置き、ロシアとイランに接近している。トルコとNATOの関係が危機に陥るのは時間の問題だ」
アトランティック・カウンシルのスタインの見解はちょっと違う。トルコにとってNATOの一員であることは非常に重要だというのだ。「トルコはNATOを離れたくないはずだ」
■似た者同士のリーダー
強烈なエゴイストで、比較的マイナーな問題も大騒ぎに発展させる傾向があるという意味で、トランプとエルドアンは似た者同士の大統領だ。変なところでプライドの高い2人が対立しているために、ブランソンの解放は通常の外交問題よりも厄介な問題に発展している。
トランプは7月のNATO首脳会議でエルドアンに会ったとき合意が成立したと思ったらしい。イスラエルで拘束されているトルコ人女性の解放をトランプが取り計らい、トルコはブランソンを解放するという取引(ディール)だ。
ところがトルコ人女性が解放されても、ブランソンの自宅軟禁は続いた。激怒したトランプはトルコに対する追加関税をツイッターで発表。トルコリラは「非常に強いドルに対して急落するだろう!」と言い放った。
国務省のナウアートは8月14日、ブランソン解放に向けた交渉は続いていると述べた。だが2人の頑固者リーダーが、ここまで派手な騒ぎに発展した問題で、振り上げたこぶしを簡単に下ろすかどうか。世界中の市場は当面、はらはらしながら展開を見守ることになりそうだ。
From Foreign Policy Magazine
<本誌2018年8月28日号[最新号]掲載>
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