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ヨーロッパによみがえった奴隷貿易
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/08/post-10803.php
2018年8月20日(月)15時30分 広岡裕児(在仏ジャーナリスト) ニューズウィーク
リビアの奴隷オークションの存在が暴かれ、ロンドンで抗議デモが行われた(2017年12月) Peter Nicholls-REUTERS
<奴隷の供給元はアフリカ、仕入れて売るのはヨーロッパの仲介業者だ>
イタリア南部のフォジアは、トマトの一大産地である。アドリア海の輝く太陽に恵まれてイタリアの全生産量の4分の1以上を占める。ここで、EUの移民問題の根深さを痛感させる事件が起こった。
8月4日と6日、仕事を終えた農業労働者が、窓もない有蓋小型トラックにすし詰めにされて帰る途中トマトを運ぶ車と衝突し、乗っていた16人のうち4人が負傷した。全員がアフリカ出身の不法移民で、いまだにどこの誰だかわからない。
こうした動物並みの扱いに、100人ほどの移民労働者が「もう我慢ならない」と抗議のデモをした。アフリカ出身者を中心に、「我々は労働者だ。家畜じゃない」「ゲットー反対、仕事に尊厳を」などと手書きのプラカードをもった参加者の中にはポーランド人、ブルガリア人、インド人もいた。
彼らは、不潔な貧民街やバラックに住み、朝まだ暗い頃来る小型トラックに定員の倍にもつめこまれて畑に行き、猛暑の中10〜12時間働く。休憩はせいぜい30分。そして時給は2〜3ユーロ(260〜390円)、法律ではイタリアの農業労働者の最低賃金は時給7ユーロで、1日の法定労働時間は最高7時間。
労働組合によれば、この地方では40万人が農業労働者として働いているが、そのうちの15万は無届だという。デモをしたのは、死んだ不法移民とはちがい、滞在許可証をもっていたり、亡命申請中だったりして正規に居住している人々。だが、労働は無届なので、保険も何もない。
■仲介は禁止されたが
6日に事故を起こしたトラックはルーマニアナンバーだったが、労働者たちは国際マフィアが牛耳る仲介業者に雇われている。すでに、10年以上前から時々摘発があり、3年前には仲介業自体が禁止されている。だが、まったく状況は変わっていない。
デモの参加者は「奴隷労働はもうたくさんだ」と叫んだが、その前日8月7日、スペインでは、アフリカからの「奴隷」密輸の大規模な組織を摘発したと発表された。
今年の1月、スペイン北部フランス国境に近いバスク地方のサンセバスチャンの長距離バスターミナルで毎日何回も数名のアフリカ人を出迎えて駅に連れて行く不審者たちに気づいたスペイン警察が捜査を開始した。欧州警察機構(ユーロポール)の欧州移民密輸センター(EMSC)も協力を依頼し、同機構は臨時事務所をつくって分析作業を行った。
こうして7月末、サンセバスチャン郊外で6人、マドリードで1人容疑者が逮捕された。また、フランスへの密入国を待っていた8人の移民も救出された。
犯人はスペインのサンセバスチャンを中心に、ビルバオ、マドリード、フランスに拠点を持ち、金品の密輸と同じく「注文」を受け付けていたという。
マリ、セネガル、コートジボワール、ギニアなどフランス語圏に募集グループがあり、旅行会社を装い、ヨーロッパでの仕事を斡旋するともちかけて代金を支払わせる。陸路、地中海沿岸までいき、別のグループに引き渡され、少人数で小型船でスペインに渡る。
偽のパスポート・身分証明書書類でスペインに入国すると、スペイン国内の組織に引き渡されてバスク地方まで移動する。ここからフランス国境を越えて「買主」の組織に渡されるのだ。
国境を越えるには、バスや鉄道のほか、タクシーも使われる。1台に5人乗せ、タクシー業者は一人当たり150ユーロ(2万円)の報酬を受け取ったという。
こうして密輸された移民は、農場で闇労働させたり、乞食のグループに入れられたりする。「フランス、英国、ドイツでは4、5人のアフリカ人を買い、教会やスーパーマーケットの入り口で物乞いさせたり、馬小屋ではたらかせたりする」と、ラジオのEurope1でスペインの不法移民対策局情報部長は言う。働けたとしても、労働したとしても、イタリアの例よりももっとひどくて、月に100ユーロもらえるかどうかだという。
警察発表によれば、このルートで密輸されたのは300人程度。これは氷山の一角だ。
フォジアの農業労働者の声に対してイタリアのマテオ・サルビーニ内相は「マフィアの仕業だ、断固とした措置を取る」としながらも「移民が来るからこんな業者がはびこるのだ」と持ち前の移民批判を忘れなかった。
スペインの奴隷貿易も、出稼ぎしたくてお金を払ったアフリカ人が悪いのだろうか。
広岡裕児
1954年、川崎市生まれ。大阪外国語大学フランス語科卒。パリ第三大学(ソルボンヌ・ヌーベル)留学後、フランス在住。フリージャーナリストおよびシンクタンクの一員として、パリ郊外の自治体プロジェクトをはじめ、さまざまな業務・研究報告・通訳・翻訳に携わる。代表作に『EU騒乱―テロと右傾化の次に来るもの』(新潮選書)、『エコノミストには絶対分からないEU危機』(文藝春秋社)、『皇族』(中央公論新社)他。
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