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ランボルギーニなど高級車をペチャンコに! ドゥテルテ大統領、密輸対策で驚愕のショー
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/08/post-10768.php
2018年8月11日(土)19時00分 大塚智彦(PanAsiaNews) ニューズウィーク
オートバイの奥でブルドーザーに押しつぶされているのはランボルギーニ。もったいない……。(c) フィリピン大統領府
<バリバリと轟音をたててブルドーザーが高級車を押し潰す。フィリピンの密輸撲滅対策のPR活動の一環だ。こんな荒療治が必要とされる理由とは?>
フィリピンのドゥテルテ大統領が同国内に違法に密輸入された外国製高級自動車68台とオートバイ8台を見せしめのために、ブルドーザーで押しつぶして破壊した。イタリアのランボルギーニやドイツのポルシェ、ベンツ、米国のムスタングなど総額で550万ドル(約6億20000万円)相当が並べられ、ブルドーザーがその上を潰しながら走行するという派手な演出で「破壊」、その模様はビデオに収められて公開された。
フィリピン政府、税関当局は密輸撲滅に全力を挙げており、高級車が犯罪組織や麻薬組織の手に渡ることを警戒、摘発してはドゥテルテ大統領の指示で「破壊」している。
2018年2月にもマニラで押収した密輸高級車英国製ジャガー、ドイツのBMW、米のコルベット・スティングレーなど総額約62万ドル(約1億2000万円)相当を破壊している。
■密輸には厳しい姿勢で臨むと大統領
フィリピン・ルソン島北部カヤンガンのサンタアナで7月30日に行われた高級密輸車破壊デモンストレーションにはドゥテルテ大統領自身も駆けつけ、ヘルメット姿で作業の一部始終を見守った。「破壊式」に先立ってドゥテルテ大統領は「私の(大統領)任期中に政府の汚職や腐敗を完全に根絶することが不可能であるのは分かっている。それでもこの密輸高級車の破壊は重要な私の政策である」と述べ、今後も密輸には厳しい姿勢で臨むことを改めて強調した。
さらに「こうして密輸高級車を破壊するのは世界に対してフィリピンでの有効なビジネス、投資のあり方を示すためである」と述べ、違法な密輸がフィリピンの経済環境に悪影響を与えているとの認識を示した。
今回「破壊デモンストレーション」で破壊された76台の高級車・オートバイは2018年になってこれまでに密輸で押収された計800台の一部に過ぎない。
フィリピンでは2017年に密輸された高級車、オートバイなどは総額で約3億円相当に上っており、水際での厳しい対応にも関わらず依然として密輸を試みる業者はあとをたたないのが現状という。
Condemnation and Public Destruction of Contraband Luxury Vehicles 7/30/2018
麻薬撲滅に次いで密輸撲滅もフィリピンの重要課題のひとつだ。 RTVMalacanang / YouTube
■競売方式から破壊に転換
フィリピン政府は昨年まで押収した高級車やオートバイなどは少しでも財政に寄与するとの方針で競売(オークション)にかけてその売り上げを国庫に入れていた。
しかし高級車を競り落とす業者や個人の中には、犯罪組織幹部や麻薬に関係する富裕層が含まれていることがあるため、オークションという処分方法に疑問の声が出ていた。
このためドゥテルテ大統領は2018年から高級車のオークションを取り止めて、ブルドーザーなどで破壊する方針に切り替えた。
「密輸入車といういわば犯罪に関わった高級車をオークションという形とはいえ売却してその利益を得ることは、犯罪から利益を得ることにもなる」としてドゥテルテ大統領は「破壊方針」を打ち出した。
■麻薬対策と汚職撲滅が最大の政権課題
ドゥテルテ大統領は大統領在任中の大きな課題として麻薬対策と同時に汚職、特に公務員の汚職の撲滅を掲げており、密輸高級車などの密輸取り締まりはその一つの柱となっている。
これまでは密輸品は税関当局や港湾関係者に賄賂を支払うことで見逃してもらうケースが多く、高級車と並んで麻薬や武器、弾薬、保護動植物、偽ブランド品などもフィリピンに不法に流入していたといわれている。そして公務員が収賄することで汚職が蔓延し、有効な法執行が難しいケースがあった。
ドゥテルテ大統領はこうした悪弊に終止符を打つべく、麻薬対策では超法規的殺人と国際社会から指弾されている強硬策での対応を指示。これまでに数千人が麻薬関連容疑者として射殺されたといわれている。
こうした「殺される可能性が高い」強硬策の影響でこれまでに密売人や麻薬常習者130万人が自首し、21万5000人がリハビリ施設で更生の道を歩んでいるという。
公務員の汚職に関しては2018年3月に国際NGO「トランスペアレンシー・インターナショナル」が発表した世界180カ国の汚職度腐敗度を示す順位で、フィリピンは東南アジア10カ国の中で7位(全体の111位)と下位に位置付けられ、依然として汚職、腐敗が蔓延していることが国際的に認知されている。(フィリピンより汚職度腐敗度が酷いのは東南アジアではカンボジア、ミャンマー、ラオスの3カ国だけ)。
2016年6月30日の大統領就任から、その歯に衣着せぬ発言や不規則発言などで一時は「フィリピンのトランプ」などと酷評されていたドゥテルテ大統領。確かにその発言が物議を醸すことも多いが、麻薬対策や汚職撲滅では方法・手段には賛否があるものの、確実に成果を目に見える形で残しており、それが依然として各種世論調査で80%近い国民の支持を獲得する一因となっている。
今回の密輸高級車のブルドーザーによる破壊というパフォーマンスは、日々の生活に必死の国民の目には「よくぞやったり」と溜飲を下げるものになっており、ドゥテルテ大統領の思惑通りの展開となっており、ドゥテルテ人気はさらに高まっているという。
[執筆者]
大塚智彦(ジャーナリスト)
PanAsiaNews所属 1957年東京生まれ。国学院大学文学部史学科卒、米ジョージワシントン大学大学院宗教学科中退。1984年毎日新聞社入社、長野支局、東京外信部防衛庁担当などを経てジャカルタ支局長。2000年産経新聞社入社、シンガポール支局長、社会部防衛省担当などを歴任。2014年からPan Asia News所属のフリーランス記者として東南アジアをフィールドに取材活動を続ける。著書に「アジアの中の自衛隊」(東洋経済新報社)、「民主国家への道、ジャカルタ報道2000日」(小学館)など
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