ワールド2018年6月13日 / 17:04 / 1時間前更新 焦点:日本の安全保障、米朝会談で一段と不透明に 2 分で読む[東京 13日 ロイター] - 東アジアの安定化に扉を開くと期待された米朝の歴史的な首脳会談は、逆に日本の安全保障環境を不透明にした。トランプ米大統領は北朝鮮の非核化に向けた道筋を示さず、日本が懸念する中・短距離ミサイルの扱いにも触れずじまい。一方で、米韓合同軍事演習の中止と、将来的な在韓米軍の撤退に言及した。日本政府の中からも、米国に頼る今の政策を疑問視する声が出ている。 <見えてきた「米国最優先」> 米朝会談に臨む米国に対し、日本は首脳会談、外相会談、防衛相会談などあらゆる機会を通じ、日本を射程に収めるミサイルの廃棄を議題に取り上げるよう何度も念を押してきた。さらに抑止力を低下させる在韓米軍の撤退や縮小を議題にしないよう確約を求めてきた。 しかし、ふたを開けてみれば、ICBM(大陸間弾道弾)を含め、北朝鮮の弾道ミサイルの廃棄については、共同文書に盛り込まれなかった。金正恩・朝鮮労働党委員長との会談を終えたトランプ氏の口からも言及がなかった。 「非核化については、少なくとも共同文書に明記された」と、日本の政府関係者は言う。「弾道ミサイル、特にわれわれが懸念する中・短距離ミサイルはどうなったのだろうか」と日本の政府関係者は不安を隠さない。 日本の安全保障政策に携わる関係者をさらに心配させたのが、会見でトランプ氏が放った米韓合同軍事演習の中止発言。合同演習は両軍の連携を確認するのに重要で、定期的に実施しないと「さびつく」(自衛隊関係者)。大規模な演習なら準備に半年以上かかるため、再開したくてもすぐにはできない。 北朝鮮はことあるごとに米韓演習に反発してきたことから、金委員長が嫌がっているのは経済制裁よりも軍事演習との見方もある。「中止になれば、金委員長は枕を高くして眠れる。抑止力が低下する」と、別の政府関係者は言う。 トランプ氏は今すぐではないとしながらも、在韓米軍の撤退も示唆した。米国の影響下にある韓国という緩衝地帯がなくなり、中国やロシアと直接向き合うことになるとして、日本が警戒する地政学上の変化だ。 「もし私が日本人、特に朝鮮半島政策や防衛政策に携わる人間なら、いよいよこの地域から米軍がいなくなることが心配になる」と、スタンフォード大学のダニエル・シュナイダー客員教授は言う。「北東アジアにおける『米国最優先』の外交政策がどんなものか、貿易問題を含め、魅力的なものではないことが分かってきた」と、シュナイダー氏は語る。 <「日本はやり方を変える必要」> 国民が核兵器に強いアレルギーを持つ日本では、独自の核武装を求める声は聞こえない。しかし、国際的なリスクコンサルティング会社テネオ・インテリジェンスは13日のリポートで、日本と韓国が自前で核抑止力を保有する可能性を指摘した。 日本の政府関係者や専門家は、北朝鮮の非核化もミサイル廃棄も「すべてこれから」と口をそろえ、米朝が今後開く実務者協議に期待をかける。小野寺五典防衛相は13日朝、記者団に対し「ポンペオ米国務長官と北朝鮮高官の間で、具体的な作業が進められると承知している。その作業を見守っていく」と語った。 日本の政府関係者は「米国まかせの今の状態で良いのか。日本はやり方を変える必要があるかもしれない」と話す。 久保信博、リンダ・シーグ 編集:田巻一彦 コラム2018年6月13日 / 10:03 / 3時間前更新 コラム:米朝首脳会談は内容乏しい「テレビ外交」 2 分で読む
Christopher Beddor [香港 12日 ロイター BREAKINGVIEWS] - 米国のトランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は12日、初めての米朝首脳会談に臨んだ。だが会談は主に、カメラを意識したテレビ外交であり、具体策に乏しい内容だった。 北朝鮮の非核化には依然、はるかに遠い道のりが残され、共同声明には実質的な約束が盛り込まれていない。それでも、こうした取り組みによって甚大な被害をもたらす対立のリスクが軽減され、北朝鮮経済を開放させるかもしれない。 トランプ氏は会談の成果を豪語しているが、米国側が勝利したとは言い切れない。トランプ氏は、専制的な統治を続ける金正恩氏に温かい賛辞を浴びせ、撮影機会を与えた。歴代の米大統領はこうした対応を拒否してきた。金正恩氏はいずれホワイトハウスを訪問することになりそうだ。さらにトランプ氏は米韓合同演習の中止などの措置も提示したもようだ。トランプ氏は北朝鮮に対する経済制裁を当面維持すると表明したが、首脳会談と今後の交渉の約束によって、より厳格な措置を支持するよう中国を説得する今後の試みは厄介になる。 全体としてトランプ氏が確保した成果は非常に乏しい。金正恩氏は朝鮮半島の完全化非核化に向けて取り組むと約束したが、言葉の意味合いは双方で微妙に異なる。またトランプ氏によると、金正恩氏はミサイルエンジンの試験場を破壊すると表明した。北朝鮮は以前にもこうした類の約束をしたが、ほとんど結果を出していない。 それでもこうしたテレビ外交は、両氏がお互いに罵声を浴びせ合っていた昨年と比べれば、改善したと言える。協議は今後も続く公算が大きく、金正恩氏は国際的に注目されることが、今後は悪態を手控える動機になるだろう。こうした取り組みにより北朝鮮がもたらす最悪の影響が和らげられるかもしれない。ワシントンのシンクタンク、戦略国際問題研究所によると、北朝鮮の挑発は外国との交流が増える局面で減少する傾向にある。 さらに、協議は通常、一定の商業面の協力に結び付く。特に経済規模が1兆4000億ドル規模の韓国とは、産業特区や国境をまたぐインフラ事業、投資、貿易の拡大などで協力する動きが広がりそうだ。経済規模が400億ドルの北朝鮮は、経済を少し開放しただけでも、地域全体に恩恵をもたらす。北朝鮮への対応で最適な選択肢はないが、表面的な外交でさえ、外交関係を結ばないという選択肢よりは好ましい。 ●背景となるニュース *米国のトランプ大統領と北朝鮮の金正恩・朝鮮労働党委員長は12日、朝鮮半島の「完全な非核化」と「持続的かつ安定的な平和体制」の構築へ向けて取り組むことを柱とする共同声明に署名した。 *トランプ氏は北朝鮮に対する経済制裁を当面維持するとしているが、共同声明は制裁には触れなかった。共同声明はまた、朝鮮戦争を正式に終わらせる和平合意も盛り込まなかった。 *金正恩氏は「世界は重大な変化を見ることになるだろう」と語った。一方、トランプ氏は非核化のプロセスが「極めて早期に始まる」とし、金正恩氏と「特別な絆」を築いたと付け加えた。 *トランプ氏と金正恩氏が会談したのは、今回が初めて。 *筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。 コラム2018年6月13日 / 15:59 / 2時間前更新 コラム:米朝首脳会談を「成功」と呼べる理由 4 分で読む Peter Van Buren [12日 ロイター] - 外交は、最終的には機能する。だがそれはプロセスとしてであって、イベントとしてではない。核問題を巡る外交には、ビッグバン理論はあてはまらない。 もし今後、朝鮮半島の平和に向けた前進が何もなければ、最悪の場合、これまでの米朝の応酬や南北首脳会談、そしてシンガポールでの米朝首脳会談自体が、尻すぼみに終わった過去の対話の繰り返しになってしまうだろう。 だが今回の場合、転換点となる可能性の方が高そうだ。 今回の米朝合意は、あいまいで非核化に向けた具体的なコミットメントを欠いているため、トランプ米大統領の「敗北」だと批判するのは簡単だ。 だがそうした批判は、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が、核やミサイル発射実験の凍結、米国人拘束者の解放、弾道ミサイル実験場の閉鎖、そして新たな実験場を開設することなく主要核実験場を閉鎖することなどに合意したことを無視している。 北朝鮮が、ほんの少し前まで核実験を強行して、暗い戦争の恐怖を撒き散らしていたことを忘れてしまうのは簡単だ。 過去のより詳細な合意や外交努力に照らして、シンガポールでの米朝首脳会談が失敗だったと断じることは、過去の合意がすべて失敗に終わった現実を無視している。 米国務省で長年北朝鮮問題を担当したジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表が退任し、「トランプ政権の朝鮮政策を担う幹部人材の空洞化」だとの厳しい批判が起きたのは、ほんの数カ月前だ。 駐韓米大使の空席についても、同様の指摘を招いた。米国務省の職員も大幅に減った。(「トランプ政権は、他国と交渉する能力を失った」と書いた記者もいた。)米シンクタンクの外交問題評議会は、朝鮮半島で戦争が起きる確率は5割だ予想していた。 朝鮮半島における成功は、冷戦と同様、戦争がだんだん遠ざかっているという感触が継続するかどうかで決まる。 シンガポール首脳会談の成功は、両国が再び会い、その後も会談を重ねることを約束したことにある。2015年のイラン核合意は、核兵器自体を含む訳でもないのに交渉に20カ月かかった。冷戦時代の条約は、政権をまたいだ何年もの努力を要した。 次の段階に進む約束以上のものを期待するのは、歴史を知る見方とはいえない(金委員長が会談後、核兵器を荷造りして国外に搬出するなどと考えた人がいようか)。最初のデートで、不満のすべてをぶちまける人などいないだろう。 シンガポール会談では、いまや誤りだと証明された「言葉のあや」から距離を置くべきだということも示された。トランプ大統領と金委員長は狂人ではなく、時に好戦的な2人の発言は、言葉以上のものではない。両首脳は今後、融和的で前向きな行動と、国内強硬派向けの荒っぽいジェスチャーとのバランスをとる必要があるだろう。 とはいえ、今回の外交攻勢が北朝鮮の策略だという見方の信憑性は薄れた。「大国と対峙する小国がはったりをかけることはまれだ」と、あるキューバミサイル危機の研究者が指摘している。「彼らにそんな余裕はない」 うまく操作すれば、今後の進展に結びつく要素はすでに存在する。その要素には、自分が主権を維持しつつ孤立した国に未来をもたらした中国指導者トウ小平氏のような存在だと思い描いているかもしれない、若く、西側の教育を受け、多言語を話す北朝鮮の指導者も含まれる。 「われわれは過去と決別すると決めた」と、トランプ大統領と並んで共同声明に署名した金委員長は語った。 平壌では、変革機運が高まっている。米ドルや中国元で潤い、外国メディアの情報にも接しやすくなった準市場主義経済では、消費に慣れ親しんだ中間所得層が拡大し、変化を求めている。 これに、北朝鮮には協力しないというこれまでのルールを破る意思を持つ米大統領という条件が重なる。よく見れば、条件は半分以上整っていることが分かるだろう。 もう1つ、過去と異なる重要な要素は、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領の存在だ。 北朝鮮はトップダウンの体制であり、そのように対応すべきだとワシントンを説得し、首脳会談の可能性をそもそも意識させた立役者は、文大統領だった。4月27日の南北首脳会談で、シンガポール会談に向けた主要な交渉事項が確定された。5月24日にトランプ氏が米朝会談の予定をキャンセルすると、文大統領はワシントンと南北軍事境界線にある板門店を往復して、再び会談の機運を軌道に乗せた。戦争を巡る不安な言論が渦巻く中、大舞台で見せた卓越した外交手腕だった。 過去の核交渉の歴史で、このような仲介者が存在した例はない。 誠実な仲介者であり、文化的、言語的、歴史的そして感情的なつながりを持つ朝鮮の同胞、そして米国の同盟国、さらに金氏とトランプ氏双方に対する非公式アドバイザーという多様な役割を文大統領がこなし続けることが、次の段階に向けた鍵となるだろう。文氏自身が、過去に交渉を破綻させてきた問題を解決させるための媒体となるだろう。 シンガポールで「起きなかったこと」もまた重要だ。 トランプ大統領は、大盤振る舞いはしなかった。実際のところ、振舞うような大盤はトランプ氏の手になかった。米国は、米韓合同軍事演習の停止に同意したが、これは過去にも戦略的に凍結されたことがあり、今後いつでも再開できる。いずれにせよ、本当の抑止力は、朝鮮半島外にある。米ミズーリ州の基地から飛ぶBー2戦略爆撃機と、太平洋深くに潜むミサイル搭載の潜水艦だ。 トランプ氏は、金委員長に力を与えることもしなかった。敵と会うことは、譲歩ではない。外交は、米国が他国の指導者に振りかけることのできる魔法の正当性パウダーではない。首脳会談は、好むと好まざるとにかかわらず、今や核保有国となった国を金一族が70年にわたり支配してきたという現実を受け入れたものだ。 平和プロセスを始めるのに首脳会談を選んだトランプ氏の決断も尊敬に値する。首脳会談を、「よく振舞った」国に与える褒章のように考えること事態、傲慢極まりない。 歴代政権によるそのような考え方の積み重ねが、水素爆弾や米国を射程に収めるミサイルで武装した北朝鮮を誕生させ、戦争状態を永らえさせてきたのだ。その意味ではトップダウン方式は、前に進むのに有効な方法だ。(中国の歴史がそれを実証している。) 今回の米朝首脳会談を一蹴するのは、極めて簡単だ。北朝鮮は欺き、トランプ氏はツイートで応じる、とうそぶいておけば済む。次の段階を注意深く読み解くことはもっと難しい。 米国は、非核化のインセンティブを与えなければならない。 2015年のイラン核合意が、1つの例だ。イラン側が核物質の実験や生産、貯蔵量の削減を段階的に進めるのと並行して、制裁が緩和され、通商が拡大し、資産凍結が解除された。 もう1つは1991年、ベラルーシとカザフスタン、ウクライナによる核兵器の申告と破壊、そして最終的な廃棄に対し、米国が経済的支援で報いた例だ。これには、失業した核化学者がよそに知識を売る事態を防ぐため、新たに職を紹介することも含まれた。 だが何よりもトランプ大統領は、イラクやリビア、そして特にイランに対する過去の事例を踏まえ、自分を信頼するよう金正恩氏を説得しなければならない。なぜなら、要求の核心部分は、非常に特別なものだからだ。これまで、自国で開発した核兵器を完全に放棄した例は、少数派の白人政権時代の南アフリカしか、歴史上例がない。それも、アパルトヘイト(人種隔離政策)の全廃が決まる段階になって初めて実現したことだった。 もしトランプ大統領が、左派の助言を受け入れていたら、過去の大統領と同様、自国から一歩も出ずに終わっただろう。もし彼が右派の助言を聞いたなら、会談の部屋に突進して「核を手放せ。以上だ。それで済む」と言い放ち、和平プロセスは本当に失敗していただろう。 北朝鮮は自国の存続を確実にするために核兵器を開発した。もし米韓が北朝鮮にこの兵器を放棄させたいのなら、それに代わって体制保障となるものが必要だ。 今回の首脳会談により、土台が整った。トランプ氏と文氏、そして金氏が、その問題の解決に向けてどう動くかが、次に起きることの鍵となる。 *筆者は米国務省に24年間勤務。著書に「We Meant Well: How I Helped Lose the Battle for the Hearts and Minds of the Iraqi People」など。 外為フォーラムコラム2018年6月12日 / 17:57 / 3時間前更新 コラム:米朝会談の「黒衣」、韓国と日本はどう向き合うべきか=西濱徹氏 4 分で読む 西濱徹 第一生命経済研究所 主席エコノミスト [東京 12日] - 史上初の米朝首脳会談が6月12日、シンガポールで行われた。会談後にはトランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長が朝鮮半島の完全な非核化に取り組むなどとする共同声明に署名したが、具体的な方策やスケジュールは依然不明だ。 しかし、紆余曲折を経て会談実現にこぎ着けたことで、ほっと胸をなでおろしているのは、この間、対北融和路線を進めてきた韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領だろう。 周知の通り、文氏は北朝鮮への融和姿勢を強めた盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の側近であり、南北関係の改善を最重要課題に掲げて昨年5月、大統領に就任したという経緯がある。 その対北融和路線は年明け以降、急速に加速した。2月には、韓国の平昌(ピョンチャン)で開催された冬季五輪に金正恩委員長の実妹である金与正(キム・ヨジョン)氏らが訪問。南北間の雪解けムードが進んだ。 さらに、4月には文大統領と金正恩氏が約10年半ぶりとなる南北首脳会談の実現に動いたことで、緊張状態は一気に緩和に向かった。1950年に始まった朝鮮戦争は1953年に休戦して以降、65年近くにわたって、こう着状態が続いてきたものの、米朝首脳会談を経て終戦に動く可能性が出てきた。 こうした状況は日本にとって、どのような意味を持つのだろうか。本稿では、対北融和路線をけん引する韓国に焦点を当てつつ、探ってみたい。 <米朝韓の同床異夢> まず現状を整理すれば、南北首脳会談後に発表された共同宣言(板門店宣言)では、年内をめどに南北米の3者、ないし南北米中の4者会談を通じて終戦宣言を出し、休戦協定を平和協定に転換する方針が示された。 ただ、同宣言において南北米の3者会談の可能性が示されたことに対して、朝鮮戦争の当事国である中国は強硬に反発しており、早々に事態が動くか否かは極めて不透明な状況にある。 また、仮に南北米の3者会談が行われた場合、3者の間では朝鮮戦争の終戦という「共通目標」は存在するものの、それ以外に、韓国は人権問題の解決と南北統合、北朝鮮は「金王朝」の体制維持、米国は大陸間弾道ミサイル(ICBM)の廃棄と非核化、という異なる目標を有するなど「同床異夢」の感は拭えない。 これらの当事者間の関心が、北朝鮮問題の当事国である日本が抱く関心(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化と大量破壊兵器の廃棄、拉致問題をはじめとする人権問題の解決)と完全に合致するものではないことも問題である。 他方、南北首脳会談後の韓国では「ほほえみ外交」を理由に金委員長に対する人気が高まり、それによって南北会談を成功に導いた文大統領の評価も高まり、直近の政権支持率は83%と就任1年を経過した時点で最高水準となっている。 先月末に行われた米韓首脳会談の席で、トランプ大統領は北朝鮮側の挑発的な言動を理由に米朝首脳会談の延期を示唆し、続いて中止を通告する親書を発表した。しかし、その後、一転して当初の予定通り6月12日に米朝首脳会談が行われる流れとなったが、この経緯に最も一喜一憂させられたのは韓国だったかもしれない。 韓国では、米朝首脳会談翌日の13日に全国同時地方選挙(統一地方選挙)が実施されるが、文政権の高支持率も背景に与党「共に民主党」が圧勝する模様であり、米朝首脳会談の実現が追い風になった面は大きい。年明け以降は「共に民主党」がインターネット上の世論を操作する疑惑が噴出し、文政権にとって痛手となることが懸念されたものの、その後の南北首脳会談の実現により問題がかき消された。 今後の行方については依然不透明感は拭えないが、現時点では文政権は外交面での成果を上げており、そのことが盤石な政権基盤につながっている。 <文政権の経済運営は課題山積> もっとも、文政権の経済政策については不安材料が山積している。文政権は、朴槿恵(パク・クネ)前政権下において経済成長にもかかわらず若年層を中心に雇用改善が進まないことから、大統領選を通じて雇用創出を経済政策の柱に据えた。 その結果、政権発足直後には雇用拡大に向けた補助金拡充をうたう補正予算を成立させ、年明けからは最低賃金の大幅引き上げを実施。2020年をめどに最低賃金を現状から3割以上引き上げる方針を掲げている。 また、朴前政権が政財界の癒着を理由に退陣し、韓国世論が財閥に対して厳しいことを意識して、文政権は経済界との対話に消極的な姿勢をみせ、財閥などの大企業を対象とする法人増税や富裕層を対象とする所得税増税を図る方針も示している。昨年の経済成長率は、世界経済の自律回復に伴う輸出拡大や企業設備投資の活発化などを追い風に前年比プラス3.1%と3年ぶりに3%を上回った。 年明け以降の景気は外需がけん引役となり堅調を維持するが、文政権の施策に伴う労働コストの上昇を懸念して企業は雇用拡大に及び腰となり、政権誕生を後押しした10代、20代など若年層にしわ寄せが及んでいる。直近の若年層の就業者数は政権発足時より減少しており、失業率も悪化するなど、文政権は経済政策面で実績を上げられていない。 トランプ政権による貿易制裁の回避に向けた米韓自由貿易協定(FTA)の再交渉では、文政権は数多くの譲歩をのまされた。また、米中貿易摩擦は最大の輸出相手である中国向け輸出に悪影響を与える可能性があり、景気の先行きは不透明と言える。その意味でも、文政権には外交面での実績に注力せざるを得ない事情がありそうだ。 日本にとってみれば、韓国の対北融和路線が文政権の支持率の屋台骨となっていることを勘案すれば、米朝首脳会談の行方にかかわらず、対日外交姿勢が変わる可能性は低いとみた方が良いだろう。上述したように、仮に南北米の3者か南北米中の4者の会談によって終戦に向けた動きが進んだ場合でも、日本が最も関心を寄せる事項が当事者間で中心議題に上る可能性は高くない。 その意味では、トランプ政権が北朝鮮によるICBM廃棄など、中途半端なところで妥協策を探ることのないよう、働き掛け続けることが重要である。 韓国は南北統一を目標としており、北朝鮮側の強硬姿勢に配慮する形で人権問題などに対して及び腰となる動きもみられる。冷静に考えれば「金王朝」が継続する状態で民主国家としての南北統一が困難なのは自明の理だが、「同一民族」というフィルターがすべての現実を覆い隠している可能性もある。 そうしたことも見据えつつ、日本としては北朝鮮の非核化とミサイル放棄、拉致問題解決に向けて、韓国に足並みをそろえさせることが不可欠である。終局的に「朝鮮半島の非核化」により在韓米軍が撤退すれば、日本は米国の太平洋戦略の最前線に立たされるため、そのことに伴うさまざまなリスクを勘案しつつ最善の策を模索することが望まれる。 西濱徹 第一生命経済研究所 主席エコノミスト(写真は筆者提供) *西濱徹氏は、第一生命経済研究所の主席エコノミスト。2001年に国際協力銀行に入行し、円借款案件業務やソブリンリスク審査業務などに従事。2008年に第一生命経済研究所に入社し、2015年4月より現職。現在は、アジアを中心とする新興国のマクロ経済及び政治情勢分析を担当。 *本稿は、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいています。
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