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「非核化」で骨抜きにされた「CVID」では、誰も核を手放さない
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/06/cvid.php
2018年6月12日(火)13時04分 ジョシュア・キーティング ニューズウィーク
ポンペオ米国防長官(左)にとって、CVID(核の完全放棄)はさほど重要でない。右はCVIDを主張したボルトン国家安全保障担当大統領補佐官 Jonathan Ernst- REUTERS
<トランプにとってのCVIDは、首脳会談の成果としてツイッターや支持者集会でアピールできる何かを手にすることでしかなかった>
ドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の歴史的な首脳会談において、注目すべき重要なキーワードが「CVID」であることには、誰も異論はないだろう。だがCVIDがいったい何を意味するのか、あるいは何の略語なのかについては誰もはっきりしないようだ。
アメリカが会談で北朝鮮に要求するのが、核の「完全(CompleteまたはUComprehensive=包括的)かつ検証可能(Verifiable)で不可逆的(Irreversible)な非核化(DenuclearizationまたはDismantlement=核の放棄)」。これを「今後はCVIDと呼ぶ」と、米国務省のヘザー・ナウアート報道官は先月、記者団に語った。「それが我々の方針であり、マイク・ポンペオ国務長官の方針だ」
実際にポンペオは何度もこのフレーズを使ってきたが、ときに「永久的(Permanent)かつ検証可能で不可逆的な非核化(PVID)」と言い間違えて混乱を引き起こしてきた。米政府も韓国政府も、CVIDとPVIDは同じ意味だと主張しているが、「C」と「P」の違いよりもっと厄介なのは、「D」が具体的に何を意味するかということだ。
「CVID」という略語はトランプ政権が発明したものではない。「完全かつ検証可能で不可逆的な核の放棄(Dismantlement)」は、ジョージ・W・ブッシュ政権が北朝鮮の核廃棄について掲げたスローガンで、(ブッシュが批判していた)その前のビル・クリントン政権のアプローチとの違いを際立たせるものだった。クリントン政権下の1994年に締結された米朝枠組み合意では、北朝鮮は核開発計画の凍結に合意したものの、アメリカが合意の実現を徹底しなかったなどさまざまな理由から合意は崩壊。北朝鮮は核開発計画を再開させていた。
■「D=無力化」さえ実現しなかった
CVIDのコンセプトは、北朝鮮が核開発計画を完全に放棄し、再開不可能な状態にしなければ満足しないというブッシュの姿勢を表していた。だが「ブッシュのCVIDは真の政策ではなく、政治的なポーズの意味合いが強かった」と、ミドルベリー大学の核不拡散専門家で軍縮情報サイト「アームズ・コントロール・ウォンク」の創設者、ジェフリー・ルイスは言う。
当然ながら北朝鮮は、ブッシュの姿勢に決して同意しなかった。ブッシュ政権が2007年にようやく北朝鮮との合意に至った際に使われた言葉は、核関連施設の「無力化(Disablement)」。アメリカ側が求めていた「核の放棄」には及ばなかった。そしてこの控え目な合意さえもが、短期間で崩壊した。
ルイスによれば、ブッシュ政権時代にCVIDのコンセプトを高く評価していたのがジョン・ボルトン。そのボルトンは現在、トランプの国家安全保障担当大統領補佐官で、CVIDの実践はボルトンが4月末に主張して議論を呼んだ「リビア方式」に似ている。北朝鮮が核兵器を放棄し、核開発計画を完全に破棄して諸外国による査察を受け入れた末に初めて、制裁解除や外交上の認知、支援をはじめとする国際社会との関係改善がもたらされるというものだ。
「非核化」という言葉は、とりわけ「朝鮮半島の非核化」という使い方をされる場合、きわめて曖昧なコンセプトだ。
ジョージ・W・ブッシュ政権時代に北朝鮮の核問題をめぐる協議で米代表団の代表を務めた北朝鮮問題の専門家で、トランプが駐韓米国大使に任命したビクター・チャは6月はじめに議会で、北朝鮮は非核化という言葉を「北朝鮮に対する脅威がもはやなくなった将来のいずれかの時点で、朝鮮半島から核兵器をなくしてもいい、という意味で使っている」と指摘する。米軍が駐留部隊を撤退させること、そしてアメリカが、北朝鮮が核で抑止しなければならないような敵対的な軍事行動をやめることがその条件だ。
北朝鮮は「核開発計画が黙認されることを目指して駆け引きをしている」とルイスは言う。これは北朝鮮がいつか最終的に核兵器を放棄するという約束と、必ずしも矛盾するものではない。核保有国であるアメリカが、核不拡散条約(NPT)の締約国として核兵器の隔絶を目指しているのも、これと同じことだ。
■CVID=何も意味しない言葉?
トランプとポンペオに公正を期して言うならば、CVIDの「D」を「非核化(Denuclearization)」に変えたのは彼らが最初ではなく、バラク・オバマ前政権も「D」を「非核化」としたことがあった。だが一連の会談に向けてポンペオが事実上、CVIDのコンセプトを「非核化」にまとめたことに重要な意味がある。
「CVIDを朝鮮半島の『非核化』という意味に変えるのは愚かなことだ」とルイスは言う。「実際には何も意味しない言葉になる。相容れない二つのコンセプトを組み合わせた、矛盾した表現だ」
実際にCVIDが意味するのは、トランプにとっては「首脳会談の成果としてツイッター上や支持者集会でアピールできる何かを手にすること」、一方の北朝鮮にとっては「実際には何も放棄しないこと」になるかもしれない。ボルトンにとっては気に入らない、だがポンペオは実現に漕ぎつけたい空論だ。
「トランプは今回の米朝首脳会談を実現するためなら、どんなことでもするつもりだ」とルイスは言う。「その首脳会談に、完全かつ検証可能で不可逆的な朝鮮半島の非核化の合意が含まれるなら、彼はその合意に喜んで署名するだろう」
(翻訳:森美歩)
© 2018, Slate
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