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再び世界を揺るがし始めたEU危機 イタリアは単一通貨ユーロ残留を選択するのか
https://www.newsweekjapan.jp/kimura/2018/05/eu-14.php
2018年05月30日(水)16時00分 木村正人 欧州インサイドReport ニューズウィーク
次はイタリア発ユーロ危機か Dado Ruvic-REUTERS
[ロンドン発]「欧州連合(EU)は、難民危機、英国のEU離脱による遠心力、緊縮策という経済発展を妨げる3つの難題に直面している」。著名投資家ジョージ・ソロス氏は5月29日、パリで開かれた欧州のシンクタンク、欧州外交評議会(ECFR)の年次会合で警告を発した。
単一通貨ユーロの是非をめぐりイタリア政局が大混乱し、世界市場は再び激震に見舞われている。これは、新たな金融危機の予兆なのか。「いかに欧州を救うか」と題した基調講演で、ソロス氏は「EUは自ら存在する意味を見失う実存的危機にある。出る恐れのあった悪い目がすべて出た」とまで言い切った。
ドイツが主導した緊縮策はユーロ圏を債権国と債務国に二分した。仕事と社会保障、そして未来まで奪われた若者はEUを敵視している。3月のイタリア総選挙で新興政党「五つ星運動」が上下両院で32%超の票を得たのはそのためだ。
イタリアの若年失業率は31.7%まで下がってきたが、格差が広がるこのご時世、平均値は全く当てにできない。五つ星運動の支持者が多い南部では最悪期に若年失業率が58.7%(カラブリア州、2016年当時)に達した地域もある。社会保障を切り捨てられた人たちが主要政党の民主党を見限って五つ星運動に走ったのだ。
■事実上の国民投票へ
さらに2015年の難民危機が欧州の政治風景を一変させてしまった。ドイツでも新興政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が反難民を声高に叫び、大躍進した。ソロス氏の母国ハンガリーでは反難民のオルバン・ビクトル首相が欧州のキリスト教的価値の守護者として振る舞い、ソロス氏を激しく攻撃している。
アフリカから難民が地中海を渡って大挙して押し寄せたイタリアでは総選挙でEU懐疑派の五つ星運動と右派「同盟」(旧・北部同盟)が計50%の票を獲得し、5月18日に連立政権樹立で合意した。
イタリア政府にユーロ離脱に備えた計画を策定するよう呼びかけてきたEU懐疑派の元産業相の経済相の首相起用にセルジョ・マッタレッラ大統領が反対。代わりに親EU派の国際通貨基金(IMF)元エコノミストを指名したものの、五つ星運動も同盟も猛反発し、今秋にもやり直し選挙になるのは必至の情勢となっている。
やり直し選挙がユーロの是非を問う事実上の国民投票になるとみた市場は大混乱に陥った。2年物イタリア国債の利回りは13年以来、初めて2%を突破し、一時2.69%に達した。南欧諸国のギリシャ、ポルトガル、スペインの国債も売られ、金利が急上昇した。
南欧諸国の国債を保有する銀行株も軒並み下落し、イタリア・リスクは東京や米国市場にまで波及した。
ソロス氏は、ドナルド・トランプ大統領のドル高政策が新興国から資金を吸い上げ、イラン核合意からの離脱、親イスラエル政策が中東の混乱をさらに深めて新たな金融危機を引き起こすかもしれないと警戒する。
イタリアでは豊かな北部を基盤とする同盟の支持率が急上昇している。ユーロ残留に疑いを差し挟む余地はないというマッタレッラ大統領の考えは正しいかもしれないが、ユーロがイタリアを南北に分断させ、低所得者層が多い南部のくびきになっている状況を忘れてはなるまい。
■自由が加速する域内格差
世界金融危機が起き、その後、世界中で社会の分断が進んだことと、ベルリンの壁が崩壊して人と資本の移動が一気に自由化されたこととは実は密接に関係している。人・物・資本・サービスという4つの自由移動を掲げるEU域内では分断がさらに顕著に起きる。
生産性の低い地域の人や資本が生産性の高い地域に移動し、不均衡を拡大させる。それが金融危機の引き金となり、今度は金融危機後の低成長から抜け出すため、さらに人や資本の移し替えが激しくなる。生産性の低い地域は徹底的に切り捨てられるのだ。
優秀な若者がいなくなった地域は過疎化、高齢化によって保守化が進む。豊かな地域はより豊かになり、貧しい地域は徹底的に貧しくなる。リベラルな地域はよりリベラルになり、保守的な地域はさらに保守的になる。
こうした現象がベルリンの壁崩壊をきっかけに始まり、金融危機のあと一気に加速した。分断を和らげるには再分配機能を強化するしかないのだが、その反動として豊かな地域は独立を志向するようになる。それが英国のEU離脱やスペインのカタルーニャ独立問題、イタリアの同盟台頭の根底にある。
ソロス氏は、第二次大戦後、米国が欧州諸国のために行った復興援助計画「マーシャル・プラン」をアフリカ諸国に実施して難民の発生を抑えるよう提案しているが、実現する見通しは低い。
イタリアの五つ星運動や同盟の台頭がEUの強烈な危機バネとなって、最大の債権国であるドイツがユーロ圏共同債の発行に応じて債務国の負担を軽くしてやるしか、危機を根本的に解決する道はない。しかし、この究極の解決策も望み薄なのが悲しい現実だ。
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