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南北首脳会談、事実上成果ゼロ…米国による軍事攻撃の危機
http://biz-journal.jp/2018/05/post_23204.html
2018.05.02 孫崎享「世界と日本の正体」 文=孫崎享/評論家、元外務省国際情報局長 Business Journal
第3回南北首脳会談 「板門店宣言」に署名(代表撮影/ロイター/アフロ)
韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長は4月27日、板門店・平和の家で南北首脳会談を行い、「板門店宣言」を発表した。内容は以下のとおり。
(1)完全な非核化を通じ、核のない朝鮮半島を実現する共通目標を確認
(2)年内に朝鮮戦争の終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換
(3)米中を交えた多国間の枠組みで、平和体制構築に向けて協議
(4)北朝鮮の開城(ケソン)に南北共同連絡事務所を開設
(5) 文在寅大統領が今秋、北朝鮮の平壌を訪問
韓国と北朝鮮に関しては、両国関係改善に向けていくつかの重要な項目が合意された。
(1)高官級会談をはじめとした各分野の対話
(2)国会、政党、地方自治体、民間団体など各界各層の共同行事の積極的推進
(3)北朝鮮の開城に南北共同連絡事務所を開設
(4)離散家族・親戚再会をはじめとしたさまざまな問題を協議、解決
(5)鉄道と道路の連結
(6)文在寅大統領が今秋、平壌を訪問
「文在寅大統領が今秋、平壌を訪問」ということだけでも、ビッグ・ニュースのはずである。だが、世界は諸手を挙げて今回の会談を称賛したわけではない。4月27日付米紙ニューヨークタイムズは「(南北)朝鮮人の平和への対話は希望と疑念を抱いている」との標題で報じた。
重要な点は、今日の朝鮮半島は南北首脳の決意だけで定まらないことにある。米国は北朝鮮に、「完全・不可逆的・検証可能な非核化」を強く求めている。そして、これが実施されない場合には、軍事行動もありうるとしている。その決着をつけるために、米朝首脳会談が開催される。
南北首脳会談の目的が朝鮮半島に平和をもたらすということであれば、この会談はなんらの回答も与えていない。「板門店宣言」における非核化に関する合意を見てみよう。
「南北は、完全な非核化を通じて核のない朝鮮半島を実現するという共同の目標を確認した。南北は、北側が取っている主動的な措置が朝鮮半島非核化のため非常に意義があり重大な措置であるということで認識を共にし、今後、それぞれが自らの責任と役割を果たすことにした。南北は、朝鮮半島非核化に向けた国際社会の支持と協力(獲得)のため、積極的に努力することにした」
この宣言の内容が、米国の求める「完全・不可逆的・検証可能の非核化」に対し、どこまで回答しているか。何もない。無回答である。
■米国と中国の立場
他方、米国の外交、安全保障関係の陣容は北朝鮮に対する強硬派を揃えている。ボルトン国家安全保障担当補佐官は「北朝鮮といかなる合意を行っても、北朝鮮はこれを破るので意味はない」と主張してきている。ポンペオ新国務長官は外交より軍事行動を重視する人物である。マティス国防長官は「外交手段が尽きれば北朝鮮に対する軍事行動を排しない」としている。
つまり、ホワイトハウス、国防省、国務省のいずれも、北朝鮮に厳しく臨む人々で固められている。
6月初旬までに行われる米朝首脳会談を念頭に置いた場合、今回の南北首脳会談で、状況は何も変化していない。米国のトランプ大統領は3月10日、ペンシルベニア州での支持者集会で、米朝首脳会談について「世界にとって最高の合意ができるかもしれない」と述べると同時に、「早々に立ち去るかもしれない」とも述べ、成果なく失敗する可能性もあるとの認識を示した。この状況の継続である。
こうしたなか、日本と朝鮮半島の関係で新たな環境の変化はない。今、変化の可能性を感じさせるのが中国・北朝鮮関係である。習近平体制下、中国は北朝鮮を特別扱いしない方針を出してきた。これを受けて、金正恩委員長も中国訪問を行わなかったが、米国の対北朝鮮軍事行動が囁かれるなかで、金正恩委員長は「北京詣で」をした。
中国の基本的立場を整理しておこう。
(1)北朝鮮体制の不安定化、国内混乱は望ましいことではない
(2)米軍の支配下にある韓国と、中国の間に、北朝鮮というバッファー地域を持つのは望ましい、つまり北朝鮮政権の消滅は望まない
(3)北朝鮮の軍事優先の国内政策には賛同できない
(4)北朝鮮が原因での米中軍事衝突は絶対に避けなければならない
こうしたなか、中国の対北朝鮮政策は行動の幅が広いだけに難しい。今回の宣言に、「南北は、休戦協定締結65年になる今年中に終戦を宣言し、休戦協定を平和協定に転換し、恒久的で強固な平和体制構築のための南北米3者または南北米中4者の会談開催を積極的に推進していくことにした」との文言がある。
ここには、ロシアが入っていない。つまり南北朝鮮は「ロシアは、朝鮮半島の安全保障を協議するうえで、重要ではない」と判断している。ロシアからしても、北朝鮮にはさしたる関心はない。ロシアは北朝鮮をなんとなく中国の勢力圏とみなしている。
(文=孫崎享/評論家、元外務省国際情報局長)
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