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「これでトランプ完敗」先手を打った金正恩と習近平の思惑
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/04/post-9923.php
2018年4月10日(火)16時00分 ミンシン・ペイ(クレアモント・マッケンナ大学教授、本誌コラムニスト) ニューズウィーク
非公式訪問でも盛大な晩餐会が催されるなど、金正恩は国賓級のもてなしを受けた KCNA-REUTERS
<急速な融和ムードはすべて金正恩の計算通りなのか。トランプが大胆な外交上の賭けに出る前に、電撃的な中朝会談を行い、主役の座を奪って交渉の力関係を変えた2人の腹の内とは? 本誌4月17日号 「金正恩の頭の中」より>
米朝首脳会談実施の電撃発表が世界を驚かせた3月8日の時点では、ドナルド・トランプ米大統領は史上まれに見る輝かしい外交的離れ業をやってのけたかに見えた。しかも、この離れ業、大きな実りをもたらす可能性がある。
「交渉の達人」を自称するトランプが北朝鮮の最高指導者、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長から譲歩を引き出し、朝鮮半島の非核化に道筋をつけたら、世界を脅かす時限爆弾の信管を抜いたことになる。これは誰が見ても大手柄だ。
ところがトランプが大胆な外交上の賭けに出る前に、中国の習近平(シー・チンピン)国家主席が舞台上にしゃしゃり出て主役の座を奪ってしまった。金が3月25日から4日間、中国を訪問したのだ。
金と習が杯を交わし、にこやかに歓談する写真を見て、あなたはどう思っただろう。隙間風が吹いていた中朝関係がようやく正常に戻った? いや、事態はそれよりはるかに複雑だ。
中朝首脳会談はさまざまな臆測を招いた。習の戦略的な動機は何か、金の思惑は? さらにトランプと金の会談にはどんな影響が及ぶのか。
今回の訪中は、金にとって11年末に父親の後を継いで以来初の外遊だ。そのタイミングからすると、トランプに先手を打つため習が金を招待したとみていい。北朝鮮経済は中国に大きく依存しており、中国は伝統的に北朝鮮に大きな影響力を持ってきた。習は、金が自分の頭越しにトランプと交渉して合意に至れば、自国の影響力が大幅に低下すると警戒していた。
金はトランプに何を要求するつもりなのか、ぎりぎり譲れない線は何か。それを聞き出すことが習にとっての中朝会談の狙いだったはずだ。
米中関係はここ数カ月、急速に冷え込んでいる。今や米政界では、長期的に見て中国はアメリカの戦略的なライバルだという見方が広く共有されている。折しもトランプが宣戦布告した対中貿易戦争は、中国の報復で際限なくエスカレートしそうな気配だ。
こうしたなかで、習は地域のリーダーとしての自国の地位をトランプに見せつける必要があった。北朝鮮はトランプとの外交ゲームで習が使える数少ないカードの1つだ。中朝の仲むつまじい関係を見せつければ、トランプは5月に予定されている米朝首脳会談で、中国の利益と影響力に配慮せざるを得なくなる──習はそう踏んだのだ。
■トランプの完敗は既に確定
加えて習は、米中関係のさらなる悪化がアメリカの痛手となることをトランプに教えたかったのだろう。米中間に亀裂が入れば、北朝鮮を孤立させ、圧力をかけることは不可能になる、と。
一方、金にとっては習の招待はまさに渡りに船だった。制裁の影響で経済は疲弊。国民が困窮する一方で、アメリカは軍事的圧力を強めており、このままでは体制維持は望み薄だ。急ピッチで開発を進め、アメリカ本土を狙える核兵器を手に入れたとはいえ、トランプとの会談では最初から分が悪いことは金も分かっていたはずだ。
習と会談する前は、金が米朝会談で得られるのはせいぜい時間稼ぎか、外交経験の浅いトランプをおだてて大きな譲歩をしたように見せ掛け、制裁の緩和を取り付ける程度だった。
だが金の北京訪問で、米朝の力関係は変わった。習が経済援助や新たな制裁の阻止など支援を約束したとすれば、金はトランプとの会談でさほど大きな譲歩をせずに済む。たとえ習が支援の約束をしていなくても、金は中国の後ろ盾があるような顔をして、堂々とトランプと渡り合える。
今や米朝会談に期待できるのは、非核化と緊張緩和の原則についての曖昧な合意づくりくらいのものだ。具体的な中身はなく、期限も設定されないだろう。こうした結果は中国の利益にかなう。自国の影響力低下を避けられるばかりか、朝鮮半島の核危機解決の責任をアメリカに押し付けられるからだ。
金にとっても中身のない合意は都合がいい。外交協議が続く間、アメリカは圧力を弱めると考えられるからだ。
それでもトランプは外交上の勝利を大げさにアピールするだろうが、トランプの完敗であることは隠しようがない。金が会談を呼び掛けた時点で、トランプはどこで何を話すかも知らずに性急に飛び付いた。金が制裁に懲りて話し合う気になったとみて、自分のほうが有利だと思い込んだからだ。
■ドタキャンが最も賢明な手?
習に先を越されて、トランプのエゴは大いに傷ついたはずだ。核兵器を手にした独裁者と初めて会談した世界のリーダーという栄誉(怪しげな栄誉ではあるが)を受け損なったからだ。
だが、問題はそれだけではない。核放棄の道筋で北朝鮮から実質的な譲歩を取り付けることはもともと困難だったが、金が習の後ろ盾を得た今はほとんど絶望的になった。
さらに厄介なことに、トランプは国務長官と国家安全保障担当の補佐官の首をすげ替え、外交的解決に懐疑的で、北朝鮮とイランに対する軍事行動を主張した経歴を持つ2人のタカ派を政権に迎えた。
金が中国を味方に付ける一方で、アメリカの国家安全保障チームがタカ派主導になった今、米朝首脳会談は失敗を運命付けられたようなものだ。強気になった金から譲歩を引き出すには、より多くのアメを与えねばならない。だがトランプがタカ派のアドバイザーに知恵付けされて会談に臨めば、金が到底受け入れないような条件を付けるだろう。交渉が決裂するのは火を見るよりも明らかだ。
ただ金と握手して、中身のない共同声明を出すだけでは、いくら虚勢を張っても、トランプは外交に無知なおバカにしか見えないだろう。大胆な外交上の賭けで歴史に名を刻むどころか、戦略的意味合いを考えず、中国の出方も予想せずに、したたかな独裁者との会談を即決した軽率な大統領として後世の笑いものになるのがオチだ。
金との電撃会談で習に先を越された今、世界はアメリカの出方を見守っているが、この状況でトランプが打てる手は少ない。金との会談を土壇場で中止するのが最も賢明かもしれない。
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