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"第2次朝鮮戦争"で潤うのは中国とロシア "戦争は儲かる"というのは過去の話
http://president.jp/articles/-/24601
2018.3.11 著作家 宇山 卓栄 PERSIDENT Online
韓国と北朝鮮が4月末の首脳会談開催で電撃合意した。だが事態は予断を許さない。アメリカが北朝鮮に軍事攻撃を行う可能性はまだ消えてないからだ。アメリカは「軍産複合体を儲けさせるために世界で戦争を起こしている」との非難も受けてきた。だが著述家の宇山卓栄氏は「経済という観点から見れば、アメリカが北朝鮮攻撃に踏み切る可能性は小さい」とみる。なぜ「第二次朝鮮戦争」でアメリカは儲からないのか――。
「戦争が景気の刺激策に」というのはもう過去の話なのか。米F35戦闘機の生産ライン。(写真=Randy A. Crites/Lockheed Martin/ロイター/アフロ)
「軍需産業を潤すための戦争」は本当か?
1939〜1945年 第2次世界大戦
1950〜1953年 朝鮮戦争
1961〜1973年 ベトナム戦争
1991年 湾岸戦争
2003年 イラク戦争
アメリカは上記のように、ある一定の期間で大規模な国際戦争を繰り返してきました。2003年のイラク戦争から、15年が経過しようとしています。朝鮮有事のリスクが高まる中、イラク戦争に続いて「第2次朝鮮戦争」が勃発(ぼっぱつ)する可能性はあるのでしょうか。
アメリカが定期的に戦争を行う理由として、「軍需産業を潤すため」といわれることがあります。では、そのような理由で、今後も戦争は続くと見るべきでしょうか。アメリカにとって、戦争はもうかるのでしょうか。
軍拡を後押ししたケインズ派経済学者
1950年6月に朝鮮戦争が起きる前、アメリカでは、軍拡に関する議論が繰り広げられていました。国家安全保障会議(NSC)は、ソ連などの共産主義勢力を封じ込めるための新たな戦略方針を、「国家安全保障会議第68号文書(NSC−68)」にまとめ上げます。
この文書は、共産主義に対抗するために軍事支出(国防費)の水準を従来の4倍(1951〜1955年会計年度の5年間で少なくとも2250億ドル)に引き上げ、軍備を増強しなければならないと求めていました。
当時のトルーマン大統領は、軍拡がアメリカ経済にどのような影響を及ぼすかを慎重に見極めようとしました。トルーマンは大統領経済諮問委員会(Council of Economic Advisers, 略称CEA)に調査をさせます。委員のレオン・カイザーリングなどのケインズ派の経済学者は、軍拡によって有効需要が創出され、景気刺激効果が経済の好循環を生むと評価しました。
トルーマンはこの答申を踏まえ、「NSC−68」を全面採用し、軍拡路線に大きくかじを切ります。予算の裏付けを取りながら、アメリカは朝鮮戦争に深く関わっていきます。
失業率が改善、平均賃金も上昇
では、このような軍拡が実際に景気刺激の効果を及ぼしたのでしょうか。まず、雇用において、大きな改善が見られました。失業率が改善し、平均賃金も上昇(軍需産業の労働者賃金は、民需産業のそれよりも20〜30%程度高かったため)。軍需産業が潤い、労働者層の広範な安定成長が達成され、内需が拡大していきます。軍需産業は労働者の雇用を支え、アメリカ経済を力強く牽引していきました。
1961年、アイゼンハワー大統領は退任演説において、肥大化する軍需産業を「軍産複合体(Military−industrial complex)」と呼び、それらが過剰な社会的影響力を持っていることに対し、警告を発しました。
軍産複合体の典型的な会社として、ロッキード社(航空機)、ボーイング社(航空機)、レイセオン社(ミサイル)、ダウケミカル社(化学)、デュポン社(化学)、ゼネラル・エレクトリック社(電機)、ノースロップ・グラマン社(軍艦、人工衛星)、ハリバートン社(資源生産設備)、ベクテル(ゼネコン)、ディロン・リード社(軍事商社)などがあり、またスタンダード石油に代表される石油メジャーが含まれることもあります。
対外戦争で儲けてきた「成功体験」
アメリカは1898年の米西(アメリカ・スペイン)戦争以来、対外戦争で大きな利益を上げてきました。経済成長に最も効果があったのは第2次世界大戦でした。戦争前、1938年の1人あたりGDP成長率はマイナス4.72%(『Angus Maddison, OECD The World economy---A millennial perspective』)でした。これは、1933年からはじまるニューディール政策の財政出動を終わらせ、緊縮財政に方向転換したことで引き起こされた大きな景気後退でした。
1939年、大戦がはじまると輸出産業を中心に活況を呈し、1人あたりGDP成長率は7.1%に好転し、景気が急回復していきます。太平洋戦争が本格化し、戦時動員体制が取られた1942年には、1人あたりGDP成長率は史上最高の18.7%を記録します。16%近くあった失業率は3.9%に改善されます。
古来より、「戦争はもうかる」とされてきましたが、まさに第2次世界大戦はアメリカにとって、もうかる成功体験そのものであったのです。この成功体験が麻薬のようにアメリカ国民を痺(しび)れさせ、前述のような戦後の軍拡路線に突き進んでいくことになります。
朝鮮戦争(1950〜1953年)も景気刺激の効果をもたらします。第2次世界大戦後、戦時需要がなくなり、景気後退に陥っていたアメリカ経済が再びプラス成長に転じます。朝鮮戦争前の1949年、1人あたりGDP成長率はマイナス1.33%でしたが、1950年、6.89%へと急回復します。
ベトナム戦争から風向きが変わった
しかし、「戦争はもうかる」というセオリーは、ベトナム戦争(1965〜1973年)以降、崩れていきます。ベトナム戦争前の1964年の1人あたりGDP成長率は4.33%でした。1965年、5.05%とわずかに上がるも、次第に成長幅が縮小し、戦争終盤の1970年にはマイナス0.98%に落ち込みます。
この頃、アメリカは財政赤字を累積させていきます。国防費のみならず、医療支出も、1965年の41億ドルから1970年の139億ドルへと急上昇します(ジョンソン政権の「偉大なる社会」のプログラムによる)。
1971年、ニクソン大統領は、ドルと金の交換停止を発表し(ニクソン・ショック)、ドルを基軸とするブレトン・ウッズ体制を崩壊させます。
ベトナム戦争期においては、巨額の財政赤字がドルへの信用不安を引き起こし、資金が海外に流出するなどの副作用が現れはじめました。戦争という公共事業の効果に、陰りが見え始めたのです。
その後の湾岸戦争(1990〜1991年)では、1989年の1人あたりGDP成長率2.48%から1990年には0.61%、1991年のマイナス1.79%と低下しています。戦争はもはや景気を刺激しないということが、明らかになりました。
1970年代以降、アメリカ経済の規模は膨大なものとなり、軍事費やそれに関連する部門の経済全体に対するシェアが低下。軍事部門だけが戦争で潤ったとしても、経済全体にその恩恵は及ばなくなっていました。
また、アメリカは平時でも恒常的に戦時体制に匹敵する国防費を支出するようになったため、戦争が起きても大量動員は起こらず、政府支出も劇的には増えず、その結果として景気刺激の効果はほとんどなくなったのです。
かつては軍事技術の開発が先行的におこなわれ、それが民間に波及して新しいイノベーションを生み、製品開発を促したこともありました(インターネットやGPSなどはその例です)。しかし今では、民間の技術が軍事技術に移転されるのが一般的な形になっており、軍事技術の開発投資が経済を牽引するという状況も失われています。
「戦争がもうかる」はもはや過去の話で、現在においては、戦争の経済効果は著しく減退、もしくは財政負担要因として、マイナスに作用するようになっているのです。
トランプ大統領が北朝鮮を軍事攻撃しようとしても、アメリカの政財界や一般国民はかつてのように戦争を支持するインセンティブを持たず、攻撃に賛同しないでしょう。
2003年のイラク戦争を経て、今日のアメリカは一国平和主義的な孤立主義の傾向を強めています。現在のアメリカ国民は覇権よりも、国内平和と福祉施策の拡充を求めているのです。トランプ大統領は大統領選の公約として「アメリカ・ファースト」を掲げ、国際紛争への介入によってアメリカが損をするようなことはやめると明言していました。
「戦後特需」で潤うのは日米ではない
このような経済的背景を考えれば、アメリカの北朝鮮への軍事攻撃の可能性は低いと言わざるを得ません。攻撃時だけでなく、攻撃後の治安維持等に関する莫大な費用支出についても考えなければなりません(イラク戦争のときのように)。アメリカにはもはや、そのような費用負担を買って出る気概などないというのが現実でしょう。日本や中国が費用を肩代わりするというならば、話は別ですが。
もしアメリカが北朝鮮に対し、軍事行動を行ったとして、経済的利益を得る国はあるでしょうか。アメリカは サージカル・ストライク(surgical strike 外科的攻撃)で短期に攻撃を収束させるでしょうから、戦時特需のようなものは見込めません。しかし、「戦後特需」は想定されます。北朝鮮復興を起点とする有効需要創出で波及効果を直接受けるのは周辺の中国、韓国、ロシアであり、漁夫の利を得る立場にあると考えられます。
治安維持費用はアメリカや日本の負担、復興開発など波及効果は中国などの周辺国が享受する。こんな話にもなりかねません。
宇山卓栄(うやま・たくえい)
著作家
1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。おもな著書に、『世界一おもしろい世界史の授業』(KADOKAWA)、『経済を読み解くための宗教史』(KADOKAWA)、『世界史は99%、経済でつくられる』(育鵬社)、『「民族」で読み解く世界史』(日本実業出版社)などがある。
(写真=Randy A. Crites/Lockheed Martin/ロイター/アフロ)
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