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習近平の長期独裁政権が中国内外を脅かす
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/02/post-9614.php
2018年2月27日(火)16時45分 ジョシュア・キーティング ニューズウィーク
昨年10月25日の中国共産党大会で、習近平は自分の後継者指名を行わなかった Tyrone Siu- REUTERS
<国家主席の任期制限を撤廃することにより、習近平はいつまでも権力の座に居座り続けられることになる。中国はますます怖い国になるのだろうか>
どんな国の指導者も、その最も重要な仕事のひとつは「辞任すること」。これは国を率いるのと同じくらい重要な仕事だ。ジョージ・ワシントンからネルソン・マンデラに至るまでの偉大な解放者たちは、在職中の業績と同じぐらい、引き際のよさでも尊敬されるべきだ。
一般に、指導者は必要に迫られない限り権力を手放さない。アフリカでは平和な権力の移譲はきわめて珍しく、ある大富豪は毎年、自発的に辞任する指導者に豪華賞品を授与する制度を設置。それでも長年、受賞者は出ていない。
世界では、権力を手放すよりも国が崩壊するのを見る方がましだというシリアのバシャル・アサド大統領のような例や、47年にわたって居座り続けた権力の座から自国の軍によって追放されたジンバブエのロバート・ムガベ前大統領のような例の方が、より一般的だ。
これは独裁主義的な政治システム固有の弱みだ。仮にその独裁者が自分のしていることをきちんと分かっていて、国民の支持を得ていたとしても、独裁者は長く権力の座にとどまり過ぎるか、さらにひどい人物がその座を引き継ぐことになる可能性がきわめて高い。
さらに、平和で予測可能な権力の移譲が可能な民主的規範がないと、指導者の座をめぐる争いはしばしばエリート層内部の陰謀の形をとり、予測不能で暴力的な結果を招くことが多い。一般市民は、秩序と安定が約束されているという理由から独裁主義的な政府に引きつけられることが多いが、その安定は、ライバルたちが現指導者の弱みを嗅ぎつけるまでしか続かない。
■制度化されたシステムを撤廃
だが少なくとも過去30年間の中国はその例外で、権力の継承がうまく行われてきた。1980年代後半と1990年代初期、改革主義の指導者だったケ小平は、毛沢東時代のような混乱や党内の権力闘争を回避しようと、与党・共産党の権力継承システムの制度化を推し進めた
1992年にケが正式に辞任して以降、権力の座は大きな問題もなく江沢民、胡錦涛と習近平の3人の指導者に受け継がれ、またこれら後継者たちがどのような人物かは何年も前から周知されてきた。同様に、共産党の最高意思決定機関で9人構成の政治局常務委員会のメンバーたちは、たいてい10年の任期を務めてきた。1期目を務めはじめる年齢は若くて50歳、最高で68歳であることが、事実上、任期の制限となっている。
その結果、25年間にわたって味気ない中年男性たちで構成される指導部が、人類史上最も急速かつ目覚ましい経済改革の中、世界最大の国を導いてきた訳だ。
だが今回、中国共産党はそうした制度をやめ、国家主席の任期制限を撤廃すると発表。現在64歳の習近平に、現在の任期が終了する2023年以降も権力の座にとどまることを可能にした。
習はまた、「習近平思想」として知られる自らのイデオロギーを中国の憲法に明記させ、禁止されているはずの個人崇拝を強固なものにしている。同思想は昨年、共産党の規約にも盛り込まれた。
習が権力基盤を強化し、個人崇拝を進めている証拠は、しばらく前からあった。特に昨年、自分の後継者になり得る若い人材を政治局常務委員会のメンバーに昇進させることを拒否したことで、習が2023年以降も権力の座を降りるつもりはないのではないかという憶測は、既に飛び交っていた。
その中で最も多かった説は、彼が正式な任期制限のない共産党中央委員会主席の座にとどまり、彼に代わって国家主席の座に就く名目上の後継者を選ぶというものだった(中央委員会主席と国家主席のポジションは90年代以降、結びつけられてきたが、理論上は異なる人物が就くことが可能だ)。国家主席の任期制限撤廃は、ケ小平が設置した規範の終わりを示唆している。
公平を期して言うならば、中国の権力継承システムはこれまでも、見かけほどしっかりと確立されたものではなかった。ケ小平は、江沢民とその後継者である胡錦涛の任命に関与していた。つまり習は、中国の建国の父のうちの誰かから祝福されて選ばれたのではない、初の国家主席なのだ。
加えて、ケ小平と(彼に比べれば程度は低いが)江沢民はいずれも、正式に辞任した後も絶大な権力を維持し、後継者たちを悩ませた。2012年に胡錦涛が習に全面的に権限を移譲したことは、今やむしろ例外的なことに思える。
■「終身大統領」が続々誕生?
中国の国営メディアは、今回の国家主席の任期撤廃について、世界的な変化や国内の近代化が急速に進むなか、「安定した、力強く一貫した指導体制」を維持する手段だと擁護している。
短期的には、これによって習は新たに、南シナ海における覇権を含む野心的な目標を推し進め、「一帯一路」政策を通して中国の経済的影響力を拡大していくための権限を手にするだろう。
だが過去の例を見ると、長期的には、今回の動きが政治的安定の兆しだとは考えにくい。ルールに基づく権力継承システムがないと、ほかのエリートたちが権力を奪取するため非常手段に打って出る可能性がより高くなる。
今のところ習の支持率はきわめて高く、彼が推し進める腐敗撲滅運動によって、彼のライバル候補の大半が排除されている。だがこれがずっと続くとは限らない。
また今回の変革は、中国以外のところにも影響を及ぼす可能性がある。
中国が経済的影響力を拡大させつつあることで、その安定した独裁主義的モデルが欧米式の民主主義に代わる魅力的なモデルに映り始めている。とくに世界の発展途上国では、中国の例に倣って独裁政治や終身大統領が生まれる可能性もある。
ちなみに、ドナルド・トランプ米大統領も過去に、習近平が権力を増大させていることを羨むような発言をしている。それを考えると、我々が懸念すべきは発展途上諸国だけではないのかもしれない。
(翻訳:森美歩)
© 2018, Slate
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