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「実質賃金の伸びはどのデータでもマイナス」こそアベノミクスの問題点だ
https://diamond.jp/articles/-/193149
2019.2.7 野口悠紀雄:早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 ダイヤモンド・オンライン
毎月勤労統計の不正調査が発覚、賃金の正確なデータがわからなくなってしまった中で、野党が実質賃金のデータを計算し直したところ、2018年の多くの時点で伸び率がマイナスになり、厚生労働省もそれを認めたと報道された。
そしてこれが新たなデータ偽装問題であるかのように言われることがある。
しかし、どのデータが適切かは、議論の余地がある。それに、「実質賃金の伸びは、あるデータで見ると高いが、別のデータで見ると低い」ということではない。
問題は、どのデータで見ても、実質賃金は下落していることだ。この原因を見極め、経済政策を転換することこそ重要だ。
賃金で「4つのデータ」
どのデータが正しいのか
まず、今回の賃金統計問題で何が論議になっているかを説明しよう。
毎月勤労統計調査では、500人未満の事業所は抽出調査になっている。この対象は3年ごとに入れ替えられる。2018年1月には、ルールに従って入れ替えが行なわれた。
また、18年3月の閣議決定に基づいて、18年1月確報以降は、「共通事業所」のデータが「参考データ」として発表されている(「毎月勤労統計におけるローテーション・サンプリング(部分入替え方式)の導入に伴う対応について」)。
「共通事業所」とは、「前年同月分」および「当月分」ともに対象となっている事業所だ(したがって、サンプル数が少ない)。なお、参考データでは、名目値のみが公表されており、実質値は発表されていなかった。
厚労省は、毎月勤労統計調査で、本来、全数調査が対象の東京都の従業員500人以上の事業所を抽出調査で行なってきたことが発覚したのに伴い、12年以降のデータにつき再集計を行ない、これを19年1月23日に公表した。
これは、500人以上の事業所について、全数調査に近づける補正をし、500人未満の事業所は上記の対象を入れ替えた後のものだ。
結局、17年から18年について見ると、4つのデータがあることになる。
A:18年に調査対象を入れ替えたデータで、18年12月までの段階で公表されていたもの(以下「旧公表データ」と呼ぶことにする)
B:18年に調査対象を入れ替えたデータで、現時点で公式のデータとして公表されているもの(以下、「新公表データ」と呼ぶ)。
C:18年に調査対象を入れ替えない場合のデータで、18年12月までの段階で公表されていたもの(以下、「旧参考値」と呼ぶ)
D:18年に調査対象を入れ替えない場合のデータで、現時点で公表されているもの(以下、「新参考値」と呼ぶ)。
なお、CとDの数値は、ほとんど違いがない。
対象入れ替えない場合が
入れ替えた場合より伸び率低い
これらを、一般労働者、現金給与総額について示すと、図表1、2のとおりだ。
18年について見ると、C、Dの伸び率は概してA、Bより低くなっている。
伸び率が最も高かった18年6月は、Aで3.3%だったものが、Bでは2.8%になった。Cでは1.3%であり、Dでは1.4%になっている。
上記の野党の計算は、「公表データではなく参考データを用いて実質賃金を計算すると、上昇率が下がる」というものである。
この考えに基づいた実質賃金は、簡単に計算することができる。結果を、公表実質賃金と比較して示すと、図表3のようになる。
図表3で見られるように、「2018年では多くの月でマイナスになる」というのが、野党の主張だ。
野党の計算と同じ考えに基づく実質賃金のデータを公表するとも報道されたが、現在のところ公表されていない。
「入れ替えなしデータが正しい」
とは言えない
ここで問題となるのは、BとDのどちらのデータを取るべきなのかということだ。
これについて、「抽出対象を入れ替えた公表データは間違いであり、変えない参考データのほうが正しい」とする意見が見られる。
対象を変えてしまえば「違う人の身長を比較して身長が伸びた」というようなもので、おかしいというのである。
朝日新聞は、1月31日のデジタル版で、そうした考えに基づく野党の試算を紹介し、さらに「総務省は実際の賃金の動向をつかむには、17年も18年も続けて調査対象となった事業所に限った調査結果を重視すべきだとしている」と報じた。
しかし、共通事業所のデータDが正しくて公表データBが間違いとは言えない。どちらを見るべきなのかは、「何を知りたいのか?」という目的によって決まることだ。
例えば、ある家を考え、「そこに住んでいる人の平均年齢はどう変化するか?」という問題を考えるとしよう。
ある程度の期間を取れば、結婚相手が入ってくるだろうし、子供が生まれるだろう。あるいは死去する人もいるだろう。つまり、住んでいる人は変わるわけだ。
しかし、その家に住んでいる人の平均年齢という点から言えば、そのような変化を盛り込んだものを見るべきだ。この場合には対象が変わるわけである。
経済全体を対象にする場合にも、こうした見方が適切である場合が多い。
対象が入れ替わったのであれば、確かに、連続性はない。しかし、日本の平均賃金を見たいと言うのであれば、対象は入れ替えるべきだろう。
多くの統計は、数十年間という期間にわたって調査が行なわれている。この場合に調査の対象が変化するのは、当然のことだ。
実質賃金が下落する状況からの
脱却こそが重要
重要な点は、図表4に示されているように、公表値Bで見ても、実質賃金は低下しているということだ。
年平均データで見れば、12年から17年の間に−3.7%、1月のデータで見れば、12年から18年の間に−5.1%下落している。
この間に消費税の税率が5%から8%に引き上げられているが、これが消費者物価に与える影響は2%程度と考えられる。上記の実質賃金の推移には、この影響も含まれている。
しかし、それを除いたとしてもなお、実質賃金の伸びはマイナスになる。
これこそが、アベノミクスの評価に関してもっとも重要な点だ。それは、どの実質賃金の数値を用いても言えることなのである。
そして実質賃金が伸びないから消費支出が伸びず、このため経済の量的な拡大が生じないのである。
この状態は、金融緩和を続けたとしても変わらない。むしろ、物価上昇を考えれば、悪化する可能性が高い。こうした状況から抜け出す方途が考えられなければならない。
実質賃金の想定は、将来の政策に大きな影響を与える。
最大の問題は、公的年金の財政検証で非現実的に高い実質賃金が想定され、人口構造の変化に伴う深刻な問題が覆い隠されていることだ。
賃金データについての認識が高まっている今、このことを十分に議論すべきだ。
(早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター顧問 野口悠紀雄)
#毎月勤労統計 で、公表されていないデータだと #実質賃金 伸びがマイナスになると野党が批判している。しかし、どんなデータで見ても、この数年間を見れば、#実質賃金は下落 している。https://t.co/wFw1eap1Df
— 野口悠紀雄 (@yukionoguchi10) 2019年2月6日
だから、消費増税はやめて、むしろ消費減税をすべきだにゃん。
— いとーT[最近はペーパークラフト作家] (@itoht2) 2019年2月7日
「実質賃金の伸びはどのデータでもマイナス」こそアベノミクスの問題点だ | 野口悠紀雄 新しい経済秩序を求めて | ダイヤモンド・オンライン https://t.co/88mc6rZSzq
どのデータで見ても、#実質賃金 は下落している。年平均データで12年から17年の間に−3.7%、1月のデータで12年から18年の間に−5.1%下落している。
— 無核 (@nonucs) 2019年2月7日
消費増税の影響2%程度を除いたとしても、なおマイナスだ。これこそが、#アベノミクス の実績なのだ。#嘘 #隠蔽 #不正統計https://t.co/e8uNNUDWJT
実質賃金の想定は、将来の政策に大きな影響を与える。
— mine (@mine_my_my) 2019年2月6日
最大の問題は、公的年金の財政検証で非現実的に高い実質賃金が想定され、人口構造の変化に伴う深刻な問題が覆い隠されていることだ。
賃金データについての認識が高まっている今、このことを十分に議論すべきだ。 https://t.co/uxpt9UQ1MQ
どのデータで見ても実質賃金は下落。これは金融緩和を続けたとしても変わらず、物価上昇を考えれば、悪化する可能性。野口悠紀雄さんのコラム。https://t.co/pdXyFWO5DY 最大の問題は、公的年金の財政検証で非現実的に高い実質賃金が想定され、人口構造の変化に伴う深刻な問題が覆い隠されていること
— 石川一敏 (@ik108) 2019年2月6日
>「実質賃金の伸びはどのデータでもマイナス」こそアベノミクスの問題点だ | 野口悠紀雄https://t.co/3PMv4ed1Zg
— hogepy ★★★☆☆ (@hogepy) 2019年2月7日
『それは、どの実質賃金の数値を用いても言えることなのである。そして実質賃金が伸びないから消費支出が伸びず、このため経済の量的な拡大が生じないのである。』
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