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株式市場の混乱は本当に落ち着いたか?鍵を握るのは中国だ
https://diamond.jp/articles/-/193133
2019.2.6 西岡純子:三井住友銀行 チーフ・エコノミスト ダイヤモンド・オンライン
Photo:PIXTA
日経平均株価は、昨年10月の高値2万4270円から12月下旬の安値1万9155円へ5000円超下げたのち、足元にかけてはおおよそ下落分の3分の1程度を取り戻した。
この間、米国のS&P500指数は、下落した分を6割強取り戻している。
日米の株価急落の間には、ファーウェイのCFOがカナダで拘束され、米中貿易摩擦の火に油を注いだことや、昨年12月に米国で利上げが実施されたことなど、急落の引き金とされてもおかしくないもっともらしいイベントがあったことは確かだ。
だが、過去の株価急落局面と比較して見ると、時価総額の2割が消えてしまうほどの要因だったのだろうか、という「謎」が残る。
一方で、落ち着きを取り戻した様子の市場が、再び混乱することはないのだろうか。
株価急落は
世界経済の「大事」になるか
過去、株価が2割以上上げ下げした局面では、はっきりした材料があった。
例えば、株価が4割も下がった「リーマンショック」は、サブプライムローンなどの焦げ付きがどれくらいあるかわからない疑心暗鬼が強まる中で、金融機関や企業が金融市場から一気に資金を引き揚げたことがあった。
流動性を確保しようとした結果、世界からドルの流動性が瞬時に干上がってしまったことが、危機につながった。
ドルの出し手がいなくなった市場で、多くのドル決済の貿易が瞬時に止まり、それは実体経済にも波及して、企業活動が停止するなど甚大な問題になったのだ。
2015年から2016年にかけて断続的に起こった「チャイナショック」では、中国での構造調整が成長率を圧迫するとの懸念から、一斉に投資家センチメントが冷え込んだ。
その事態をより深刻にしたのは、原油価格が暴落したことで金融市場が混乱に陥ったことだ。
2014年の中ごろから1年半の期間で3分の1にまで原油価格が下落してしまったことで、米国のエネルギーセクターが採算割れに追い込まれ、それが金融市場での信用不安を生むクレジットイベントに波及したのだ。
それでも、事なきを得たのは、米国全体で見ればエネルギーセクターの付加価値は、全産業のうち2%にも満たないうえ、FRBが緩和的な金融政策を維持していたことによる。
実はその後も、米国では自動車ローンの増加と延滞率の上昇が、市場を緊張させた時期があった。しかし、それも今から見れば小さなクレジットイベント問題として消化された。
こうしたことを考えれば、昨年末からの株価急落も、低格付け企業向けのローンを対象とした金融商品のバブルとその調整であり、それが、年末の商いが薄い時期だったこともあって、クレジット市場の混乱を発端に値崩れが一気に加速してしまった、と考えるのが妥当だろう。
それを裏付けるように、FRBが1月のFOMC(連邦公開市場委員会)で利上げの停止を表明し、市場の不安を抑える方向に急きょ、政策のかじをきったことで、市場は見事に落ち着きを取り戻した。
中央銀行や政府が、株価に一喜一憂するかのような政策運営をすることがいいのかどうか、議論の余地は多くある。
ただ、多くの国の中央銀行や政府が、株価の動向を重要視して政策運営をしている現状を考えれば、過去の金融危機時のような、大手金融機関の突然の破綻をきっかけとした流動性危機が露呈しない限り、世界経済は、主要国が連続してマイナス成長になるような大事にはならないのだろう。
米国経済は拡大続く
中国の対応が要注目
実体経済の面でも、米国は空前の規模の減税が行われたことで、2018年は、「下振れリスク」や「先行き不透明」がいわれていたにもかかわらず、成長率が最終的には2.9%と、前年の2.2%から加速する見込みだ。
2019年も、減税規模は昨年以上である(議会予算局試算)。
前年との比較で見れば、2018年は、17年が減税規模ゼロだったことから、2300億ドル相当の恩恵を受けた。2019年は、2018年ほどには底上げの恩恵はないだろうが、それでも17年からだと2年間で総額3500億ドル相当の減税規模である。
企業、家計双方に恩恵をもたらすものであり、これがあって、景気が良くならないわけがないという減税の規模感である。
日本も、日本経済が米国に強く依存していることを考えれば、米国経済が拡大を続ける状況で、日本経済が長くマイナス成長が続くようなシナリオは立てにくい。
問題は中国である。今年に入ってから、「昨年11月ごろから受注や生産が半減した」など、中国経済が大きく下振れしたことを示唆する声が少なくない。
中国の需要が大幅に下振れているのであれば、日本だけでなく、米国、欧州など、多くの国が実需は下振れするリスクに晒される。
ただ一方で、中国政府も、経済の下振れに対する対応を機動的に行っている。
2019年の経済運営について、中国共産党の中国経済工作会議で議論された政策を見ると、財政政策は2018年に引き続き、「地方特別債」を財源としたインフラ投資を拡大することに加え、大規模な減税などで景気浮揚を目指すことが盛り込まれている。
「地方特別債」は、主にインフラ投資の財源になるが、これまでの野放図な投資拡大とは異なり、投資プロジェクトの採算性・利用度などに関し、行政の審査を通過しないと、発行が認可されないものだ。
つまり従来のようなシャドーバンキングといった透明性の低い資金調達手段は徹底して排除される。
2018年の地方特別債の発行枠は1兆3500億元だったが、今年はその枠を大幅に拡大する方針が示されている。
これまで地方債の発行は、例年3月に開催される全国人民代表大会(2019年は3月5日〜)で予算が承認された後でないとできなかった。
だが2019年は、1月から発行(暫定的な発行枠:1兆3900億元(うち一般債:5800億元、特別債:8100億元))することを、すでに中国国務院が承認している。発行規模だけでなく、機動性も向上しているのだ。
また、減税政策については、昨年は8000億元の目標に対し、8700億元の減税が実施されている。今年は、企業の付加価値税の減税が行われると見込まれ、減税規模も昨年を上回ることが中央経済工作会議で示されている。
リーマンショック直後の“4兆元規模の経済対策”ほどではないが、かなり本腰の入った対策だ。
また金融政策でも、当局による企業の資金繰りサポートは広範囲にわたる。
中国人民銀行(PBOC)が特に注視しているのは、当局の指導で過大な借り入れによる信用取引の解消が進められてきた揺り戻しで、民間中小零細企業の資金繰りが逼迫(ひっぱく)していることだ。
特に2018年に入り零細企業向けの融資の伸びは鈍化してきた。
これに対して、民間中小零細企業向けの融資環境改善に向けた動きは、昨年後半から積極化している。
(1)緩和的な日々の流動性オペレーション、(2)融資枠等の緩和、(3)今後の民間企業向けの融資を拡大する方針の提示、(4)新たな中小企業支援策の公表、などの対応策が矢継ぎ早にとられている。
具体的には、(2)に関しては、昨年6月、10月にそれぞれ1500億元、12月に1000億元分の零細企業向けの融資の再貸付・再割引の枠を拡大した。
(3)については、全体の企業融資のうち、現状で約4割程度と見られる民間企業の割合を、今後3年で5割に増やす指針が示されている。
(4)についても、昨年12月19日に中小・民間企業向け融資に対する流動性供給制度として「標的型中期貸出ファシリティー(TMLF)」が新設された。
これは通常の「中期貸出ファシリティー(MLF)」より0.15%程度低い金利で金融機関に流動性を供給する制度である。
金融政策面では、1月15日と25日にそれぞれ0.5%ずつ、既に計1.0%のRRRの引き下げを発表、実施している。そして、3月には全人代である。
政治リスクは政治が対応
厄介なのは市場の過剰反応
振り返れば、2016年の英国国民投票でEU離脱が支持されたこと、同年の米大統領選挙でトランプ氏が当選したこと、その後、米中貿易戦争に発展したことで、このところ、市場は「リスク」の大合唱だった。
ただ、いま一度、認識すべきは、英国、米国、中国いずれも、極端な経済の下振れには至っていないことだ。
英国では急速に進んだポンド安で物価が上昇し、それが消費者の購買力をそいだ。しかし、足元ではインフレが落ち着くと、消費は回復が顕著だ。
米国については、前述のとおり、2018年は2.9%の成長が見込まれている。
中国の成長率は減速基調ではあるものの、意図的な調整の範囲内であり、仔細に見ると、製造業の固定資産投資は増加ペースが高まりつつある。いわば、政府が目指す自律的な成長が実現するかたちだ。
米中貿易戦争についても、世界全体の貿易数量の減少には至っていない。むしろ、半導体市況に沿って増減を繰り返すという、至って健全なサイクルを描いている。
今、世界で言われているリスクは金融危機、すなわち保有金融商品の時価の下振れが金融機関の体力をそぎ落とし、これが実体経済の活動まで停滞させるといったものではなく、いわゆる「政治リスク」である。
政治に起因するリスクというのは、足元の米中協議が暗示するように、結局は、株価が下落したり、「壁」の建設に絡む政府閉鎖の長期化がトランプ大統領にとって分が悪くなったりする展開となれば、それを修復させる方向で政治が動く。そうなると、政治リスクは如実に下がるのだ。
混沌としているとされる英国のEU離脱でさえ、そうであろう。
メイ政権とEUとの間でいったん合意したはずの離脱案が英議会で否決されたことで、事態は振り出しに戻ってしまった様相だが、それでも、経済と市場が恐れる「合意なき離脱」は野党労働党の意をくむ形で回避される可能性が濃厚だ。
これもまた、最後は政治的判断でリスクはリスクではなくなる展開となるのだろう。
「リスク」が意識される局面において、経済にとって最もやっかいなのは、市場がそのリスクに過剰に反応してしまい、株価の下落によって今度は実体経済が連鎖的に下押しされることだ。
そうした局面では、日本の場合は、漏れなくドル安円高を伴うため、日本経済はダブルパンチを受ける。
2月に入り、経済の落ち込みは恐れていたほどではなかったかもしれない、ということが明らかとなれば、近視眼的な市場は即座にリスク資産を買い増すリスクオンに傾くのだろう。
ひとまず、それにつながるかどうかは、中国が鍵を握っている状況だ。
(三井住友銀行 チーフ・エコノミスト 西岡純子)
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