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ファーウェイ巡る米中IT覇権争奪戦で日本がとるべき道は
https://diamond.jp/articles/-/192981
2019.2.5 真壁昭夫:法政大学大学院教授 ダイヤモンド・オンライン
IT分野でも米中の覇権国争いが激しくなっている (写真はイメージです) Photo:PIXTA
米国がイラン制裁違反を理由に
ファーウェイと同社CFOを起訴
1月28日、米国の司法省はイラン制裁違反を理由に、通信機器の世界大手である中国の華為技術(ファーウェイ)と同社の孟晩舟副会長兼最高財務責任者(CFO)を起訴した。
中国がIT先端分野での競争力を高めるためには、ファーウェイの存在は欠かせない。一方、米国はそのファーウェイをたたき、中国の覇権強化を食い止めたい。トランプ大統領とすれば目先の支持獲得のために、ファーウェイに圧力をかけることで「IT先端分野での中国の台頭を抑えた」、「中国から譲歩を引き出した」という成果を世論にアピールしたい。
これまでトランプ政権には、長期の視点に基づいて政策を運営する発想が見当たらない。中長期的に見ると、トランプ政策は米国と主要国間の摩擦を高めるなど、国際社会に禍根を残す恐れがある。IT先端分野における米中の覇権争いも激化する恐れがある。
一方、日本は、安全保障面で米国との関係を維持・強化しつつも、自力で国力を引き上げなければならない局面を迎えた。足元、中国はわが国との関係を強化しようとしている。米国の孤立化の懸念が高まる中、日本は自由貿易促進の旗振り役となり、アジア新興国などとの関係を強化して経済の実力強化を目指すべきだ。
米中貿易戦争には
2つの側面
米国の立場から貿易戦争を考察する。米国は、2つの側面から中国に貿易戦争を仕掛けている。まず、米国は中国の農産品や日用品などに関税をかけ、対中貿易赤字を削減したい。
もう1つの側面が、IT先端分野での覇権国争いである。民主・共和両党からは、中国に対して制裁を発動しIT先端分野での台頭を抑える必要があるという強硬な意見が増えている。
なぜなら、5Gや人工知能開発などは、今後の世界経済、サイバーセキュリティーなどに無視できない影響を与えるからだ。その考えを反映して米国政府は、IT分野における中国の知的財産侵害などは、経済の問題ではなく、安全保障上の脅威と位置づけている。
5G分野でファーウェイは世界最大手の機器サプライヤーだ。売上高は10兆円を超える。米国はファーウェイに圧力をかけ、技術開発や競争力の向上に向けた取り組みを抑えたい。それは、中国のIT先端分野での覇権強化を食い止めることにつながる。同時に、米国の圧力はファーウェイの業績を悪化させ、中国経済の下方リスクを高めるだろう。米国は中国を経済的な苦境に追い込み、要求をのませたい。
この危険性をトランプ大統領は理解していない。すでに、中国による報復関税の発動を受けて米大豆農家などに影響が及んでいる。その上、企業経営者からの批判も強まっている。アップルのティム・クックCEOは投資家向け書簡の中で、中国でのiPhone販売減少の理由が貿易戦争であると政権を批判した。その他、キャタピラー、エヌビディア、インテルなどの業績も、中国での需要低下から悪化している。
2020年の大統領選挙で、トランプ大統領は再選を狙っている。同氏としては、有権者からの支持を集めるために、経済を安定させなければならない。3月2日、米国政府は対中関税の引き上げを見送る可能性がある。
一方、IT先端分野での覇権を巡る米中の摩擦は続くだろう。圧力を強化するためにトランプ政権はカナダに孟晩舟副会長の身柄引き渡しを求め続けるはずだ。米国がファーウェイを起訴したことのマグニチュードは軽視できないのである。
中国政府として
取りうる対抗策
米国が仕掛ける貿易戦争の影響から、中国経済の減速が鮮明化している。2018年の実質GDP成長率は6.6%と前年から0.2ポイント低下した。先行き不透明感から、2019年の成長率目標を引き下げる地方政府も増えている。
昨秋以降、中国政府は減税とインフラ投資を軸に2.5兆元(40兆円)程度の景気対策を発動した。ただ、短期間で景気が上向くとは考えづらい。これまでにも中国政府は公共事業を進めて景気の安定を目指してきた。
その結果、需要の創出効果は発揮されづらくなっている可能性がある。その上に貿易戦争への懸念が加わって企業経営者のマインドも悪化している。落ち込んでいる個人消費を上向かせるには、追加的な減税措置も必要になるだろう。
目先、中国は国内経済を安定させるために米国からの制裁関税の引き上げを回避したい。中国は米国に譲歩し、3月の関税引き上げ回避を目指す可能性がある。農産品・日用品への関税引き上げの応酬に関しては、米国と中国のどちらが先に「参った」というか、我慢比べの状況にある。経済的な余裕度から言えば、中国の切迫度は高い。
問題は、その後も、米国政府がファーウェイに圧力をかけ続けると考えられることだ。その影響を緩和するために、中国は対外進出と国内でのIT先端技術開発をセットで、大規模かつ急速に進めるだろう。
対外進出では、一帯一路が重要だ。中国のインフラ投資のかなりの部分が鉄道建設に充てられている。目的は、中国と一帯一路沿線地域を結ぶ物流網の整備にある。中国はアジア新興国などの需要を取り込みつつ、人民元の流通範囲を拡大させたい。それは中国が為替レートの影響を受けづらい経済基盤を整備することにつながる。
それによって国内情勢を安定させつつ、中国はIT先端技術分野での競争力向上に取り組むだろう。これは、ファーウェイに次ぐ第2、第3のIT大手企業を国家主導で育成することを意味する。
中国が世界最大の半導体生産装置の買い手になったことはその野望の表れだ。中国は自国の規格に基づいたテクノロジーを一帯一路の沿線地域に普及させ、影響力の拡大を狙うだろう。そのマグニチュードはさらに増す可能性がある。
長期視点での
政策運営の重要性
今後の貿易戦争の展開を考えると、短期的には米国は有利に交渉を進める可能性がある。一方、中長期的に見ると、中国のほうが一枚上手ではないだろうか。
トランプ大統領の発想は、実に近視眼的だ。国内の不満をくみ取るために、世論が批判を強めている中国に圧力をかけている。自由貿易体制への反対姿勢は、企業のサプライチェーンの寸断・混乱につながる恐れがある。同氏はそうした政策によって、目先の支持確保を目指している。対中、中東、アジア戦略の指針も定まっていない。
国際社会の中で、米国の孤立感は高まらざるを得ないように思う。長い目で見ると、アジアだけでなくアフリカ諸国との関係強化を目指している中国と、内向き志向を強めている米国の差は大きくなる恐れがある。
この状況下、日本は今後10年、あるいはそれ以上のタームでの国際情勢を念頭に、政策を運営しなければならない。特に、外交政策を通して各国との経済的な関係を強化し、日本経済の実力を引き上げることが求められる。
具体的には、従来以上の規模でアジア新興国への経済支援(インフラ開発や技術供与、労働者の受け入れ)などを進める。それは、わが国の主張に賛同する“親日国”を増やすことにつながるだろう。
その上で、多国間とのEPA(経済連携協定)の締結に向けた議論を進め、TPP11などとの収斂を目指す展開が考えられる。それは、日本が経済の側面から中国の対外進出を抑制する“対中包囲網”を形成することにもなる。
中国政府は対日関係を重視し始めている。それは、わが国にとって大きなチャンスだ。政府はアジア新興国の理解を取り付けつつ、中国に対して日本が主導する経済連携などへの参画を求めればよい。同時に、中国の圧力に直面する国の意見をくみ取り、海洋進出などに対して自制を求めることもできるだろう。
実際にそうした取り組みを進めることは口で言うほど容易なことではない。しかし、ファーウェイをはじめIT先端分野での米中の対立激化懸念が高まる中、日本は世界の経済にとって何が必要であり、何がマイナスかという“是々非々”の姿勢を明確に示すべきだ。それが各国からの信頼を得る第一歩となるだろう。
(法政大学大学院教授 真壁昭夫)
治癒可能な遅効性の毒を飲むか、致死性の猛毒を飲むか?私は身体を鍛えて免疫力を上げるのが一番良いと思うが。
— hiro (@hiroforjapan) 2019年2月4日
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