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「死ねというのか?」ある証券マンが取引先社長から浴びせられた罵声 東京マネー戦記(3)2007年冬(現代ビジネス)
http://www.asyura2.com/18/hasan130/msg/554.html
投稿者 赤かぶ 日時 2019 年 1 月 12 日 14:47:45: igsppGRN/E9PQ kNSCqYLU
 



「死ねというのか?」ある証券マンが取引先社長から浴びせられた罵声 東京マネー戦記【3】2007年冬
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/59297
2019.01.12 森 将人 元証券ディーラー 現代ビジネス


企業の資金調達を支援し、事業の成長を支えることは、証券会社の重要な任務である。しかし時には、たとえ相手先のトップから懇願されようとも、その企業に残された体力を冷静に分析し、非情にも見える決断を下さねばならない時がある。

大手証券会社に勤める「ぼく」は、資金繰りが悪化したあるノンバンクから連絡を受けるのだが……。

証券マンたちの息詰まる「ディール」の最前線を描く実録小説「東京マネー戦記」。


〈これまでのエピソード〉

第1回:「リーマンショックの裏で、危険な綱渡りに挑んだ証券ディーラーの運命」

第2回:「優秀な女性社員の『深夜残業と離婚』は、ぼくの責任なのかもしれない」


(監修/町田哲也

「見学に来ないか」というメール

ぼくが資金繰りに苦しむ企業の死に直面したのは、2007年のことだった。

ITバブル以来のピークをつけた株価は、下落に転じはじめていた。景気後退に追い打ちをかけたのが、米国の住宅価格下落とサブプライム問題だ。かつてない世界的な信用収縮と連鎖的な金融不安の足音に、投資家は逃げる準備を進めていた。

リスクを取る投資家がいなくなることは、業績の悪化した企業にとって死活問題だった。資金調達が滞れば、経営が傾くのは時間の問題だ。ディーラーにできるのは、荒れたマーケットと関わりを持たないことくらいだった。

Cというノンバンクは、そんなマーケットの波を大きく受けた会社だった。創業20年程度で東証に上場するまでになったが、新たな資金調達がむずかしくなっていた。ノンバンクは、資金がなければ貸し付けができない。業績への直接的な影響は無視できなかった。

「マーケットに関する意見交換もかねて、一度御社の皆さんで、弊社のコールセンターを見学にいらっしゃいませんか?」

C社の広報部からメールが来たのは、10月のある日のことだった。ぼくが参加してみようと思ったのは、C社の事業拡大に向けての取り組みを直接見ないと、会社の信用力を判断できないと思ったからだ。

ノンバンクはインターネット経由の新規顧客が増加しているが、依然として電話や無人カウンターでの申し込みも多い。融資を希望する顧客の手続きをスムーズに進めていくために、コールセンターを自社で保有する会社は少なくなかった。

11月とは思えない温かい日が続いていた。東京駅から京葉線で1時間ほど行った駅で降りると、C社のスタッフが迎えに来ていた。訊くと、ほかのメンバーはすでに現地に向かっているという。ぼくは案内されるままに、スタッフが運転する車に乗せてもらうことにした。



「ただの懇親会じゃない」

しばらく走ると、目に入ってきたのはベイエリアに建つ豪華ホテルのような建物だった。これだけのビルを新たに建設するには、相当の費用がかかるはずだ。C社にそんな余裕があるのだろうか。財務状況に対するぼくの懸念は、建物を見て深まらざるを得なかった。

ひと通り見学が終わると、チームヘッドの木村悟志とぼくはコールセンターの近くにあるC社の保養所に案内された。意見交換をするはずだったが、実際には30分ほど雑談に近い会話をしただけで、懇親会に入ることになった。

「あかん。これ、ただの懇親会やないで」

何となく感じていた不安を、最初に口にしたのは木村だった。著名な画家の巨大な絵画が飾られた会場では、フレンチを主体としたビュッフェスタイルの食事が用意され、ドレス姿の女性がワイングラスをふるまっていた。

「どうしますか?」

「ここまで来たら、断るわけにいかんやろ。とりあえず入るか」

財務部長の挨拶の前にシャンパンが配られ、半ば強制的にぼくもグラスを持たされた。

「今日は素晴らしい提案をお持ちいただき、ありがとうございました。資金調達をお願いするにあたって、弊社の施設を存分に見学してください」

「ありがとうございます。ただ、提案と申しましても……」

ぼくはほとんど提案らしきものをしていなかった。マーケットの状況を考えると、100億円どころか50億円の調達もむずかしいかもしれない。利回りもどれだけ必要か見当がつかない。伝えたのはそれだけだった。

「御社にお願いすれば、間違いないと思いますから」

「まずは、投資家をいくつか回ってみませんか? そこでマーケットの状況が体感できると思います」

財務部長が自分のペースに引き込もうとしたところで、木村が助け船を出してくれた。

「まあ、今日はそんな話をしたいんじゃない。せっかくですから、ゆっくり楽しみませんか」

財務部長は、急ぐように議論を切り上げた。口調は柔らかかったが、苛立たしげな表情が口もとにこぼれていた。

「買い手」は、いるのか?

ぼくと木村は、翌日にさっそく営業チームとミーティングをしたが、やはりC社の評判は芳しくなかった。返済が延滞している顧客への強引な取り立てが報道されるなど、金融機関としてトラブルが尽きないC社の経営姿勢が嫌気されていた。

「こりゃ、あかん。あらためて提案するまでもないわ。買い手がほとんどおらんぞ」

「そうですかね……」

木村と話しながら、ぼくは本当に可能性がないか疑問を持っていた。資金繰りが厳しいといっても、新規の融資ができないだけで、足もとの事業を回していくだけなら問題はないはずだ。

「それは甘いで。こいつら、どんな訴訟を抱えてるかわからん。取引なんかしたら、変なリスクを抱え込むだけや」

「でも困ってるみたいですから、無視するのもどうかと思うんです。話だけでも聞いてあげれば」

「お前がそこまでいうなら止めんが、油断したらあかんで。どこまでも付け込んでくる連中や。とくにこのオッサンは、相当のやり手らしいからな」

木村が、関口社長の顔写真を差した。

ぼくは、創業者としてC社をここまで大きくした男がどんな人間なのか興味があった。また、先方をもう一度訪問したところで、資金調達を確約するわけではない。木村が過度に警戒する意味がわからなかった。

いきなり座敷に通された

自分の判断が甘かったことに気づいたのは、約束の時間に先方のオフィスに到着したときだった。木村に予定があったので、今回はぼく一人で訪問していた。前回の経験もあり、場所は保養所ではなく本社オフィスにするように、こちらからお願いしていた。

エレベーターから降りると、広報部長にいきなり案内されたのは座敷だった。接待用に用意した部屋なのだろうか。都内の有名な寿司屋の看板が立てかけてあった。

「お腹が空いたでしょう。まずは召し上がりませんか?」

「いいえ、結構です。今日はご説明に来ただけですから」

「そういわれると、私が関口に怒られます。私の顔を立てると思って、こちらにお座りいただけませんか」

広報部長の言葉に、ぼくは渋々、靴を脱いだ。隅の席に座るのが、ぼくの示すことのできる唯一の抵抗だった。

「ありがとうございます。形だけでけっこうですから」

広報部長がビールをグラスに注ぐと、ぼくは軽く口をつけた。向かいの席には、左から、財務課長、財務部長が座り、一つ空けて広報部長が座っていた。



「ご調達の件ですが……」

「それは、社長が来てからにしていただけますか? もう少しで来ると思いますから」

「……」

「それまで、これでも召し上がってください」

財務部長の合図で、板前が人数分のお造りを用意した。

「食事に来たわけではないですから」

「これは社長が釣った魚をさばいたものです。うちの社長から釣りの自慢は聞いたことありませんか?」

「いえ……」

「気分を害しますから、是非一口だけでも召し上がってください」

「いや、無理です。今日は、調達がむずかしいということをお伝えに来たのです。食事をいただくわけにはいきません」

ぼくの言葉に、三人が動きを止めた。真っ先に口を開いたのは、一番末席に座る財務課長だった。

「それはおかしいんじゃないですか」

「そういわれましても、私たちは投資家にも確認したうえで申し上げています。御社の今の状況では、買い手はいないというのが私どもの見立てです」

「そんなの誰でもいえるでしょう。あんたらが提案したいっていうから、チャンスをあげたんじゃないですか」

財務課長の口調が変わった瞬間、自分だけで来たことが大変な失敗に思えてきた。

「どんな経緯があったかは、私も存じ上げませんが……」

「今日提案を受けるからって、銀行には断りを入れたんだよ。あいつらも貸したいっていってたのにさ」

荒い口調の背後に偽りがあるのはわかっていた。銀行にも資金の貸し手はいない。だから証券会社に頼み込んでいるのではないのか。

やり手社長が発した「意外な言葉」

「すみませんねえ、遅くなりました」

気づくと、関口社長が座敷に顔を出していた。色黒でエネルギッシュな風貌を写真で見ていただけに、目の前に現れた、げっそりした男の表情が同一人物に思えなかった。

ぼくが立ち上がろうとすると、関口が、手をあげて静止した。

「先にやっていただいてよかったのに、まずは提案というところですか?」

「いや……」

「それがね、社長。資金調達はむずかしいっていうんです」

「ほう、それはどうしてですか?」

関口は意外そうな顔をぼくに向けると、おしぼりで手を拭った。

「探ってみたのですが、御社に投資しようという投資家が見つかりません」

「だから、そんなこと今さらいわれても困るっていってるんだよ! 自分の言動に責任を持ちなよ。おたくができるっていうから、お願いしたんだろ」

ぼくが説明を繰り返すと、財務課長が堪え切れなくなったのか、声を荒げた。

「まあ、いいじゃないか。せっかく来ていただいたんだ。当社の理解の足しになるかわからないが、私の話でも聞いてもらおう」

関口の落ちついた口調に、ぼくも話を聞くしかなかった。

「私は富山の貧しい漁村の生まれです。本当に小さな村で、毎年のように人口が少なくなっていく土地でした。あなたのような方には信じてもらえないかもしれませんが、人生に選択肢なんてないんです。ほとんどの人は生まれながらにして、死に方も決まってる。父や祖父の生き方を見ればいいからです。

一日の大半を海に費やす人生を、ほとんどの人がたどります。私がその道に進まなかったのは、単なる偶然です。父が病気をして、家にもいられなくなったので、外に出されました。そこで私は社会の仕組みを学んだのです」



「死ねっていうんですね」

関口の生い立ちは、ある雑誌の特集記事で読んだことがあった。高校を中退して小さな工場で働きはじめるも、経営が立ち行かずに工場は閉鎖された。そのとき関わった借金のつながりから、ノンバンクで働きはじめるようになった。

「いつも疑問に思ってましたよ。世のなかには貸し手と借り手がいるのに、なぜ貸し手がそんなに偉いのか。借りてくれる人がいなければ貸し手の商売は成り立たない。商売は全部そうです。お客様に買ってもらって、はじめて商売が成り立つ。

でもこの世界では、そんな常識が通用しないんです。借り手を虫けらのように扱い、偉そうにしている奴らが私には許せなかった。でもいつからか、そんな奴らの人生がうらやましくて仕方なくなった。そこからです。私が自分で会社を興そうと思ったのは」

30代で先輩についていく形で立ち上げた会社で、関口は実績を積むようになる。役立ったのは、借り手としてのつらい経験だった。どのようにすれば金を借りたくなるかは、自分の経験から導き出したという。

「この会社をはじめて30年以上になりますが、私たちのこだわりは、誰もやりたがらないことをどこまで本気でやるかです。銀行が金を貸さない人たちにも、私たちは融通してきました。金さえあればチャンスが活かせるという人が少なくないんです。そういう私のビジネスを理解していただくしかないと思います」

「お考えはよくわかるのですが、マーケットの変化は予想以上です。みんな御社がつぶれるなんてことは思っていません。ただ、正確にリスクが把握できない会社には手を出さないという雰囲気が支配的です。それほど投資家も余裕がなくなっているのです」

「どうにかならないんですか? 別に販売しなくてもいい。投資家がリスクを見きわめられなくなっているなら、おたくで抱えてもらってもいいんです。儲けるチャンスじゃないですか? 手数料だって上乗せしますよ」

「そんなことはできません……」

「何でですか? 今日お越しいただいたのも、あなたが弊社の魅力を理解いただいてるからではないのですか? 上司の方を説得いだけませんか? 私たちは来月末に30億円の支払いを控えている。その分だけでもお願いできませんか?」

関口はそれまで口調から一転して、頭を下げた。おそらくこれが本心なのだろう。とにかく金が欲しい。翌月の資金繰りにも窮するほどの状態だった。その姿を見ると、ぼくは前に進めなかった。

「すみません。やはり私だけでは判断できません。会社に聞かなければいけませんが、正直これ以上はむずかしいと思います」

「そうですか。私たちに死ねっていうんですね」

関口はそれだけいうと、黙り込んだ。何か考え込んでいるようにも、開き直って開放された表情にも思えた。ぼくはじっと下を向き、関口と目を合わせなかった。目を見れば何かいってしまいそうで、自分を押しとどめるのに精一杯だった。

本当にこれでよかったのか

C社が民事再生法を申請したのは、翌月のことだった。社長を含めたすべての経営者が退任し、ある銀行の傘下に入ることになった。財務部長も広報部長もいなくなると、ぼくが新会社で面識があるのは財務課長だけだった。

財務課長と挨拶するたびにひきつった笑みを向けられるのが気まずくて、ぼくも自然と足が遠くなった。最後に話したのは、彼の早期退職制度への応募が決まってからだ。C社の資金繰りも、ようやく一息ついていた。

「本当にこれしか選択肢はないのかと、最後まで社長は悩んでました」

すべてをあきらめる直前の関口社長の表情が、今でも財務課長の頭から離れないという。

それはぼくも同じだった。自分の身を守ることはできたが、マーケットを本当に必要とする人たちを守ることはできなかった。







 

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コメント
1. 2019年1月13日 00:46:02 : jXbiWWJBCA : zikAgAsyVVk[1574] 報告

リスク管理ができないと倒産するのが当然だが

なかなか高度成長が当たり前になっている当事者には難しいという

ありふれた話


>私たちに死ねっていうんですね

別に、死ぬ必要などないのも明らかな話であり

単なる甘えに過ぎない


>C社が民事再生法を申請したのは、翌月のことだった。社長を含めたすべての経営者が退任

つまりキャッシュを生み出せる優良企業であれば、経営者や幹部が交代するだけで、

大した問題ではないということだ

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