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日産ゴーン逮捕、崩れるルノーからの独立計画…逆に追い込まれた西川社長ら日本人経営陣
https://biz-journal.jp/2019/01/post_26169.html
2019.01.08 文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授 Business Journal
日産の西川廣人社長(写真:ロイター/アフロ)
会社法違反(特別背任)容疑で昨年12月に再逮捕されていた日産自動車前会長のカルロス・ゴーン氏について、東京地裁は12月31日、勾留を1月2日から10日間延長することを認めた。
本稿では、ゴーン氏の逮捕に経産省をはじめとする日本政府が関与していないのかを状況証拠的に検証してみる。
今回の事件では、東京地検特捜部が表に出てきたことで“国策捜査”という見方も浮上。逮捕に至る経緯をみると、昨年11月、G20首脳会談(アルゼンチン)の合間に安倍晋三首相はフランスのマクロン大領領と会談し、「民間の当事者で決めるべきで、政府がコミットするものではない」と発言をした。しかし、特捜部は、首相官邸や省庁からまったく独立して、ゴーン氏逮捕を進めたのだろうか。
12月20日の東京地裁による勾留延長却下と準抗告の棄却を受けて、特捜部は翌21日にゴーン氏を特別背任容疑で逮捕した。東京地裁による異例の判断と、それに対して特捜部が特別背任容疑での逮捕という最終手段に出た事実は興味深い。2回に分けて金融商品取引法違反で逮捕し、裁判所による勾留延長却下という想定外の判断を受けて、特捜部は仕方なく前倒しで特別背任での逮捕に踏み切ったという見解が多い。
特別背任容疑で逮捕できる十分な確信があれば、最初からそうしていたはずであり、特捜部も有罪に持ち込めるという十分な確信を持っていないのではないかという指摘も理解できる。穿った見方をすれば、日本の裁判所は、勾留延長却下と準抗告棄却、そしてゴーン氏とともに起訴されていた日産前代表取締役のグレッグ・ケリー氏の釈放と、「海外の世論を考慮した判断をします」とアピールする一方、特捜部は独自の論理で動いてゴーン氏の身柄を長く勾留するというバランスのとれた展開ともいえる。これが各組織独自の判断なのか、それとも全体が描かれたシナリオであるかは興味深い。
中国大手通信機器のファーウェイ幹部がカナダで逮捕された事件との関連が噂される、中国でのカナダ人拘束について、解放を求める声が世界で広がり、中国外務省が「カナダや米国など各国の言論に強烈な不満と断固反対を表明する。中国の司法主権を尊重するよう促す」と反論。これは特捜部にとっては力強い援護射撃であろう。しかし、日本は欧米よりも中国に近いという欧米の論調の後押しでもある。
■経産省と首相官邸も関知か
ここで、ゴーン氏逮捕を事前に知っていたのは、特捜部のみであるかを考えてみよう。ゴーン氏は11月19日に羽田空港で逮捕されたが、特捜部は事前に到着日時を日産から入手し、羽田に着陸した日産所有のプライベートジェット機内に乗り込み任意同行を求めた。
「19日夕方にビジネスジェット機で羽田空港に到着したゴーン前会長は、機内に乗り込んできた東京地検特捜部の係官に任意同行を求められた際、長時間にわたって容疑などの詳しい説明を要求していた」(11月25日付毎日新聞記事より)
羽田空港には、プライベートジェット機の乗客専用の搭乗口と到着口がある。ゴーン氏が搭乗していたジェットの機体番号は「N155AN」であり、Nは登録地がアメリカであることを示すので、機内の管轄権はアメリカとなり、日本の管轄権は及ばない。つまり、特捜部が国土交通省の管轄である空港の制限区域内、さらには日本の管轄権の及ばない場所に立ち入るため、当然ながら国交省から事前に了承を得ている。つまり、国交省の幹部や国交相、さらには首相官邸に事前に情報が伝わっていなかったとは考えにくい。
また、日産内部では昨年3月から監査役を中心とした少数メンバーによる極秘捜査を開始し、6月頃に東京地検特捜部に相談後、捜査が本格化したという。この6月、経産省で商務情報政策局長、審議官、さらには内閣官房参与を務めた豊田正和氏が社外取締役に就任している。この経緯より、ゴーン氏逮捕における経産省の積極的な関与が想起されるのが普通であろう。さらに、ゴーン氏の逮捕後に、社外取締役3人によって会長候補者を選ぶ委員会が設置され、その委員長には豊田氏が就任し、12月4日に初会合を開いているが、経産省が関知していないとは考えにくい。
そもそも常識的に考えて、国際問題に発展する可能性があるゴーン氏逮捕を、その責任を取りようもない検察が単独で進めることなどあるのか。首相官邸が関知していると考えるのが自然だろう。
■西川社長の責任を追及する声
だが、事態は経産省が思い描いたようには進んでいない。豊田氏以外の社外取締役は、ルノーOBのドゥザン氏と井原慶子氏だが、井原氏はレーシングドライバーであり、日産という世界的大企業のマネジメントを判断できるのかは疑問だ。つまり、3人の社外取締役による委員会ではあるが、実質はルノーとフランスを背負うドゥザン氏と、経産省の威信を背負う豊田氏という構図である。この3人で多数決や委員長判断でゴーン会長の後任人事を決めるというのは、世界では通用しないので、委員会内で意見調整が進まず「継続協議」となっている。
もともとの経産省の楽観シナリオは、非常事態ということで豊田氏に西川社長を推させて、一気に西川社長を会長に就任させるというものだったと報道されている。しかし、日産とルノー間の取り決めである改定アライアンス基本合意書(RAMA)では、ルノーは日産の最高執行責任者(COO)以上の役職を選ぶ権利があると定めており、ドゥザン氏はこれを理由に西川社長の会長就任に難色を示したとみられている。この日産の契約無視ともいえる行動は、グローバルな観点からは企業の信用を落とすだけではないか。
また、特捜部が12月10日にゴーン氏を直近3年分の有価証券報告書の虚偽記載で再逮捕したことで、西川社長の責任を追及する声が大きくなってきており、経産省のシナリオは、いっそう雲行きが怪しくなってきた。
問題の焦点は、日産のガバナンスになりつつある。火の粉を被りつつある西川社長は、遅ればせながら12月17日にコーポレート・ガバナンス体制と取締役報酬制度の見直しのために、独立した第三者の提言を取り入れる「ガバナンス改善特別委員会」を設置すると発表した。ゴーン前会長の後任人事は、前述のように先送りとなり、西川社長は、後任会長は今年3月末に予定されているガバナンス委員会の提言を踏まえて決める方針だと述べた。西川社長は取締役会終了後の記者会見で、新会長を選ぶ時期について「いつまでに決めてほしいと急かすつもりはない」「3月末までに決まらなくてもいいかなと思っている。十分に時間をとってほしい」とも話している。次期会長選定は一気にトーンダウンし、暗礁に乗り上げた感がある。
このように、後任会長の選定は経産省の思い描いていたようには進んでおらず、それを見越して大株主であるルノーは臨時株主総会の早期開催を日産に突き付けてきている。日産は即座に拒否をしたが、どこまで抵抗できるだろうか。凌いだところで、今年6月には定期株主総会は開かなければならない。
ルノーはそこで大株主として議決権を行使しようとした場合、日産がルノー株を買い増し25%として、ルノーの議決権を消滅させるという賭けに、日産の日本人経営陣と経産省は十分な勝算があると考えているのか。
以上見てきたように、日産が単独で検察に協力を求め、経産省は関与していないと考えるのは、かなり無理があるのではないか。そして経産省と距離が近い首相官邸も関知していたと考えるのが自然だ。そうであるならば、ゴーン氏逮捕はフランス政府にも事前に伝わっていた可能性も否定できない。
次回は、国家を巻き込んだ本件は、どのように着地するのかについて考察してみたい。
(文=小笠原泰/明治大学国際日本学部教授)
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