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「日産の未来」──フランス人識者はどう見る?
https://www.newsweekjapan.jp/stories/woman/2019/01/post-125.php
2019年01月07日(月)17時25分 西川彩奈(フランス在住ジャーナリスト) ニューズウィーク
Philippe Wojazer-REUTERS
<「日産次期会長任命は、そう簡単にはいかないだろう」──。フランス人専門家が考察する「3社連合」と「日産」の行方とは>
元日産自動車会長兼CEOのカルロス・ゴーン容疑者(64)が逮捕された「ゴーン事件」は、フランスでも議論の的となっている。
これら一連の逮捕劇をフランスの識者はどう見ているのか? 「3社連合(ルノー・日産・三菱)の未来」や「日産の今後」についての見解を、フランス国立工芸院のトマ・デュラン教授と、国際経済予測研究センターのアドバイザー、ミシェル・フカン氏に聞いた。
***
■「現段階では、長年忍耐強く作り上げられたアライアンスを守ることが大切」
取材に応じてくれたのはフランス国立工芸院で教鞭を執り、企業戦略やマネージメントに精通するトマ・デュラン教授だ。同氏は、「かじ取り役がいない今、ルノーと日産の次期トップ任命は難色を示す可能性がある」と言う。
フランス国立工芸院で教授を務める傍ら、企業のトップにコンサルティングをするトマ・デュラン教授(Thomas Durand)
――ゴーン氏の逮捕劇をどう見るか。なぜ、今回の事件は日産で起こったとされるのか。
有罪の判決が下されるまで、被告人は無実と推定されるべき「推定無罪」という法の原則を忘れてはいけない。
一方で、ゴーン氏の疑惑は、重大なものだった。西川氏がこの疑惑をルノー幹部を含め拡散しようとしたのも、この疑惑の重さを理解してのことであろう。会社の資金を個人流用したかもしれないという疑惑は、フランスの法律でいうところの「社会財産の乱用(Abus de biens sociaux)」だ。
もしこれらの疑いが法廷で認められた場合、まず「なぜ、日産で?」という疑問が生じる。
続いて他の3つの質問が浮かぶ。「ゴーン氏はなぜ高収入を得ているに関わらず、法を犯して、すべてを失うリスクを負ったのか」、「なぜ日産で、この法を犯したのか」、また、違う角度で考えると「なぜこの事件は、日産で発端したのか」ということも疑問点だ。
――日産とルノーのガバナンスの相違から生じる問題点は何か。
両社のコーポレート・ガバナンス(企業統治)において異なるのは、統制と監査の工程、報酬委員会の性質だ。
また、資本関係のバランスも考察するべきだ。現在、ルノーが日産の43.4%の株式を保有するのに比べ、日産はルノーの15%の株式を持っている。そして、ルノーに15%出資する「フランス政府の存在」も、ルノーと日産のガバナンスにおける違いだ。
これらの相違は、いくつかの摩擦を起こす可能性がある。
1つ目は、長年にわたる「ルノーと日産の成長の差」がもたらす摩擦だ。両社とも事業が拡大したが、ルノーに比べ日産は大規模に成長した。そのため、アライアンス内の力関係の調整を提案する声がある。これは、企業の株の所有権の再検討を他企業が問題提議しても良いのか、という問題である。
2つ目は、フランス政府が株主と言う点だ。フランスでは国が株主になることがよくあり、それはそれは事業持続の保証、企業の監査、統制の保証と捉えられている。しかし、それはフランス国外では異なる。政府が株を保有していることは、不安要素でさえありうる。
【参考記事】株主総会を無視したゴーン「ルノー高額報酬」事件
――日産がガバナンスを優先させたことをどう見るか。
今回の事件はゴーン氏だけでなく、日産の監査と統制にも責任があった。そのため今はガバナンスを整える時期であり、日産のこの決断は論理的だ。
――ルノーの次期CEO任命の行方はどうなるのか。
取締役会が会長を選ぶという、ごく一般的なプロセスが重視されるだろう。ただ疑問は「いつCEOが任命されるか」だ。現状況を考えると、2つの難点がある。
1つ目はゴーン氏の判決が下る前にCEOを任命するのは、難しいということ。法的判決が下っていない限り、推定無罪であるからだ。2つ目は、今回の事件により、ゴーン氏が会長職に復帰するのは難しいという点だ。
「不確か」な状態は企業、従業員、取引先にとってもよくない。そのため、ルノーはゴーン氏逮捕の直後にCEO代理を迅速に、ゴーン氏の有罪判決が下される前に決めた。もちろん早く行動をするべきだが、司法の時計の針の進み方は、ビジネスでの時間の流れとは異なる。ゴーン氏が辞任しない限り、ルノー次期CEOの任命は異例かつ複雑、長い時間を要する可能性がある。また、辞任すれば、ゴーン氏自身の保釈にも有力となる。
――日産の次期会長任命の行方をどう見るか。
一般的なプロセスが尊重されるべきという点はルノーと同じだが、そう簡単にはいかないだろう。アライアンスからの課題、両社や国の利益などが絡んでくるからだ。この複雑な事件のもと、少なくとも下記の5点を考慮することができる。
1.ゴーン氏主導のもと成立したアライアンスの成立と事業の復興。1999年にルノーから50億ユーロを出資し、日産の危機的状況を救った目覚ましい努力。
2.ゴーン氏はアライアンスを統制し続けるために、自身を「中枢」の立場に構築し、自らを「必要不可欠」な存在に仕立て上げた。
マクロン大統領は、財務相だった頃に、新しい法律で国の株主としての議決権を2倍にし、仏政府のルノーにおける影響力を増した。そして、ルノーと日産の統合を進めようとした。これらは、間接的にゴーン氏の権力を弱めることが目的であった。しかし、このフランス政府の介入を日本人は快く思わなかったようだ。
3.ゴーン氏は自らを無敵で法にも勝ると信じていたという仮説がある。より利益を求める欲が、一線を超えることになった。これが日本の司法が疑惑を抱いている点だ。
4. 今回の度重なる逮捕劇や裏切りが、ルノー・日産合併の可能性をなくすことや、ゴーン氏への復讐だったという説。それらが策略であれば、ゴーン氏が失墜したことで、成功したとみられる。
5.現在のアライアンスの構成と将来の展望を見据えた、日仏の国益。
現段階では、長年忍耐強く作り上げられたアライアンスを守ることが大切だ。連合が壊れることは、誰の利益にもならない。
■経営危機に陥っていた『昔の日産』に戻ることは避けるべき」
一方でフランスのシンクタンク、国際経済予測研究センターのアドバイザーで東アジア経済にも詳しいミシェル・フカン氏は、下記のように話す。
フランスの国際経済予測研究センターでアドバイザーを務めるミシェル・フカン氏(Michel Fouquin)
――今回のゴーン氏逮捕劇をどう見るか。
メディアがゴーン氏の空港での逮捕劇を撮影しているという事実が、ゴーン氏の信用を日本の公衆の面前で失わせたかった人たちによって取り仕切られたことを示しているのではないか。
――3社連合の今後の行方はどうなるか。
意思決定を麻痺させることなく、アライアンスを再構築していくべきだろう。アライアンスの解消は経済的にあり得ない。自動車産業の「エアバス」を目指して統合するか、信頼を取り戻すためにアライアンスの力関係を徹底的に見直すべきかだ。
――日産は、今後成功するためにどうすればいいか。
ゴーン氏がいなくなった際、経営危機に陥っていたころの「昔の日産」に戻ることは避けないといけない。今後大切なのは、電気自動車と自動運転という将来の課題に取り組むため、ルノーとの協力を進めていくことだ。
【参考記事】カルロス・ゴーン逮捕、アメリカでどう報じられたか
[執筆者]
西川彩奈
フランス在住ジャーナリスト。1988年、大阪生まれ。2014年よりフランスを拠点に、欧州社会のレポートやインタビュー記事の執筆活動に携わる。過去には、アラブ首長国連邦とイタリアに在住した経験があり、中東、欧州の各地を旅して現地社会への知見を深めることが趣味。女性のキャリアなどについて、女性誌『コスモポリタン』などに寄稿。パリ政治学院の生徒が運営する難民支援グループに所属し、ヨーロッパの難民問題に関する取材プロジェクトなども行う。日仏プレス協会(Association de Presse France-Japon)のメンバー。
Ayana.nishikawa@gmail.com
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