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月60時間以上の残業で幸福感が上がる「残業麻痺」に潰される人々
https://diamond.jp/articles/-/188959
2018.12.20 中原淳:立教大学 経営学部 教授 パーソル総合研究所 ダイヤモンド・オンライン
超・長時間労働をしているのに幸福感が上がる「残業麻痺」状態になる人がいるようです(写真はイメージです) Photo:PIXTA
日本企業にはびこってきた「残業」。近年、世間を賑わせている「働き方改革」を背景に、残業削減の動きは高まってきたが、そもそも残業は私たちの心と体にどのような影響を与えてきたのか。立教大学経営学部の中原淳教授は最新刊『残業学〜明日からどう働くか、働いてもらうのか?』の中で、パーソル総合研究所と行った「残業学」という長時間労働をめぐるさまざまな学問を横断した研究について、一般のビジネスパーソン向けに、講義形式でわかりやすく解説している。今回はその中から、長時間労働が健康などのリスクをおびやかしているにもかかわらず、個人の幸福感を高めてしまう現象「残業麻痺」の驚くべき実態を紹介する。
「月80時間以上残業する人」のリアルな生活
Aさん「中原先生、そもそも、残業は本当に悪いことなのでしょうか? うちの会社には、毎日深夜まで残業しているのに、いつもギラギラしてエネルギッシュな営業部長がいますよ!」
Aさん、トップバッターで質問をありがとうございます。
確かに、長時間残業をしているのにいつも元気な方はどの職場にもいますよね。今回の講義では、「残業は個人に何をもたらすのか」という観点から、残業を是正するべき理由について深掘りします。
長時間労働が個人にどのような影響をもたらすのか、調査を通じて大きな発見がありました。端的に表現すると、次のようなワンセンテンスになります。
「超・長時間労働」によって「健康」や「持続可能な働き方」へのリスクが高まっているのにもかかわらず、一方で「幸福感」が増してしまい残業を続けてしまう人がいる
これは、今回の「残業」の実態について調査分析を行う中で浮かび上がった、不可解で不都合な事実です。残業時間と「幸福感(主観的幸福感)」に関する分析をしたところ、月に60時間や80時間以上といった「超・長時間労働」をする人たちの一部は、健康などのさまざまなリスクにおびやかされているにもかかわらず、他の層と比べると幸福を少し強く実感していることがわかりました。
調査結果の平均残業時間は月に23時間、残業をしている群だけに限れば27時間です。すなわち、概ね1日1時間から1時間強になりますね。対して、残業80時間の場合は週休2日だとしても1日約4時間になります。
イメージが湧かない方のために、残業80時間の人の1日をシミュレーションしてみたものが図表1になります。
まず把握したいのは、残業が1日4時間といっても、人はそれ以上の時間を仕事のために費やしているということです。日本の労働時間は先進国の間でもトップクラスですが、「通勤時間の長さ」が状況をさらに特異なものとしています。
特に、都心部の平均通勤時間は、往復約2時間。これを足すと、睡眠や食事以外の家事の時間や家族とリラックスして過ごす時間が、国際的な水準から見て3割以上少なくなります。
いかがでしょうか。残業時間こそ「4時間」ですが、通勤時間が加わると、1日「14時間」が仕事にとられています。さらに通勤の準備で1時間、昼休み1時間が加算されると、16時間が仕事関連で消えていくことになります。これでは、平日に家族とゆったり過ごす時間はほぼとれません。図表2にあるように、残業時間が長ければ長いほど、家族と過ごす時間が顕著に少なくなるのです。
こうした暮らしを続けることは明らかに不可能で、長期的視野に立てば「個人の幸福」とは矛盾するはずです。しかし、このような生活を送っているにもかかわらず、その時点では「幸福感」を抱いている人がいるのです。
人々の間に生じる、こうした少し矛盾した心理的状態をこの講義では「残業麻痺」と呼び、その実態を具体的に分析したいと思います。
残業が60時間以上になると、
「幸福感」が上がる不可解な現象
Bさん「これはあんまりなネーミングですよ! 残業麻痺って、長時間残業をすればするほど幸せになるってことなんですか?」
Bさん、ちょっと落ち着いてください。
それは違います。長時間労働が個人を幸せにするということでは、断じてありません。ここについては、これから詳しく解説していきますね。
先ほど見たように、超・長時間労働をしている人は、1日のほとんどを通勤と仕事に費やしており、残りの生活時間はほぼ食事と睡眠時間で埋まっています。さぞかし苦しいに違いないと思うのですが、むしろ幸福を感じている割合は、後でグラフで見るように微増する傾向があります。
図表3‐1のグラフを見ると、よりわかりやすいかと思います。45〜60時間までは、残業時間が増えていくにつれ「主観的幸福感」は下がっていきます。しかし、60時間以上になると主観的幸福感を感じる人の割合が、少しですが高まっているでしょう? 誤解してほしくないのですが、「残業時間が60時間を超えたほうが、普通の状態よりも幸福感が高まる」わけではありません。
60時間以上の残業をしている層の幸福感は全体平均から見れば下回っており、あくまでも45〜60時間の層よりわずかに上昇している、ということです。
とはいえ、この傾向は不可解です。常識的には、「残業時間が長くなるほど幸福感は下がる」と考えられるからです。
ちなみに、この調査でいう「主観的幸福感」とは、幸福研究の第一人者であるエド・ディーナーによる人生満足度尺度を用いています。「私の人生は私の理想に近い」などの質問で「人生が丸ごと良い方向にある」ということを5項目で測るものです。
エド・ディーナー 人生満足度尺度(*1)
(1)「ほとんどの面で、私の人生は私の理想に近い」
(2)「私の人生は、とてもすばらしい状態だ」
(3)「私は、自分の人生に満足している」
(4)「私はこれまで、自分の人生に求める大切なものを得てきた」
(5)「もう一度人生をやり直せるとしても、ほとんど何も変えないだろう」
※これらの問いに対して5段階で聴取した合計点で示される。
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2018.12.20
月60時間以上の残業で幸福感が上がる「残業麻痺」に潰される人々
中原淳:立教大学 経営学部 教授 パーソル総合研究所
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A
A
残業が60時間以上になると、
「幸福感」が上がる不可解な現象
Bさん「これはあんまりなネーミングですよ! 残業麻痺って、長時間残業をすればするほど幸せになるってことなんですか?」
Bさん、ちょっと落ち着いてください。
それは違います。長時間労働が個人を幸せにするということでは、断じてありません。ここについては、これから詳しく解説していきますね。
先ほど見たように、超・長時間労働をしている人は、1日のほとんどを通勤と仕事に費やしており、残りの生活時間はほぼ食事と睡眠時間で埋まっています。さぞかし苦しいに違いないと思うのですが、むしろ幸福を感じている割合は、後でグラフで見るように微増する傾向があります。
図表3‐1のグラフを見ると、よりわかりやすいかと思います。45〜60時間までは、残業時間が増えていくにつれ「主観的幸福感」は下がっていきます。しかし、60時間以上になると主観的幸福感を感じる人の割合が、少しですが高まっているでしょう? 誤解してほしくないのですが、「残業時間が60時間を超えたほうが、普通の状態よりも幸福感が高まる」わけではありません。
残業時間と幸福度の関係
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60時間以上の残業をしている層の幸福感は全体平均から見れば下回っており、あくまでも45〜60時間の層よりわずかに上昇している、ということです。
とはいえ、この傾向は不可解です。常識的には、「残業時間が長くなるほど幸福感は下がる」と考えられるからです。
ちなみに、この調査でいう「主観的幸福感」とは、幸福研究の第一人者であるエド・ディーナーによる人生満足度尺度を用いています。「私の人生は私の理想に近い」などの質問で「人生が丸ごと良い方向にある」ということを5項目で測るものです。
エド・ディーナー 人生満足度尺度(*1)
(1)「ほとんどの面で、私の人生は私の理想に近い」
(2)「私の人生は、とてもすばらしい状態だ」
(3)「私は、自分の人生に満足している」
(4)「私はこれまで、自分の人生に求める大切なものを得てきた」
(5)「もう一度人生をやり直せるとしても、ほとんど何も変えないだろう」
※これらの問いに対して5段階で聴取した合計点で示される。
(*1)Ed Diener, Robert A. Emmons, Randy J. Larsen and Sharon Griffin , Journal of PersonalityAssessment(1985)
実は、過去の先行研究でも、超・長時間労働が行われると、主観的幸福感がかすかに増えることは観察されていました(*2)。しかし、それらの研究では「十分な調査対象者が確保できないこともあり、そのせいで主観的幸福感がたまたま上がったのではないか」という結論が示唆されていました。しかし今回、十分な調査対象者を得ても、残業をかなり行っている層の主観的幸福感は微増することが確認できました。
(*2)大竹文雄、白石小百合、筒井義郎『日本の幸福度 格差・労働・家族』日本評論社、2010年
超・長時間労働をしている層は、健康などを損なうリスクが生じているのにもかかわらず、つかの間の幸福感を他の層より強く抱いているのです。やはり、ここには、長時間労働によって人の認知に「ゆがみ」を生み出す何らかのメカニズムがあると考えるのが妥当かと思います。
図表3‐2のグラフを見ると、会社への満足度や仕事へのエンゲージメントも、幸福感と同様に残業時間60時間以上で高まっています。「エンゲージメント」とは簡単に言えば、「仕事に向かう活力ある、いきいきとした心理状態」を示す言葉です。
超・長時間労働者のストレスは、
残業なしの層のほぼ2倍!
超・長時間労働でも満足し、幸福で、やる気もある……。この人たちは長時間を仕事に費やしているものの、負担を感じないほど素晴らしい環境にいるために、心身ともに健康に働いているとでもいうのでしょうか? 労働時間は長いけれど、たまたま良い職場もあるということでしょうか?
他のデータを見てみると、決してそうとも言い切れないようです。
図表4は一般従業員の方々の病気などにつながる健康リスクを示していますが、今注目した残業60時間以上の層は「食欲がない」「ストレスを感じる」「実際に重篤な病気や疾患を持っている」といった項目で、軒並みかなり高い数字となっています。残業なしの層と比べると、ほぼ2倍前後にまで跳ね上がっています。
こちらは先ほどの幸福感や会社満足度のように、いったん下がってから上がるようなグラフの動きは見られません。単純に、働けば働くほどストレスが強くなり、心身に負荷がかかっているのです。
さらに興味深いのは、図表5でしょう。60時間以上の超・長時間労働の「残業麻痺」層では、「強いストレスを感じつつも、主観的幸福度は高い」と答える割合が増えています。
つまり、「残業麻痺」層の中にも、仕事上の高い負荷を自覚していない人だけではなく、負荷を自覚しているにもかかわらず、幸せを感じている人がいるようなのです。
いずれにしても、超・長時間労働の層には、「長時間労働と個人の認知の不整合を起こす人の割合が増える」という不可解な実態――「残業麻痺」が確かに起こっていると言えます。
実は、海外の研究でも同様のことが指摘されています。2003年のブレッド&ストローというイギリスの研究者による、「週に60時間以上働いていた男性管理者は、自尊感情と達成感が同時に高まる」という知見があります。(*3)
また、同じくイギリスのスパークスの1997年の研究によると「長時間労働で働く人々は肉体的、心理的健康を明らかに毀損されてしまう」という知見もあり(*4) 、今回は、これら2つの研究を一度に検証したような結果が出ているのかもしれません。
(*3) Brett, J. M. And Stroh. L. K.(2003) Working 61 plus hours a week : Why do managers do it? Journal of Applied Psychology. 88(1) pp67-78
(*4) Sparks, K., Cooper, C. Fried, Y. And Shirom. A.(1997) The effect of hours of work on helth: A meta-analytic review. Journal of Occupational and Organizational Psychology. 70. pp391-408
(立教大学経営学部教授 中原淳、パーソル総合研究所)
※本文は書籍『残業学〜明日からどう働くか、働いてもらうのか?』を一部改編して掲載しています。
『残業学〜明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?』
中原淳、パーソル総合研究所著 光文社
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