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竹中平蔵氏らライザップ経営諮問委員会解散へ 結果にコミットできず
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181217-00000064-sasahi-bus_all
AERA dot. 12/17(月) 16:35配信
RIZAP(ライザップ)グループの瀬戸健社長 (c)朝日新聞社
竹中平蔵氏 (c)朝日新聞社
Gemba Lab代表 安井孝之(やすい・たかゆき) /1957年生まれ。日経ビジネス記者を経て88年朝日新聞社に入社。東京、大阪の経済部で経済記事を書き、2005年に企業経営・経済政策担当の編集委員。17年に朝日新聞社を退職、Gemba Lab株式会社を設立。著書に『これからの優良企業』(PHP研究所)などがある。
株価下落が止まらないトレーニングジム大手RIZAP(ライザップ)グループ。その経営指南役だった経営諮問委員会が12月末にいったん解散する。広告では多数の有名タレントを起用し、「結果にコミット」を切り札にして客の信用を集めていた。経営諮問委員会にも小泉改革を主導した竹中平蔵氏やコーポレートガバナンスの専門家、伊藤邦雄一橋大学名誉教授らそうそうたるメンバーが顔をそろえていたが、「結果にコミット」できなかったようだ。
ライザップグループのホームページをみると、経営諮問委員会のメンバーを紹介していた「アドバイザー一覧」のページは「お探しのページは見つかりません」と最近、閉鎖された。広報担当者は「すべての業務を見直し、構造改革を進める一環として経営諮問委員会委員との契約を12月中にいったん解消します」と説明する。竹中氏ら現在の4委員は退任し、その後再び経営諮問委員会が立ち上がるかは未定で、ひとまず店じまいする。
同社のホームページによると経営諮問委員会は、外部の有識者4人が「M&Aを中心とする経営戦略や真のグローバル企業になるべく大局的な成長戦略の策定における、経済・金融市場の見通しについて、客観的に、第三的視点で経営陣に対して、助言・指導」する組織だという。まさにライザップの経営指南役である。
竹中氏ら現在の委員が揃ったのは2016年9月。竹中氏は小泉政権で経済財政担当相、金融担当相、総務相を歴任し、構造改革路線を推進した。伊藤氏は一橋大学商学部長などを務め、2014年には経産省が発表した「伊藤レポート」をまとめた。コーポレートガバナンスの強化を進めた著名な経営学者である。東レやセブン&アイ・ホールディングスなどの社外取締役も務める。あとの2人も藤田勉・シティグループ証券顧問、松岡真宏・フロンティア・マネジメント代表取締役で証券・金融の専門家である。
4人とも「有識者」として申し分のない経歴である。ライザップにしてみれば、こうしたメンバーで構成された経営諮問委員会を設置することで、投資家や顧客の信用を集めようとしたに違いない。
だが結果から見れば経営諮問委員会からは適切な助言・指導は得られなかったようだ。
現在の4人のメンバーがそろった2016年は、ライザップの急成長が始まった年である。2016年3月期に31億円だった営業利益は2017年3月期には102億円に増え、2018年3月期に135億円を超えた。
ライザップの急成長のからくりは積極的なM&A戦略である。2016年からの2年間で約50社を買収した。しかも買収の仕方が独特だった。業績が悪化した会社を安く買い集めたのだ。
一般的な企業買収は会社の純資産に「のれん」といわれるブランド力や技術力などの目に見えない資産価値を上乗せして買収額をはじき出す。ところがライザップの企業買収は純資産よりも安い価格で買収したものが多かった。被買収企業は純資産よりも安くてもとにかく早く売ってしまいたい、という心理で売ったとみられる。ライザップは買収企業を再建して、儲かる会社に蘇らせる、という触れ込みで買収を続けたが、実際は極めて再建が難しい会社ばかりを買っていたことになる。
しかし純資産よりも安く買えば会計上のメリットがあったのだ。ライザップが2016年3月期から導入した国際会計基準では「負ののれん」といわれる純資産よりも安く買った分を「利益」としてみなし、利益計上できるのだ。ただこの「利益」は実際に会社にお金が入ってきたわけではなく、帳簿上の評価益に過ぎない。この「負ののれん」発生益は2017年3月期に58億円、2018年3月期に87億円に達し、営業利益の過半を占めていた。「負ののれん」発生益を使って見かけ上の利益を増やしていたのだ。
粉飾決算を指南したとして有罪判決を受けた元公認会計士の細野祐二さんは早くからライザップの「負ののれん」発生益の問題点を指摘していた。アナリストやマスコミ関係者を対象に細野さんが開いた7月の勉強会ですでにライザップの経営について警鐘をならし、「いずれ資金繰りが厳しくなる」と予測していた。その後の展開は細野さんの予測通りとなった。
カルビー会長から6月にライザップに代表取締役として招かれた松本晃氏はさすが「プロ経営者」だった。夏に買収企業の現場を回り、その経営実態を見て、M&A戦略を止めさせた。松本氏にしても、会計の専門家である細野氏にしてもライザップの経営の危うさを素早く見つけることができたのだ。
一方、年内に解散される経営諮問委員会は2016年9月からの2年余り、ライザップの積極的なM&A戦略の続行を許した。ライザップ関係者は「メンバーの皆さんはとても忙しく一堂に会することがなかなかできなかった。瀬戸健社長が個別に会ってアドバイスを受けることが多かった」と言う。今期の赤字見通しを発表した11月中旬以降、経営諮問委員会委員の立場から逃れようとしたメンバーもいたようだ。
コーポレートガバナンスの強化が謳われ、多くの会社が社外取締役を採用したり、経営諮問委員会を設置したりしている。その際に大学教授や元官僚などが就任する例が多い。それは世間的な信用力を高めようとするためである。だがある企業経営者は「大学教授や元官僚は大所高所の意見を述べてくれるので、参考にはなるが、実務には疎く、経営に対する監視機能が果たせるかというとそうでもない」と言う。
いわゆる「有識者」の採用は、コーポレートガバナンスの強化に取り組んでいるという体裁を整えることはできるが、経営に対して本当に耳の痛いことを指摘してくれないのかもしれない。ライザップはその落とし穴にはまってしまったと言えるのだ。 (Gemba Lab代表・安井孝之)
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