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お金が本格的にデジタル化する時代、銀行に未来はあるか? 元『WIRED』日本版編集長・若林恵氏に聞く
https://diamond.jp/articles/-/188208
2018.12.13 若林 恵 ダイヤモンド・オンライン編集部
わかばやし・けい/1971年生まれ。編集者。2012年より『WIRED』日本版編集長を務め2017年退任。2018年、黒鳥社(blkswn publishers)設立。著書に『さよなら未来』(岩波書店・2018年4月刊行)。12月11日に刊行された若林の責任編集によるムック『NEXT GENERATION BANK 次世代銀行は世界をこう変える』は、黒鳥社が発行するプリントメディア「黒鸟雑志」の第1弾。 Photo by Yuri Manabe
キャッシュレス化や個人情報管理など、社会の中心的なインフラが急速かつ本格的にデジタルへと移行しつつある。そんな時代の「銀行」は、どのような存在になるのか。昨年『WIRED』日本版編集長を退任、出版社・黒鳥社(blkswn publishers)を設立した若林恵氏に聞く。(ダイヤモンド・オンライン編集部)
――ご無沙汰してます。ちょうど1年ぶりくらいですね。
そうですね。ダイヤモンド・オンラインさんには昨年のちょうど今ごろ、お世話になったのでした。
――で、今回は、なんかムックを新しくつくられたそうで。
そうなんです。1年ぶりに真面目に1冊丸々雑誌を編集しました。
――『NEXT GENERATION BANK 次世代銀行は世界をこう変える』という雑誌/ムックなんですね。銀行?なんで?ってのが率直な感想でしたけど。だいぶ具体的なテーマだな、と。
スペキュラティブな未来の話をしてる場合じゃないって感じがあるのかもしれないです。
――どういうことですか?
ここにきて時代が急激に新たに動き出してる感じがしてるんだと思います。本当の意味で社会がデジタル化するんだなって感じです。ちょうどトランプの大統領選のあたりから、それまで続いてきたデジタル変革に対する疑念が強まり出し、それが2018年のフェイスブックのケンブリッジ・アナリティカの問題で極点に達し、一方で欧州でGDPRが施行されるといった動きもあって、半ば嗜好的なものでしかなかったインターネットやスマホが、いよいよ社会の最も実質的な領域に到達したというか、必要不可欠な社会インフラとなってきたというか。そうしたなかで、すでに争点は、テクノロジーそのものから法整備も含めたシステム全面的な再設計に移ってきているわけですから、それを決定していく上で、これから望ましい社会がどういうもので、それを支える理念は何なのかといったあたりを、早急に再検討する必要があるように思えるんです。
――デカい話ですね。
といっても、遠くのデカい話ではなく、すでに足元にあるデカい話ですよ。例えば、決済や銀行のこれからに関わる法律としてEUで2018年初頭に施行された「PSD2」(Payment Services Directive 2)なんかをみれば、決済周りで今後どういう事業が起こってくるのか大まかな道筋はもう描かれているんですね。来るべき未来に向けた法律がすでに施行されてるわけですから、あんな未来もありうるよね、こんな未来もあるよね、なんて漫然と言ってる場合でもないのかな、と。
――それって、だいたいどういう絵図なんすか?
たとえば、「PSD2」って法律は、ふたつの新しいタイプの事業者を規制の対象としていて、それは「決済指図伝達サービス提供者」(PISP: Payment Initiation Service Provider)と「口座情報サービス提供者」(AISP: Account Information Service Provider)というものなんですけど、それが何を指しているのかをよく読み込めば、これからの決済が、概ねどういう構造で組み上がっていくと考えられているのかは見えてくるはずなんです。
――これからでてくるであろうもの、が規制の対象なんですね。
あるいは、これもムックのなかで紹介しているんですが、この10年間、インドの行政府は、かなりダイナミックなデジタル変革をやっていて、そのプログラムにおいても、これからの金融とデータビジネスに関わる新しいプレイヤーのコンセプトが描かれているんです。「データ管財人」(Data Fiduciary)、あるいは「アカウント・アグリゲーター」っていうものなんですけど。
――それって銀行と関係ある話なんすか?
関係大、ありですよ。ここでいうアカウント・アグリゲーターサービスには、おそらく色んなプレイヤーが参入しうるんだろうとは思うのですが、ただ、扱うものが、お金にしても、データにしても、人の資産だという点では変わらないと考えると、それが銀行のビジネスの延長線上にあることは想像つきやすいはずなんです。もちろん、その新しいビジネスを執り行うメインのプレイヤーが必ずしも既存の銀行なのかというと、そうでなくてもいいんですが。
――あ、そこは違うんですね。
ほかのプレイヤーがそこに参入できないかというとそんなことはないと思うんですが、ただ今後、そうやってデータを扱っていく業者は、それなりの信頼を担保できるプレイヤーでないとダメなんだとは思うんです。
――データがお金と同じようなものとして扱われるとなったらそうでしょうね。表紙に「データは資産。信用は貨幣。そして『お金』は、あなたそのものとなる」と書かれていますね。
お金の起源が「負債を記帳する」という行為にあるというのは最近よく語られる話なんだと思いますが、その点から言っても、お金は最初からデータなんですよ。加えて、歴史的にリアルな貨幣の時代を経てお金が電子的にやり取りされるようになってからはなおさら、――っていうのは『ビットコインはチグリス川を漂う』のデイビッド・バーチに言わせれば、ウェスタン・ユニオンっていうアメリカの電報の会社が電子送金を開始した1871年以降ってことなんですが――お金とアイデンティティの認証っていうのは切っても切り離せないものだったということもあって、お金、データ、そして取引者のアイデンティティというのは、ますますセットで考えなくてはならない一心同体のものになりつつあるんだと思います。
――なんで切り離せないんですか?
だって、お金をやり取りするときに、誰が誰に払っているのかっていうのは最も重大な問題じゃないですか。詐欺というのは、基本、その自己同一性をハックしちゃうことなわけですよね。オレオレ詐欺とか(笑)。
――ははあ。なるほど。
キャッシュレス化がどんどん進んでお金が「データ化」していく流れのなかで重要なのは、電子空間におけるアイデンティティが、ちゃんとリアル空間におけるアイデンティティと紐づいていることなんです。私が私であり、あなたがちゃんとあなたである、ということが信頼できるかたちで根拠付けられていないと、怖くてオンラインで、重要な何かを交換することなんてできないですよね。というわけで、バーチャルとリアルなアイデンティティが全面的に統合される必要が出てくるということになるわけなんですが、ちなみに、インドでは、この10年で12億人に、マイナンバーに類するものを振り当てて、その番号を虹彩・顔面・指紋認証でひとりひとりの個人に紐付けるということをしてきたそうなんです。
――ひええ。10年で12億人。しかも三段階の認証。日本は、その10分の1の人口でも四苦八苦してるのに。
インドでは、それを実施するために「固有識別番号庁」っていう省庁をわざわざつくってやったらしいですから。
――つまるところ、お金の電子化はアイデンティティの電子化とセットになっているってことですね。
そうそう。冒頭に「インターネットやスマホが、いよいよ社会の最も実質的な領域に到達した」というのはそういうことなんです。で、デジタル空間とリアル空間におけるアイデンティティを一元化するということはどういうことかというと、いよいよデジタル空間が本格的に「国家」や、もしくは「EU」といった国家の集合体みたいなものが管轄する領域になっていくということであるわけで、だからこそデジタル空間における「個人主権」(Self-Sovereign)を謳ったGDPRは、そういう意味でも重大なんです。つまり、個人主権の原則をもってデジタル空間をガバナンスするということなので。ムックにも寄稿いただいた憲法学者の山本龍彦さんが、「GDPRは21世紀の人権宣言だ」とおっしゃるのは、まさにそのことを指しているんだと思います。
――GAFAへの対抗措置というだけにはとどまらないんですね。そういえば、この10月に、アップルのティム・クックも、アメリカでもGDPRに類する法律を、連邦政府レベルでつくるべきだ、と言っていたみたいですね。
そうなんですよ。10月24日にブリュッセルで開催された「International Conference of Data Protection and Privacy Commissioners」というカンファレンスでEUのGDPRを讃えて、こう言ったとされてます。「テクノロジーの発展は、人びとの信頼に根ざしたものでなくてはならない」。
――個人情報保護に関してクックは、GAFAのなかでもとりわけ熱心な支持者だと言われてますね。
そうなんです。とはいえ、だからといって、GDPR的なものが、即座に「デジタル空間が国家のルールによって縛られる」ことを意味しているわけではなくて、その法律自体が、むしろ「国家というもののあり方がデジタル空間の様式にしたがって変容を迫られている」ということの現れでもあるわけなので、双方の力学を、どの辺で、どう折り合いをつけるのか、ということが重要だと思うんです。
――ふむ。
一言で「ネット空間のガバナンス」と言っても、これまで行政や企業が行ってきたガバナンスのやり方では通用しない。じゃあネットのルールでリアル空間を管理するのにも無理がある。よほど知恵を絞らないと落としどころは見えないと思うんですが、「銀行」はある意味、半分は民間企業ですが、半分は公益を担う公共インフラでもあるという側面もありますから、銀行は、いわゆる民間主導の経済のなかで起きている変化と、行政サイドで起きている変化の双方の影響をモロに受けつつ、それを取り持つ役割も担わざるを得ない、という意味で面白いんですね。ムックの後半になると、来たるべき時代の「公共インフラ」をどう構築し、どう運営するのかっていう話が結構出てくるんですが、銀行にまつわるあれこれを色々と学んでみると、どうしてもその辺に行き着いちゃうんですね。
――なんだか自分と関係ない話なんじゃないか、って気もしてきちゃいますが。
そおですか? むしろすべての人に関係ある話だと思うんですけど......えっとですね、ある銀行関係者がこういうことを言ってたんです。「金融業界ってみなさん言いますけど、金融業界という独立した業界はないんですよ。というのも、金融っていうものは、社会のなかに隅々にまで偏在しているもので、社会を動かしている経済の裏側にいて、それを支援するものだからなんですね。つまり社会、もしくは産業や経済のあり方が変われば、それに連れて金融のあり方も変わるものなんです」って。
――お金が変わるから社会が変わるのか、社会が変わるからお金が変わるのか。
社会とお金は切っても切り離せない関係ですからね。でも、だからこそ、お金をめぐる変化を「金融業界」に限った話としてだけ見てしまうと、きっと間違えるんです。これまでの産業のあり方、会社のあり方、雇用のあり方、個々人の仕事のあり方といったことが根本のところから大きく変わってきてるのは、誰しも感じてることじゃないですか。そもそもITってこれまでのようには雇用を求めないのが、いい意味でも悪い意味でもキモじゃないですか。それが世の中のど真ん中に配置されるわけですから、当然これまでのほとんどのビジネスの構造も変わっちゃうわけで、これまでの構造に最適化されてきた金融サービスも当然変わらざるを得なくなるわけです。そういうふうに見ておかないと、先に挙げたような「これからの金融ビジネス」が、いったい何を目指して、誰のために、何をやるのかが見えなくなっちゃうんだと思うんですよ。クックが言うように、社会の信頼がないところで、テクノロジーだけが先走ってもロクなことにならないんで。
――誰のための金融、誰のための銀行なんだって話ですよね。
そうなんです。今回海外の何人かの方に取材したんですが、それでわかったのは、想像以上にリーマンショックの影響は大きいということなんです。2019年がちょうど10年目になるんですが、金融システムが決定的に社会の信頼を失ったのは、リーマンショックを境にしてだとデイビッド・バーチさんも言っていました。それがあったからこそビットコインはあれだけの支持を集めることもできたし、ビットコインというのは「プロテスト運動」として理解するのが正しいんだ、ってことも言ってました。
――へえ。
そういう意味でいうと、いま起きている金融システムの変革の背後には、グローバル金融資本主義への怨嗟みたいなものが底流に流れていて、それが、これまでの経済システムに対して抜本的な変更、変革を求める圧力になっているんだと思います。なので、仮想通貨やらトークンエコノミーやらブロックチェーンといったフィンテック周りのバズワードを、一種のプロテスト、つまり社会運動と捉える視点は重要だと思うんです。金融の世界で頻繁に「包摂」(Inclusion)って言葉が語られるのも、その視点から見れば腑に落ちるわけで、つまり、これまでの金融・経済システムは、あまりにも一部の人間を優遇しすぎてきたし、ほとんどの人がそこからこぼれおちてきた、と。だからこそ新しい金融システムではそういうことが起きないようにするんだっていうモチーフがあるんですよね、少なくとも自分が見た海外のフィンテックには。
――日本では、そういう論点はあまり聞かないかもですね。
「インクルージョン」っていうと、インドやアフリカの発展途上地域の話のように聞こえるかもしれないんですが、それこそ、ムックのなかでミュージシャンのtofubeatsさんが寄稿してくれたように、若者がクレジットカードをもてないことでさまざまな情報やサービスから取り残されていくとか、超高齢化していく社会のなかでデジタルテクノロジーへのアクセスがちゃんと高齢者にも用意されていないと、マズいわけですよね。色んな人が、必要なサービスから落ちこぼれていくといった問題は、キャッシュレスが進めば進むほど深刻化していくことは、日本でだって想像されるわけです。そうした視点を欠いたまま、キャッシュレスだ、フィンテックだ、って、それこそ「業界目線」で自分たちに都合のいい「イノベーション」が進められるてしまうのは、とても危ないことなんですよ。
――たしかに
根本のところで人が生きていくことに関わる話ですから、新しい動画配信サービスができたみたいな話とは、影響の射程が違うわけですよね。例えば北欧なんかですと、フィンテックは、一種の社会保障というか、セーフティネットの役割も果たすものだと考えられていて、自分はそのことにとても驚いたんです。来るべき社会において、どういう人たちをサポートし、どうエンパワーするのかといったことがかなり明確に意識されていて、なるほどなと感心したんですよ。それが、この『NEXT GENERATION BANK』というムックを作ろうと思った直接的なきっかけだったんです。
――ああ、なるほど。巻頭言に書かれた文章って、「コンヴィヴィアリティのための銀行」ってタイトルでしたもんね。
既存の銀行がこれから存続していくために何をすべきか、とか、フィンテック企業がどうビジネスを成長させていくのか、なんていうところに興味はまったくないんですよ。
――でしょうね。
ただでさえ「働き方改革」だなんだったって、働く人の暮らしが不安定化して流動化していて、社会保障も手厚くなっていきようがないなかで、金融システムは、これからの「みんなの人生」にどう働きかけることができるのかってのが、大元にある問いなんです。
――自立共生のための金融、ですね。
10月18日、東京六本木のアカデミーヒルズで開催された「Innovative City Forum 2018」、若林は、『さよなら、インターネット』の武邑光裕、『AIと憲法』の編著者で憲法学者の山本龍彦、NECフィンテック事業開発室長の岩田太地と共に「信用の未来」をテーマにしたパネルに登壇。武邑、山本、岩田の3人は、『NEXT GENERATION BANK』に揃って寄稿している
そう。課題解決って、よく聞く言葉ですけど、それが語られるとき、大概そこで言われているのは、「自分のビジネスに都合のいい他人の課題」なんですよ。でも、本当の意味での課題解決って、変わりゆく社会のなかで誰がどういうことで困ったり、欠如を感じているのかを正しく見極めることじゃないですか。で、その見極めが正しければ、そこには必ず新しいビジネスチャンスがあるはずだ、と考えるのが「新しいビジネス」をつくるってってことだと自分は思うんですけどね。加えて、企業が、これまでのように情報の非対称性を利用して、上から目線でお客さんを取り扱うことはもはやできなくなくなるっていうことは、データのガナバンスにおいてそれが原則となり、かつ、あらゆるビジネスが「データビジネス」になっていく以上、避けられない趨勢でもあって、これまでのように、企業の都合、経済の都合だけの変革では済まない、ということをちゃんと考えないとだと思うんです。さっきも引用したある銀行関係者は、こうも言ってたんです。「金融に関わるビジネスは、ほかのビジネスと違って、自分たちの儲けを真っ先に優先するものではないんです。自分たちが裏側で支えているほかのビジネスが健全に成長していけば、それに従って自分たちも成長することができる。それがあるべき順序なんです」。
――いいですね。「金融業界」は、そういう健全さを取り戻せるんですか?
そう願って、今回誰に頼まれたわけでもないのに、このムックを作ったようなもんなんです。別の言い方をするとですね、いまは、金融の世界が社会の信頼を取り戻す、大きなチャンスでもあるはずなんです。「銀行消滅!」とか、ビジネス誌とかでよく書かれてますけど、いまちゃんと社会と向き合うことができれば、旧来の銀行だって十分に魅力的なビジネスになりうるんだと思うんです。だから、特に若い銀行員の方には、ぜひ読んでもらいたいんですよね。
『NEXT GENERATION BANK 次世代銀行は世界をこう変える』
若林恵・責任編集
制作:黒鳥社、発売:日本経済新聞出版社
1200円(本体価格)+税
フィンテックの勃興、仮想通貨や電子通貨の広まり、キャッシュレス化の波によって、猛然とデジタル化・モバイル化が押し進められ、さらに、マイナス金利、低成長、働き方改革などによって、産業、経済のルールまでもが抜本的に見直しを迫られてもいる。この変化の混乱のど真ん中にあって、「金融」の世界はいったい何を指針に、どこへ向けて、どう自らを刷新しうるのか? これからの新しい社会の「金融」を担うべき新しい機関=次世代銀行とは、いかなるものなのか? お金とテクノロジーと社会が織りなす社会変革の壮大なシナリオを、ダグラス・ラシュコフ、デイビッド・バーチ、武邑光裕、山本龍彦、池田純一、出井伸之、tofubeatsから、現役メガバンク取締役まで、時代を牽引する識者とともに、『さよなら未来』の著者でWIRED前編集長の若林恵が考えた、次世代ビジネスマン必読の「次世代銀行論」!
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