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医療保険で大損!申請すれば戻ってくるおカネがもらえない人が続出中 医療保険と「医療費控除」の微妙な関係
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/57327
2018.11.07 週刊現代 :現代ビジネス
医療保険を利用すると「控除が受けられない」現実
「やっぱり安心のためですから。車や家は保険に入るのに、自分の身体は保険に入らないのは変ですよね」
保険営業のそんな言葉を聞いたのは、25年以上も前のこと。今年64歳になる佐藤篤史さん(仮名)は、子どもも独立し妻と二人暮らし。年金をもらいつつもまだまだ現役とパートでの仕事を続け、収入を得ている。
佐藤さんは39歳の時、「安心のために」と医療保険に加入し、これまでに計106万円もの保険料を払ってきた。
保険の内容は、入院給付金が日額1万円。そのほか、ケガでの入院時におカネが出る特約や、先進医療特約をつけて、いざという時に万全の備えを取ってきた。
そのかいあってか、今年の春に胃がんが見つかった際も30万円かかった医療費はすべて、医療保険で補うことができた。
「医療保険に入っていてやっぱり正解だった。『医療保険は結局損だからいらない』という意見もたまに目にする。たしかに払った金額は冷静に考えれば、もらった金額より多い。それでもおカネを払ってきたことで安心を得られたのは大きい」
佐藤さんは自分にそう言い聞かせた。しかし、彼は、医療保険に入っていたことで、思わぬ損をしていることに気づいていなかった。本来、受けられるはずだった医療費控除について知識が不足していたのだ。
保険コンサルタントの納寛文氏が「医療費控除制度」について解説する。
「医療費控除は、医療費がたくさんかかった年の所得税が控除され、翌年の住民税が軽減される制度です。世帯ごとに合わせて計算し、年10万円を超える医療費負担については課税対象額から控除されます。
意外に知られてはいませんが、入院、通院のための交通費や自己都合は除いた差額ベッド料、自由診療費、さらには薬局で買った薬代も控除できるので、非常にお得な制度です。活用できていない人が多いのではないでしょうか」
だが、佐藤さんのように医療保険を利用してしまうと控除が受けられないという事態が生じる。
「医療費控除は実費負担した時に受けられるものです。かかった医療費がそのまま対象になるわけではなく、医療保険やがん保険でもらった給付金は引かれてしまいます。
たくさん保険料を払って手厚い保障を得たと喜んでいても、控除を受けられるチャンスを逃しているケースが多いのです」(納氏)
医療費控除を申請することで戻ってくるおカネ
具体的に計算したほうが、わかりやすい。佐藤さんのケースで考えてみよう。佐藤さんは30万円の医療費に対し、全額にあたる30万円の保険金を受け取った。
ただしそれは、これまで月々の保険金を合計106万円も支払ってきたから、得られたおカネだ。
ここで、もし佐藤さんが医療保険に入っていなかった場合のことを考えてみよう。30万円の医療費を佐藤さんは貯蓄から出す。だが、医療費控除を申請することで戻ってくるおカネがある。
まず所得税については、翌年確定申告をすれば4万円が戻ってくる。30万円から10万円を引いた20万円が控除の対象になり、そこにAさんの場合の所得税率20%をかけた金額だ。ここからさらに、住民税の分として2万円分も得をする(住民税は一律10%、翌年の住民税が安くなる)。
つまり、30万円の医療費がかかったとはいえ、6万円分は税金が戻ってくるため、支払った額は実質24万円ということになる。
佐藤さんがこれまで支払った保険料は106万円なので、4回入院するほどの大病を患ったとしても、支払った保険料の元はとれないという計算になる。
医療費控除で戻ってくる金額は、税率が異なるため所得によって違う。所得が高く税率が高い人ほど多くおカネが返ってくる仕組みだ。だが、この制度は収入が高くない人にとっても大いに活用する意味がある。
ファイナンシャル・プランナーの黒田尚子氏が解説する。
「実は、所得が200万円未満の方は、医療費が10万円を超えなくても医療費控除の対象となるのです。例えば、公的年金による所得が100万円の場合、医療費が5万円以上であれば控除の対象となります」
年金生活だから確定申告はいらないと思っている人も、医療費が多くかかった時には控除に頼ることで得できるのだ。
さらに医療費控除には優れた点がある。それは、家族で医療費を合算できるという点だ。
佐藤さんの場合で考えてみよう。佐藤さんの妻は今年の夏の初めごろに階段で転倒し足首を骨折した。入院とまではいかなかったが程度は重く手術を行うことになり、リハビリも含めて実質負担で20万円ほどの治療費がかかった。
ここで、夫の治療費の30万円と合わせて10万円を引いた40万円を医療費控除で申請すると、還付金の合計は8万円、住民税は4万円分安くなる。もし妻も手厚い保険に入っていたとすれば、このおカネは戻ってこないのだ。
医療保険と公的保険の関係について、株式会社ファイナンシャルアソシエイツの藤井泰輔氏は語る。
「公的保険では年収370万円未満なら、75歳を超えれば1割負担で済みます。高額療養費制度や医療費控除という制度もある。民間の保険に入る以前に、そもそも高額な公的保険料を払っているということを多くの人は忘れているのです」
日本の公的医療保険は世界的に見ても非常に手厚いものだ。その分、現役世代は多くの保険料を納めている。その上に高い民間保険に入るのは屋上屋を架すようなものなのだ。
しかし、保険会社の営業は、医療保険に入ることで損をする点を説明するどころか、客の不安を煽って加入を促すのが常套手段だ。
保険会社は説明しないが…
「今、医療保険はすべて合わせると、3500万件も保有されています。テレビや新聞で、保険のCMを見ない日はありません。
周りの人が医療保険に入っていてよかったと聞けば自分も入ってみようかなと思いますが、健康で保険が必要でなかった人はそもそも保険の話などしない。
50年払い続けると数百万円になるとはだれも言わないし、計算しない。明らかに説明不足なんです」(藤井氏)
医療保険の基準になっている入院日数が年々短くなっていることも医療保険の存在価値を失わせている。がんの場合、'96年には平均46日も入院していたが、'14年には20日以下にまで減った。
入院保障の意味がますます薄れているのだ。それでも、生命保険会社にとって医療保険は年金保険と比べて利益率の高いオイシイ¥、品だ。あの手この手で、客に加入させようとする。
「最近ではがんや心筋梗塞、脳卒中には上乗せして保険金を支払う『三大疾病特約』など、付加価値をつけた医療保険が主流ですが、受給の要件が厳しく保険金がもらえないということもあります。メリットがあるかをまず冷静に判断するべきです」(前出の黒田氏)
高い医療保険を払い続けた挙げ句、長年、給料から天引きされて納めてきた公的保険制度を受けられなくなる。医療費控除が使えないのはまさにその典型なのだ。
「週刊現代」2018年9月8日号より
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