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老いた巨人IBMは驚愕の「3・8兆巨額買収」でGAFAに勝てるか 買った会社の売上は「3000億円」
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58300
2018.11.07 佃 均 ジャーナリスト 現代ビジネス
売上高の10倍以上で買った真意は…
10月28日、米国から衝撃的なニュースが飛び込んできた。「米IBMがレッドハットを340億ドルで買収することで合意した」というのだ。主要な経済メディアやIT専門メディアが一斉に大きく扱った。
10月末日時点の為替(1ドル=112.7円)で計算すると340億ドルは3.8兆円なので、東芝の2018年3月期売上高にほぼ相当する。衝撃だったのは買収額の大きさもさることながら、買収されるレッドハット社の2018年2月期売上高が、わずか28.2億ドル(約3178億円)ということだった。
IBMをヒトに喩えれば、レッドハットはアリ、と言っていい。その会社を売上高の10倍以上の高値で買収するからには、IBMにとってよほど利点があるに違いない。狙いは何なのだろうか。
女性CEOならではの「思い切った賭け」
発表によると、IBMはレッドハットの発行済み普通株式のすべてを、現金で1株当たり190米ドル、総企業価値約340億ドルで買収することで最終合意に達した。買収は2019年下半期までに完了し、その後、レッドハットはIBMのハイブリッドクラウドチームの独立ユニットとして存続する。
また、レッドハット最高経営責任者(CEO)兼社長のジム・ホワイトハースト(Jim Whitehurst)氏はIBMの幹部チームに参加し、IBMのCEOジニー・ロメッティ(Ginni Rometty)氏に直属するという。
IBMはかつて「コンピュータの巨人」と称され、企業の基幹業務向け大型コンピュータ(いわゆるメインフレーム)で世界シェア7割を誇った。2017年の売上高は791.4億ドル(8兆9189.6億円)で、現在も米国を代表するコンピュータメーカーであることに変わりはない。
ただ、1980年代に「オモチャ」と軽視されていたパソコンで起業したアップル(2017年売上高2,156億ドル)、マイクロソフト(同1,103億ドル)に追い越され、1990年代にスタートしたグーグル(親会社アルファベット:同1,108億ドル)、アマゾン(同1,778.6億ドル)の後塵を拝している。もはやIBMのことを、「GAFA」に伍するテック企業と考えている人は誰もいない。
一見「バクチ」にすら思えるこの巨額買収の真意は何なのか。主要なIT専門メディアの報道を総合すると、レッドハット買収は、IBMにとっては「急成長が見込まれる『ハイブリッドクラウド』の切り札」という位置づけであるらしい。
会見でIBMのロメッティCEOは「レッドハットの買収はゲームチェンジャーであり、クラウド市場のすべてを変える」とコメントしたと伝えられる。クラウドサービスで先行するアマゾン、グーグル、マイクロソフトを追撃するねらいだが、IBMの直近の現金残高は147億ドル。その2.3倍の現金を調達しなければならない。
ロメッティ氏は1981年にシステムエンジニアとしてIBMに入社、2012年に同社初の女性CEOに就任。フォーチュン誌「アメリカのビジネス界最強の女性」トップにランクされたが、就任以来6年連続で業績が下降している。また、クラウド市場ではアマゾン社のシェアは50%超、対してIBMはわずか1.9%にとどまっている(いずれもガートナー社調べ)。こうした状況に危機感を覚えたロメッティ氏が、現状打開のために「思い切った賭けに出た」と見る向きがないではない。
「規模の拡大」が狙いではない
一方、買収に応じたレッドハットは1993年、タイプライターのレンタルとパソコン用ソフトの販売を営んでいたボブ・ヤング氏がノースカロライナ州ローリー(Raleigh)に創業した。ライセンスフリー・オープンソースのOS「Linux」の初期バージョン「Slackware」や、オープンソースソフトウェアのカタログ販売会社が原点だ。ITベンチャーといえばカリフォルニア州シリコンバレーと相場が決まっていた当時、ノースカロライナ州というだけで注目を集めたものだった。
当時、メインフレームの集中処理からCSS(Client Server System、「クラサバ」と略された)へ、ベンダーロックインからオープンシステムへという時代の流れのなかで、OSS(オープンソースソフトウェア)のビジネスモデルは脚光を集めていた。創業から2年目、1995年の秋にラスベガスで開かれた米国最大規模のIT総合展示会・カンファレンスを訪れた時、会場の廊下ですれ違ったヤング氏を呼び止め、取材の約束をもらったことを覚えている。
創業者のヤング氏が経営から離れた翌年(2006年)、レッドハットはJBoss社を買収し、OSSベースのクラウドサービス基盤を確立した。2010年にはIBMをはじめ、アマゾン、NTT、ソフトバンク、富士通などとパブリッククラウド技術で提携している。穿った見方をすると、レッドハット社との関係強化をめぐるIBMとアマゾンの競合が、今回の巨額買収という強硬策につながったのかもしれない。
もう一つ考えさせられるのは、今回のM&Aは規模の拡大をねらったものではない、という事実だ。IBMが欲しいのは、OSSベースのハイブリッドクラウド技術だけではなく、世界中のエンジニアが寄ってたかって開発・配布、利用拡大に参加するオープンソース・コミュニティの「質」なのではないか。ガリバーはUNIXに代表されるオープンシステムに揺さぶられ、今度はオープンソース・コミュニティに屈した、と見ることもできる。
一方、日本のIT 業界は停滞まっただ中
340億ドルという買収額はIBMにとっては過去最高額だが、上には上がある。世界最高の買収額は、2002年2月に行われた英ボーダフォン・エアタッチによる独マンネスマンの買収2,028億ドル。米国のIT産業では2000年、アメリカ・オンライン(AOL)によるタイムワーナーの買収合併1,820億ドルがトップで、2006年のAT&Tによるベルサウス買収860億ドル、2015年のデルによるEMC買収670億ドルと続く。ちなみに、日本企業では武田薬品工業によるアイルランドのシャイアー買収6.9兆円が最高額だ。
企業のあり方や経営者の立ち位置、雇用の構造、契約の考え方などが違うので一概には言えないが、盛んに企業買収が行われてきた米国のIT産業と比べれば、日本のIT産業には停滞感が充満している。
米国では「IBM+BUNCH(バロース、ユニバック、NCR、コントロール・データ、ハネウェル)」とされた1980年代までの業界地図が、現在は「GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)+マイクロソフト」に一変している。これに対して日本は、1980年代から「NFH(NEC、富士通、日立)+NTT」支配の構図が微動だにすることなく、現在も続いている。
筆者が取材を始めた1980年代初期のITサービス業の産業規模は、企業数約2000社・総売上高2000億円に満たなかった。それが現在は3.5万社・110万人・23兆円を超える。
数字だけを見ると、なるほど成長産業の一つには違いないが、急拡大の要因として「多重下請け」の深化があったことも否定できない。「真水」の売上高が4〜5倍になっているのだ。会社が多すぎること、また高給取りの経営者や役員、総務・経理などの間接部門が多すぎることが、エンジニアの待遇を低くしているとも言える。
「ビジョン」なき経営者は去れ
受託型ソフト開発業の多くは、実質的にIT技術者の派遣業だ。派遣技術者1人の売上げから、毎月数万円の管理費を徴収すれば経営は成り立つので、ちょっと才覚がある技術者や営業マンは同様の擬似派遣業を起業する。もとより技術の高さでは勝負していないので、同類・同質のIT技術者派遣業が林立するばかりで、そこにはイノベーションもなければM&Aも起こらない。
今年上半期の日本企業による海外M&A総額は11.7兆円で、2年連続の世界トップが見えてきた。しかしその約6割は武田薬品の分だし、さらにいえば、そもそも米国企業は海外企業に関心を持っておらず、国内でのM&Aのほうがはるかに大きな効果があると考えている。
1990年代の半ば、ボブ・ヤング氏が廊下ですれ違っただけの日本人記者に取材を約束したのは、日本市場が魅力的だったか、日本のIT企業と資本関係を含めて提携することに意味を見出していたからだ。しかしここ数年の「日本品質」の劣化が顕著なように、海外の企業から見て、日本が魅力的だった時代はもう終わったと考えたほうがいい。
IBMによるレッドハット買収が期待通りの効果をもたらすか、AOL・タイムワーナーのように失敗に終わるか。そこは結局「神のみぞ知る」で、誰にも結果は見えない。ただ、米国のリーディングカンパニーはたとえ老いたとしても「ビジョン」で動いていて、そのビジョンを描き推進する能力を持つ人材が経営者になるのだ、ということだけは言える。
筆者は今回の衝撃的なニュースを、こう受け止めた。第一に、「クラウド市場の世界競争に、日本企業はもはや参加する資格すら失ったのだな」ということ。第二に「こんなに思い切った決断ができる日本人経営者がいるか?(何事もなく任期満了したい、雇われ社長ばかりではないか)」。第三に「ダイナミックな企業活動からしか、イノベーションは生まれない」。そして第四は「ノンIT企業がITを駆使できれば、日本でもIT産業はもっと活性化できる」だ。
いずれにせよ、硬直した業界の仕組みをこのまま放置すれば、日本のIT産業を待ち受けるのは、穏やかで緩やかな死ではないだろうか。
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