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調整中の米国株は「下落局面入り」か?それともリバウンドはあるか 「ダウ3万ドル」は無いと思っていたが
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58127
2018.10.25 安達 誠司 エコノミスト 現代ビジネス
米国株下落の理由
10月以降、米国株式市場は調整局面に入っている。この株価の下落は米国だけではなく、9月までは他国に比べ好パフォーマンスだった日本株にも波及している。多くの市場関係者が、ちょうど昨年10月からの上げ相場を想定していたが、そう甘くはなかった。
筆者は9月26日から株価の上げが理解不能な領域に入ってきたからロング(買い)ポジションは一旦閉じるべきではないかとFB(フェイスブック)などで親しい人には言っていたのでこの下げには驚いていない。
さらにいえば、私の信頼する「曲がり屋(その意味はインターネットで検索していただきたい)」が相次いで超強気見通しを出してきたり、昨年までは「リーマンショックレベルの世界恐慌がやってくる」というタイトルの本を書いていた評論家が今年は一転して、「ダウは3万ドル、日経平均は3万円をつける」というようなタイトルの本を出版していたこともあり、そのような強気相場は来ないだろうと考えていた。
ところで、この米国株価の下落の理由については、後付けで色々なことが語られるのだろうが、筆者はそもそも米国経済の「ファンダメンタルズ」に比べて、株価の上昇ピッチが早すぎた可能性があったと考えている。
例えば、2013年のノーベル経済学賞受賞者であるイェール大学教授のロバート・シラー氏(ITバブルやサブプライム危機をいち早く予想し警鐘を鳴らしたことで知られる)が推定・発表している「循環要因調整後のPER(株価収益率)」は10月4日時点で31.46倍となっている(図表1)。これは、リーマンショック前を大きく上回り、ITバブル期に次ぐ歴史的な高水準である。
ただし、PERは、現時点でどの程度の水準が「適正」であるかを測る基準があいまいである(むしろ、「存在しない」と言ったほうがよいかもしれない)。一般的には平均値との乖離幅で判断することが多いようだが、単純な平均値が「適正値」である根拠は何もない。
また、株式の益利回り(PERの逆数)と長期金利の差である「イールドスプレッド」で、債券投資のリターンと株式投資のリターンの乖離から株式投資の割高感を測る方法もあるが、PER同様、イールドスプレッドの適正値をなんらかのマクロ経済モデルで説明することも困難である。
株価の「適正水準」を考える方法
そこで、別の方法で株価の適正水準を考える必要があるのだが、リーマンショック以降、マクロ経済モデルを見直す動きが米国の経済学者の間で始まっている。
筆者が最近知ったマクロ経済モデルの中で、現実の経済を比較的うまく説明していると考えるのが、UCLA教授であるロジャー・ファーマー氏が提唱するモデルである。
ファーマー教授は、株価と失業率と金融政策変数(論文等では政策金利が用いられている)の間にはある一定の関係(統計学的には「共和分」といわれる)が存在することを指摘している。
このモデルについての説明は省略するが、これを適用すると、完全失業率、及び金融政策変数と整合的な株価水準を算出することが可能となる。ただし、株価には通常、(上方)トレンドがあるので、その上方トレンドを控除するためにファーマー教授は株価を賃金(GDP統計の雇用者報酬が用いられることが多い)で割り引いてトレンドを除去している。
また、リーマンショック以降はFRBもゼロ金利政策を採用し、政策金利自体の意味がなくなってしまった時期があるため、ここでは、筆者の判断で金融政策変数としてマネタリーベースの対GDP比率を用いた(なお、モデルのパラメーターはすべて1%基準で有意であった)。
ここで技術的な議論になるが、このモデルではどの時点からデータを取るかが重要となる。図表2は、二通りの推計結果(雇用者報酬で割り引いた株価指数)を図示している。
1つは1992年1-3月期から2008年第7-9月期までのデータを用いて推定したモデルをそのまま2018年4-6月期まで延長したもの、もう1つは、2008年10-12月から2018年4-6月期のデータを用いて推定したものである。
すなわち、前者はリーマンショック前の経済状況がそのまま続いていた場合に想定される割引株価、後者はリーマンショック後の経済状況の下での割引株価の「均衡値」を図示したものである(直近の値は株価以外は筆者予想、株価は10月23日時点の値)。
ちなみに1992年1-3月期から2008年7-9月期までの実質GDPの平均成長率(リーマンショック前)は年率換算で3.1%、2008年10-12月期から2018年4-6月期までの平均成長率は年率換算で1.9%である。
米国経済を読むための2つのポイント
そこで、図表2をどのように解釈するかであるが、もし、米国経済が依然としてリーマンショックの影響を引きずっており、「長期停滞」下にあると仮定すれば、リーマンショック後のモデルが示す推定値が「均衡値」となる。
その均衡値と実際の株価の乖離幅を示したものが図表3である(リーマンショック前とリーマンショック後で用いたモデルが異なる点に注意)。
これをみると、2018年に入ってから株価はかなり「マクロ経済のファンダメンタルズ」から推定される「均衡値」を上回って上昇しており、どこかのタイミングで調整が不可避であったと考えられる(±0.1ポイントのレンジ内に収まっていれば「ファンダメンタルズ」からみて妥当な水準であると解釈できる)。
ちなみに、この関係を用いて、現在の米国経済のファンダメンタルズと整合的なニューヨークダウの均衡値を試算すると、2万2500ドル前後となる(ちなみに10月23日時点のニューヨークダウは2万5191.43ドル)。
一方、足元の米国の実質GDP成長率はリーマンショック後の平均成長率である1.9%から着実に上振れて推移してきている(2018年4-6月期の実質GDP成長率は前期年率換算で4.2%、アトランタ連銀が推計している「GDPNow」によれば、発表済みの月次指標から予想される7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率換算で+3.9%と成長の上振れ局面は続く見通しである)。
もし、米国経済がリーマンショック後の「長期停滞」から抜け出し、リーマンショック前の成長トレンドへ回帰しつつあるというのであれば、当然、株価の「均衡値」の水準も変わってくるはずだ。
図表2でいえば、割引株価がリーマンショック前の均衡値にキャッチアップしているという解釈をすることが可能になる。この場合には、現在の株価調整は「市場が誤っている」ということになり、調整終了後の大幅リバウンドが想定されることになる。
どちらの見立てが正しいのか。残念ながら客観的な経済指標等からこれを判断することはまだできない。
どちらが正しいかは、@インフレ率の動向とAインフレ率の動向を踏まえたFRBの金融政策に依存すると考える。まず、米国経済の成長トレンドがリーマンショック前の状態に上方修正されているとすれば、今後、インフレ率はそれほど上昇しないはずである。
したがって、現在、4ヵ月で前年比2%を維持しているコアPCEデフレーターがこのまま2%前後のインフレ率を維持するかどうかが第一のポイントである。
第2のポイントはFRBの金融政策である。
9月26日に発表された直近のFRBの経済見通しによると、FRBが想定する米国経済の実質GDP成長率のトレンドは年率で1.8〜2.0%となっている。このFRBの経済見通しは、FRBは、米国経済の成長トレンドが上方修正されつつあるとは考えておらず、足元の経済成長率の上振れは将来のインフレ懸念になると考えていることを意味している。
つまり、最近の米国経済は「過熱気味」ということになり、FRBは今後も利上げを続ける公算が高いということになる。
FRBか、それともトランプか
FRBの金融政策でもう一つ気になるのが、FRBの資産圧縮である。マネタリーベース残高でみると、これまでのFRBによる資産圧縮のペースは、名目成長率に換算すると3.5%程度の成長を維持できるペースであった(図表4)。
だが、7-9月期には圧縮ペースが加速した可能性が高い。「名目3.5%成長」というのは、概ねFRBの経済見通しに沿ったものであるが、現状のFRBの資産圧縮は「オーバーキル」を懸念すべき領域に入った可能性を示唆するものである。
FRBが将来のインフレ懸念を抱いている限り、利上げと資産圧縮による「流動性」の収縮はまだ続く公算が強いということになる。これは株価にとってはマイナス要因である。
これに対し、最近のトランプ大統領は「我々にとっての最大のリスクはFRBである」と強く反発している。トランプ大統領の経済政策(減税など)は、明らかに米国経済の成長トレンドをリーマンショック前の状態に戻すことを意図していると考えられるため、FRBの金融政策はトランプ大統領の経済政策の阻害要因になってきつつあるのかもしれない。
また、「米中貿易戦争」に代表されるような外交・安全保障政策が成功する必要条件として、米国経済の正常化の実現があると思われる。これまで筆者は、「米中貿易戦争の勝者は米国である可能性が高い」と論じてきたが、その前提条件として、「米国経済の正常化」がマーケットに認識され、FRBもそれを理解した金融政策スタンスをとるということがあった。
FRBが正しいのか、それともトランプ大統領が正しいのか、それは現段階では結論は出せない。結論が出ない限り、米国株価は当面は乱高下するかもしれない(最近のマネタリーベースの減少は特殊要因に基づくものであるという見方もあり、今後はFRBがマネタリーベースの圧縮ペースを緩和する可能性もある)。
だが、ここで言及したように、どちらが正しいかを決めるのは、まずはインフレ率の動きであり、これがどちらに転ぶかはわからない。現在2%近傍で推移するコアインフレ率が、今後、3%へ向けて加速度的に上昇していくのであれば、FRBの見立てが正しいことになる。
一方、コアインフレ率が2%台前半で安定的に推移すれば、トランプ大統領の見立てが正しいことになる。そして、FRBが正しければ、株価の調整はまだ終わっていないということになる。もしもトランプが正しければ、株価は大きくリバウンドする可能性が高まる。
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