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孫氏とサウジ皇太子の蜜月、巨大ファンドに落ちる影 ファンドに投資家を招き入れることは、その人を家族に加えるようなものだとの指摘も
https://diamond.jp/articles/-/182976
2018.10.22 Mayumi Negishi WSJ ダイヤモンド・オンライン
Photo:REUTERS/AFLO
【東京】ハイテク投資家として知られるソフトバンクグループ会長兼社長の孫正義氏は今年の春、サウジアラビアのムハンマド・ビン・サルマン皇太子について、「すばらしい人、そしてすばらしい投資家」だと表現したことがある。
その称賛は一方的なものではない。ムハンマド皇太子も資金規模が920億ドル(約10兆3500億円)の「ソフトバンク・ビジョン・ファンド」に対し、サウジ側から450億ドル提供することを約束。同ファンドは米シェアオフィス運営大手ウィーワークなど、勢いのある新興企業へ数十億ドル規模の投資をしている。
だが両者のこのパートナーシップが今、ビジョン・ファンドの評判を傷つけ、その未来に影を落とす恐れが出ている。サウジアラビアの反体制派記者、ジャマル・カショギ氏がサウジの工作員らによって殺害され、遺体も切断されたとトルコ政府当局者らが主張しているためだ。同当局者らはムハンマド皇太子が殺害を指示した可能性があるとみている。一方、サウジアラビアはこれを否定している。
カショギ氏の失踪から2週間、孫氏はこの事件についてまだ公に発言をしていない。
失踪事件をめぐって非難の声が高まる中、来週サウジアラビアで開催される「砂漠のダボス会議」で登壇予定だった多くの著名人が会議への出席を見送っている。その中の1人が、孫氏と同じIT(情報技術)界のリーダーとして知られる米配車サービス大手ウーバーのダラ・コスロシャヒ最高経営責任者(CEO)だ。ソフトバンクは同社の筆頭株主でもある。また中国のベンチャーキャピタル、創新工場(シノベーション・ベンチャーズ)の李開復CEOも出席を見送るという。
孫氏は同会議の登壇者として名前が載っていたが、ソフトバンクグループは同氏が予定通りに出席するか回答を差し控えるとした。一方、ソフトバンクのマルセロ・クラウレ最高執行責任者(COO)はカリフォルニア州サンノゼで開かれたテクノロジー関係の会議で、サウジアラビアで「何が起きているのか心配している」と述べた。
ソフトバンク株は15日、この2年近くで最も大きく下げたが、その後は回復している。
初対面は迎賓館
直感や個人的なつながりをベースに物事を決断すると話す孫氏にとって、ビジョン・ファンドにサウジ資金を受け入れるまでの過程はその言葉と一致するものだった。
孫氏は2016年9月に東京の迎賓館でムハンマド皇太子と初めて会った。その頃の孫氏は後のビジョン・ファンドのため、資金調達に奔走していた。当時の話し合いに詳しい関係者らによれば、シンガポールや中国の政府系投資ファンド、日本のゆうちょ銀行の投資部門は出資に難色を示していた。ここまで大規模な資金を孫氏というたった1人の男性が仕切る前例のないファンドに懸念を示す向きもあったという。
孫氏とムハンマド皇太子は45分間の面会を相思相愛で終えた。孫氏はサウジに繁栄をもたらすことを約束し、ビジョン・ファンドを通してサウジは将来の最も大きなテクトレンドにおいてステークホルダーになると伝えたと後に明かしている。
昨年の砂漠のダボス会議で孫氏は、世界中の多くのリーダーと会ってきたが、大きな情熱を持ち、若く、素晴らしいビジョンがあり、そして多少のお金を持っているムハンマド皇太子のような人物には会ったことがないと述べた。
孫氏は5月にウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の取材に応じた際も賛辞を並べ、ムハンマド皇太子は「起業家の視点をもっている」と話した。その際、「手段についてはノーコメント(だが、初対面の日から)毎日連絡は取り合っている」と明かしている。
成功する起業家を見抜く孫氏の才能は、これまで大いに役立ってきた。ソフトバンクの投資案件は電子商取引大手 アリババグループやその創業者、馬雲(ジャック・マー)氏向けのものなど、成功例が失敗を上回っている。だが支援した起業家が失敗すれば孫氏は相手を容易に切り離せるが、孫氏の賭けに資金を提供している人々とはそう簡単に別れることができない。今回の場合はサウジの政府系ファンド「公共投資基金(PIF)」がそれに当たる。
トリプル・エー・パートナーズ・ジャパン(東京)のフランク・パッカード社長は、ファンドに投資家を招き入れることは、その人を家族に加えるようなものだと指摘。相当な注意が必要になると話す。
「名前を連名で書くことになる」。それは「義理の家族として迎え入れたいかどうかと同じ問題だ」と言う。
サウジと組むリスク
ビジョン・ファンドが2017年5月に発足した後も、ソフトバンクはサウジに関する審査を継続していた。同年終盤には政治アナリストや中東専門家を雇い、サウジ政府と組む際のリスク評価を依頼したと、調査に関わった関係者らは話す。ある人物によれば、新たな投資が必要になってもPIFが出資しないこともリスクの1つとして挙がっていた。
孫氏は過去に政治的シグナルを読み間違えたことがある。ソフトバンクは2013年に200億ドルを投じ、米携帯電話大手のスプリントを買収。米規制当局がスプリントと同業TモバイルUSの合併を承認すると見込み、その判断を正当化していた。だが当時のオバマ政権が合併阻止の姿勢をみせ、スプリントの負債は長年にわたりソフトバンクにとって重荷となった。スプリントとTモバイルは今、トランプ政権が合併を承認することに期待を寄せている。
カショギ氏の失踪がビジョン・ファンド第2弾の設立にどのような影響をもたらすかは不透明だ。孫氏は1000億ドルの調達を目指す第2のビジョン・ファンドに向けて潜在的投資家らに打診を続けており、さらに第3、第4のファンドを設立させたい考えだ。
ソフトバンクのクラウレCOOはソフトバンクが新たなビジョン・ファンドを設立することは「確定したわけではない」とし、具体的な日程なども決まっていないと述べている。
一方、ムハンマド皇太子は今月、ブルームバーグに対し、PIFがなければ「ソフトバンクのビジョン・ファンドも存在しない」と述べ、ビジョン・ファンド2には追加で450億ドルを出資する用意があると話していた。
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