バロンズ】米株市場の激震、強気相場は終了か By Ben Levisohn 2018 年 10 月 16 日 07:05 JST • 見果てぬ夢 米国の株式市場が見ていたのは夢だった。投資家は力強い米国経済、減税、財政刺激策が金利上昇、追加関税の影響、米国以外の国の景気減速を相殺してくれると確信していた。その結果、2018年1月から9月末までのS&P500指数のリターンは、米国以外の株式相場が5%以上下落したのを尻目に11%の上昇となった。 米株市場の激震、強気相場は終了か ところが先週、相場は一変した。S&P500指数は4.1%安の2767.13、ダウ工業株30種平均(NYダウ)は1107ドル6セント(4.2%)安の2万5339ドル99セント、ナスダック総合指数は3.7%安の7496.89となった。相場の総崩れによって、ようやく投資家たちが目を覚ました。 警告はほぼ一斉に現れた。フェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標がさらに高まる可能性を米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長が指摘したことを受けて、10年物米国債の利回りが7年ぶりの高水準に達した。中国についてのペンス副大統領の講演は米中両国の緊張関係が長引く可能性があることを投資家に認識させた。さらに、中国がハイテク製品にスパイチップを仕込んでいた疑いがあるという報道は、ハイテク株に打撃を与えた。 打撃を受けたのがハイテク株だけであればよかったが、景気に対する懸念がそれに追い打ちをかけた。火曜日には国際通貨基金(IMF)が経済成長見通しを引き下げた。また、追加関税を起因とする利益率の低下が、塗料・化学品大手であるPPGインダストリーズ(PPG)と建設用ファスナーの小売・卸売業者であるファスナル(FAST)という、通常であればほとんど注目されない2社で浮き彫りとなり、米国も関税の影響を受けずにはいられないことが立証された。 資産運用会社グレンミードの個人資産部門で最高投資責任者(CIO)を務めるジェイソン・プライド氏は「利益率の低下とFRBの利上げが一連の変動を引き起こしている」と指摘する。投資家が莫大(ばくだい)な金額を夢に賭けていなければ、NYダウがわずか2日間で1400ドル近く下落することはなかったかもしれない。 投資銀行のRBCキャピタル・マーケッツのストラテジストが指摘した例を挙げると、NYダウが上昇することに賭ける際に資産運用者が利用する先物取引は1月のピーク以来の高水準となっていた。相場の急落は混雑する劇場で「火事だ」と叫ぶようなものだった。資産運用者たちはこれらのポジションを直ちに解消しなければならなかった。 • 強気市場の終焉(しゅうえん)か とはいえ、これで強気市場が終了したわけではない。投資家は徐々に景気後退を織り込むため、市場の天井は時間をかけて形成されることが多い。従って、通常は株式市場から途中で退場する機会がある。以前の弱気相場でも、投資家は市場から退場して金融危機の痛みを避ける目的で、逆イールドカーブを待っていた可能性がある。逆イールドカーブは景気後退の信頼できる予兆だ。 最大の懸念事項は、これまでの約8カ月が天井形成過程で、相場が既にピークを打っていることだ。賢明な投資家はそう考える。だが、まだ逆イールドカーブにはなっていない。実際、国債相場の突然の下落が投資家を安全な10年物米国債に向かわせるまで、イールドカーブはむしろスティープ化していた。 失業保険申請件数やクレジット・スプレッドなどの景気先行指数も高水準を維持している。ヤルデニ・リサーチのエドワード・ヤルデニ社長は「これで景気後退に陥るとは思えない。景気後退にならなければ、弱気相場になることはないだろう」と語る。 株価が金曜日に反発したことで真の相場崩壊は延期となったが、株価が再び上昇局面を迎えるまで、さらなる恐怖、下落、痛みが待ち受けている可能性は高い。ウェルズ・ファーゴ証券の株式とクオンツ戦略の責任者であるクリストファー・ハービー氏によれば、「そのプロセスはシャンプーのCMのようで、泡立て(相場下落)、リンス(銘柄入れ替え)、その繰り返しだ」。 しかし、少なくとも夢が直ちに悪夢に変わることはなさそうだ。 バロンズ】貿易戦争、ノーベル経済学賞の教授に聞く 2001年受賞のジョセフ・スティグリッツ・コロンビア大教授 ジョセフ・E・スティグリッツ・コロンビア大学教授 ジョセフ・E・スティグリッツ・コロンビア大学教授 PHOTO: NATHAN BAJAR By Leslie P. Norton 2018 年 10 月 16 日 07:01 JST • 米中貿易戦争の今後の展開について 2001年のノーベル経済学賞受賞学者、ジョセフ・E・スティグリッツ・コロンビア大学教授に話を 聞いた。 本誌:貿易戦争の今後の展開は? スティグリッツ教授:中国との貿易赤字に関する米国側の前提が非常に奇妙だ。例えば、米国は世界 最高の国で、最高に効率的なのだから、輸出より輸入が多いのは中国が不正をしているに違いないと の考えがあるが、エコノミストなら誰でもそのような考えはばかげていると言うだろう。貿易赤字が 生じるのは貯蓄が投資を下回っているからだ。さらに2017年12月の減税と2018年1月の政府の支出 増加決定によって、貿易赤字と財政赤字はともに今後大幅に増える見込みだ。どのような貿易協定が 結ばれようと、事態は悪化するだろう。例えば、中国から衣料品を輸入しなければ、代わりにスリラ ンカやバングラデシュ、ベトナムから輸入するため、米国の労働者の状況が改善するわけではない上 、コストも若干上昇し、消費者にとっては状況が悪くなる。中国が米国から石油やガスを買うと合意 した場合は、中国はこれまで買っていた国から買うのをやめ、それらの国は別の国に売るようになる 。世界全体の需要と供給は変わらない。 Q:ほかにも誤解はあるか? A:中国が大した経済国ではないと思われていることも間違いの一つだ。国民一人当たり所得が150 ドルの国が米国を追い抜き、世界最大の経済大国になると30年前に誰が想像できただろうか。中国は 7億5000万人もの人を貧困から救った。人類史上最も重要な出来事の一つだ。また、中国の成長は米 国の犠牲の上にあるという考えも間違いだ。実際のところ米国製品を買うお金のある人が増えた。中 国は、世界との技術格差を縮小するための2025年に向けた戦略を持っている。知的財産権問題の性 質は変化してきており、米国企業は合弁によって知的財産を中国と共有することを問題視しているが 、中国側は米国企業の進出を強要したわけではないと主張している。人工知能(AI)に関していえば 、中国は知的財産権を盗んでいるどころか、世界最先端の水準にある。中国の強みは、米国のような プライバシー保護の制約がないことだ。 Q:中国は貿易戦争にどう対応するだろうか? A:中国は何らかの対応に迫られるが、米国側に譲歩するとは考えられない。鉄鋼に関してロス商務 長官が交渉に当たり、解決策を持ち帰ったこともあったが、トランプ大統領は、「私が望むのは関税 だ」の一点張りだった。ここまで無知な人が相手であれば、中国側が受け入れ可能な対応策は何もな いかもしれない。一つの可能性として、北朝鮮の金正恩委員長とトランプ大統領の首脳会談のような 指導者同士の顔合わせがある。米朝首脳会談では実質的成果はなくとも、トランプ大統領はスポット ライトを浴びることができた。 Q:中国の選択肢は何か? A:中国の方が裁量可能な手段が多くある。レアメタルの供給を中止することもできる。中国で操業 する米国企業に一時的に課税強化することもできる。中国には米国人が保有する数千億ドル相当の資 産があり、人質のようになっている。また、貿易戦争が政治問題や北朝鮮問題での協力、南シナ海で の領有権主張、中東内での国連の協力などに波及しないと想像することは難しい。中国経済が鈍化し ているため中国は弱く、貿易戦争を乗り切れないとの主張は意外に感じる。貿易戦争が長引けば、米 国経済も悪化する。大半のアナリストは既に2019〜2020年の景気低迷を予想している。 • グローバル化と国内政策について Q:グローバル化の終わりか? A:グローバル化の問題とは、グローバル化そのものというより、むしろ各国内の対応の問題だ。開 発途上国との貿易に国を開けば、国内での未熟練労働者への需要は減少し、賃金低下や失業率上昇に つながることを認識すべきだった。脱工業化が起き、市場だけでうまく構造変革が進まない場合、政 府の援助なしでは不幸な人が増えることに備えて、政府はもっと多くの対応を施しておくべきだった のだ。本当に責めるべきは国内政策であり、さらには貿易調整支援政策に反対した人だ。 トランプ大統領は世界的な協定は米国にとって不公平だと言っているが、それはあきれた話だ。も ともと米国あるいは、もっと具体的には米国企業が構想したもので、労働者の犠牲のもとに利益を得 るように仕向けたものだ。われわれが必要とするのは国内のより良い管理とより良い協定だ。グロー バル化によって労働者は福祉、社会的保護、賃金の悪化を受け入れざるを得ないという議論を時々耳 にする。生活の全ての面が悪化するなら、どうしてより幸福になることができるのか。 Q:次に何が起こるのか? A:それは政治的な質問だ。トランプ大統領の保護主義的なイデオロギーに圧倒された共和党は、財 政健全化や自由貿易に関する主義主張を放り出してしまい、日和見主義的な自国民優先政党となり、 人種差別的で外国人排斥的な雰囲気もただよう。奇妙な展開だ。体制側はもともとグローバル化と世 界的な責任を信奉していたが、今や雇用確保や賃金上昇を求めるだけの政治で、民主党との対立は少 なくなった。民主党はこの点を受け入れ、社会的な保護、平等、雇用といったより広い課題解決にあ たることを私は期待している。民主党の進歩主義的な政治課題が成功した場合は、グローバル化の問 題により平等な解決を導き出し、世界からの孤立を招かずに済むことになるだろう。 Q:世界貿易機関(WTO)に関して懸念しているか? A:今や重点はグローバル化の崩壊を防ぐことだ。WTOは紛争解決メカニズムで、貿易協定には不可 欠な存在だ。まもなくWTOの上訴裁判所は定足数不足で機能できなくなるだろう。トランプ大統領 は新しい判事の任命に拒否権を発動した。大統領が考えを変えない場合は、世界中の国が団結して、 国際的な法の支配を守る必要性を主張するよう期待する。 • ユーロ圏と仮想通貨について Q:ユーロは存続できるか? A:答えはユーロ圏が改革可能か否かにかかっている。改革しなければ欧州は危機に次ぐ危機となる 公算が大きく、ついに崖から転げ落ちる可能性も高い。次に危ないのはイタリアだ。政治的にも悪い 方向へ変化している。ギリシャは小国で、自立を恐れていたが、イタリアは異なり、反ユーロ感情も 強い。離脱が起きる前からある国を市場が攻撃し、単一通貨の銀行システムから退出することもあり 得る。欧州側は改革するか、あるいは危機への対応が政治的に不可能と判断するかのいずれかになる が、後者の場合、崩壊はほぼ不可避だ。 Q:ユーロ崩壊の確率は? A:欧州統合への強い決意がみられる一方、ユーロあるいはドイツの圧倒的強さへの不満も強い。1 回の危機で欧州統合が崩れるとは思わないが、たとえ1回の危機での瓦解の確率が10%だとしても、 何度も度重なると、累積的な確率は非常に高くなる。移民問題が大きな影響を与えてきたことも考慮 しないといけない。 Q:ビットコインをどう思うか? A:ドルは価値の貯蔵や交換の手段として優れている。ビットコインは価値の変動が大きく、価値の 貯蔵には向いていないし、交換手段としては法逃れや犯罪に利用しやすいのでもてはやされるが、目 に余れば政府が阻止しようとするだろう。 中国と新冷戦時代へ、 動き出した米国トランプ政権内で対中強硬姿勢が強まっている 訪中時のトランプ米大統領と習近平中国国家主席(2017年11月、北京) ANDY WONG/ASSOCIATED PRESS By Michael C. Bender, Gordon Lubold, Kate O’Keeffe and Jeremy Page 2018 年 10 月 16 日 15:32 JST 更新 【ワシントン】トランプ政権が周到な計画の下、中国に対して反撃に動き出した。ホワイトハウスには、中国が長年、見境なく攻撃的な振る舞いを続けているとの認識があり、反撃は軍、政治、経済の各分野に及ぶ。両国の関係が一層冷え込む可能性が浮上した。 トランプ政権発足から1年半、世界の二大大国である米国と中国の関係にとって、「北朝鮮をどう抑制するか」と「貿易不均衡をいかに是正するか」という2つのテーマをめぐる交渉が全てだったと言える。世界の注目を集めるこうした取り組みの裏で、ホワイトハウスは対中強硬姿勢へのシフトに向けて準備を進めていた。北朝鮮問題で中国の協力が得られなくなり、通商協議も行き詰まる中、対中強硬戦略が表面化してきた。 拡大する貿易不均衡米国の対中貿易 Source: U.S. Census Bureau .(単位:十億ドル) 複数のホワイトハウス高官や政府関係者へのインタビューから明らかになったのは、新たな冷戦を思わせる状況下で行われている両国間の最近のやり取りが、米国の対中政策から逸脱していないということだ。こうしたやり取りはまさに米国が望んだものであり、来月にブエノスアイレスで開催される20カ国・地域(G20)首脳会議に合わせて開かれるとみられるトランプ氏と習近平・中国国家主席の首脳会談は注目されるだろう。 マイク・ペンス副大統領は今月4日、米中関係について講演し、激しい対中非難を展開した。ペンス氏は「米国は新たな対中方針を採用した」と述べ、トランプ大統領は引き下がらないというメッセージを送った。 米財務省は10日、中国対米投資の安全保障上の審査を強化する新規則を発表した。司法省は同日、ベルギーで逮捕された中国の情報工作員について、GEアビエーションなどからの企業秘密の窃取に関わった容疑で訴追するため身柄を米国に移したと発表した。検察が拘留中の人物を中国の情報工作員と公式に認めるのは今回が初めてだ。 エネルギー省は11日、原子力技術の対中輸出規制を強化すると発表した。政権は先ごろ、中国国営メディア2社に外国の代理人としての登録を義務付ける司法省の指示を承認した。 アナリストによると、中国政府関係者の多くは米国が一気に対中強硬戦略にシフトしたことに驚いており、米国が事を荒立てる中で中国は関係を安定させようと急いでいる。 南京大学で米中関係と国際安全保障を研究する朱鋒教授は「米国は強硬姿勢をますます強めており、あらゆる面で中国と対立している」と指摘する。「中国政府はとにかく冷静でいるべきだ。新たな冷戦が中国の国益になるのか。答えはノーだ」 米国の一連の動きは、1979年の米中国交樹立にさかのぼる「建設的関与」戦略から米国が明確な方向転換を図ったことを意味する。この戦略の土台には、中国が経済、経済の両方で徐々に自由化を進めるとの期待があった。 フロリダの別荘マールアラーゴで習国家主席と初会談後を行うトランプ大統領(2017年4月6日) PHOTO: LAN HONGGUANG/XINHUA/GETTY IMAGES 米国が方向転換したのは、2012年に中国トップに就任した習氏が偉大な大国を目指すと宣言し、政治と経済の権限を再び中央に集中し始めてからだ。米国は中国が来た道を戻り始めたと受け止めた。 昨年12月の段階で米国が対中強硬姿勢に転じることは予想されていた。米国は「国家安全保障戦略」の中で北朝鮮やイラン、ジハード主義のテロ組織と共に中国を米国に対する最大の脅威に挙げた。当時、トランプ氏はそれとは対照的な個人外交を展開していた。 政権発足当初、トランプ氏は習氏をほめそやし、大統領就任前に受け取ったグリーティングカードについて必要以上に好意的に取り上げたり、2017年春にはトランプ氏の別荘「マールアラーゴ」の夕食会で「これまでで一番おいしいチョコレートケーキ」を一緒に食べたりした。北朝鮮の脅威に対して共に戦う潜在的な友好国を危険にさらしたくないと言い、中国を為替操作国に認定するという選挙公約を破り捨てた。 その後、ホワイトハウスの補佐官チームにタカ派のメンバーが加わった。トランプ氏も、物議をかもした自身の行動――中国の中興通訊(ZTE)に救いの手を差し伸べるなど――が十分に報われていないことに気付いた。ある政権高官によると、トランプ氏は習氏と10回程度の電話会談や書簡の往復を行い、数度の直接会談を通じてやり取りをしたが、中国側の気のない回答になぶり殺しにされているかのようにいら立ったという。 米政府関係者によると、米国が先月、ロシア製の戦闘機「SU35」と、地対空ミサイルシステム「S400」に関連する装備を購入した中国軍の機関とそのトップに対する制裁を決定すると、中国政府は激怒した。 中国は駐中国米大使に正式に抗議し、ワシントンを訪問中だった海軍トップの帰国を命じたほか、米海軍艦船の香港寄港も拒否した。 中国の王毅外相は先ごろ、外交問題評議会で講演し、中国が世界の覇権を握ろうとしているとの米国の懸念について、深刻な戦略的判断の誤りだと述べた。 「事態が収拾するのは貿易に関するディール(取引)が成立したときだ」とある政権高官は話す。「習氏は現状を見て、『トランプはやると言ったことをやっている』ことに気付き、仕事に取りかからなければならないと思い始めている」 国連総会で話す中国の王毅外相(9月26日、ニューヨーク) PHOTO: EVAN VUCCI/ASSOCIATED PRESS 厳しい教訓 11月の米中首脳会議は、通商問題をめぐる緊張の緩和にはプラスに働く可能性があるものの、米国の強硬姿勢が和らぐことはなさそうだ。ワシントンでは、米中関係の強化に長年取り組んできた人々の間にさえも、中国に対する幻滅が広がっている。 例えば経済界では多くの人が、世界第2位の中国経済が米国企業に開かれることを期待して中国との「共生」政策を支持していた。中国が米国のテクノロジーを強引に獲得しようとしたことでこの楽観的な空気は不信に変わった。 米商工会議所は中国が米国の企業から知的財産を盗んでいると批判している。中国を世界トップの製造大国に押し上げるべく中国政府が策定した産業振興策「中国製造2025(メード・イン・チャイナ2025)」を厳しく批判する報告書もまとめた。 米国防総省の高官はこれまで中国の軍高官との間で政治の雰囲気の変化に左右されない関係を構築しようとしていた。しかし彼らも我慢の限界に達したという 。 米国はその能力を見せつけることで中国軍との関係を構築しようとしたが、その取り組みは中国側に悪用された。ジョゼフ・ダンフォード米統合参謀本部議長が昨年、米中両軍の間の正式な対話メカニズムを確立するために北京を訪問したあと、そのことをこれまで以上にはっきりと認識した。ホテルの部屋に置いてあった補佐官のタブレット端末を何者かが操作していたことが分かり、米軍は中国との付き合いに消極的になった。 昨年、北京を訪れたダンフォード米統合参謀本部議長(2017年8月15日) PHOTO: ANDREW HARNIK/ASSOCIATED PRESS ジェームズ・マティス国防長官は今月、北京を訪問する予定だったが、米中双方が会談の目的で折り合えずにいた。その後、南シナ海で中国の駆逐艦が米海軍の艦船に異常接近する事態が発生し、マティス氏の訪中は中止された。 トランプ氏は当初、大統領選の選挙遊説で中国を敵と呼び、中国に対して敵対的な姿勢を示していた。 「私は中国人をやっつける。私は中国に勝つ」。トランプ氏は2015年、サウスカロライナ州ブラフトンの選挙集会でこう話した。「賢ければ中国に勝てる。しかし政府はどうしたらいいか分かってない。政府は中国のトップを公式晩さん会に招くが、私はこう言ったんだ。『なぜ彼らのために夕食会を開くのか。彼らはわれわれから金を搾り取っている。マクドナルドに連れて行って、それから交渉に戻ればいい』」 こうした考え方がトランプ氏の支持者に受けた。ウォール・ストリート・ジャーナルとNBCニュースが4月に行った合同世論調査では、トランプ氏を支持する共和党支持者のうち、中国を友好国と回答した人はたった4%だったが、敵と答えた人は86%に上った。 トランプ政権は発足直後にも対中強硬策を検討していたが、それどころではなくなった。政権発足から100日の間に北朝鮮は5回もミサイルを発射し、ロケットエンジンの試験を行った。さらに米国は中国との間だけでなく、欧州連合(EU)やカナダ、メキシコとも貿易摩擦を抱えることになった。 このころは対中融和姿勢を求める声もあった。当時、アイオワ州の知事だったテリー・ブランスタッド氏はトランプ氏に、中国と同州の農業貿易を理由に発言をトーンダウンさせるよう要請した。ブランスタッド氏は駐中国大使に選ばれた。 米大統領選後に習氏と会談したヘンリー・キッシンジャー元国務長官は中国から帰国すると、トランプ氏は選挙公約に縛られるべきではないと述べた。キッシンジャー氏は習国家主席からの心のこもったメッセージをトランプ次期大統領に伝えた。 トランプ氏の娘婿で大統領上級顧問のジャレッド・クシュナー氏は昨年の大統領訪中の段取りをつけ、両国関係の重要性を強調した。スティーブン・ムニューシン財務長官は大統領と中国に、両国間の溝を埋められる人間として自らを印象付けた。トランプ政権の国家経済委員会で初代委員長を務めたゲーリー・コーン氏は対中関税に反対した。 中国の汪洋副首相と話すムニューシン米財務長官(2017年7月、ワシントン) PHOTO: BRENDAN SMIALOWSKI/AGENCE FRANCE-PRESSE/GETTY IMAGES 「解き放たれた」対中強硬派 事情に詳しい関係者によると、ムニューシン氏は橋渡し役としてほとんど成果を出せなかった。同氏は対中政策への影響力を失い、中国政府との交渉が予想以上に困難なことが分かった。コーン氏は政権を去り、クシュナー氏の関心は他のテーマに移った。 そこで台頭したのが軍出身のジョン・ケリー大統領首席補佐官らタカ派の側近だ。事情に詳しい関係者によると、ケリー氏の中国観はダンフォード統合参謀本部議長のそれと同じく、経験に基づいていた。 昨秋の大統領訪中時、ケリー氏は「核のフットボール」に近づこうとした中国政府関係者ともみ合いになった。核のフットボールとは大統領が核ミサイル発射を命令するための機器が入ったブリーフケースのことだ。ケリー氏は、謝罪の受け入れは拒否する、もし中国の政府高官がワシントンに来て、米国の国旗の下に立ち悔恨の念を表すのであれば謝罪を受け入れると同僚に語った。 昨年11月北京で行われた米中首脳会談時のケリー大統領首席補佐官(中央)とブランスタッド駐中国大使(中央右) PHOTO:JONATHAN ERNST/REUTERS 通商担当のピーター・ナバロ大統領補佐官は長年の対中強硬派で、この夏には米国のテクノロジー業界を脅かす中国の経済侵略について報告書をまとめた。ナバロ氏は「The Hundred-year Marathon: China’s Secret Strategy to Replace America As the Global Superpower(邦題 China 2049 秘密裏に遂行される『世界覇権100年戦略』)」という本を政権関係者に配っている。 国家安全保障問題担当の大統領補佐官に新たに就任したジョン・ボルトン氏も以前から中国への強硬姿勢を主張している。ある政権高官によると、ボルトン氏はさらに厳しい対中政策を推進するため、国家安全保障会議アジア上級部長であるマシュー・ポッティンジャー氏を「解き放った」という。 元海兵隊員でウォール・ストリート・ジャーナルの記者だったこともあるポッティンジャー氏の見解は、国家安全保障戦略に反映された。同氏は中国が米国のシンクタンクや大学、地方政府に対して影響力を行使するためにどのような形で金を使っているかを詳しく調査するプロジェクトの監督にも関わった。 ポッティンジャー氏は先月、ワシントンの中国大使館で開かれたイベントに出席し、ホワイトハウスが米中間の競争関係をはっきり認めるため対中政策を改めたと明かし、「米国では競争は禁句ではない」と述べた。 米政府関係者は今後も対中圧力が継続されるとみている。トランプ政権内では以前、中国の南シナ海進出を支援する民間企業を処罰する案が議論されたものの、棚上げされたことがあった。これと同じような制裁が再び検討されている。 ホワイトハウス関係者は情報機関が把握している米国の選挙やサイバー空間への中国の影響に関する情報の機密解除が進むだろうと話した。商務省は中国の少数民族でイスラム教を信仰するウイグル族の抑圧に米国の監視技術が使われないようにするため、輸出規制を強化する。 ホワイトハウスは米国の対外支援に関する審査報告書を約1カ月後に公表する予定だ。政権高官によると、審査の狙いは中国で、少なくとも間接的には中国政府のインフラ整備プロジェクト「一帯一路」を標的にしているという。 ペンス副大統領は一帯一路の関連プロジェクトの一部を批判し、被援助国を借金漬けにしていると述べた。ペンス氏は先週の講演で「米国は公正さ、相互主義、主権の尊重に根差した関係を追求する」と述べた。「その実現のために、われわれは強力かつ迅速な措置を取っている」 関連記事 • 米国の対中関税、国内回帰した米工場を直撃 • 中国の一帯一路、完成するのは「でこぼこ道」 • 【オピニオン】米副大統領の「第2次冷戦」宣言 • 米国の対中関税、長期戦へのパラダイムシフト • 米副大統領の中国痛烈批判が示すもの
中国にドットコムバブル到来か、IT業界に既視感 ユニコーン企業が急増、厄介な規制や貿易摩擦でリスクも増加 上海の街角で待機する出前サービス「餓了麼(ウーラマ)」と美団点評の配達員 YUYANG LIU FOR THE WALL STREET JOURNAL By Phred Dvorak and Liza Lin 2018 年 10 月 16 日 09:03 JST 度を超えた支出に法外なバリュエーション――。20年前のドットコムブームが再び戻って来たようだ。しかし、今度の主役ははるかに大きい中国企業だ。 スマートフォン経由でコーヒーを受注する北京に本拠を置くスタートアップ企業が、立ち上げからわずか7カ月で評価額が10億ドル(約1118億円)以上のいわゆる「ユニコーン」の領域に到達した。「トラック業界のウーバー」と呼ばれる別の企業は、評価額が2017年売上高の300倍に高騰した。米配車大手ウーバー・テクノロジーズ自体の評価額は売上高の10倍程度だ。 スマホ経由でコーヒーを受注するスタートアップ企業「瑞幸咖啡(ラッキン・コーヒー)」PHOTO: JASON LEE/REUTERS しかし、中国にダイナミックな活気を見いだしている投資家がいる一方で、厄介な国内規制や世界的な貿易摩擦などの要因が相まって市場が一段と脅かされつつあると見る投資家もいる。最大のリスクは、ドットコムバブルが再び崩壊することだ。つまり、2000年代に米IT(情報技術)セクターの価値を数十億ドル吹き飛ばし、IT投資を何年も冷え込ませたサイクルが中国にも到来する可能性だ。 そうした兆候は既に現れている。中国の上場IT企業の株価は先週、世界的なIT株の下落や米中の貿易紛争激化に対する懸念を受けて急落した。上海総合指数は先週7.6%、IT銘柄が多くを占める深セン市場は10.1%それぞれ下落した。 さらに米政府は最近、テクノロジー関連のスパイ行為で中国政府を非難しているほか、人権侵害についても懸念を表明している。もし米国が中国IT企業を対象に制裁を科せば、それら企業は製品の主要市場を失う結果になりかねない。 中国IT産業の成長を主に支える同国のネットサービス大手は自国では政府からのプレッシャーに、海外では対米関係の緊張にさらされているほか、株価下落にも直面。「にわかに板挟みの状況に陥っている」と、米シンクタンク、ユーラシア・グループのテクノロジーアナリスト、ポール・トリオロ氏は指摘する。「こうした問題は今後、悪化する一方だ」 急増する中国のユニコーン企業 バリュエーションが10億ドル以上の非公開企業数の変化(「PLAY」を押す) China's Unicorns Bulk Up Valuations of private companies worth $1 billion and up PLAY 2012'13'14'15'16'17'182012 $1$20$100 billionAlibabaU.S.ChinaOthers Note: 2012-2017 are at the end of the year; 2018 as of Sept. 30 Sources: Dow Jones VentureSource; staff reports 米企業上回る調達額 今のところ、スタートアップ企業についてはブームが続いている。ダウ・ジョーンズ・ベンチャーソースのデータによると、中国のユニコーン企業109社は総価値が米国のユニコーン企業127社のそれを上回る(5350億ドル対4780億ドル)だけでなく、米企業に比べてかなり速いスピードでユニコーン企業になっている。 シリコンバレー有数のベンチャーキャピタル(VC)企業セコイア・キャピタルのファンドに詳しい関係者によると、同社は最新のグローバルファンドの資金の大部分(最大60%)を初めて中国に投資する可能性がある。ファンドの運用資金は80億ドルと同社史上最大となる見通しだ。 ベンチャーソースのデータによると、中国のスタートアップ企業の資金調達額は今年これまでに710億ドルと、初めて米スタートアップ企業の調達額(70億ドル)を上回りつつある。その投資額は5年前の18倍と2000年代のIT株バブル以来のペースで成長しており、中国が世界のテクノロジーハブとしてシリコンバレーを追い越すのではないかとの見方も出ている。 しかし、中国IT企業の支配力は脅かされつつある。中国政府が民間IT企業の影響力に警戒感を強めているほか、IT最大手の多くが黒字化のめどがほとんどたたないまま価格消耗戦で資金を急速に使い果たしている。 今年の中国スタートアップ企業に対する投資の約45%が国外からのものであることを考えると、余波は世界に及ぶ可能性がある。一部の投資家は既に痛手を受けている。 そうした事態が垣間見えるのが、中国の自転車シェアリング企業だ。それら企業は昨年、資金を迅速に投じることができなかった。北京や上海などの国内都市に数百万台の自転車を設置したあと、一部企業は欧米の都市圏征服を目指していた。 しかし今、キャッシュフロー問題が顕在化しつつある。事情に詳しい関係者によると、摩拝単車(モバイク)は最近、直近の資金調達ラウンド後の評価額を10億ドル近く下回る価格で身売りした。またOFO(オフォ)は海外事業の拡大計画を後退させており、業界3位の小藍単車(ブルーゴーゴー)は昨年、経営破綻した。 昨年破綻した小藍単車(ブルーゴーゴー)の修理待ち自転車(2018年、北京) PHOTO: WU HONG/EPA/SHUTTERSTOCK 厄介な国内規制 もう1つの不確実要素が、中国の規制環境だ。中国の巨大IT企業の躍進は長らく国家の誇りとなっていた。中国指導部は依然イノベーション(技術革新)を促してはいるものの、テンセントホールディングスやアリババ・グループ・ホールディングなどの国内IT最大手の多くに対する統制を強め、政府の意に沿わない製品の販売をやめさせたり、阻止したりしている。 中国共産党機関紙の人民日報は6月、投資を「ギャンブル」にしかねないITスタートアップ企業への資本殺到に警鐘を鳴らした。スマホメーカーの小米科技(シャオミ)は意欲的な新規株式公開(IPO)計画を縮小し、最終的に当初期待していた評価額の約半分となる540億ドルで7月に上場することを余儀なくされた。 それでも資金は流入し続けている。中国の投資会社、高瓴資本集団(ヒルハウス・キャピタル・グループ)は9月、新たに106億ドルのファンドの組成を明らかにした。アジアのプライベートエクイティ(PE)企業の調達額としては過去最高で、米投資ファンドKKRが昨年立ち上げたファンドの調達額93億ドルを上回る。ヒルハウスによると、ファンドは「大幅に応募超過」となった。 ‘ 第1に(中国企業は)巨大な可能性を秘めており、第2に中国企業の成長ペースは国外の同業他社をはるかに上回る ’ —元生資本(ジェネシス・キャピタル)の創設者の彭志堅(リチャード・ペン)氏 中国ITブームの支持者はリスクを冒す価値はあると話す。 その1人がテンセントの元幹部で投資会社、元生資本(ジェネシス・キャピタル)の創設者の彭志堅(リチャード・ペン)氏だ。ジェネシスは、トラック業界のウーバーと呼ばれる満幇集団(フル・トラック・アライアンス・グループ)の最新の資金調達ラウンドで出資している。「外部の多くの人は、中国企業の資金調達ペースは過剰でバリュエーションは非常に高いと考えている」とペン氏は指摘。「しかし、第1に(中国企業は)巨大な可能性を秘めており、第2に中国企業の成長ペースは国外の同業他社をはるかに上回る」と述べた。 第2のアリババへの期待 格好の例がアリババだ。同社が2014年に実施したIPOは史上最大規模となり、米VCのGGVキャピタルをはじめとする投資家は巨額の利益を得た。GGVのマネージングパートナー、童士豪(ハンス・タン)氏によると、2003年にアリババに投資した当時、同社の評価額は1億8000万ドル前後だった。以来、同社の価値は2000倍以上に増加した。 タン氏は「アリババの資金調達ラウンドはどれも高くついた」としながらも「しかし、同社は5000億ドル企業になり、もうすぐ1兆ドル企業になるだろう」と述べた。 中国のITブームの信奉者は、法外なバリュエーションを正当化できる十分なチャンスがあると指摘する PHOTO: YUYANG LIU FOR THE WALL STREET JOURNAL 今は投資先を求めて多額の資金が流れ込んでおり、時に従来の指標ではバリュエーションを正当化するのが難しくなっている。一部のスタートアップ企業はまだ開発してもいない市場を基に見込み売上高を算出していると銀行関係者は話す。 また、中国金融市場は依然制約があり、投資の選択肢が不足していることから、開かれた経済市場では他に向けられる可能性のある資金がスタートアップ企業に流れている可能性が高い。 また、中国政府が最近、アリババやテンセントなどのIT大手に対する支配力を強めていることは、IT企業の事業見通しがいかに急速に変化しかねないかを物語っている。人工知能(AI)などの先端技術で世界をリードするにしろ、国内にデジタル監視網を構築するにしろ、IT企業は自社技術が政府の幅広い目標にいかに合致しているかに大きく左右される。例えば、テンセントのソーシャル・メッセージ・アプリ「微信(ウィーチャット)」は言論の取り締まりや群衆の監視に利用されている。 アナリストの推計によると、テンセントの一部ゲームの規制当局による承認が遅れたことで、同社の4-6月期(第2四半期)売上高は15億ドル減少した。それ以前には、アリババの関連会社アント・フィナンシャル・サービス・グループが、政府が支援する制度を優先するため、高収益が期待できる信用スコア事業から手を引くことを当局に余儀なくされた。 関連記事 • 中国、サイバーセキュリティー規制強化 外国企業の懸念強まる • 米追加関税の意図せぬ成果:中国の競争力向上 • アリババ最盛期終わり告げる兆候か、馬氏の引退 • アジア大手IT株、FANGしのぐ市場支配力
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