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豊田章男×孫正義で何が生まれるのか?サラリーマン経営者の時代の終わりか
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181010-00000074-sasahi-bus_all
AERA dot. 10/11(木) 7:00配信
握手を交わすトヨタの豊田章男社長(右)とソフトバンクの孫正義会長兼社長 (c)朝日新聞社
トヨタ自動車とソフトバンクの合弁会社設立のニュースを聞いて、多くのビジネスパーソンは驚いたに違いない。モノづくりを愚直に続けてきたトヨタと時代の変化を巧みに見出し、次々と業態を変えてきたソフトバンクの組み合わせ。どう考えても相性が悪いと思うのが普通だろうが、実際はかなり様子が違った。発表のあった10月4日から6日にかけて、豊田章男会長兼社長と孫正義は2回にわたり舞台に揃って上がり、息の合う様子を見せたのだ。それはなぜなのだろうか。
1956年生まれの豊田社長と57年生まれの孫社長。4日の共同記者会見や6日の東京モーターフェス2018(日本自動車工業会主催)のトークショーでの様子を見ていると、舞台のまん中には年下の孫社長が位置し、年上の豊田社長はその脇に座った。話しぶりも豊田社長がどちらかというと孫社長に気を使っている様に見えた。
企業規模は、売上高がトヨタは約29兆円、ソフトバンクグループは約9兆円。時価総額は日本企業でトヨタは1位、ソフトバンクは3位だがその額はそれぞれ約22兆円と約11兆円(10月10日時点)。トヨタが大きく引き離す。
今回の提携はトヨタからソフトバンクに持ちかけたものだったから、トヨタがソフトバンクを頼りにしたのは事実だが、ソフトバンクもトヨタからの呼びかけは願ったり叶ったりだった。IoTと言われたり、インダストリー4.0と言われたりする、これからの産業はサイバーとリアルとの連携がますます強くなる時代である。自動運転を広めようとしてもコンピューターサイエンスに長けたサーバー企業だけの力では無理がある。デジタル情報の指示で忠実に動く高品質のクルマを効率よく生産できる企業なくしては、未来のクルマ社会は築けない。今後のAIの主戦場は「モビリティサービス分野」だと予測している孫社長も「(自動車メーカーと)組むなら世界一の会社が良かった」と言い、トヨタと連携できたことを喜んだ。
だとすれば豊田社長が孫社長に対し、遠慮がちな態度を取る必要はあまりなく、対等に付き合えばいいように思える。だが「創業者」に対する豊田社長の思いを考えると、孫社長は年下であろうが、企業規模がより小さかろうが、憧れの存在だったのではないかと思うのだ。
豊田社長は孫社長のことを「たたき上げの創業者」と評する。孫社長は1979年、22歳の時、米国で最初の会社を興してからは、社長以外の仕事をしたことがない創業経営者である。一方、豊田社長は豊田自動織機を創業した豊田佐吉を曽祖父に持ち、トヨタ自動車の創業者、豊田喜一郎は祖父である。創業家一族ではあるが、豊田社長は自らが新しい事業を始めた創業者ではなく、継承者にすぎない。
特に祖父の喜一郎に対する思いはことのほか強い。「継承者は挑戦者でなくてはならない」と豊田社長はよく口にする。喜一郎は自動織機の未来を案じ、1930年代に自動車産業への進出に乗り出した。だが敗戦後にトヨタ自動車が経営危機に陥り、退任。社長に復帰する直前に急逝した。この喜一郎を念頭に「先人たちはなにもいい所を見ていない」と豊田社長はよく言う。0から1を生み出したトヨタの創業者らは苦労ばかりで果実を得ることはなく、その後会社を発展させた継承者は創業者らが手にすることがなかった果実を得ているという負い目があるのだろう。その思いが豊田社長の「創業者への憧憬」となっているように思う。
豊田社長は4日の共同記者会見で「たたき上げの創業者」の孫社長についてこうも話した。
「孫さんには憧れるところがある。ど根性、負けてたまるかという思いには共感する。孫さんは私にとってLiving(生きている)創業者です。佐吉や喜一郎に迫るヒントを与えてもらえるのではないかと思う」
喜一郎は佐吉が起こした自動織機事業から自動車産業へと大きく事業構造を変えた。いわば第2の創業である。いま「100年に一度の変革期」と呼ばれる時代になって、トヨタは単にクルマをつくるメーカーから「モビリティサービス」を提供する会社へと進化させようとしている。それは第3の創業と言える。
継承者たちが第3の創業を担うには、創業者の挑戦的な思考方法、行動様式を学ぶ必要があるのかもしれない。豊田社長にとって今回のソフトバンクとの提携は、生きている創業者から直に創業者の空気、匂いを吸い、今のトヨタに挑戦する風土を築こうとしているのではないか。だからこそ孫社長に対する遠慮、気遣いが豊田社長にはあるのだと思う。
日本の多くの大企業組織は勤め人が牛耳る社会である。今の経団連の会長、副会長はみんなサラリーマン経営者。大組織の中で前任者の仕事を否定し、新たな事業を起こしたり、既存事業を撤退したりするのは難しい。少なくともこれまでは、そんな乱暴な社員は会社の中では疎んじられる。先人たちがつくった土台のうえで、業務遂行に長けた人たちが上りつめるポストが今の経団連の会長、副会長ポストだと言える。創業者に憧れたり、創業経営者に迫り、学んだりしようとする意志を持つ者は少ないかもしれない。
ソフトバンクは経団連に加盟してはいるが、かつて経団連のエネルギー政策と対立し、孫社長は経団連の会議で反論した。日本の組織によくある「同調圧力」をものともしない孫社長と手を組みそうな経団連の会長・副会長企業はあまり思い浮かばない。それだけに今回のトヨタが手を組んだのは意外だった。
今回、トヨタとソフトバンクが提携し、日本や世界をリードする会社に育っていったとしたら、創業者精神に対する再評価がされるに違いない。大企業を飛び出しベンチャーを起こしたり、若いころから起業家を目指したりする挑戦をもっと評価する日本に生まれ変わるかもしれない。そんな時代の到来を夢見る私にとっては、今回の提携がやすやすと失敗してもらっては困るのだ。(Gemba Lab代表 安井孝之)
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