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デフレ大国ニッポンで「インフレに苦しむ老人」という残酷な現実 知られざる「物価格差」の正体
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/56914
2018.09.21 白波瀬 康雄 ニッセイ基礎研究所経済研究部研究員 現代ビジネス
経済力の乏しい「年金生活者」を直撃している
いまこの日本で、高齢者が「物価上昇」に直撃されていることをご存じだろうか。総務省の公表する「消費者物価指数」と「家計調査」を分析してみたところ、そんな実態が浮かび上がってきた。
私は1980年代後半生まれで、物心ついた頃には日本はデフレに陥り、失われた20年に育った世代だ。日本銀行が2年程度で2%の目標を掲げ、異次元の緩和を開始して5年が経ったが、目標にはほど遠い。それなのに「物価上昇」とは、なにを言っているんだ? そう思う方は少なくないだろう。
しかし、これは紛れもない事実。いまこの日本で、とりわけ経済力の乏しい年金生活者が物価上昇の直撃を受けているという現実がある。
まずは、次の図表1をご覧いただきたい。これは見慣れないデータだろうが、2010年を100とした消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)を、「年齢別(世帯主の年齢階層別)」に表した推移である。
これ見ると、10年から13年までの3年間は、年齢別の物価指数に大きな差はなく、3年間の上昇率は0.1〜0.3%に収まっている。それが、13年から17年までの4年間では、39歳以下が3.7%に対して60歳以上は5.5%と、その差が2%ポイント近く開いており、指数の差は年々広がっている。
若年層は、消費税率引き上げ(5%→8%)のあった14年こそ物価が大きく上昇したものの、その後の物価水準は概ね変わっていない。一方、高齢者は消費税率引き上げ後も基調は変わらず物価上昇に直面している。
13年といえば、アベノミクスが本格始動した年だ。日銀総裁に黒田東彦氏が就任し、年率2%の物価上昇目標が掲げられた。異次元の量的金融緩和を実施して円安が急伸、物価が徐々に上がり始めた年でもある。
さきほどの図表では、円安や消費税率引き上げの影響から14年は全世帯で大幅に物価が上昇したあと、円高や原油安で物価が低位に抑えられた15年〜16年を経て、17年にふたたび上昇に転じていることがわかる。その期間に注目すると、39歳以下は15年〜17年の期間、物価指数は横ばい(15年=103.7→17年=103.8)であるのに対して、60歳以上では上昇基調(15年=105→17年=105.8)を続けていることがわかる。この間、高齢者は苦しい生活を強いられているわけだ。
高齢者ほど「物価上昇率の高いもの」を買っている
それにしてもなぜ、こんなことが起こっているのかというと、高齢者ほど「物価上昇率の高いもの」を消費していることが背景にある。
ここで、以下の図表2をご覧いただきたい。
これは、「食料」、「住居」、「光熱・水道」などの10大費目のうち、「60歳以上」と「39歳以下」とでは、どこに生活支出が多いのかを算出したうえ、各費目の物価上昇率を算出。それをもとに、若者と高齢者のあいだの物価上昇率の差が開いた要因を分析しているものである。
物価上昇の差が生じる要因は2つあり、一つは生活支出のうち、どの費目により多くの支出をしているかという「ウエイト要因」。もう一つは費目の中でどのような品目を選択しているかという「品目選択要因」。たとえば「食品」の品目のうち生鮮食品と外食ではインフレ率が異なるので、それが差を生じさせる一因となるといった具合である。
以上を踏まえて「ウエイト要因」から見ると、高齢者ほど物価上昇率の高い「食料」への支出が多く、物価上昇率の低い「交通・通信」への支出が少ないため、物価上昇のダメージが大きくなっている。10大費目全体で見ればこの「ウエイト要因」だけで、高齢者と若者の格差は0.6%も開いている計算になる。
生鮮食品を買う老人、外食で済ます若者の大きな差
次に「品目選択要因」を見ていこう。さきほどと同じく「食料」「交通・通信」に加えて、「住居」が格差を生む要因になっていることがわかる。
「食料」について各品目を検証すると、「生鮮食品」に占める支出の割合は60歳以上は約21%、39歳以下で約11%。毎日のようにスーパーに行く人なら野菜や魚が、この数年で特に値上がりしていることをご存じだろう。実際、生鮮品の物価上昇率は18.3%とかなり高く、その生鮮食品を多く購入している高齢者は物価上昇をモロに受けているかたちだ。
一方、外食は「食料」の中でも物価上昇率が5.8%と低い。60歳以上では外食への支出は約12%に過ぎず、39歳以下の約26%の半分以下。これがさらに格差を広げる要因となっている。
「持ち家」ほど苦しいという実態
「住居」では、持ち家が多い高齢者ほど苦しいという結果になっている。
なぜなら、持ち家は住宅リフォームを含む修繕・維持への支出が必要で、そのリフォームなどの物価上昇率は6.1%に達しているから。一方、若者は賃貸住宅で暮らすことが多いが、その家賃の物価上昇率はマイナスになっている。
「交通・通信」でも同じような傾向が見て取れる。たとえば電話通信料のうち、固定電話は物価が5%上昇したのに対して、携帯電話など移動電話通信料はマイナス6.9%と大幅に下落した。高齢者は自宅の電話を使う人が多く、移動電話通信料への支出は60歳以上で約16%に過ぎないのに対して、39歳以下は約28%に上る。スマホユーザーの若者は、通信費の価格下落の恩恵を享受しているわけだ。
物価上昇で消費を削らざるを得ない老人たち
このように高齢者がIT化への対応が遅れていることは、現代において物価格差を生む大きな要因として見逃せなくなってきている。
たとえば、年齢階級別にネットショッピング利用世帯の割合(以下グラフ)をみてみると、全世帯でネットショッピング利用世帯は年々増えてはいるが、60代以上はその割合はかなり小さい。
これまでみてきた年齢別の物価上昇率の差は品目ごとの支出の割合から算出されており、どの世帯も同じ品目を同じ価格で消費していることになっている。ただ、ネットショッピングの利用率を見てもわかるように、若年層と高齢者では消費行動が異なる。たとえば、同じテレビを買うのであっても、若年層は店頭価格だけでなく、ネット店舗の価格とも比較を行うことで、より低価格で購入することができるだろう。一方、ネットショッピングを利用できないとなると、インフレのダメージをより受けやすくなる。実態としては、これまでみてきた以上に、物価上昇率の格差が広がっている可能性も高い。
こうして物価上昇に直撃された高齢者たちが、生活に深刻なダメージを受け、すでに消費を減らしているという現実。
次の表は、13年〜17年の「世帯年齢別の実質消費支出の増減率」を示したもの。
どの世代も消費支出はマイナスで、水色の名目消費支出で見ると39歳以下が最も減少幅が大きいが、消費者物価指数の要因を加えてみると、60歳以上の減少幅が最も大きくなることがわかる。
公的年金を受給する高齢者世帯の半数以上は、所得が年金のみである。現役世代は物価が上昇しても、賃金が上がっていれば購買力を維持できるが、所得が年金しかない高齢者の場合、マクロ経済スライドが発動されたことにより、物価が上がっても所得が十分に増えない厳しい状態に置かれる。
年金が増えないのに、ひたすら物価上昇の直撃を受けて、消費を削らざるを得ない。これが日本の年金暮らしの高齢者の残酷な現実なのである。
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