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Beyond 2020 by 日経ESG
気候変動が「第2のリーマンショック」要因に
気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)日本代表に聞く
2018年9月21日(金)
馬場 未希
「リーマンショックのように、世界経済を混乱に陥れる要因になる」──。20カ国・地域(G20)財務大臣・中央銀行総裁会合は「気候変動」をそう位置付けている。リーマンショックから10年、気候変動が重大な経済リスクとして浮上してきた。
同会合は2015年、世界の金融市場の秩序を守る「金融安定理事会(FSB)」に対し、金融市場は気候変動問題にどう対処すべきか、調査を託した。FSBが実働部隊として設けたのが、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」である。
TCFDは昨年6月、企業と金融機関、投資家に向けて気候変動に関わる情報開示のルール(提言)をまとめた。このルールが企業に求めるのは、「2040年にCO2を大幅に減らす社会が到来したとき、生き残れるか」を、経営者が語ることだ。将来の社会像を描いた「シナリオ」を基に事業の行方を分析し、事業を継続するための戦略を立て、投資家に開示する。
世界が低炭素社会に移行し、化石燃料の利用が制限された時、現在の事業は成り立つのか。洪水やハリケーン、気温上昇によって原料となる農作物の収穫量が減った時、事業継続のためにどのような手を打つか。そんな難問を、世界の大手企業は今、投資家から突き付けられている。
TCFDの提言に基づいて気候変動に関わる情報を開示しようと、企業の試行錯誤が始まった。機関投資家など金融機関は、その開示情報を基に、気候変動リスクを投資判断に織り込もうと動き始めている。
日本企業を代表してTCFDに参加する三菱商事の藤村武宏氏に、TCFDをめぐる世界の動向を聞いた。
藤村さんは、三菱商事のサステナビリティ推進部長を務めながら、日本企業を代表して「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」に参加している。TCFDや、これを所管する「金融安定理事会(FSB)」の狙いは。
藤村 武宏氏
三菱商事
サステナビリティ推進部長
気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)メンバー
1991年に三菱商事入社。企業法務や、経営戦略企画などの担当を経て、2016年4月に環境・CSR推進部長、同年10月に新設されたサステナビリティ推進部長。2018年1月、TCFDメンバーに就任(写真:中島 正之)
藤村:2015年のパリ協定の合意前後から気候変動に関する議論が国際的に高まり、世界で低炭素、脱炭素社会に向けた動きが本格化し始めた。
外部環境として脱炭素化の動きが加速することにより、あらゆる産業にとって新たなリスクや機会が生じると想定されている。例えば外部環境の変化により資産価値が大きく毀損することを示す「座礁資産」という言葉もあり、世界において「2℃目標」(地球の気温上昇を産業革命前と比べて2℃未満に抑える目標)の達成のために省エネや燃料転換が進められると、化石燃料関連事業の収益性ならびに資産価値の劣化リスクが拡大するとの議論が聞かれ始めている。
これらの新たな機会やリスクは2030年や2050年といった長期の時間軸で顕在化すると想定されるなかで、FSBは、金融業界がこうした将来への対応に備えず、突如、特にリスクが顕在化し、「第2のリーマンショック」として金融危機に陥ることを危惧している。
そこでFSBは、世界の投資家や金融機関、事業会社などの代表が参加するTCFDを傘下に設置した。金融安定化のために、企業に対して脱炭素化の動きをリスクや機会として踏まえた戦略を立て、統一的な情報開示のルールに即して開示すること(金融市場として当該情報を織り込むこと)を促すのが目的だ。そしてTCFDは昨年6月、開示ガイドラインである「最終提言(Recommendations)」を発表した。
財務に関わる「非財務情報」を
日本における取り組みをどう見る。
藤村:TCFDは昨年6月以来、最終提言を浸透(周知)させる期間として、投資家や企業に提言内容を適切に伝え、それを踏まえた情報開示や提言への支持を促す活動を進めてきた。この9月には投資家や企業による先進的な開示事例や政府などの主な動きを報告書にまとめる予定だ。
日本では、FSBに対応する官庁である金融庁をはじめ、金融機関・企業との研究会を始めた経済産業省、支援事業を始めた環境省などが、TCFDを温暖化対策における日本の強みを世界に伝える機会と捉えて官民一体で対応していくとの気運が高まっている。6月には安倍晋三首相が議長となった「未来投資会議」の席で、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の最高投資責任者(CIO)である水野弘道氏からもTCFD提言について言及された。
TCFDは規制を伴わない民間の任意の取り組みではあるが、政府や政府系投資機関から重要性が唱えられることで、対応に意欲を見せる企業が増えている。これは日本に特徴的な動きだ。TCFDのウェブサイトには支持を表明した組織を随時紹介している。日本からは現在、金融機関と事業会社の23社が掲載されている(8月28日時点)。日本の積極的な対応を国際的に発信したい。
取り組みが難しいとの声もある。
藤村:今後も情報提供に努めたい。提言を巡る誤解もあり、正しく伝えていく必要があると感じている。
誤解の1つ目は、「TCFDの提言はもっぱら財務情報の開示を求めている」というものだ。提言が求めるのは気候変動に関する企業のガバナンスの状況、戦略策定における気候変動の勘案状況、リスク管理の状況、そして目標や管理のための指標であり、財務情報そのものではない。財務に対してインパクトのある非財務情報が中心となっている。
2つ目は、「シナリオ分析の結果として、収益予想などを精緻に、定量的に予測しなければならない」という誤解だ。最終的には、定量的な予測も必要になっていくと思う。だが、まず重要なことは、将来シナリオの下で事業が十分に持続可能であるかや、ビジネスチャンスを獲得できるかどうか、経営者を中心に社内で議論し、確認していくことだ。
シナリオ分析の難しさが取り沙汰されるが、投資家は、企業が気候変動を踏まえて自社の事業の持続可能性を確保する意思があるかどうかの姿勢を第一に見ている。
3つ目の誤解は「すぐに完璧な開示を行わなければならない」というものだ。TCFDも、企業が直ちに完璧な開示ができるとは考えていない。企業にとって気候変動への対応は、長期にわたる時間軸の中で進めることだ。情報開示も、3年程度の時間をかけて段階的に進めることを推奨している。
1年目は、ガバナンスやリスクについて、既存の取り組みなどを開示することでも十分な対応といえる。
例えば「気候変動対策を取締役会に報告している」「温室効果ガス排出量を管理している」などの情報を、ガバナンスの取り組みとして開示できる。また、既に気候リスクや機会を抽出している企業もあるだろう。2年目以降は、自社の取り組みと提言内容とのギャップを特定して、段階的に取り組めばいい。
投資家は、企業の「気候戦略」を見ている
投資家は果たして、企業の開示情報を参照するだろうか。
藤村:TCFDはモメンタム(勢い)を拡大するため、世界で500社を目標に支持を表明する企業を募っている。一方、個々の企業として支持を表明するかどうかは別として、提言に基づくシナリオ分析や将来戦略の策定を実施し、開示しなければならない時代が来るだろう。
投資家は今、企業の開示情報の評価と投資判断への組み込みを試行的に発展させている段階にあるため一概には言えないが、企業との対話で提言に基づく開示情報が題材として活用されるようになるだろう。さらには、今後の事例を注視する必要があるが、投資家や金融機関による個別の投資や融資の判断にも、提言が影響を及ぼすようになると見込まれる。仮に投融資の判断に組み込まれれば、多くの企業にとってTCFDへの対応が死活問題となるだろう。
企業がTCFDを活用し、将来の気候変動の影響や、脱炭素社会への移行を見据えて体制を整備し、戦略を策定することは、投資家や金融機関にとっての関心事である。そして企業自身にも、中長期にわたる強靭な経営を実現する上で不可欠といえる。
提言に基づく情報開示を検討する際は、サステナビリティ担当部署に限らず経営者を含む全社で、気候リスクによる事業への影響や、それに基づく将来戦略の立案の必要性を理解し、議論する必要が自ずと生じるだろう。サステナビリティ担当者は他部門や経営者を巻き込んで体制を整備するために、提言やシナリオ分析に対する世界の関心の高まりを「良い機会」として利用してほしい。
本記事は、「日経ESG」2018年10月号(9月8日発行)に掲載した内容を再編集したものです。
このコラムについて
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