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「新興国不安」でも世界経済失速のリスクは小さい理由
https://diamond.jp/articles/-/179849
2018.9.15 三井住友アセットマネジメント 調査部 ダイヤモンド・オンライン
トルコ国内で起きた米国人牧師拘束問題をきっかけに大きく下落したトルコリラ。今後も下落は続くのでしょうか?(写真はイメージです) Photo:PIXTA
皆さん、こんにちは。三井住友アセットマネジメント調査部です。毎週土曜日に「ビジネスマン注目!来週の経済、ここがポイント」をお届けしています。
さて、このところ、為替市場ではドル円相場がもみあいを続けるなかで、新興国通貨は下落傾向にあります。きっかけは、トルコで起きた米国人牧師拘束問題を巡りトルコと米国の対立が激化し、トルコリラが8月10日に、一時、前日比約2割も暴落したことです。この「トルコショック」を契機に、多くの新興国通貨が対米ドルで一段と下落しました。足元では、比較的景気の堅調なアジアの通貨にも通貨安が波及し、資金流出懸念から多くの新興国の株式市場が調整しています。
こうした新興国の動揺がさらに広がれば、先進国の市場や経済にも伝播し、世界経済全体を失速させかねないとの見方が出てきました。そこで今回は、新興国通貨の今後の動きと、世界経済に与える影響について考えてみます。
「トルコショック」を契機に新興国通貨安が加速
米国の利上げ継続を受けて新興国からの資金流出懸念が強まるなか、新興国通貨は年初から対米ドルで下落傾向にあります。特に、「トルコショック」の発生した8月以降は全体として下げ足を速めました。足元では、アジア通貨にも通貨安が波及しています。
主な新興国通貨の年初からの下落率をみると、国によって大きな差がみられます。例えば、9月12日時点で最も下落している通貨を順に並べると以下の通りです。アルゼンチンペソ▲51%、トルコリラ▲41%、ブラジルレアル▲20%、南アフリカランド▲18%、ロシアルーブル▲17%、インドルピー▲13%、インドネシアルピア▲9%。
これら下落率の高い通貨の共通点は、新興国のなかでも、経常収支の赤字や対外債務が大きく、外貨準備高が少ないなど、経済のファンダメンタルズが脆弱だということです。上記で示した通貨が大きく下落している国は、ロシアを除き、すべて経常収支が赤字です。加えて、トルコやロシア、ブラジルのように、対外関係の悪化や選挙の不透明感などの政治要因が通貨安につながっている国もあります。さらに、インドネシアなど、米中の貿易摩擦の拡大懸念が高まるなかで、中国経済との結びつきが深い国も影響を受けています。
下落率が飛び抜けて大きいのは、5割下落のアルゼンチンと4割下落のトルコです。両国とも、経常収支赤字がGDP比で▲5%を超えるなど、新興国の中でも赤字の比率が高い上に、それぞれ固有の問題が加わったことで、投機筋に狙われ、下落幅が大きくなりました。両国の通貨は、選別されて売り込まれたといえるでしょう。
ドル高は米投資家の資金回帰が背景
一方、新興国通貨安の裏側にあるのが米ドル高です。資本フローの観点からみると、米国投資家の資金が米国に回帰する傾向が強まったことが、米ドルや米国株式上昇の一因となった可能性が高いと考えられます。米財務省の国際資本移動統計によると、米国投資家は2018年1-3月に340億ドル、さらに4-6月には1060億ドルの外国証券を売却し、米国に資金を戻した形です。特に4-6月については債券(ネット売却額800億ドル)に加え、株式(同260億ドル)についても資金を一部引き揚げました。
こうした米国への資金回帰の背景には、2018年前半から年央にかけて、財政刺激策によって米国景気が他地域と比較して堅調に推移したこと、そのもとで米連邦準備制度理事会(FRB)が段階的に利上げを継続してきたことがあります。加えて、トランプ政権の保護主義的な通商政策は「米国第一」という性格上、米国以外の国・地域の経済にマイナスに働くため、米国投資家はリスクを避けて資金を米国に回帰させたとみられます。
では、こうした新興国通貨安は今後も続くのでしょうか?また、これが引き金となって世界経済が腰折れするリスクはないのでしょうか?
米国一人勝ちによるドル高が変化する可能性
まず、米ドル高の背景にある米国景気と米利上げペースの見通しを中心に、今後を展望します。
米国の財政支出の効果はあと1年程度続くため、米国景気の好調はしばらく続く見通しです。しかし、先行きを展望すると、「米国一人勝ち」に伴う米ドル高は近い将来変化し始める可能性があると思われます。遠からず金融市場は、米国経済が来年後半以降どの程度減速するかを注目し始めるとみています。
一方、財政政策を転換した中国や労働市場の堅調が目立つユーロ圏の景気は、先行き持ち直してくることが予想されます。また、パウエルFRB議長が指摘したように、米国のインフレ率は安定しており、急加速するリスクは低いとみています。このためFRBの利上げもあと3〜4回で一巡する可能性が浮上しています。
米国とその他の地域の景気の勢いの差が縮まり始めることや、米利上げに打ち止め感が出てくることで、米国への資金回帰の流れが変わる可能性があります。米国への資金還流が収まれば、米ドル高圧力が後退し、新興国通貨の下落基調が徐々に弱まるでしょう。
中国政府の政策対応と元安歯止め策で、景気下振れは回避へ
次に、注目されるのは貿易摩擦の激化の影響を受ける中国の景気動向です。投資家は、中国経済が不安定化することへの懸念を強めており、新興国の通貨や株式市場にも影響が広がっています。アジアなど中国との結びつきが強い新興国は、中国景気の減速で自国の輸出が減少し、景気減速につながるためです。また、中国の需要が想定以上に弱まれば、商品相場が軒並み下落し、資源国通貨も大きな打撃を受けます。
中国共産党は7月31日の中央政治局会議で、「積極的な財政政策」と「穏健な金融政策」により、景気を下支えする方針を決定しました。米国との貿易摩擦の拡大に備え、景気配慮型の政策運営を行うことで、構造改革よりも景気安定を優先する姿勢を明らかにしました。今後積極的な財政政策により急減速しているインフラ投資は持ち直し、事実上の金融緩和により不動産投資は堅調さを維持すると考えられます。
米中貿易摩擦拡大で輸出環境の悪化が見込まれるものの、景気配慮型の政策対応により、中国景気が大きく下振れるリスクは小さいとみています。中国景気が底堅く推移すれば、新興国通貨の大きな支援材料となります。
また、中国人民銀行は8月24日、人民元の基準レート算出にあたり、「反循環的要素」を再導入したと発表しました。過去の実績では、この仕組みの導入後は人民元高となっており、人民元安に歯止めをかける意思表示をしたと考えられます。人民元安の進行は、中国からの資本流出を加速させ、中国経済に悪影響を及ぼすためです。
中国当局は、人民元が再び下落する局面においては、対米ドル基準レートの下落ペースを緩やかに設定するなどの措置を通じて、人民元安の動きを牽制し、必要であれば、人民元買い介入も行うと見込んでいます。その防衛ラインは1ドル=7元を意識しているとみています。人民元の安定はアジアなどの新興国通貨の安定に寄与すると考えられます。
新興国通貨は選別が続くものの、先行きは反発も
今回の新興国通貨安では、先にみたように、経済ファンダメンタルズが脆弱で、政治要因などの悪材料を抱えている国の通貨が選別的に売られています。実際、経常収支が黒字のアジア新興国の通貨などの下落率は小幅に留まっており、経常収支が通貨下落のキーになっているように見受けられます。従って、今後も経常赤字国を中心に新興国通貨は選別色を強める動きが想定されます。
ただし、前述の通り、米国一人勝ちの米ドル高はいつまでも続くわけではありません。さらに、11月初めの米中間選挙が近づいてきました。トランプ政権の強硬な通商・外交政策の第一の目的は選挙に向けて支持率を引き上げることであり、中間選挙前後が一つの区切りになる可能性があります。今後1〜2ヵ月間、金融市場は引き続き米中の貿易摩擦拡大を警戒し、米ドル資産優位の構図が残る可能性があります。しかしその後は、徐々に米国一極集中型の資金フローが変化し始めると思われます。
中国政府が積極的な財政政策や人民元安の歯止め策を打ち出していることを踏まえると、先行きは世界経済が回復傾向を維持すると共に、米ドルが緩やかにピークアウトしつつ、新興国通貨が再評価される展開も想定されます。
新興国のファンダメンタルズは改善、通貨危機の可能性は低い
世界の名目GDPの約40%を占める米中が財政面から景気対策を実施していることや、多くの新興国で経済成長が維持されていること等を踏まえると、世界経済は貿易摩擦拡大リスクを抱えながらも、回復を続ける公算が大きいと思われます。今回の新興国通貨安は、1997年のアジア通貨危機のように世界経済に大打撃を与える金融危機にはならないと考えます。
1997年のアジア通貨危機当時は、アジアの新興国の多くが経常赤字国でした。また、その赤字と比べて直接投資の金額が十分でない国があり、その脆弱性を投機筋に突かれ、アジア通貨危機が発生しました。しかし、その後、アジアの多くの新興国は、活発な輸出を通じて経常収支が黒字に転じました。
今日では、短期対外債務残高の減少や外貨準備高の厚さにより、通貨が安定する土台ができているとみられます。加えて、アジア通貨危機の教訓を踏まえ、安全網としての通貨協定などの金融協力体制を強化してきました。さらに、その後のリーマン・ショックを経て、日米欧では金融規制が強化され、安全網が整備されてきたことで、先進国の金融システムも以前に比べ強固になっています。
このため、一部の新興国が大幅な通貨安に見舞われても、それが新興国通貨全体に伝播し、世界経済の失速につながるリスクは小さいとみられます。
(三井住友アセットマネジメント 調査部 石井康之)
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