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携帯料金の4割引き下げは日本経済にメリットがなさそうな理由
https://diamond.jp/articles/-/178137
2018.8.24 鈴木貴博:百年コンサルティング代表 ダイヤモンド・オンライン
菅官房長官は「携帯電話料金は4割下げられる余地がある」と発言した。そもそも日本の携帯利用料は本当に高いのか(写真はイメージです) Photo:PIXTA
携帯電話料金はまだ高い?
「4割引き下げ」は妥当か
8月21日、安倍内閣の菅官房長官は講演の場で、「携帯電話料金は4割下げられる余地がある」と発言した。それはただの個人的な感想ではなく、どうやら政府は本気の様子である。
間髪入れず、総務省は23日に携帯電話料金の引き下げ検討を総務省の諮問機関である情報通信審議会に諮ることにした。2019年末までにまとめられる報告書では「儲けすぎ」の携帯電話会社(携帯キャリア、以下同)にさらなる料金引き下げを要望することになりそうだ。
しかし、今回の動きについて、私は個人的に気になったことがある。日本の携帯電話料金は官房長官が言うほど、海外と比べて高いと言えるだろうか。早速確認してみることにした。
ニュースを確認すると菅官房長官の「今よりも4割程度下げる余地がある」という発言は、「イギリスと比べて日本の携帯料金が倍以上も高い。それも格安電話会社ではなく携帯3キャリアが高い」という認識に基づいているようだ。
イギリスの携帯電話会社として若者に人気のあるO2の場合、スマホの1GBプランは月額13ポンド(日本円で約1850円)、スマホを比較的使うユーザー向けの8GBプランは17ポンド(約2410円)、ヘビーユーザー向けの15GBプランは20ポンド(約2840円)である。
これは、日本の格安スマホ会社の料金と比較的近い。例えばLINEモバイルの場合、音声通話SIMの3GBのプランが月額1690円、5GBのプランが2200円、10GBが3220円なので、イギリスの大手携帯電話会社の利用料は、日本の格安スマホ並みに安いと言える。
一方大手を見ると、NTTドコモの場合、スマホの基本プランをカケホーダイライトにしてパケットパックを1GBで選んだ場合、月額の合計料金は4900円。同じプランで5GBなら7000円、20GBなら9000円となる。こういった比較からイギリスの携帯会社と比べ、日本の携帯料金は高いという指摘になったのだろう。
携帯電話料金は本当に高いか?
現実を検証すべき「3つの視点」
ここまで読んで、読者の皆さんは「やはり日本は高いんだ」と思うかもしれない。しかし、考慮すべき重要な点が3つある。それぞれ検証していこう。
まず第一に、もし日本の大手携帯会社の料金が、イギリスの携帯電話会社並みに引き下げられることになったら、何が起きるだろうか。そうなると、格安携帯電話会社の経営が軒並み苦しくなるはずだ。LINEモバイルだけでなく、楽天モバイル、BIGLOBEモバイル、DMMモバイルなどの格安SIMを販売しているほとんどの会社は、現在、大手携帯電話会社のネットワークを間借りした上で、彼らよりも安く販売することで成り立っている。
一方で、安い分だけ制約もある。お昼の時間帯などピーク時には格安スマホ会社の回線は目に見えて遅くなる。そういったデメリットもあるから、ユーザーは格安SIMを選ぶか、大手携帯電話会社を選ぶかを比較して考えるわけだ。
もしドコモの料金が、今よりも4割安くなって5GBで4200円くらいになったとしたら、格安スマホ会社の5GBで2200円のプランがどれほど競争力を持てるのか怪しい、ということになる。
「いや、それでも2000円違えば格安スマホがいい」というあなたに、2つめの問題を提起しよう。
適正な料金水準を見誤らせる
「独自プラン」のまやかし
前述したドコモの5GBで7000円という価格は、多くの利用者にとって2年縛りでの端末の価格がコミコミになっている。たとえば新規契約でiPhone 8 Plusの64GBを購入する場合、端末価格は10万440円のところを、月々サポートの2376円分が2年間分割引きになって、実質5万7024円も端末価格を安くしてもらっている。他社からの乗り換えなら、端末はさらに安くなる。
だから、大手携帯電話会社を利用する人の多くは、契約時に新規端末を購入し、2年縛りが終わるとまた別の端末を購入している。そして格安SIMの会社と契約する人は、新しい端末を買わずに、もともと持っている端末にSIMを差し替える。この前提が違っている。
先ほどの計算で、仮にドコモの5GBプランが4割安の4200円になってしまい、そこから携帯電話メーカーから出る端末の販売促進費の2376円分を引いたら、ドコモの料金は実質1824円に下がってしまう。そうなったら格安SIM会社は皆、価格競争力を失って、廃業せざるを得なくなってしまうのだ。
つまり、日本の格安SIMやイギリスの携帯料金と比較をするのであれば、ドコモの5GBプランは7000円ではなく、月々サポートの2376円を差し引いた4624円だと捉えるところから議論を始めるべきだ。だとすれば「イギリスの携帯料金は日本の5割以下」という認識はスタート地点がちょっと違っている。
3番目に「とは言っても、2年ごとに新しい端末に買い替えさせることや、最近出てきたような高い端末は4年縛りにして大幅に値引きするというのは、結局のところ資源の無駄遣いを促進するのではないか」という問題提起は、環境問題の観点からはあるかもしれない。
私も3年目に入ったスマホに格安SIMを入れて使っているクチで、買い替えはエコではないと思っている。多くのユーザーが2年ごとに新端末に乗り換える現在の習慣は、環境問題の観点からはなくすべきだろう。
そんな風に言っておいて、こんな話を持ち出すのはマッチポンプみたいで申し訳ないのだが、「スマホが1台売れると誰がどれだけ儲かるか」をご存じだろうか。アメリカの経済学者、ロバート・ライシュ氏は、iPhone1台が売れたときの代金が最終的にどこの国にどれだけ流れるかを計算している。
iPhoneが1台売れた場合、アップルの本社があるアメリカの取り分は全体の6%、製造拠点である中国の取り分は4%、どちらも実は大したことがない。iPhone端末の販売で一番儲かる国は、実は日本である。
iPhoneの部品は日本の部品メーカーの部品でなければ成立しないし、iPhoneのケースを削ることができるのは、日本の工作機械や工業用ロボットだけである。日本経済はiPhoneが売れるたびに、その代金の34%を懐に入れているのである。
携帯電話の契約の際、大手携帯3社は端末代金の値引きによって、見た目上は携帯利用料が非常に安くなる料金プランをつくっている。そのことで一番潤っているのは、実は日本の製造業なのだ。携帯端末の使い捨てや無駄遣いをやめてしまうと、日本経済は少なからず失速してしまう。
消費者にとってはよくても
日本経済にとってはよくない
ということで、携帯大手の料金引き下げ政策は、総務省や消費者にとってはよくても、格安SIM会社がなくなって雇用が減ったり、日本の製造業の売上が少なくなったりと、日本経済全体には悪影響を及ぼす政策になりかねない。
では、どうしたらいいのだろう。そもそも格安SIM会社を育てる総務省の政策のお陰で、現在の日本の携帯電話料金は、実はイギリス並みに安くなっている。だから、これ以上の値下げ圧力は、政府としてはやめたほうがいいのではないか。
私にとって、今回の話はそれくらい唐突な発言に見えるのだが、どうだろうか。
(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)
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