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日銀の政策修正で強まる「正常化論」の落とし穴
https://diamond.jp/articles/-/177939
2018.8.22 井上哲也:野村総合研究所金融ITイノベーション研究部長 ダイヤモンド・オンライン
日本銀行は7月下旬の金融政策決定会合(MPM)で、「量的質的金融緩和」(異次元緩和)策のサステナビリティー(持続力)を強化するための追加措置を導入した。
声明文の冒頭で、来年10月に予定される消費税率の引き上げの影響に対する配慮も含めて、金融緩和の継続を約束する「フォワードガイダンス」が新たに導入されたこともあり、国内外の金融市場は総じて金融緩和の長期化と受け止め、長期金利は低下、為替市場も円安が進んだ。
だがここに来て、状況が少し変わってきた。
海外を中心に「正常化」論
世界経済の堅調が追い風
海外市場を中心に、日銀の政策修正が実は金融政策の「正常化」の第一歩だったのではないかとの見方が示されるようになった。
背景の1つは、世界経済の先行きに対する慎重論が若干、後退したことだろう。
米国経済は景気過熱感がうかがわれるほど堅調で、中国も7月以降の景気刺激策の効果が徐々に顕在化することが期待されている。米中にとってリスク要因である貿易戦争も、双方の言葉の応酬はともかく、追加的な措置の発動にはお互い慎重さが目立つ。
第1四半期に大きく減速した欧州経済にも安定化の兆しが見られる。市場から見ても、日銀が異次元緩和を「正常化」するのに良い環境であるということだろう。
「フォワードガイダンス」についても、時間が経過して、理解が深まった面もあると思われる。
つまり、「フォワードガイダンス」は金融緩和を「当面の間」、続けることを約束するものだが、それには当然に条件が付されており、欧州中央銀行の先例が示すように、条件が満たされれば金融政策は変更される。
そう考えると、「フォワードガイダンス」が新たに導入されたことは、実は異次元緩和策の「終わりの始まり」を意味すると理解することもできる。
こうした見方が出てきたのは、「量的質的金融緩和」の継続が次第に難しくなっているとの認識が広がっているという面もあると思われる。
今回、日銀が「強力な金融緩和継続のための枠組み強化」と銘打って導入したいくつかの措置の内容を見ても、長期金利(10年物国債利回り)の変動幅拡大といっても、上下に10bpの拡大に止まった。
異次元緩和による副作用を是正するとして、ETFの買い入れについてTOPIXに連動する買い入れ額を増やす措置でも、日銀が企業の主要株主になることで、コーポレートガバナンスが機能しにくくなるという懸念は払拭されないままだし、マイナス金利の見直しも見送られた。
こうしたことを踏まえて、市場が異次元緩和策の持続力強化には限界があると受け止めたとしても不思議ではない。
物価目標未達での撤退は
さまざまなリスク
だが一方で、海外市場を中心に目立ち始めた「金融正常化論」にもいくつかの問題がある。
言うまでもなく、日本では実際のインフレ率が、「2%物価目標」からほど遠い状況だ。消費者物価指数(CPI)の総合インフレ率こそ、原油や生鮮食料品の価格上昇を映じて相応のプラス水準を示す局面も見られる。
だが、日銀自身が物価動向を判断する基本にしている基調的インフレ率の指標(原油や生鮮食品を除いたCPI)は依然としてゼロ近傍で推移している。
デフレ回帰への懸念こそ払拭されたが、インフレ期待が高まるモメンタムはうかがわれない。
従って、こうした状況で金融政策を見直すとすれば、米欧の中央銀行がインフレ目標を達成する見通しを踏まえて金融緩和の縮小に踏み出したような、本来の意味での金融政策の正常化とは全く異なる意味合いを持つことになる。
海外の「正常化」論には、国内の有識者の議論をそのまま引用するなど、国内での「正常化」論による影響も少なくないように感じられる。
だが国内での「正常化」論は、「量的質的金融緩和」の導入当時から一貫して主張されているもので、副作用以前の問題として、政策効果自体に疑問を示してきた。その主張は今回の日銀の追加措置を機に大きく変化したようにはみえない。
結局、適否はともかく、海外市場がこうした文脈で日銀の金融政策の「正常化」を意識してしまうと、インフレ目標を達成しない状況で、「量的質的金融緩和」から撤退すべきという結論になってしまう。
しかしそうなった場合には、現実問題としていくつものリスクや課題が出てくる。
金融市場が不安定化
今後の金融政策に制約
まず懸念されるのは金融市場の反応である。
米欧に続いて日本でも「正常化」で動き出したということで、国債市場や為替市場は、さまざまな思惑から不安定さが増すだろう。
投資家にとって収益を得るチャンスでもあるからだ。やや誇張して言えば、どのような形であれ資産価格のボラティリティーが上昇することを望むプレーヤーは存在する。「量的質的金融緩和」からの撤退は、そうしたプレーヤーに格好の契機を与えるリスクがある。
そして、それは足元で実現している景気の安定にとって脅威となり得る。
海外市場を含めて金融正常化を見込む向きが増えたといっても、そのことが日本の経済や日銀にとって望ましいとは限らないのだ。
中長期的な課題もある。金融政策の「正常化」を求める有識者の主張に依拠するまでもなく、確かに「量的質的金融緩和」はインフレ目標の達成に対しては十分な効果は出せなかった。しかしこの間に、景気は安定度を増していることも否定できない。
これには海外景気が良かったことや財政拡張政策の効果も小さくないが、異次元緩和を続けたことで政策金利を実質マイナスに維持できていることが、GDPギャップがプラスで推移する状況を下支えしていることも事実だ。
それにもかかわらず「量的質的金融緩和」から撤退することは、経済に対するこうしたプラス面もあったにもかかわらず、結局は、異次元緩和策に対してネガティブなイメージを付与する恐れがあるのではないか。
その場合、次の景気後退を含む将来の局面で、「量的質的金融緩和」と同様の非伝統的な金融政策の手段を講ずることに対して、必要以上の批判や抵抗に直面することにもなりかねない。
低成長、低インフレの経済の下では、金利操作で対応できる余地が少なく、活用し得る政策手段に制約が増している日銀にとって、これは無視し得ない問題となる。
次の見直しの焦点は
「インフレ目標」をどうするか
日銀による今回の追加措置は、「量的質的金融緩和」の延命策には限界があることを図らずも明らかにしたとも言える。
この点では国内外の「正常化」論に傾聴すべき点があるが、だからと言って「量的質的金融緩和」から撤退することには、既に述べたようにかなりのリスクがある。
そう考えると、日銀が次に金融政策の見直しを行う際には、それはおそらくは再度の延命策でも「量的質的金融緩和」からの撤退でもなく、「2%物価目標」自体の見直しになると思われる。
景気の安定というメリットを評価するのであれば、インフレ目標と実際の物価の動きの推移を見ながら、インフレ目標の位置付けや金融緩和と目標のバランスを現実的なものにした上で、「量的質的金融緩和」で採用した政策手段を活用しながら、金利の誘導目標などの個々の政策変数を目標に即して調整するといった選択肢も考えられる。
いずれにせよ、次の見直しは「微調整」「ファインチューニング」といったものではなく、より本質的な政策修正にならざるを得ないだろう。海外市場での見方の変化がこうした兆候を嗅ぎ取っているのであれば、それはまた傾聴すべき面があることになる。
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