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「元を取りたい」と思う気持ちは、かえって損を拡大しかねない
https://diamond.jp/articles/-/175457
2018.7.24 大江英樹:経済コラムニスト ダイヤモンド・オンライン
既に払って取り戻せない
費用を指す「サンクコスト」
経済学の概念に「サンクコスト」という言葉がある。日本語では「埋没費用」と言って、既に払ってしまったので、取り戻すことができない費用のことを言う。多くの場合、これにこだわることで損失が大きくなってしまうため、しばしば「サンクコストの呪縛」とも言われることもある。今回はこのサンクコストについて考えてみよう。
例えば、映画を見に行ったとしよう。面白いと聞いて出掛けてみたが実際に始まって30分ぐらいたっても全然面白くない、この映画は明らかにハズレだ。そんな風に感じたとき、一体どういう行動を取るだろうか。
席を立って映画館を出ていくか、それともチケット代として1800円も払ったのだから、もったいないので最後まで見るか。こういう場面に遭遇すると、多くの人は最後まで映画を見ることを選ぶ。
ここで重要になってくるのが“元を取りたい”という感情だ。ところが、残念なことに、いくら映画を見続けたとしても元を取ることはできない。なぜなら、既に払ってしまっている1800円のチケット代は、映画館を出ようが最後まで見ようが戻ってくることはない。おまけに、映画自体もつまらないので、払ったお金の価値には到底見合わないからだ。
サンクコストの代表例は
航空機のコンコルド
では、映画館を出た場合と、最後まで映画を見た場合との損得を考えてみよう。
(1)最後まで映画を見る→1800円と2時間が無駄になる
(2)映画館を出る→1800円と、既に見た30分の時間が無駄になる
つまり、どちらにしても「1800円の損」という部分は同じなのだ。であるならば、映画館を出ることによって残りの1時間半を仕事して稼いだり、他にもっと楽しいことをしたりする方が、少なくとも損失を減らすことはできる。
ところが、こう考える人もいるだろう。「そりゃ確かにつまらない映画を最後まで見るのは時間の無駄かもしれないけど、少なくとも最後まで見た方が、元は取れると考えるべきじゃないの?」と。
確かに、一見そのように思える。しかしながら、「元を取る」というのは、使ったお金に対してそれと同等か、それ以上の満足が得られることを言うのである。もちろん、途中から映画の内容が劇的に面白く展開していくという可能性もないことはないが、少なくとも1800円の支出は確定しているので、ここからはその損をどうやって少なくするかを考えるべきだろう。
だとすれば、つまらない映画を見続けるよりも、もっと有意義なことをした方がトータルでの損失は少なくなるはずだ。この場合の映画代1800円が、サンクコストということになる。
サンクコストの話になると、有名な話題が1960年代に英仏両国が共同で開発した超音速ジェット旅客機のコンコルドだ。通常の2倍の高度をマッハ2という高速で飛び、圧倒的に短い時間で大西洋間を横断できるという触れ込みだった。
ところがこのコンコルドは、オイルショックによる燃料の高騰や、運賃の高さなどから乗客が見込めず、作ったものの多くの航空会社からキャンセルが相次ぎ、商業的には大失敗だった。
開発していた当初から、こうした懸念があった。にもかかわらず、それまでに巨額の開発費を注ぎ込んでいるため、「今ここでプロジェクトを中止すると、今までの投資が無駄になる」という判断から、さらに巨額の開発費がつぎ込まれ、結果として損失が拡大してしまったのだ。これは、いまだに「サンクコスト」の典型的な例として出てくる。
似たような話は、日本の場合でもダムや道路の建設といった公共工事などにおいて起こりがちだ。プロジェクトを継続するかどうかの正しい判断のやり方は、それまでに注ぎ込んだコストのことは忘れ、ここから追加的に投資する費用と、そこから得られる収益がどれぐらい見込めるのか、さらにはその利益によってこれまでの投資額もカバーできるかどうかを冷静に判断することだ。にもかかわらず、多くの場合は「サンクコスト」にこだわってしまい、判断を誤りがちだ。
これらは、われわれの身近でも頻繁に起きている。例えばSNSのゲームなどで必要なアイテムをそろえるために課金するといったような場合、コンプリートするためにどんどんお金をつぎ込んでしまうことが起こりがちだ。数年前に問題になった「コンプガチャ」の例などは、その典型と言えるだろう。一言でその心理を表すと、「ここまでお金を注ぎ込んだのにいまさら止められるか!」ということになるのだ。
株式投資の「塩漬け」も
通じる部分がある
投資の世界でもこういうことは起こりがちだ。投資した株式の価格が下落することはよくあることだ。多くの場合、当初の予想よりも、企業の業績や財務内容が悪化したことで株価が下落する。企業業績の先行きは正確には予測できないが、少なくともトレンドとして業績が悪化する方向にあり、かつその企業を取り巻く環境が思わしくないのであれば、できる限り早く手じまって損を少なくする方が賢明である場合が多い。
ところが人間は、発生した損失を受け入れることが心理的に難しく、「今は下がっているけど、そのうちに上がるかもしれない」という願望にすがりつきたくなる。結果として、早めに損切りをして他の有望な銘柄に乗り換えた方がうまくいく可能性があったとしても、そのままの状態で我慢するということになりがちだ。これがいわゆる「塩漬け」だ。
「塩漬け」というのは投資機会を失ってしまう行為であるから、決して好ましいことではない。この場合はどちらかというと、サンクコストというよりは行動経済学でいう「現状維持バイアス」とか「参照点依存性」による影響と言った方がいいかもしれない。ただ、「買った値段(今までにつぎ込んだお金)」にこだわることで「今売ると発生する損失を避けたい」という心理という点では、サンクコストに通じる部分もある。
元を取りたいという気持ちが
さらに大きな損を呼び込む
株式投資の例に限らず、日常の消費行動の中でもこのように“元を取りたい”という気持ちが、往々にしてさらに大きな損を呼び込んでしまうということには注意しなければならない。これにこだわり過ぎると、かえって損をしてしまうということになりかねない。
特に使ってしまったお金は、数字ではっきり表されるため分かりやすいのだが、時間や満足度というものはお金に換算するのが難しい。このためわれわれは、往々にして「元を取りたい」という呪縛にとらわれ、それまでに使ったお金にこだわってしまいがちなのだ。
要するに大切なことは、「これからの対応をどうするか」ということだ。したがってそれを判断するに当たっては「過去に使った(投資した)お金」にこだわるのではなく、いったんゼロクリアして、ここからどうすれば最も自分にとって利益になるかを考えることが必要だろう。
誰もが持っている「元を取りたい」という気持ちには、大きな落とし穴が待ち構えていることは知っておいたほうがいい。
(経済コラムニスト 大江英樹)
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