http://www.asyura2.com/18/hasan127/msg/815.html
Tweet |
中国経済、成長率鈍化でも「バブル崩壊」はしそうにない理由
https://diamond.jp/articles/-/175234
2018.7.20 塚崎公義:久留米大学商学部教授 ダイヤモンド・オンライン
中国の4〜6月期の実質経済成長率が、前年同期比6.7%だったと発表された。中国といえば、90年代と2000年代に平均10%程度の高成長を続け、世界第2位の経済大国になったわけだが、2012年以降は成長率が8%を下回っており、しかも緩やかながら年々低下しつつある。
かつて、「ゼロ成長が続く日本から見ると、中国の8%成長はうらやましい」と思われていたときに、「中国では、8%くらい成長しないと失業者が増えてしまうので、8%の成長率を維持するために苦労しているのだ」という中国高官の話が報道されていた。「隣の芝生は青い」ということだろうか。
それはそれとして、最近の中国の成長率は8%を下回り続けているが、大丈夫なのだろうか。それが、大丈夫なのである。以下、その理由を説明していこう。
中長期的な経済成長率は
供給力の伸びで決まる
経済が成長するためには、需要と供給がともに伸びる必要がある。通常は、需要が伸びれば企業は生産を増やすので設備投資が起き、鉄やセメント、設備機械などの需要が伸びる。すると企業は、生産増のため雇用を増やし、雇われた人が消費を増やすのでさらに需要が増える。そして、企業の設備投資で生産性が上がり、労働者1人当たりの生産量が増え、企業は労働者に高い給料を払えるようになる。こんな具合に、需要と供給が互いに増えていくわけだ。
供給の伸びと需要の伸びが、偶然、同じ速度になるとは限らないので、需要の伸びの方が早ければインフレになって、財政金融政策で需要を抑制することになる。一方、需要の伸びの方が遅ければ、財政金融政策で需要を刺激することになり、景気が循環するわけだが、本稿では短期の景気循環の話は置いておくとして、長期的な経済成長の話に集中する。
また、バブル崩壊後の長期低迷期の日本経済は、金利をゼロにしても需要が伸びず、需要不足から供給も伸びないという悪循環に陥っていた。これは、世界経済の歴史の中でも珍しい現象だったため、本稿ではこれについても取り扱わない。
景気循環を考えず、そしてバブル後の日本のことを考えないとすると、供給力が伸びるほど経済が成長するということになる。供給力の伸びに需要が等しくなるように、財政金融政策で需要をコントロールするからだ。
成長率低下の一因は
前年の水準が高いこと
手で畑を耕している農家は、生産性が低い。そこにトラクターが導入されると、農業従事者1人当たりの生産量が飛躍的に増え、生産性は一気に上がる。
しかし、国内で消費される農産物の量は増えないとなると、農業に従事する人数は少なくてよくなる。すると、農業従事者が余るので、彼らは都市に働きに行き、都市で生産活動に従事するため、国全体としての生産量は増える。こうして経済が成長する。
もちろん、都市でも針と糸で洋服を縫っていた工場にミシンが導入されると、生産力は飛躍的に高まるから、国民に多くの服が供給されることになり、国民生活は豊かになる。
しかし、トラクターとミシンが行き渡ってしまうと、経済成長率は鈍ることになる。古いトラクターやミシンを最新式の物に入れ替えても、生産性は飛躍的には向上しないからだ。これが、経済成長に伴って成長率が鈍化する一つ目の理由だ。
もう一つの要因は
産業構造の変化
貧しい国では、飢えをしのぐことが最大の目標だから、生産者の多くは農業などに従事する。江戸時代の日本がそうであったように。経済が成長し、農村にトラクターが導入されると、前述したように都会で製造業が発展する。
貧しい人々は美しくなろうとして洋服を購入するが、人々が豊かになってくると、「素敵な洋服は何着も持っているから、一層美しくなるためには洋服を買うのではなく美容院へ行こう」と考える。こうして需要が製造業からサービス業にシフトし、それに従って労働力も製造業からサービス業にシフトするというわけだ。
このように、経済が成長すると、産業構造が第1次産業(農業など)中心から第2次産業(製造業など)、第3次産業(サービス業など)中心へと変化していく。これを「ペティ・クラークの法則」と呼ぶ。
問題は、製造業は生産性が大幅に向上するが、サービス業は生産性があまり向上しないということだ。洋服の製造は、ミシンの導入により飛躍的に生産性が向上するが、美容サービスは労働集約的なので、生産性が向上しにくいのだ。将来のことは分からないが、現段階で人工知能ロボットに美容サービスを頼むのは勇気が必要だ。
経済の中心が製造業であるときには、生産性が飛躍的に向上するので、国全体の生産力、供給力が急激に伸びる。つまり、需要さえあれば(適切な財政金融政策によって供給力に見合った需要が喚起され続ければ)高度成長が可能だ。しかし、経済の中心がサービス業に移ってくると、供給の急激な伸びは期待できないから、経済成長率は低下せざるを得ない。
つまり、「中国では8%くらい成長しないと失業者が増えてしまう」というのは、経済の中心が製造業だった時代の話で、サービス業のウエートが上がっている今とは状況が異なる。こうした状況で、無理に8%成長を目指して需要を喚起するとインフレになってしまうので、政府としても成長率の低下を認めている、というわけだ。
日本でも高度成長期の次は
安定成長期だった
実は、中国の経済成長は、日本の経済成長と非常に似ている。少し余談になるが、筆者は中国経済の専門家に「戦後日本経済史を学ぶと、中国の今後が分かる」と説いている。実際、筆者の中国経済の予測は、専門外の分野であるにもかかわらず、これまで20年ほど大変よく当たっていた。肝心な日本経済の予測はあまり当たっていなかったので、自慢にはならないのだが…。
日本の高度成長期、トラクターが導入された農村から若者が都会に出てきて、工場で働いた。その後、物の需要よりサービスの需要が伸びると、人々がサービス業で働くようになり、高度成長期から安定成長期に移行した。
日本の場合、「石油ショックで高度成長が終わった」と言われることが多いが、石油ショックは高度成長から安定成長への移行を決定づけた表面的なきっかけにすぎず、根本的な原因は前述したように底流で静かに進行していた「前年の水準が高くなったこと」と「産業構造がサービス業中心になったこと」にあったのだ。
「債務問題」はともかく
トランプリスクには要注目
中国では、外的なショックがなければ成長率が緩やかに低下していき、高度成長から安定成長へと連続的に移行していくだろう。というか、むしろすでに移行中である。後は、スムーズに移行するのか、日本のように非連続的に移行するのかという点が注目されるところだ。
中国国内にはいわゆる「債務問題」があり、これがいよいよ表面化して経済が混乱するのではないかという専門家も多い。ただ、中国では以前から「バブルが崩壊する」などと言われ続けながらも、特段何も起きていないことに鑑みると、今回も“オオカミ少年”なのではないかと筆者は考えている。リーマンショックを乗り切ったことを見ても、中国共産党が経済をコントロールする力は、西側先進諸国の政府とは比較にならないものだからだ。
ただ、トランプ米大統領が、中国経済を本気で潰しに行っている可能性には注意が必要だ。20年後の覇権争いを見越し、米国は徹底的に中国を叩いておくつもりかもしれないからだ。もしかすると、「日本の高度成長は石油ショックで終わり、中国の高度成長はトランプショックで終わった」と歴史の本に載る可能性もある。そのあたりについては、拙稿「米国は覇権を懸け本気で経済戦争による中国封じ込めを狙っている」をご参照いただきたい。
(久留米大学商学部教授 塚崎公義)
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民127掲示板 次へ 前へ
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民127掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。