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「世界の借金」174兆ドルに、10年前から58%増
https://diamond.jp/articles/-/175050
2018.7.19 加藤 出:東短リサーチ代表取締役社長 ダイヤモンド・オンライン
国際決済銀行(BIS)が6月に発表した年次経済報告書。その中には金融政策正常化について、長期的な視野で信念を持って取り組むべきと述べられている Photo by Takahisa Suzuki
「グローバル債務残高」が膨張を見せている。これは先進国と新興国の政府部門、企業部門、家計部門の借金を国際決済銀行(BIS)が集計したものだ。世界金融危機前の2007年末は110兆ドルだったが、17年末はそこから58%も増えて174兆ドルに達した。
先進国の失業率は、10年前となる世界金融危機以前の好況期の水準に戻っている。しかし、多くの国で賃金や物価の上昇率は10年前に戻れずにいる。
米連邦準備制度理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)は、金融緩和の出口政策に着手しているが、インフレが過熱する恐れは低いとみて、慎重なペースでそれを進めている。一方、日本銀行は出口政策の“入り口”に立つことすらできていない。
主要中銀がこうした状態だと、その周辺の先進国の中銀もおのずと金融政策の正常化に対して慎重になる。先進国全体の中銀の実質政策金利(政策金利からインフレ率を差し引いたもの)は、07年夏には3%台に乗っていたが、今年4月はまだマイナス1.1%だ(BIS調べ)。そうした緩和環境が新興国も巻き込んで多くの経済主体に借金を促し、グローバル債務残高を膨張させてきたのだ。
その結果、世界中のさまざまな市場で資産価格が高騰。例えば、ニュージーランドやスウェーデン、カナダ、オーストラリアの住宅価格は、この6年間に日本のバブル期に匹敵する約5〜7割もの上昇を示している。競売における絵画落札額の過去最高記録は、同期間に4.6倍にも上昇した。
また、高級ワイン価格指数であるLIV-ex1000は、15年初から現在にかけて4割の上昇を見せている。金融緩和下でバブル気味に高騰してきた米欧日の株価指数すらアウトパフォームしている。
ところが対照的に、酒販売店やスーパーで売られている一般的な家庭向けワインの価格は、米国の消費者物価指数で見ると全く値上がりしていない。近年の金融緩和策は一般物価にはあまり効かないが、投資対象となる品目の価格高騰にはかなり効いている、という典型的な事例がここにも見られる。
前述のように、FRBやECBは出口政策に向かっているが、世界的な金融環境で見れば正常化はまだ“序の口”だ。しかし、アルゼンチンやトルコは既にその衝撃に見舞われている。グローバル債務の本格的な縮小が始まれば、激しいショックが多方面に生じ得る。
また、過熱しにくいと思われていたインフレ率が“貿易戦争”などで予想外に上がってきたら、債務が膨張しているだけに、金融市場は大混乱となる。先日発表されたBISの年次経済報告書は次のように警告していた。
「インフレ目標の追求に柔軟性を持たせつつ、微妙なバランスを取りながら金融政策の正常化を進めていかないと、金融不均衡(バブル)が蓄積して金融システムの脆弱性が高まってしまう。しかし、金融政策正常化の旅はバンピーだ(がたがたと揺すられる)。
金融市場では疑いなく騒動が起きるが、ボラティリティ(変動性)自体は問題ではない。市場参加者の過度なリスクテイキングを抑制するには、それは健全で必要な動きだ。むしろボラティリティの一時的な発作に過剰反応せず、“震えない手”で金融政策を正常化させることが中銀の課題だ」
このようにBISは、長期的な視野で信念を持って金融政策正常化に取り組むべきと主張している。傾聴に値する提言と思われる。
(東短リサーチ代表取締役社長 加藤 出)
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