http://www.asyura2.com/18/hasan127/msg/780.html
Tweet |
「コンビニ外国人」が多い日本、政府の「移民」の定義はズレている
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/07/post-10615.php
2018年7月18日(水)17時48分 印南敦史(作家、書評家) ニューズウィーク
<外国人労働者の受け入れに積極的な一方、移民を認めないための定義を定める。そんな日本の現状に疑問を投げ掛けるルポルタージュ『コンビニ外国人』>
コンビニで働く外国人の姿を見ることは、決して珍しくなくなった。そして個人的には、彼らにとてもいい印象を抱いている。少なくとも我が家近くのコンビニに関していえば、日本人店員よりも外国人店員のほうが圧倒的にまじめで愛想もいいからだ。だから、こうした傾向を歓迎していた。
日常的にそんなことを感じていたからこそ、日本在住外国人の問題を取材してきた著者によるルポルタージュである『コンビニ外国人』(芹澤健介著、新潮新書)に関心を抱くのは、むしろ当然の話だったといえる。
著者は、長年にわたり日本在住外国人の問題を取材してきたというライター、編集者、構成作家。本書の執筆にあたっては、コンビニで働く外国人や周辺の日本人を取材し、日本各地はもちろんのこと、ベトナムにまで足を運んでいる。
「はじめに」の部分に目を通した時点でインパクトを投げかけてきたのは、著者自身にとっても印象的だったというアイン君(24歳)の言葉である。
彼は東京大学の大学院で経済を学んでいるベトナム人留学生。「日本のことは好きですし、これからもずっと日本と関わっていきたい」と言うものの、同時に辛辣な考えをも明らかにするのだ。
「いま日本には外国人が増えて困るという人もいますが、東京オリンピックが終わったらどんどん減っていくと思います」 そう考える理由を教えてくれた。 「ソウルオリンピック(一九八八年)以降の八大会(夏季)で、開催国の成長率が前年と比べて上昇したのはアトランタオリンピック(一九九六年)だけです。アトランタ大会を開催したアメリカは、大会後にIT革命が起こって経済成長を牽引したと言われています。しかし、いまの日本にそのような起爆剤は見込めません。ですから、おそらく東京オリンピックの後は、日本は不況になります。しかも、日銀の超低金利もオリンピック後には上昇する見込みで、企業の資金調達も困難になると思います。同時に日本はすでに労働人口も減り続けているので、本来は外国人の労働力をうまく使わないと経済成長できませんが、外国人はきっと増えません。なぜなら日本は外国人労働者の受け入れ制度が整っていませんし、多くの外国人が『日本は不況だから稼ぐのは難しい』『人手不足で残業が多くなるのはイヤだ』と考えるからです。そうなるとより多くの労働力が減って、日本の経済はますます傾いていくでしょう」(8〜9ページ「はじめに」より) |
この予見は複数の専門家が指摘していることでもあるが、もしそのとおりになってしまうのなら、早急に"オリンピック後"のことを考える必要があるだろう。しかし、だからといって著者はここで、外国人労働者(=移民)の受け入れについての是非を問おうとしているわけではない。
日本の至るところで外国人が働いているなか、"コンビニで働く外国人"は最も身近な外国人労働者であり、雇う側にとってもありがたい労働力である。だからこそ、彼らをさまざまな角度から見ていくことによって、日本の実相や課題を浮かび上がらせようとしているのである。
著者がまず強調しているのは、留学生がコンビニでアルバイトすること自体にはなんの違法性もないということである。「留学ビザ」で在留しているとはいっても、アルバイトの自由は法的に認められている。ただしポイントは、無制限に働いていいわけではないという点である。
留学生の場合、出入国管理法(出入国管理及び難民認定法)によって「原則的に週に28時間まで(夏休みなどは1日8時間、週に40時間まで)」と労働時間の上限が決められている(入管法第十九条)。この規則を破ると雇用する側・される側の双方に罰則が科されるが、1日平均で4時間までは留学生も自由にアルバイトできるということである。
ちなみに「週に28時間」を仮に時給1000円で計算すると、週給2万8000円。4週間働くと額面で11万2000円。日本人の下宿大学生のアルバイト代が月平均で3万円未満(全国大学生活協同組合連合会調べ)だというので、10万円稼げばかなりの働き者ということになる。
しかし、問題になっているのは、いまコンビニで働いている留学生のほとんどが多額の借金を背負って来日しているということだ。 日本語を勉強しながら働ける「留学ビザ」で入国するために、一年目の学費やあっせん業者への手数料など合わせて一〇〇万円を超すような大金を払っているのだ。平均月収が二万円、三万円というような国で二十代の若者が一〇〇万円を作るには当然借金をするしかない。 中には「日本に行けば日本語学校の寮に住んで、勉強しながら月に二〇万円稼げる」というあっせん業者の甘言に乗って、ひらがなさえ書けないレベルで留学生として日本に来る人もいる。 しかし、週に二十八時間というルールを守っていたのでは、月に一〇万円を稼ぐのがやっとだ。二〇万円はまず稼げない。 二年目以降の学費を払えずに退学してしまうと、当然のことながら留学ビザでの滞在資格はなくなる。となると、借金を背負ったまま帰国するか、強制送還を覚悟でオーバーワークするか、もしくは、最終手段として失踪するか――。いずれにしても、そこには日本に来る前に思い描いていたような〈明るい未来〉はない。(22〜23ページより) |
コンビニで働く外国人を一概に「出稼ぎ目当ての留学生」と非難できないのは、日本の法律では留学生のアルバイトが認められているからだ。むしろ問題は、彼らを受け入れる制度やシステムに歪みがあることなのだと著者は言う。
例えば政府は2017年6月の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太方針)」において、外国人労働者の受け入れについて「真摯に検討を進める」という表現を使ったものの、「移民」の受け入れについては認めていない。当然ながら移民に対する社会政策もなく、法整備もされていない。
しかしその一方、日本で働く外国人の数は現実的に増えている。外国人の流入者数を確認すると、2014年の時点で既に、経済協力開発機構(OECD)に加盟する34カ国(当時)のうち日本は世界第5位の「移民流入国」だという報告もあるのだそうだ。
にもかかわらず、政府は「移民」を認めていない。 政府の方針をわかりやすくいえば、「移民」は断じて認めないが外国人が日本に住んで働くのはOK、むしろ積極的に人手不足を補っていきたい、ということだ。(49ページより) |
それどころか、むしろ外国人に人手不足を補ってもらうための制度は多く、政府はこれまで「EPA(経済パートナーシップ協定=経済連携協定)による看護師・介護福祉士の受け入れ」「外国人技能実習制度」「高度外国人材ポイント制」「国家戦略特区による外国人の受け入れ」「留学生30万人計画」といったプロジェクトを推し進めてきたのだという。
ところで、この段階で見逃すべきでないことがある。外国人の受け入れには積極的である政府が、なぜ「移民」の受け入れを認めないのかということだ。実はここに、大きな矛盾と問題点がある。
じつは「移民」という言葉には国際的に統一された定義はない。日本の法務省や外務省にもこれまではっきりとした「移民」の定義はなかった、と言えば驚く人も多いのではないだろうか。 一般的な会話の中で使われる「移民」のイメージは「経済水準の低い国から高い国へ入国して生活している人たち」を指すことが多いが、国連などの国際機関では、一年以上外国で暮らす人はすべて「移民」に該当すると解釈している。つまり、国連などの定義に照らせば、イチローも「移民」であり、日本に住んでいる約二四七万人という在留外国人はほぼ「移民」である。(53〜54ページより) |
ところが2016年5月24日、日本は独自に「移民」を定義づけることになる。自民党が掲げた労働力確保に関する特命委員会の報告書「『共生の時代』に向けた外国人労働者受入れの基本的考え方」において、「移民」について初めて定義しているというのである。
その定義とは、「『移民』とは、入国の時点でいわゆる永住権を有するものであり、就労目的の在留資格による受入れは『移民』には当たらない」というもの。
つまり入国の時点で永住権を持っていなければ、正規の労働資格を得て10年以上日本に滞在し、国税や年金保険料を欠かさず納め、最終的に永住権を獲得したような外国人でも「移民」ではないということ。法務省の了解も得ている正式な定義なのだそうだ。
報告書の中には、外国人の単純労働についての記述もある。 「介護、農業、旅館等特に人手不足の分野があることから、外国人労働者の受入れについて、雇用労働者としての適正な管理を行う新たな仕組みを前提に(中略)必要性がある分野については個別に精査した上で就労目的の在留資格を付与して受入れを進めていくべきである」 わかりづらい書き方をしているが、これは、将来的には制度を整えた上で、単純労働の分野でも外国人を受け入れる可能性があることを示したものと考えられる。(55ページより) |
しかし政府は、なぜこれほどまでに「移民」という言葉を避けるのだろう? その理由について著者が取材をした結果、外国人労働者の問題に詳しい日本国際交流センター執行理事・毛受敏浩氏からは「一般の国民に"移民アレルギー"があるからだと思います」という答えが返ってきたのだそうだ。
2016年にヨーロッパで立て続けに起こったテロ事件などの影響で、「移民=犯罪者」と言うような悪いイメージを持つ人が増え、「移民が増えれば犯罪率が上がって、雇用の機会も奪われる」というように正しい理解がなされていないことも原因だというのだ。
だから毛受氏は「政府として"移民政策"を展開していくにはまだハードルが高いのであれば、『移民』という言葉を使うのはやめて、たとえば"定住外国人"だったり、"アジア青年日本活躍事業"とするのもよいのでは」と提言している。「移民」という言葉にアレルギーがあるのであれば、そのほうが話は早いということだ。
しかし、いずれにしても、まだその程度の 段階なのである。しかも、ここで紹介しているのは、本書が投げかけている諸問題のほんの一部に過ぎない。
外国人の流入は、しばらくの間は続くはずだ。「はじめに」でベトナム人留学生のアイン君が指摘していたように、少なくとも東京オリンピックの翌年くらいまでは続くと考えて間違いないだろう。(中略) だが、その流れもきっとそう長くは続かない。 オリンピックの後、多くの専門家が指摘しているように、おそらく日本の景気は悪化する。そうなれば、日本に来る外国人留学生の数は減り、これまで頼りにしていた外国人労働力もどんどん減っていき、日本の経済が音を立てて崩れていくような事態になるかもしれない。(198ページより) |
その解決の糸口のひとつとして、本書では「多文化共生」の重要性が紹介されている。
もちろん、異なる文化を持つ人たちとの交流の機会が増えれば、そこから何かの解決策を見つけ出すことは可能なのかもしれない。
だが、それを実現させるためには相応の時間もかかる。だからこそ我々は問題解決を行政に丸投げするのではなく、まず「いまの自分」に何ができるのか、何をすべきなのかを考えはじめるべきではないだろうか。すぐに答えの出る問題ではないとはいえ、時間がないことも事実なのだから。
『コンビニ外国人』
芹澤健介 著
新潮新書
[筆者]
印南敦史
1962年生まれ。東京都出身。作家、書評家。広告代理店勤務時代にライターとして活動開始。現在は他に「ライフハッカー[日本版]」「東洋経済オンライン」「WEBRONZA」「サライ.jp」「WANI BOOKOUT」などで連載を持つほか、「ダ・ヴィンチ」などにも寄稿。新刊『読んでも読んでも忘れてしまう人のための読書術』(星海社新書)をはじめ、ベストセラーとなった『遅読家のための読書術――情報洪水でも疲れない「フロー・リーディング」の習慣』(ダイヤモンド社)、『世界一やさしい読書習慣定着メソッド』(大和書房)、『人と会っても疲れない コミュ障のための聴き方・話し方』(日本実業出版社)など著作多数。
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民127掲示板 次へ 前へ
投稿コメント全ログ コメント即時配信 スレ建て依頼 削除コメント確認方法
▲上へ ★阿修羅♪ > 経世済民127掲示板 次へ 前へ
スパムメールの中から見つけ出すためにメールのタイトルには必ず「阿修羅さんへ」と記述してください。
すべてのページの引用、転載、リンクを許可します。確認メールは不要です。引用元リンクを表示してください。