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英航空ショーに社運賭ける、瀬戸際に追い込まれたMRJ
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180714-00010002-wedge-bus_all
Wedge 7/14(土) 12:30配信
MRJ(アフロ)
三菱重工業傘下の三菱航空機で開発・製造が進められている国産初のジェット旅客機MRJ(三菱リージョナルジェット)の行方が注視されている。これまで「型式証明」の取得の遅れや部品設計の見直しなどで、5回にわたり納入が延期、開発費用は6000億円に膨れあがっている。このお荷物MRJが「離陸」(商業飛行)できるのかどうか危ぶまれてきたが、7月16日から22日まで英国ロンドン近郊で開かれる「ファンボロー航空ショー」で初めてフライトを披露する飛行展示を行う計画だ。
投資家見守る
世界の航空専門家が見守る中で無事にフライトができれば、これまで失ってきたMRJの信頼回復に向けPRできるが、何らかのトラブルが起きると大きなダメージになる恐れがある。最悪の場合、事業撤退に追い込まれる可能性もあり、長年にわたり支援し続けてきた三菱重工業をはじめ三菱グループにとって開発の命運を左右する大きな賭けともいえるイベントになる。三菱重工業の投資家もMRJが果たして「テークオフ」できるのかどうか不安視しているようで、同社の株価はこのところ4000円前後で推移しており、模様眺めになっている。
三菱重工業の6月21日に開催された株主総会では、正面に設けられたビデオスクリーンにMRJの飛ぶ姿が大きく映し出され、何とか商業飛行にこぎつけたいという強い期待感が現れていた。宮永俊一社長は「私の責任でMRJのめどをつける」として、今年の春に三菱重工の社長の続投を表明、債務超過に陥っていた三菱航空機に対して1000億円の資本注入を決断した。
MRJは客席が70〜90席、航続距離3370キロの小型ジェットで、機体の一部に炭素繊維を使うなどして軽量化に力を入れ、燃費を従来機より20%改善、騒音も50%も小さくするなど最新鋭の技術を駆使している。経済産業省を含め航空業界は、1971年に180機を生産して製造打ち切りとなったターボプロップ型エンジンの旅客機YS-11に次ぐ国産旅客機として開発を応援してきた。
キャンセル発生
08年に全日空が航空会社の先頭を切ってMRJ25機(うち10機がオプション)の受注を決めた。当初の予定では15年には1号機が納入される予定だったが、20年半ばまでずれこむとしている。09年には米国のトランス・ステーツ・ホールディングスから100機(50機はオプション)、12年には米国の地域航空会社スカイウエストから100機受注、その後追加で100機オプションの注文を獲得、また日本航空から14年に32機を受注した。
日本航空は子会社のジェイエアにMRJを導入する計画で21年ころから就航させ、現在使っているカナダのボンバルディア製とブラジルのエンブラエル製の機体を順次MRJに切り替えたいとしている。こうした懸命の受注努力により、新型航空機の採算分岐点と言われる受注機数が合計400機をやっと超えるところまでになった。ところが、今年2月に米イースタンから受注していた40機がキャンセルになった。イースタン航空が経営悪化により米スイフト社に事業譲渡したため、この受注はご破算になった。この結果、現在の受注機数は387機になっている。
今後、重要になるのが米国の2社から受けている合計300機の受注の行方がどうなるかだ。この受注は予備受注のため確定はしておらず、両社ともローカルの航空会社だ。しかも、ブラジルの有力メーカー、エンブラエルとの両にらみの注文を出しているという。仮にこの受注がエンブラエルに持っていかれたりすると、MRJにとって受注生産機数が大幅に減少し将来の採算が見込めなくなり大きな痛手となりかねない。
ボーイング、エアバスと真正面競争
世界の民間航空機市場は経産省などの予測によると、年率5%で成長する旅客需要の伸びを背景に、今後20年間に3万機、約4兆ドルの市場が期待されている。中でも伸びが大きいのがアジア市場で、LCC(格安航空)の急成長により、150人乗りの中型機の需要が最も多いとみられている。これに伴いMRJが狙っている小型機の需要も増えると見られており、同型機の生産で実績のあるエンブラエル、ボンバルディアなどとの競争が激化するとみられていた。
ところが7月に入って予想外の展開が起きた。ボーイングがエンブラエルの小型旅客機事業を買収すると発表、エアバスもボンバルディアが開発した小型機事業をエアバスグループに吸収することが明らかになり、エンブラエルとボンバルディアがボーイングとエアバスという世界の2大メーカーの傘下に入ることになった。ボーイングはエンブラエルが開発してきた70〜130席級の旅客機「Eジェット」の新会社に8割を出資するとしており、ボーイングは大型機から中型機までのラインナップを揃えられることになる。
そうなると「新参者」のMRJはボーイング、エアバスという巨大メーカーと真正面から競争しなければならなくなり、ボーイング、エアバスとの間で受注実績のある世界の航空会社に割って入って注文を取るのは不利にならざるを得ない。
難しいのはMRJの親会社の三菱重工業がB787などボーイングの旅客機の主翼などの生産を担っていることで、ライバル機の生産を手伝いながらMRJの支援を続けるという複雑な関係になる。三菱重工業は「ボーイングとは関係なくMRJを支援し行く方針に変わりない」としているが、MRJにとって取り巻く環境が難しくなる一方で。その中で16日から始まる「ファンボロー航空ショー」で初飛行を成功させ、将来に向けて光明を見いだすことができるかどうか、関係者は文字通り固唾を飲んで見守っている。
取り巻く環境厳しい
三菱航空機は16年3月に、愛知県営名古屋空港(同県豊山町)の隣接地に建設した機体の最終組み立て工場を報道陣に公開、工場は高さ約13メートル、延べ約4万4000平方メートルの広さで、MRJ90(長さ約36メートル、幅約29メートル)が同時に12機分入る広さがあり、16年秋にも最初の顧客となる全日本空輸向けに生産を始める予定だと説明していた。この工場が予定通り稼働すれば問題はないが、MRJを取り巻く経営環境はより厳しさが増している。
日本の航空機産業にとってMRJは期待の大きい存在になっていた。これまで日本の民間航空機産業はボーイング社のいわば下請けとしてB767、B777、B787などの機体の一部を1980年代以降、三菱重工業、川崎重工業、SUBARUなどが請け負ってき。しかし、MRJは国産初のジェット旅客機で、エンジンは外国製だが、日本で設計した飛行機のため、航空業界への技術的な波及効果も大きいとみられていた。MRJが順調に生産されると、日本の航空機産業はB787などの生産と合わせて20年には年間2兆円規模になるとの試算もある。しかし、こうした試算はMRJの商業生産が軌道に乗ればの話で、「離陸」できなければすべて皮算用でしかなくなる。
中西 享 (経済ジャーナリスト)
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