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米中ハイテク貿易戦争突入で報復合戦…中国、米韓半導体3社を独禁法違反容疑で調査
http://biz-journal.jp/2018/06/post_23809.html
2018.06.22 文=湯之上隆/微細加工研究所所長 Business Journal
■「やられたら、やり返す」
中国当局は、米マイクロン・テクノロジー、韓国サムスン電子、同SK Hynixが、半導体メモリDRAMにおける市場シェアの支配的地位を乱用し、不当に価格を釣り上げているとして、独占禁止法違反の調査を開始した(6月5日付日本経済新聞より)。
本稿では、まず2011年以降の上記3社のDRAMの売上高およびシェアを確認する。次に、2016年〜2017年にかけて、DRAM価格が2倍以上に高騰している状況を示す。ここから、上記3社が“緩やかな談合”を行い、DRAM価格を釣り上げていた実態を明らかにする。ただし、“緩やかな談合”といっても、3社が密談していたわけではなく、阿吽の呼吸で生産調整を行い、「需要よりちょっと足りない状態」をつくり出していたと考えている。
最後に、中国による独禁法違反の調査は、米中ハイテク貿易摩擦の一環として行われたものであり、米国から2発パンチをお見舞いされた中国が、2発目のパンチを繰り出したこと、すなわち「やられたら、やり返す」ことを意味している点を示す。
■米韓3社がDRAMを独占
1980年中旬に日本半導体産業がDRAMの世界シェア80%を独占した時代もあったが、サムスン電子等の韓国勢に大敗を喫したため、2000年以降、日本はエルピーダ1社を残してDRAMから撤退した。そのエルピーダも2012年に倒産して、マイクロンに買収された。また、台湾のDRAMメーカーもリーマン・ショック以降、精彩を欠き、現在はNanya、Winbond、Powerchipが1〜3%のわずかなシェアを持っているにすぎない。
以上の結果、2012年以降、DRAMはサムスン電子、SK Hynix、マイクロンの3社に集約された。実際、DRAMの売上高の企業別シェアの推移を見てみると、サムスン電子、SK Hynix、マイクロンの3社の合計シェアは、2013年第3四半期に90%を超え、2017年第2四半期には95%を超えている(図1)。
次に、DRAMの企業別売上高の推移を見てみよう(図2)。特徴的なのは、売上高上位のサムスン電子、SK Hynix、マイクロンの売上高が、2016年第1四半期から急激に増大している点である。しかし、これら3社はDRAMを増産することによって売り上げを伸ばしているわけではない。むしろ、たとえばサムスン電子は月産のウエハ投入枚数を50万枚から40万枚に低減している。にもかかわらず、DRAMの売上高は増大している。他社も恐らく同様に、生産調整を行っている。
■“緩やかな談合”を行っている大手3社
では、なぜ生産調整を行っているのに、DRAMの売上高が増大しているのか? これは、DRAM大手3社が生産量を抑制し、「需要よりちょっと足りない状態」をつくり出しているため、DRAM価格が勝手に高騰していることに原因がある。
実際、市場調査会社のDRAMeXchangeは2017年10月30日に、4GビットのDDR4 DRAMモジュールの価格は、2016年第2四半期に13ドルだったが、2017年第4四半期に30.5ドルになったと発表した。つまり、1年半で2.3倍に高騰した。
このことから筆者は、DRAM大手3社が“緩やかな談合”を行っていると推測している。“緩やかな談合”という意味は、3社の幹部がどこかで会って密談しているのではなく、お互いがお互いを見ながら、阿吽の呼吸で生産量の抑制を行っているのではないかと想像している。
これは、DRAM大手3社にとっては素晴らしい状況だ。生産量を抑制しても、価格だけが勝手に吊り上がっていくのである。DRAMeXchangeによれば、2017年第3四半期に各社のDRAM事業の営業利益率は、サムスン電子が62%、SK Hynixが56%、マイクロンが50%を記録した。
DRAMメーカーは、“濡れ手で粟”状態にあり、笑いが止まらないのではないか。
■中国に冷水をぶっかけられたDRAM大手3社
中国には「世界の工場」といわれるようになった従業員数130万人を誇る台湾・鴻海精密工業(ホンハイ)の巨大な組み立て工場(EMS)がある。ホンハイは、世界で生産されるPCの約 9割、スマートフォン(スマホ)、各種デジタル家電、サーバーなどを組み立てているため、大量の半導体が必要である。
現在、中国は“ホンハイ効果”により、世界の半導体の3分の1以上を消費している。といっても、中国国内で製造できる半導体はたかだか10数%にすぎないため、80%以上を輸入に頼っている。その結果、中国では、原油を抜いて半導体が貿易赤字の最大の元凶になってしまった。
その元凶の一翼を担っているのが、DRAMである。何しろ中国はDRAMをつくることができない。それゆえ、輸入するしかない。そのDRAM価格が1年間で2.3倍以上になり、その価格高騰が止まらないのである。
このような背景もあって、中国当局が米韓DRAM企業3社に対して競争法(日本の独禁法)違反の調査を開始した模様である。もし違反が認定されると、巨額の制裁金を科せられる可能性がある。
史上稀に見るDRAMの好況を享受していた大手3社は突然、中国から「競争法違反容疑」という冷水をぶっかけられたわけだ。2016年以降のDRAM価格の高騰は異常ともいえる現象で、「いつか、何かが起きる」と思っていたが、中国当局による上記行動を予測することはできなかった。
■米中ハイテク貿易戦争の一環
しかも、今回の中国当局によるDRAM大手3社に対する競争法違反容疑の調査は、米中ハイテク貿易摩擦の一環であると思われる。その根拠を、以下に示す(図3)。
(1)米国がブロードコムによるクアルコム買収を禁止
まず、2018年3月12日に米国のトランプ大統領が「大統領令」を発令して、ブロードコムによる米クアルコムの買収を禁止した。現在のブロードコムは、2016年にシンガポールに本社があるアバゴ・テクノロジーが米ブロードコムを370億ドルで買収した会社である。買収したアバゴより、買収されたブロードコムのほうが会社名のブランド価値が高かったこともあり、ブロードコムと名乗ることになった。
その新生ブロードコムが、1170億ドル(13兆円)でクアルコムに対して買収を提案した。しかし、クアルコムと中国最大のスマホメーカーのファーウエイが、次世代通信5Gをめぐって規格争いをしていた。ここで、もしクアルコムが新生ブロードコムに買収された場合、5Gの通信規格を中国側に握られる危険性があると、米国側が判断した。その結果、この買収を米国が「大統領令」により阻止した。
新生ブロードコムは、「本社をシンガポールから米国に移す。したがってわが社は米国籍である」と主張していたが、米国側は新生ブロードコムの本性は中国寄りであると見ていたと思われる。
■米国がZTEに対して輸出規制
次に、米商務省は4月16日、インテルやクアルコムの半導体チップを中国スマホメーカーZTEに輸出することを7年間禁止する決定を下した。その理由は、ZTEが2010年から2016年にかけて、米国の輸出規制に違反し、イランや北朝鮮にスマホ等の通信機器を輸出していたからである。
このような輸出規制は、アップルやサムスン電子に次いでスマホの出荷台数世界第3位に成長したファーウエイにも適用される可能性もあった。
その後、米国によるZTEへの制裁は、巨額の罰金と経営陣の入れ替えなどを条件に解除される見通しとなった(6月7日付日経新聞より)。ここに至るまでに、中国の習近平国家主席が何度もトランプ大統領に電話をして、ZTEへの制裁を解除するよう申し入れたという。その結果、米国側は「米国に逆らうと大怪我をする」ことを痛いほど中国にわからせたといえる。
(3)中国がクアルコムによるNXP買収に難色
米国側から2回もビンタを食らった中国も黙っていない。クアルコムは、2016年10月にオランダのNXPセミコンダクターズを470億ドル(5兆円)で買収することで合意していた。あとは各国の独禁法の審査待ちとなり、残すは中国一国だけになっていた。
クアルコムは通信半導体メーカーであり、NXPは車載半導体メーカーである。クアルコムは自動運転車の分野への進出を目指して、NXP買収を提案した。同じ半導体といっても、分野が異なる2社間の買収であり、独禁法に抵触する可能性はほとんどない。
ところが、中国商務省がこの買収に突然待ったをかけた。その結果、クアルコムは4月19日、中国への独禁法の再申請をする羽目になった。これは明らかに、米国に対する中国の嫌がらせである。中国が米国へ1発ビンタを張り返したのだろう。
(4)米ベイン率いる日米韓連合による東芝メモリの買収に中国が難色
さて上記のように、米国が2発ビンタを繰り出し、中国が1発お返しした状況で、5月末に、東芝メモリの売却に関する中国での独禁法の期限を迎えようとしていた。ことと次第によっては、中国が2発目のビンタをお見舞いすることが想定された。
では、もし米ベイン率いる日米韓連合が東芝メモリを買収したら、どのような損害を中国が被ることになるか。
東芝メモリのNANDの多くは、中国のスマホに搭載されていると聞いている。ところが、日米韓連合に買収されると、そのなかの米アップルや米デルが東芝メモリのNANDを独占し、ファーウエイやZTEへのNANDの供給を制限する可能性がある。よって、中国が独禁法の審査で「NO」を突きつけるのではないかと筆者は予測せざるを得なかった。
そして、筆者が予想していたことが起き始めた。4月22日に毎日新聞が、「東芝は、東芝メモリの売却について、5月末までに独占禁止法の審査で中国当局の承認が得られなければ、売却を中止する方針を固めた」と報じたのだ。これに対して東芝は翌日の4月23日、「当該期限については当社から公表したものではない」「特定の条件下での、売却取りやめを含むいかなる具体的な方針も決定していない」とコメントしたニュースリリースを公開したが、毎日新聞の報道は的を射ていたと思う。
なぜなら5月22日付日経新聞記事『幻のメモリー温存案』も、「2017年8月10日午前、東芝本社で開いた取締役会。綱川の不意の発言に、場の全員が息をのんだ。『メモリーを売らないプランBという選択肢もある。会見でそう説明したい』」と報じていたからだ。
■米国と中国がなんらかの取引をしたのか
2018年5月末までに中国が独禁法の審査で許可を出さなければ、東芝は東芝メモリを売却しなかった可能性が極めて高かった。しかし、現実には、中国が期限より10日以上早い5月17日に、独禁法の審査に許可を出した。なぜ、すんなりと中国がこの買収を認めたのかが筆者にはわからない。米国と中国の間で、なんらかの取引があったのではないか?
東芝メモリが独立できたのは、結果的には良かったと思う。しかし、いまひとつ、その経緯には納得できないでいる。
(5)中国が独禁法違反の疑いで米韓半導体を調査
6月1日に東芝メモリがベインを中心とする日米韓連合に売却された。その直後、冒頭で述べた通り、中国当局がDRAM大手3社のマイクロン、サムスン電子、SK Hynixに対して、競争法違反の疑いで調査を開始した。
中国は、米国から2発のビンタを食らった。それに対して中国は、「クアルコムによるNXPの買収妨害」というビンタを1発張りかえした。そして、中国が米国に対して、「DRAMの独禁法違反の疑いで米韓半導体を調査」という2発目のビンタ張りかえした(ように筆者には見える)。
中国人は、“沽券”“プライド”“メンツ”にこだわる国民であると筆者は思っている。それゆえ、「やられたら、やり返す」行動に出たといえる。今後も、米中ハイテク貿易摩擦は続くだろう。
(文=湯之上隆/微細加工研究所所長)
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