#それでも米国よりはマシか ガンドラック氏が「ほぼ自殺行為」と警告−米金利上昇局面の赤字急増 John Gittelsohn 2018年6月13日 10:33 JST 景気サイクル終盤での債務拡大は「かなり前例のない事態」 米10年債利回りが20年か21年までに6%に上昇するとの見方変わらず ダブルライン・キャピタルのジェフリー・ガンドラック最高投資責任者(CIO) Photographer: Michael Nagle 金利上昇局面で赤字が急増すれば、米国は財政難に向かうしかないかもしれない。ダブルライン・キャピタルのジェフリー・ガンドラック最高投資責任者(CIO)が指摘した。 ガンドラック氏は「ほぼ自殺行為に近いと思われることが行われている」と、自身が運用するダブルライン・トータル・リターン債券ファンドについて語るウェブキャストで12日発言。米国は「金利を引き上げながら、赤字の規模を拡大している」と述べた。 米連邦公開市場委員会(FOMC)は13日、今年2回目の利上げを決定し今後の追加利上げも示唆するとみられている。一方で、減税と連邦支出拡大で米財政赤字は2030年以後、国内総生産(GDP)の125%に向かって膨らむ方向だと、ダブルラインが米議会予算局(CBO)の見通しを引用しながらスライドで示した。 ガンドラック氏は「景気サイクルのここまで遅い段階でこの水準の債務拡大を目にするのはかなり前例のない事態だ」と警告した。 運用資産が3月末で約1190億ドル(約13兆円)のダブルライン・キャピタルで最高経営責任者(CEO)も務めるガンドラック氏が指摘した他の主なポイントは以下のとおり: 米10年国債利回りは20年か21年までに6%に上昇する方向に引き続きある 原油はバレル当たり90ドルまで上昇する公算大 向こう半年から1年はリセッション(景気後退)の公算は小さいが、20年までに起きる可能性はあり、次期米大統領選は荒れ模様になりかねない 原題:Gundlach Says Rising Rates and Deficits Like ‘Suicide Mission’(抜粋) 2018年6月13日 森田京平 :クレディ・アグリコル証券チーフエコノミスト 日米欧の中央銀行の「落差」が今週、浮き彫りになる 今週は、米国の連邦準備制度理事会(FRB)が12〜13日に連邦公開市場委員会(FOMC)を、欧州中央銀行、(ECB)が14日に政策理事会(GC)を、そして日本銀行が14〜15日に金融政策決定会合(MPM)を開く。 3つの主要中央銀行が同じ週に金融政策会合を開くのは、2018年は今週が最初で最後である。その意味では今週は主要中央銀行の“Big Week”といえる。さて何が見えてくるだろうか。 2018年は今週が最初で最後 日銀だけは「据え置き 筆者はそれぞれの中央銀行の今週の政策決定を次のように予想する。 (1)FRB……FF金利の誘導目標の25ベーシス・ポイント(bp)引き上げ(3月に続く今年2回目の利上げ、今年は合計4回の利上げを予想) (2)ECB……量的緩和(QE)に関わるフォワードガイダンスの変更(QEの段階的終了に向けたコミュニケーションの開始) (3)日銀……現行の長短金利操作(YCC)の据え置き 拡大画像表示 日銀が政策を据え置くという見方は、市場で完全に共有されている。つまり日本は政策変更のリスクは限りなく小さい。米欧の中央銀行と日銀の金融正常化に向けた姿勢の「落差」が改めて浮き彫りになるだろう。 そこで以下では、FRBとECBに焦点を絞って、今週の政策展開を展望してみよう。 米国の雇用に見る 量的改善と質的改善 筆者は、FRBが2018年は4回(3月の利上げを含む)、2019年は3回の利上げに打って出ると見ている。このような見方の背景にあるのが雇用の改善だ。 ただし米国における雇用の改善は、雇用者数の多寡という「量的」な側面に止まらない。「質的」な改善も見て取れる。すなわち“More”employmentに加えて、“Better”employmentも生まれている。 このことを把握する上で、米国の失業関連指標であるU3とU6が注目される。 U3は「失業者÷労働力人口」で定義され、米国の公式の失業率に当たる。 一方、U6は「(失業者+縁辺労働力+経済的理由によるパートタイム労働者)÷(労働力人口+縁辺労働力)」と定義される。 U6に含まれる縁辺労働力(persons marginally attached to the labor force)というのは「過去12ヵ月のどこかで求職活動をし、かつ就労可能であり就労意欲もあったが、現時点では就労も求職もしていない者」を指す。 また、経済的理由によるパートタイム労働者(persons employed part time for economic reasons)は「労働時間の削減や不利なビジネス環境、フルタイム就労機会の不足、季節的な需要の減退などの経済環境によって、フルタイムではなくパートタイムでの就労を余儀なくされている者」を指す。 これらのうち「経済的理由によるパートタイム労働者」を、雇用の質を表す代理変数と位置付けることができる。これは近似的には、U6からU3を差し引くことで求められる。 つまり、U3が失業(unemployment)という量的な側面を捉えるのに対して、U6−U3は不完全雇用(underemployment)という質的な側面を主に捉える(注:U3とU6では分母の概念が異なるため、本来、両者の引き算は成り立たない。しかし、分母の違いは数値的には小さいことから、ここでは近似的に不完全雇用を捉える便法としてU6−U3を用いる)。 直近5月分の雇用統計によると、公式の失業率であるU3は3.8%と、2000年4月以来、18年ぶりの低水準を記録した。加えて、U6も7.6%と、2001年5月以来の低さに達した。その結果、雇用の質を捉えるU6−U3も3.8%となった(図表2参照)。U3だけでなく、U6−U3も4%を下回ったことになる。 拡大画像表示 これは、米国の雇用が量(more employment)、質(better employment)の両面で改善している可能性を示唆する。 賃金は雇用の質との 相関を高めている 雇用の量的側面を表すU3だけでなく、質的側面を表すU6−U3にも注目する理由は、米国では賃金(時間当たり名目賃金)が後者との連動性を増してきているからだ(図表3参照)。 拡大画像表示 高齢者の退職の増加と、退職後の消費者の支出対象がサービスに向かいやすいことを背景に、米国経済は非製造業への依存度を高めている。 一般に、非製造業は製造業以上に就業形態が多様であり、単純に雇用の多寡(量的側面)を見ても、賃金は見通しにくい。経済が非製造業への依存度を高める中、賃金を展望する際には、雇用の質にこれまで以上に注目することが重要だ。 足元の米国経済では、まさにその質的指標(U6−U3)が好転している。今後も、U6−U3が4%を下回って推移するとすれば、時間当たり賃金は前年比2%台後半から3%近くのペースで伸びることが可能だろう。その延長線上にあるのが、物価の上昇である。 こう考えると、上述したように、FRBについては2018年4回(3月の利上げを含む)、2019年3回の利上げが見込まれる。 ECBはフォワードガイダンス変更へ 量的緩和の「段階的終了」を伝達 今後のECBの政策運営については、下記のカレンダーが想定される(図表4参照)。 拡大画像表示 中でも、今週の政策理事会が、2018年のECBの政策運営で最も重要な転機となるだろう。なぜなら、ECBは今週14日に、量的緩和(QE)の先行きの見通し(フォワードガイダンス)を変更する可能性が高いからだ。 変更内容としては、(1)現在9月での終了と制度設計されているQEを12月まで再延長する方針を明確化する。ただし12月以降の再々延長はない(つまりオープンエンドではない)ことも意思表示、(2)QEの再延長期間(今年10〜12月)については、月間の資産買入額を現行の300億ユーロから150億ユーロに半減、などが考えられる。 これはQEの「段階的終了」を意味する。 無論、こうした見方にリスクがあるのも事実だ。第1に景気・物価の下振れ懸念、第2にイタリアやスペインに見られる政治・財政の不安定化がある。 2点目の政治・財政リスクについては、とりわけイタリアの政局混乱が意識される。 イタリアのEU離脱(懸念)については、かつての“Grexit”(ギリシャのEU離脱懸念)、“Brexit”(英国のEU離脱)、“Frexit”(フランスのEU離脱懸念)に続いて、“Quitaly”(Quit=立ち退く+Italy)という新たなmoniker(呼び名)が市民権を得つつある。 つまり“Grexit”⇒“Brexit”⇒“Frexit”⇒“Quitaly”という予想だ。 ただし、Quitalyが近い将来、高い現実性を持つとは考えにくい。むしろ、ポピュリスト政党が主導権を持つことによる放漫財政が、今そこにある具体的なリスクである。 それを反映してか、イタリア10年国債とドイツ10年国債の利回り格差は足元で260bp程度と、約5年ぶりの水準にまで広がっている(図表5参照)。イタリアとポルトガルの逆転も見られ、市場はイタリアの財政膨張に対する懸念を示している。 拡大画像表示 イタリアにおけるこうした金利上昇を、ECBが金融政策のレベルで懸念するのであれば、QEの段階的終了に向けたコミュニケーションの開始を、今週の政策理事会で決定することは、確かに難しいかもしれない。 ただし、仮にこれら個別国のリスクが今週のECB政策理事会での政策判断に影響するとしても、その対象はQEのフォワードガイダンス変更(QEの段階的終了に向けたコミュニケーション開始)の内容ではなく、決定のタイミングだろう。 つまり、イタリアなど個別国の政治・財政リスクは、ECBによる政策決定を今週ではなく、7月の次回会合(7月26日)に先送りする理由にはなり得るが、QEの段階的終了という方針をECBが変える(あきらめる)理由にはならないと考えられる。 政局混乱でイタリア国債は下落したが ECBに財政リスクの救済者になる意図なし そう考える理由は、5月のECBの資産買い入れ行動にある。 5月の資産買い入れで、ECBはドイツ国債を基準額(各国によるECBへの出資比率などから算出される国別国債の買い入れ基準額)から11億ユーロも上回る形で買った(図表6参照)。一方、イタリア国債については、基準額を下回る額しか買わなかった。 拡大画像表示 5月にECBがドイツ国債の買い入れを急増させた主因は、ECBが保有するドイツ国債が同月に大量満期を迎えたことにある。 財政悪化リスクを背景とするイタリア国債の金利上昇(価格下落)は5月半ばには始まっていたから、それをECBがリスクとみなすのなら、イタリア国債の買い入れを増やして、ドイツ国債の買い入れを減らすこともできたはずだ。しかし、現実にはECBは逆の行動をとった。 このような国債買い入れ行動に垣間見えるECBの政策姿勢とは何だろうか。 それは、各国の政治・財政リスクに端を発する金利上昇を、ECBが量的緩和(QE)という枠組みでの国債買い入れを通じて、抑えるつもりはない、ということだろう。 つまり、ECBには個別国の政治・財政リスクの救済者になる意図はないと見受けられる。 このように見ると、筆者には、ECBが今週、QEの段階的終了に向けたコミュニケーションを始めるように思える。 (クレディ・アグリコル証券チーフエコノミスト 森田京平) 相変わらず「敗色濃厚」の黒田日銀 上野泰也のエコノミック・ソナー 足元の安定でリスクが膨らむという皮肉 2018年6月12日(火) 上野 泰也 (写真=ロイター/アフロ) 日銀が5月24日に発表した3月の貸出約定平均金利は、貸出市場の需給バランスを素直に反映している、日本経済の「根っこの部分」を反映していると考えられる金利が低下基調を維持していることを、あらためて確認するものになった。 国内銀行の新規(フロー)・総合は0.636%。前月(2月)の0.600%よりも高くなったが、その前の月(1月)の0.693%よりはかなり低く、3カ月連続で0.6%台にとどまった<図1>。変動型住宅ローンでは一部の銀行の間で、日本で最も低い提示金利を競う動きが、足元でもなお続いているようである。 ■図1:貸出約定平均金利 国内銀行 (新規・総合) (出所)日銀 また、国内銀行のストック・総合は0.932%で、前月から0.008%ポイント低下した<図2>。今よりも金利が高い頃に実行された貸し出しが満期を迎えると、そのうち借り換えられる部分については、競争が厳しいこともあって、足元の低い金利水準が適用されるのが普通だろう。大まかに言うと、日本では資金を借り入れたい需要側の数・金額よりも、資金を貸したい金融機関の数・資金量の方が、はるかに多い状況である。 ■図2: 貸出約定平均金利 国内銀行 (ストック・総合) (出所)日銀 したがって、たとえ資金調達原価とみられる水準(長い間大まかに1%前後とされてきた)を下回っても、ストックの貸出約定金利はじわじわ下がっていく。ストック商売が基本の銀行業にとって、時間の経過とともに利ざやが着実に縮小していくというのは、実に重苦しい話である。 マイナス金利は主犯ではない こうした状況下、市場の内外でしばしば聞かれるのが、銀行収益悪化は日銀が導入したマイナス金利のせいだとする「マイナス金利主犯説」や、「銀行収益支援のための金利引き上げ論・イールドカーブのベアスティープ化(超長期ゾーンの国債利回りが上昇して利回り曲線の傾斜がきつくなること)論」である。 だが、筆者はそれらの主張に対して、強く否定的である。 日銀が2016年1月に導入を突如決定して翌月から適用したマイナス金利が「急性ショック」的に銀行貸出の金利水準を押し下げた(利ざやを急縮小させた)ことは事実である。けれども、それはあくまで、貸出市場の需給バランスが非常に緩いという大きな枠組みの中での一幕であり、貸出金利低下・利ざや縮小という大きな流れの「主犯」というわけではない。 貸出約定平均金利(新規・総合)のグラフを一瞥すれば、そのことは容易に理解されるだろう。仮に日銀がマイナス金利を解除するとしても、貸出金利の右肩下がりの基調がそれで持続的に反転するとは予想し難い。 この間、物価の状況はどうか。日本の消費者物価指数(CPI)がいかに上がりにくいかがあらためて認識されつつあり、日銀の立場は引き続き苦しい。 5月25日に発表された5月の東京都区部消費者物価指数(CPI)で、生鮮食品を除く総合(コア)は前年同月比+0.5%、生鮮食品及びエネルギーを除く総合(日銀版コア)は同+0.2%になり、ともにプラス幅を前月から0.1%ポイント縮めた。 より注目すべきは、食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合(欧米型コア)が同+0.1%というプラス圏ぎりぎりの数字になったことである。全国CPIの4月分で欧米型コアは同+0.1%だったので、5月は同 0.0%になり、プラス圏から退出する可能性がある。実際にそうなれば17年10月以来のことである。 CPIに直接関連する3業種の需給バランスは、緩いままである。そのことは日銀短観(業種別計数)にある、国内での製商品・サービス需給判断DI(回答比率「需要超過」−「供給超過」)の恒常的な大幅マイナスから、容易に見てとれる。 ほとんど実現していない「値上げ」 パルプ・人件費・輸送費などのコスト高を背景に、製紙大手各社は今春、ティッシュペーパーやトイレットペーパーなど家庭紙の1割程度の値上げを打ち出した。だが、買い置きができる「特売の目玉」であることから現時点で値上げはほとんど実現していないという(5月28日付朝日新聞の報道)。 全国CPIで該当する2つの品目「ティシュペーパー」「トイレットペーパー」の動きを確認すると、4月までのデータを見る限り、たしかに頭打ちである<図3>。日銀が掲げ続けている「たられば」「こうなるはずだ」的な色彩の濃い「物価安定の目標」2%達成に向けたシナリオは、「現実の厚い壁」に直面していると言えるだろう。 ■図3:全国消費者物価指数「ティシュペーパー」「トイレットペーパー」 (出所)総務省 安倍首相による「レジームチェンジ」をうけて黒田東彦総裁をトップに発足した新しい日銀は、13年4月4日に「量的・質的金融緩和(QQE)」を導入。バズーカをいきなり撃つことによる市場の内外への大きなサプライズを号砲に、「短期決戦」によって「物価安定の目標」2%を2年程度という短期間で達成しようと試みた。 だが、この作戦は失敗に終わった。太平洋戦争中の日本軍が、連合艦隊による米太平洋艦隊の早期撃滅によって太平洋の戦力バランスで優位に立った上で、中国大陸の権益保持を含む日本に有利な条件で講和に持ち込もうとしたものの、失敗したのと似通っている。 したがって、次のステップとしては戦線を縮小するのが自然であり、明らかに望ましい。太平洋戦争になぞらえて言うと、日本がミッドウェー海戦で大敗した後にたどった道筋を思い起こせば、そうすべきだということは容易に理解されるだろう。 黒田総裁が選んだ「長期戦・持久戦」 だが、黒田日銀が選んだのは、戦争中の軍部と同じ、「長期戦・持久戦」態勢への移行だった。日本人のメンタリティーはそう簡単には変わらないということだろう。 日銀による長期国債やETF(上場投資信託)などの大規模な買い入れは、市場における価格形成のゆがみなど、さまざまな良くない問題を引き起こしている。景気・物価さらには財政状況の先行き予想を織り込む形で、債券相場が形成されるのが通常だが、日本ではそうした健全な価格形成の機能が日銀の大規模買い入れと金利ターゲット設定によって「封殺」されてしまっている。 人口減・少子高齢化の中、現役世代の数が減少する一方で、高齢引退世代が大半の依存人口の数は増加し、その比率は上昇していく。まっとうな手法では返せそうにないところまで国の借金が積み上がってしまったので、それならとばかりに「楽な道」を探るというのは、いかがなものか。 表面的には「極めて安定」している円 根拠の乏しい楽観論に依拠した拙い政策運営をしていると、日本という国のカントリーリスクが海外投資家によって強く意識されるに至り、投機的な売りを浴びる中で「悪い円安」が加速して、国の根幹を揺るがすような大きな問題を引き起こしかねないと、筆者は危惧している。 もっとも、そうしたことが起きるとしても、時期としては、世界第2の経済大国に成長した中国という国に内在しているさまざまなリスクの見極めがついた後、おそらく10年は先のことになるだろう。 足元の市場は、日本に内在するリスクにはまったく反応せず、逆に円を「逃避通貨」として買い進める場面さえ見られる、表面的にはきわめて安定した状況にある。そのことがかえって、日本という国の将来のリスクを膨らませ続けているという、なんとも皮肉な構図である。
このコラムについて 上野泰也のエコノミック・ソナー 景気の流れが今後、どう変わっていくのか?先行きを占うのはなかなか難しい。だが、予兆はどこかに必ず現れてくるもの。その小さな変化を見逃さず、確かな情報をキャッチし、いかに分析して将来に備えるか?著名エコノミストの上野泰也氏が独自の視点と勘所を披露しながら、経済の行く末を読み解いていく。
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